
前回、VM、コンテナ、サーバーレスのモデルを比較し、汎用性の高いコンテナ技術を選定の軸としました。
本回は、コンテナを大規模に運用するエンタープライズ型で必須となるK8s(Kubernetes)に焦点を当てます。ここでは、GKE(Google Kubernetes Engine)を採用すべきか否かの客観的な判断基準と、オンプレミスDB接続時に発生するレイテンシやネットワーク設計の落とし穴を回避するための具体的な設計策を解説します。
TL;DR — GKEは「高頻度デプロイ」「高リソース効率」「マルチクラウド連携」を本気で狙う場合に採用。
補足: ハイブリッド構成では**「オンプレとクラウド間の接続方式」**が制約になるため、データ往復のレイテンシと帯域要件を必ず先に確認する。
簡易チェック: 高頻度リリースかつ運用チームがいる → GKE推奨。そうでなければ Cloud Run / PaaS を優先。
K8s(GKE)採用判断の定量評価とオーバヘッド
この節を読めば:K8s採用の「メリット」が「運用負荷」を上回るかを定量的に判断できます。
K8s(GKE)が真に必要となるのは、以下の3つの基準を満たし、そのメリットが運用オーバヘッドを上回る場合です。
頻度の高いリリース × リソース効率要求 × マルチ/ハイブリッドクラウド前提
→ GKE を選ぶべきケース
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高頻度かつ複雑なデプロイメント要求
- マイクロサービスが多数存在し、個々のサービスが独立して高頻度(日次・週次)でリリースされる場合。A/Bテストやカナリアリリースなど、高度なデプロイ戦略が不可欠な場合。
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極めて高いリソース効率の要求
- 多数のワークロードを混在させ、ノード(VM)のリソース利用率を最大限に高めたい場合。
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マルチ・ハイブリッドクラウド戦略
- 将来的にマルチクラウド展開や、既存のオンプレK8s環境との連携が必須となる場合。
オンプレ接続を前提としたネットワーク設計の落とし穴
この節を読めば:ハイブリッド構成で「性能が出ない」「セキュリティホールがある」という問題を回避できます。
K8sで稼働するアプリケーション(Pod)がオンプレミスDBにアクセスする際、クラウドとオンプレミスをまたぐ接続経路で、特有のボトルネックが発生します。
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レイテンシ問題(性能の落とし穴)
- クラウドとオンプレミス間のネットワーク距離により、往復時間(RTT)が必ず発生します。Pod(フロント)がオンプレDBにアクセスする際のレイテンシが、アプリケーションのSLAを破る主要因となります。
- 対策: 頻度の高いDBアクセスはキャッシュ(例: Cloud Memorystore)で吸収するか、ネットワークの物理的な距離を最短化(専用線接続:Interconnect)することを検討します。
運用目安
指標 目安 RTT (Pod→DB) < 5–10 ms DB接続数閾値 最大接続数の 70% リトライ率 < 1% -
East-West トラフィック可視性の低下(セキュリティの落とし穴)
- K8sのPodはクラウドのVPC内にあり、DB接続が東西(East-West)トラフィックとなり、従来のネットワーク境界による可視性が低下します。
- 対策: 接続は常にゼロトラスト原則に基づき、Podに割り当てる専用のサービスアカウント(IAM)と、DBへの最小権限アクセス(RBAC)を厳格に設定します。
実際に見られる障害パターン(抜粋)
ハイブリッド接続で現場が最もハマる、具体的な障害パターンです。
- スロークエリ発生→Podが同時に再接続→DB接続枯渇→サービス低下
- 再試行ループでK8sがスケールアウト→更にDB負荷増→雪崩
- 公衆網経由での疎通誤設定により、突発的に帯域課金やタイムアウト多発
対策例:DBコネクションプーリング(PgBouncer等)、アプリ側のconnection pool上限設定、タイムアウト/リトライの適切化(指数バックオフ)を必ず実装する。
IaC実践: GKEとServerless VPC Connectorの接続設計
この節を読めば:K8sを安全にオンプレミスネットワークに接続するためのTerraform設定を理解できます。
以下に示すのは、エンタープライズ型で必須となるセキュリティと可用性を担保したGKEクラスタと、オンプレ接続のゲートウェイとなるVPC Connectorの最小構成コード断片です。
最小:GKE(プライベートクラスタ)+ Workload Identity の概念例(簡略)
resource "google_container_cluster" "gke" {
name = "enterprise-gke"
location = "asia-northeast1"
# ネットワークのプライベート化(セキュリティ基盤)
private_cluster_config {
enable_private_nodes = true
enable_private_endpoint = false
}
# Pod/Serviceがオンプレと通信するためのネットワーク設定
ip_allocation_policy {
cluster_secondary_range_name = "pods"
services_secondary_range_name = "services"
}
# Workload Identity の有効化(ゼロトラストの基盤)
workload_identity_config {
workload_pool = "${var.project}.svc.id.goog"
}
# Autoscaler設定(高可用性・リソース効率の基盤)
node_pool {
name = "default-pool"
autoscaling {
min_node_count = 1
max_node_count = 5
}
}
}
補足:private_cluster_config と workload_identity_config はセキュリティとアイデンティティ連携の基礎です。必ず検討してください。
Workload Identity 補足: workload_identity_config は Google Cloud のサービスアカウントと Pod を安全に結びつけるための設定です。Pod が直接長期クレデンシャルを持つ必要がなくなります。また、Pod のサービスアカウントに DB 接続用権限(例:roles/cloudsql.client)などを必要最小限で付与してください。
**VPC Connectorは、サーバーレスやGKE Podがオンプレ側へプライベート接続するための出入口です。**コネクタの egress 設定が誤るとトラフィックが公衆網へ出るため注意してください。
resource "google_vpc_access_connector" "connector" {
name = "onprem-connector-vpc"
region = "asia-northeast1"
network = "onprem-dedicated-vpc"
ip_cidr_range = "10.8.0.0/28"
}
※VPC Connector のCIDRは /28〜/24 の小さめブロック推奨(広すぎるCIDRはネットワーク設計を壊します)。
設計チェック(必ず確認する項目)
- Connector の CIDR が既存ネットワークと重複していないか
- Connector の egress が期待どおり(private / public)か
- オンプレ側のルートに Connector のプレフィクスが広告されているか
- Interconnect/VPNの経路設定が、ConnectorのIPレンジをオンプレミス側へ正しくルーティングしているか
最終判断式
制御したい度合いが高いほど VM → コンテナ → FaaS の順に選択し、ハイブリッドの場合はデータ出入りのレイテンシと接続要件で最終決定する。
まとめと次回予告
第3回では、K8s採用の客観的な判断基準と、ハイブリッド環境におけるネットワーク接続の課題および、それを克服するためのGKEとVPC ConnectorのIaC設計を解説しました。
実務の目安:GKEは恩恵が大きいが運用コストも大。まずは小さなPoCでRPS/RTT/DB接続限界を検証し、数値で採用可否を決めることを強く推奨します。
次回はストレージとDB接続の最適化で、今回提示したRTTや接続数の実測に基づく設計(キャッシュ層、レプリケーション、フェールオーバー設計)を示します。
次回予告
次回は、ストレージ選定とハイブリッドDB接続の最適化をテーマに扱います。
オブジェクト、ブロック、ファイルの実用的な使い分けと、ハイブリッドDB接続の「本番負荷」で起きる問題と対策を徹底的に解説します。
ハイブリッドクラウド × ゼロトラスト × IaC の実践アーキテクチャ設計