はじめに
本記事は「2026年4月 AIエージェント開発の最前線」シリーズの一部として執筆している。シリーズ全体の概観はこちらの記事を参照してほしい。
GitHub Trending では AIエージェント関連リポジトリの存在感が増しており、その文脈で強い注目を集めているのが everything-claude-code(以下 ECC)だ。
ECC はひとことで言えば、AIエージェントハーネスのためのパフォーマンス最適化システムだ。Claude Code をネイティブ対象とし、Cursor・Codex・OpenCode・Kiro を含む複数のハーネスに対応する。多数のエージェント・スキル・コマンドを備え(コンポーネント数の詳細は後述)、GitHub では ~153K Stars を記録している(2026年4月13日時点)。
「スキルセットを提供するだけ」のフレームワークは多い。ECC の特徴は、スキル・エージェント・フックを三位一体で整備し、さらに継続学習システムで使うほどに学習する設計を持っている点だ。
本記事は5記事シリーズの第1弾として ECC の全体像を俯瞰する。アーキテクチャの詳細はアーキテクチャ編で、先進機能は先進機能編で、フックシステムはフック実践ガイドで、自律ループ・ECC 2.0は自律ループ編で扱う。
注記: 本記事の情報は2026年4月時点のものであり、各リポジトリの機能・数値は変動する可能性がある。コンポーネント数は v1.10.0 HEAD(コミット 125d5e6)時点の実ファイルカウントに基づく。Stars 数(~153K)は2026年4月13日時点の GitHub API 取得値。最新の情報は各リポジトリの README を参照してほしい。
everything-claude-codeとは
成り立ちと背景
ECC は 2026年1月18日にAffaan Mustafa によって公開された。2025年9月のAnthropicとForum Venturesの共催ハッカソン(NYC)で zenith.chat として入賞した作品を起点に、継続的な開発が続けられている(出典: リポジトリ内 the-shortform-guide.md、自己申告)。
2026年2月には Cerebral Valley × Anthropic の Claude Code ハッカソンでセキュリティレイヤー AgentShield を発表するなど、Anthropic コミュニティとの関わりが深い。
リリースペースは急速で、v1.2.0(2026年2月)から v1.10.0(2026年4月5日)まで2ヶ月足らずで8バージョンを重ね、170名超のコントリビューターが参加している。日本語を含む6言語のドキュメントも整備されている。
ライセンスは MIT。エンタープライズ向けセキュリティレイヤー(AgentShield)は別リポジトリだが、コアは完全にオープンソースだ。
設計思想
ECC の設計思想は README の冒頭に明確に示されている。
"The performance optimization system for AI agent harnesses."
注目すべきは「AIの性能向上」ではなく「ハーネスのパフォーマンス最適化」という言葉の選び方だ。モデルの能力を引き出す器の設計に特化していると宣言している。
具体的には以下の6つの軸でエージェントハーネスを強化する。
| 軸 | 内容 |
|---|---|
| スキル | 言語・フレームワーク別の実行可能なベストプラクティス |
| 直感(Instinct) | 繰り返しのパターンから学習した暗黙知 |
| フック | PreToolUse/PostToolUse/Stop 等のイベントに紐づく品質・安全ゲート |
| 継続学習 | セッションを跨いだ知識の蓄積と進化 |
| セキュリティ | AgentShield による監査・脆弱性スキャン |
| クロスハーネス | 9ハーネスに対応したアダプタ層 |
コンポーネント数について
README 内には同一バージョン(v1.10.0)でも異なる数値が混在している。
| ソース | agents | skills | commands |
|---|---|---|---|
| plugin.json / CHANGELOG(更新漏れ) | 38 | 156 | 72 |
| README Quick Start(最新) | 47 | 181 | 79 |
| 実ファイル数(HEAD 時点) | 47 | 181 | 79 |
ls agents/ \| wc -l、ls -d skills/*/ \| wc -l、ls commands/ \| wc -l で実測した結果、Quick Start の数値が実態と一致している。plugin.json / CHANGELOG は更新漏れの状態だ。本記事では実ファイル数を基準とし、「v1.10.0 HEAD 時点」と明記する。
マルチハーネス対応の全体像
ECC は複数のAIエージェントハーネスに対応しているが、対応の深さはハーネスごとに大きく異なる。ディレクトリ構造の実体(find . -maxdepth 2 -type d で確認)を見ると、以下の9ハーネスへの対応が確認できる。
| ハーネス | 対応レベル | ディレクトリ | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| Claude Code | ネイティブ(主対象) | ルート agents/, skills/, commands/, hooks/, rules/ | フル機能 |
| Cursor | フルサポート | .cursor/ |
hooks/, rules/, skills/ + DRY アダプタパターン |
| Codex | ファーストクラス | .codex/ |
agents/, AGENTS.md, config.toml(フックなし・MCP 補完) |
| OpenCode | フルサポート | .opencode/ |
commands/, TypeScript プラグイン、20+ イベント対応 |
| Kiro | 拡張サポート | .kiro/ |
agents/, docs/, hooks/, scripts/, settings/, skills/, steering/ |
| Gemini | 限定的サポート | .gemini/ |
GEMINI.md のみ(プロジェクトローカル instruction) |
