pymolでpi結合を調べる
創薬の研究において重要なのは薬剤(化合物)と標的(タンパク質)の相互作用です。
相互作用は、化合物とタンパク質の分子間結合をPymol
を用いて調べます。結合の種類として水酸基による水素結合といった極性結合や、二重結合同士のpi結合といった疎水性結合があり、前者はFreeのpymolに備えついてます。しかし後者はついておらず、手動でやる必要があります。しかも、結合の見方はネットであまり書かれてないです。
そこで本記事では、pi結合の自分なりの調べ方を紹介します。
pi結合の定義って?
結合の定義は原子間距離や角度で定められていることが多いです。水素結合について水素結合のパラメータの定義に判定基準が定義されていますが、pi結合に関しては明確な定義はありません。論文上のX線結晶構造などを参考にして、pi結合の原子間距離がいくらか見てみたところ、4~7Åがありました1。大分幅があるようですね。
このようにpi結合の原子間距離の幅は大きいようです。おそらく水素結合に比べてpi結合は電子の非局在化範囲が大きく、軌道が重なりやすいためかなと考えられます。
そんなわけで、「原子間距離を測って4~7Åだったらpi結合の可能性あり」くらいには言えそうだと思いました。
pi結合の距離を測ろう
さて実際にpi結合を調べ方を説明しましょう。よくあるpi結合はベンゼン環との結合ですね。
「どうやってベンゼン環中央と距離を測るんだろ?」となりますが、結論としては「ベンゼン環中央に便宜上の原子(pseudoatom)を置いてその原子との距離を測る」っといった操作をPymol
で行います。具体的な操作方法を見ていきましょう。
pseudoatomをベンゼン環中央におく。
では実際にPymol
で距離をはかってみましょう。目標は画像のように見ることです。今回はPDB:1HPVを用いドメインBの46M(メチオニン)の硫黄に結合した水素原子と、53F(フェニルアラニン)のベンゼン環とのpi結合を調べます。目標は下のような画像を得ることです。
以下コマンドで取得します。
fetch 1hpv
取得したら、ドメインBの46M(メチオニン)と53F(フェニルアラニン)をlineで表示したら、写真のようにメニーバーで[Mouse-> 2 Buttom viewing]をクリックします。
Mouseのモードを変更したら、ベンゼン環の対角線の炭素原子(パラ位)をクリックします。すると、原子にボールマークが付き、右のオブジェクトバーにpk1
とpk2
が出てきます。それぞれクリックした炭素原子を指します。
ボールマークをつけたら、以下のコマンドを打ちます。
コマンドの意味は、「pk1とpk2の中点にpi_centerと名付けたpseudoatomをおく」です。成功すれば写真のように、右のオブジェクトバーにpi_center
が出てきます。
pseudoatom pi_center, pk1|pk2
距離の計測
最後にpi_centerとメチオニンの硫黄に結合した原子の距離を測ります。メニューバーで[Mouse -> Select mode -> Atoms]を選択後、[Wizard -> Measurement]を選択します。距離を測る原子をクリックすれば、以下のように距離が表示されます。
以上によって、pi結合を調べることができました。
終わりに
今回は原子間距離のみでpi結合を評価しました。ひとまず一つのやり方として紹介したいと思います。
不十分な点として、判定基準に原子間距離以外の要素は必要か、ということがあります。これに関してはわかり次第、記事を更新していきます。ありがとうございました!