本稿は、エンジニアの発信文化をテーマに、人事、広報、現場のエンジニアの視点から議論が行われたイベント「【#発信は最強の武器】エンジニア×広報×人事で紐解く”発信文化”」の講演内容をまとめたものです。
【#発信は最強の武器】エンジニア×広報×人事で紐解く”発信文化”
2025年10月7日
https://rosca.connpass.com/event/369515/
1. 人事の視点から見た発信文化
人事の立場から、エンジニアの発信文化が組織にもたらす価値と、その醸成方法について説明がありました。
発信文化の目的
- エンジニアの発信文化の本質は、個人の知見や経験を共有することで 「学びの循環」 を生み出すことにあると述べられました。
- 採用活動への効果も期待されますが、それが主目的化し、単なる採用イベントになるべきではないと指摘されました。
- 重要なのは「どのような組織を作りたいか」という目的から逆算して、発信活動を設計することです。
文化を根付かせる方法
組織に文化を定着させるためには、以下のような多角的なアプローチが有効であると紹介されました。
- トップからのメッセージ: CTOなど影響力のある人物が、発信の必要性を言語化し、組織の方向性を示します。
- インプット機会の提供: カンファレンスへの参加費や渡航費を支援するなど、アウトプットの源泉となるインプットの機会を確保します。
- アウトプットのハードルを下げる: 社内勉強会やLT(ライトニングトーク)会、アドベントカレンダーといった企画を通じて、気軽に発信できる場を提供します。
- 称賛文化の醸成: Slackなどのコミュニケーションツールで発信活動を共有し、称賛する文化を作ります。
2. 広報の視点から見た発信戦略
株式会社ゆめみの広報の立場から、従業員が「発信したくなる」仕組みと文化の作り方が紹介されました。同社はかつて離職率が24%に達した時期もありましたが、発信文化の改革を通じて組織が大きく変わったとのことです。
発信を促進するための施策
- 文化の転換: 発信を一部の有志による活動ではなく 「重要な業務」 と位置づけ、称賛・尊敬・評価される文化へと転換しました。
- プラットフォームの変更: 企業のオウンドメディアを廃止し、QiitaやZennなど個人の資産となる外部プラットフォームでの発信を推奨しました。
- インセンティブ設計: Slackでの称賛といった心理的報酬に加え、賞金100万円キャンペーンといった金銭的報酬も用意し、活動を促進しました。
個人の発信を重視する戦略
- 画一的な情報になりがちな企業公式アカウントよりも、個人の物語や本音を語れる 「個人アカウント」 からの発信の方が、信頼と共感を得やすいという考えが示されました。
- 「全員発信」は目指さず、キャズム理論に基づき、発信意欲の高い 上位16% のメンバーが活動すれば十分であるという方針です。
3. パネルディスカッション
人事、広報、フリーランスエンジニアの三者によるパネルディスカッションでは、以下のテーマについて議論が交わされました。
テーマ1: 発信の原動力とモチベーション
- エンジニア: フリーランスとして面白い仕事を継続的に得るための 「生命線」 であり、自身の市場価値の大部分を占めるため。
- 人事: トップが「なぜやるのか」を言語化することが重要。発信が苦手な人へは、地道な声かけで後押しする。
- 広報: 「お祭り感」 や「楽しそう」という雰囲気がモチベーションに繋がる。
テーマ2: 発信がもたらす価値と成果
- 広報: 「発信が盛んな会社」というブランディングが確立し、発信意欲の高いエンジニアが集まる採用の良いスパイラルが生まれた。結果として、離職率は24%から4%台へと改善しました。
- エンジニア: やりたい仕事を選べるようになり、採用選考が免除されるなど、キャリア上で明確なメリットがあった。
- 人事: メンバー一人ひとりのブランディングを強化し、「〇〇さんと働きたい」と個人名で指名される状態を目指すことが今後の課題。
テーマ3: 炎上リスクとの向き合い方
- 広報: 「人を傷つけなければ自由」 というルールを明確にし、何かあれば会社が責任を持つ姿勢を示すことが重要。また、日頃から個人アカウントでファンを作っておくことがリスクヘッジになると述べられました。
- 人事: 多くの人は気にするほど炎上しない。組織として「発信しても大丈夫」という安心感を醸成することが大切。
- エンジニア: エンジニアの発信は「いいね」の数だけが価値ではなく、ニッチな領域でも特定の誰かに深く届けば大きな価値に繋がる。
まとめ
本イベントでは、エンジニアの発信文化を醸成するためには、トップダウンによる目的の明確化、ボトムアップでの「楽しさ」や「個人のメリット」の設計、そして人事や広報による組織的なサポートが不可欠であることが示されました。それぞれの立場から多角的にアプローチすることで、採用力の強化、組織の活性化、個人の成長といった好循環が期待できると結論づけられました。