| Trae | 限定的サポート | .trae/ |
install.sh, README.md |
| CodeBuddy | 限定的サポート | .codebuddy/ |
install.js, install.sh |
| Antigravity | インストーラ対応 | install.sh --target | .agent/ に展開 |
「対応レベル」はECCが独自に定義したものではなく、ディレクトリ内のファイル構成(フック・エージェント・スキルの有無)から筆者が分類したものだ。
Claude Code がネイティブの主対象で、フック・エージェント・スキル・ルールのすべてが揃う。Cursor・OpenCode はフルサポートで Claude Code 向けスクリプトを再利用する。Codex はフックを持たないが MCP で補完するファーストクラス対応、Kiro は独自のフック形式による拡張サポートだ。Gemini・Trae・CodeBuddy は現時点では限定的だ。
47エージェントの構成
エージェントの設計原則
各エージェントは Markdown ファイル(YAML frontmatter + 本文)で定義される。frontmatter でツールアクセスを制限し、エージェントごとに「何ができるか」を明確に絞る設計だ。
name: planner
description: Expert planning specialist for complex features and refactoring...
tools: ["Read", "Grep", "Glob"] # Read-only ツールのみ
model: opus
planner は Read-only ツールだけを使い、実装は行わない。e2e-runner は Playwright を使う。security-reviewer はパターンテーブルに基づく静的分析を行う。それぞれの役割に応じてツールアクセスが絞られている。
エージェントの分類(v1.10.0 HEAD 時点で47件)
| カテゴリ | 主なエージェント |
|---|---|
| 汎用開発 | planner, architect, code-architect, code-reviewer, chief-of-staff, harness-optimizer, loop-operator, performance-optimizer |
| TDD・テスト | tdd-guide, e2e-runner, pr-test-analyzer |
| ドキュメント | doc-updater, docs-lookup |
| セキュリティ・品質 | security-reviewer, comment-analyzer, silent-failure-hunter |
| 言語別レビュアー | typescript-reviewer, python-reviewer, java-reviewer, kotlin-reviewer, go-reviewer, cpp-reviewer, rust-reviewer, csharp-reviewer, flutter-reviewer, database-reviewer |
| ビルドエラー解決 | build-error-resolver, cpp-build-resolver, go-build-resolver, java-build-resolver, kotlin-build-resolver, rust-build-resolver, pytorch-build-resolver, dart-build-resolver |
| GAN ハーネス | gan-evaluator, gan-generator, gan-planner |
| OSS 関連 | opensource-forker, opensource-packager, opensource-sanitizer |
| コード分析 | code-explorer, code-simplifier, type-design-analyzer, conversation-analyzer |
| その他 | healthcare-reviewer, seo-specialist, refactor-cleaner |
特徴的なエージェント
言語別ビルドエラー解決: 言語ごとの専任エージェントを持つことで、CI失敗を汎用エージェントよりも高精度に診断できる設計を目指している。日常的なビルドエラーに対処する場面で最も実感しやすいエージェント群だ。
GAN ハーネス: 3エージェントで生成と評価を分離する。gan-evaluator は「AIスロップパターンを明示的に減点」する設計で、設計の独自性(0.2)・デザイン品質(0.3)・実装品質(0.3)・機能性(0.2)で採点し、7.0/10 を閾値とする。
healthcare-reviewer: CDSS精度・PHI/PII保護・監査証跡・医療データ整合性を専門的にレビューする。ドメイン特化エージェントの一例だ。
181スキルの構造
Skills と Commands の関係
ECC では skills/ と commands/ の役割を明確に分離している。
- skills/: ワークフロー定義とドメイン知識を含む自己完結型モジュール(primary workflow surface)
- commands/: スラッシュコマンド形式のレガシー shim(移行中)
README には「Existing slash-style command names still work while ECC migrates off commands/」と明記されており、今後は skills/ が主体となる。commands/ を直接参照するよりも、対応するスキルを探す方が最新の設計に沿っている。
スキルの構成
各スキルは独立ディレクトリで、SKILL.md(または skill.md)を中心に構成される。「When to Activate」「How It Works」「Examples」のセクション構成が標準パターンだ。
主なカテゴリを示す。
言語・フレームワーク別(最充実カテゴリ)
- Go:
golang-patterns,golang-testing - Python:
python-patterns,python-testing - Spring Boot:
springboot-patterns,springboot-security,springboot-tdd - Django:
django-patterns,django-security,django-tdd
テスト・品質保証
-
tdd-workflow— TDD サイクルの定義 -
verification-loop— 検証ループの自動化 -
eval-harness— 定量評価の基盤
継続学習
-
continuous-learning-v2— Instinct システムの実装(後述)
コンテンツ・ビジネス
技術的なコード生成だけでなく、article-writing、market-research、investor-materials、brand-voice といったビジネス系スキルも内包する。AIエージェントを開発チームに留まらない「プロダクトチーム全体」として運用しようという設計思想の表れだ。
言語サポートの階層
rules/ ディレクトリを見ると、14ディレクトリ(common + 13言語/プラットフォーム)が整備されており、各ディレクトリに coding-style.md, hooks.md, patterns.md, security.md, testing.md の5ファイルが統一配置されている(web のみ design-quality.md と performance.md が追加)。
- TypeScript, Python, Go, Java: エージェント・スキル・ルールが揃う
- C++, Rust, Kotlin, Swift, Perl, PHP, C#, Dart: ルール・スキルが整備
- Web(HTML/CSS/a11y): 7ファイル構成のルール
- 汎用パターン(common): 言語非依存のルール10ファイル
フックシステムの概要
フックは ECC の品質ゲートと継続学習を担う中核機能だ。詳細はフック実践ガイドで扱うが、入門として全体像を紹介する。
32フックと3段階プロファイル
Claude Code 向け hooks/hooks.json に 32フック、7イベントタイプを定義している(hooks/hooks.json で確認)。
| イベントタイプ | フック数 | 主な用途 |
|---|---|---|
| PreToolUse | 11 | git --no-verify ブロック、コミット品質、MCP ヘルスチェック |
| PostToolUse | 11 | コマンドログ、PR作成追跡、品質ゲート、継続学習観測 |
| Stop | 6 | フォーマット/型チェック、セッション終了、コスト追跡 |
| SessionStart | 1 | コンテキスト復元 + Instinct 注入 |
| PreCompact | 1 | コンパクション前の状態保存 |
| PostToolUseFailure | 1 | MCP ヘルス追跡・再接続 |
| SessionEnd | 1 | セッション終了ライフサイクルマーカー |
scripts/hooks/run-with-flags.js が全フックの実行を制御し、ECC_HOOK_PROFILE 環境変数で3段階のプロファイルを切り替えられる。
| プロファイル | 用途 |
|---|---|
| minimal | 常時有効フック5件 + セッション管理・コスト記録4件の計9件 |
| standard(デフォルト) | 中間ガイダンス追加(quality gates, console-log, MCP health 等) |
| strict | 全フック有効(tmux-reminder, commit-quality, governance capture 等) |
ECC_DISABLED_HOOKS=hook-id1,hook-id2 でプロファイルを変えずに個別フックを無効化できる。
フックの実装は scripts/hooks/ 配下の Node.js スクリプト(v1.10.0 HEAD 時点で34ファイル)が担う。
Instinctシステム(継続学習)
概念
ECC の独自概念「Instinct(直感)」は、セッション観測から自動学習される小さな行動パターンだ。
- Atomic: 1トリガー → 1アクション
- Confidence-weighted: 0.3(tentative)〜 0.9(near certain)
- Domain-tagged: code-style, testing, git, debugging, workflow 等
- Scope-aware: プロジェクトスコープ(デフォルト)またはグローバル
ライフサイクル
- フック(PreToolUse/PostToolUse)がプロンプトとツール使用を観測
- バックグラウンドエージェント(Haiku モデル)がパターンを検出
- Instinct ファイルとして
~/.claude/homunculus/projects/<hash>/に保存 -
/evolveでInstinctをクラスタリングし、スキル・コマンド・エージェントに昇格 -
/promoteでプロジェクトInstinctをグローバルに昇格(条件: 2+プロジェクトで観測 & confidence >= 0.8)
v2.1でプロジェクトスコープが導入され、ReactとPythonのパターンが混在しないよう分離管理されている。
skills/continuous-learning-v2/scripts/instinct-cli.py がCLIを提供する(Python 1,426行)。コマンド: status, import, export, evolve, promote, projects, prune。
インストール
install.sh と5プロファイル
ECC のインストールは install.sh(Shell ラッパー)が scripts/install-apply.js(Node.js)に委任する形で行う。manifests/ 配下の JSON(install-profiles.json, install-modules.json, install-components.json)で選択的インストールを実現している。
5つのプロファイルが用意されている(manifests/install-profiles.json で確認)。
| プロファイル | 対象 | 含むもの |
|---|---|---|
core |
最小構成 | ルール・コアエージェント・コアコマンド・フックランタイム・プラットフォーム設定 |
developer |
一般的な開発者 | core + フレームワーク・言語スキル、データベース、オーケストレーション |
security |
セキュリティ重視 | core + セキュリティ特化ガイダンス |
research |
リサーチ・コンテンツ | core + research-apis、business-content、social-distribution |
full |
全機能 | 上記すべて + devops、supply-chain、document-processing 等 |
基本的なインストール手順
git clone https://github.com/affaan-m/everything-claude-code.git
cd everything-claude-code
npm install
# Claude Code 向けに developer プロファイルをインストール
./install.sh --profile developer
# 全機能をインストールする場合
./install.sh --profile full
# Cursor 向けにインストールする場合
./install.sh --target cursor --profile developer
# 特定コンポーネントの追加・除外
./install.sh --profile developer --with security --without social-distribution
--target フラグには claude、cursor、codex、gemini、opencode、codebuddy、antigravity が指定できる(scripts/lib/install-manifests.js で確認)。
なお、従来の言語指定形式(./install.sh typescript python golang)もレガシー互換として引き続き動作する。
各ハーネスへのインストール
Cursor は --target cursor で Claude Code 向けスクリプトを再利用する形でセットアップされる。OpenCode 向けは npm パッケージ ecc-universal としても配布されている。Codex 向けは .codex/ ディレクトリの設定が AGENTS.md を通じてハーネスに伝達される。
詳細はリポジトリの Installation セクション を参照してほしい。
superpowers / oh-my-claudecode との位置関係
本シリーズで取り上げた3つのフレームワークはそれぞれ異なる問題を解いている。
| 観点 | superpowers | oh-my-claudecode | everything-claude-code |
|---|---|---|---|
| 主な関心事 | プロセス規律の強制 | マルチエージェントのオーケストレーション | スキル・エージェント・フックの統合最適化 |
| レイヤー | ワークフロー定義(フレームワーク層) | エージェント分業(オーケストレーション層) | 実装知識・ハーネス(実装層) |
| 対応ハーネス | Claude Code, Cursor, Codex, OpenCode, Copilot, Gemini | Claude Code 中心 | 9ハーネス(Claude Code ネイティブ) |
| 学習機能 | なし | セッション内学習 | Instinct システム(セッション横断) |
| 言語別特化 | なし | なし | 13+言語をルール・スキル・エージェントで体系化 |
| フックシステム | セッション開始時注入 | なし | 32フック・3段階プロファイル |
| Stars(2026年4月13日時点) | ~149K | ~28K | ~153K |
superpowers との関係: ECCのスキルは superpowers 互換の形式を参考に設計されており、「superpowers がワークフローの骨格を定義し、ECCのスキルがその中身を充填する」という相補的な使い方が考えられる(筆者の解釈)。
oh-my-claudecode との関係: oh-my-claudecode は「誰が担当するか」(オーケストレーション)を最適化し、ECCは「どう実行するか」(知識・フック)を提供する。組み合わせることでより強力な構成になりうる。
まとめ
ECC が大きな注目を集めている背景には、単体スキル集に留まらない総合的な設計があると考えられる。
- 47エージェント(v1.10.0 HEAD 時点): 言語別レビュアー・ビルドエラー解決・GAN ハーネスなど多様な目的特化エージェントで開発の各フェーズを覆う
- 181スキル(同): 13+言語・ビジネス系スキルまで体系化。commands/ はレガシー shim であり、skills/ が今後の主体
- 32フック・3段階プロファイル: minimal/standard/strict でリスク許容度に合わせたフック運用
- Instinct システム: セッション横断の継続学習でプロジェクト固有の暗黙知を蓄積
- マルチハーネス対応: Claude Code(ネイティブ)から Cursor/Codex/OpenCode/Kiro(フル)まで、限定的サポートを含む9ハーネスへの広範な互換性
アーキテクチャの詳細(DRY アダプタパターン、OpenCode TypeScript プラグイン)はアーキテクチャ編で、フック・3段階プロファイルの全容はフック実践ガイドで、Instinct システムの深掘りと AgentShield・Eval-Driven Development は先進機能編で、自律ループの6パターンと ECC 2.0 Rust コントロールプレーンは自律ループ編で扱う。
まず試すなら、--profile developer で導入し、日常的に使う言語のスキルを意識しながら /tdd や /code-review を使い始めるのが現実的な出発点だ。
参考リンク
- everything-claude-code — 本記事の対象リポジトリ(MIT ライセンス)
- AgentShield — ECC のセキュリティ監査レイヤー(別リポジトリ)
- superpowers — コーディングエージェント向けプロセス規律フレームワーク
- oh-my-claudecode — Claude Code 向けマルチエージェント・オーケストレーション
- シリーズ概観記事 — 2026年4月 AIエージェントハーネスのトレンド全体像