
オンプレミスDBは残したい。クラウドでK8sを動かしたい。ゼロトラストも外せない。だが、ネットワークと運用が破綻しやすい。
実務では、この組み合わせは理論より遥かに難易度が高いのが現実です。多くのプロジェクトが、以下の理由で躓きます。
- レイテンシ試算が甘い
- 認証経路が複雑化する
- K8sとオンプレDBの接続が脆弱になる
本連載は、この「現場の最も深いハイブリッド課題」に対し、実務で即使える設計基準と構成例を8回に分けて提供します。読了後には、ハイブリッド構成の成否を左右する判断軸を具体的に把握できます。 特に Google Cloud環境での構築例を中心に解説します。
ハイブリッド構成が避けられない3つの本質的な要件
オンプレミスDBを維持する理由は、結局のところ次の3つに尽きます。
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データ主権と規制
- 金融・自治体など、特定の規制下ではクラウド保存が許されないケースが多いです。厳格な監査要件を満たすためにオンプレミスが必須となります。
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レイテンシ
- アプリケーションの特性上、5〜10msを超えるネットワーク遅延で既存アプリが破綻する例が実務で珍しくありません。DBは利用拠点に残す必要があります。
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既存投資
- 巨大DBやレガシー基盤の移行は、数千万〜億単位のコストを伴います。移行コストを避けるため、既存のオンプレミス資産を安全に活用する判断が合理的です。
“クラウド前提設計”が必ず破綻する理由
ハイブリッド設計を失敗させないためには、従来の設計思考を捨てる必要があります。
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境界型防御の崩壊
- リモートワークやアプリケーションの分散化により、従来のファイアウォールによる「境界線」は消滅しました。セキュリティの境界は、ネットワークから 「アクセスするID(ユーザーやデバイス)」へと移行しています。
- この問題を解決するのが、本連載の軸であるゼロトラストです。
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ワークロードの移動難易度
- オンプレDBの依存関係やカスタム機能のため、アプリケーションの一部だけをクラウドへ移すと、連携の破綻リスクが高まります。オンプレミス資産を安全に活かしきる設計思想が必要です。
本連載で扱う2つの実務モデルと「違いの軸」
本連載では、実務的な要件に基づき、以下の二つのモデルに名称を付けて解説します。読者の皆様のプロジェクトがどちらに近いか判断してください。
- エンタープライズ型(大規模モデル)
- リーンモダナイズ型(中小規模モデル)
この二つのモデルを分ける本質的な軸は、以下の4つです。
- スケール要求(スケーラビリティ)
- 外部公開要件(アクセス要件)
- ゼロトラスト適用範囲
- K8s運用体制(専門性)
| モデル名 | 特徴と設計の方向性 |
|---|---|
| エンタープライズ型 | K8s(GKE)とSASEを全面的に採用。高度なスケーラビリティと、ゼロトラストによる統合セキュリティが求められる基幹システム向け。 |
| リーンモダナイズ型 | コストと運用負荷を抑えることが優先。K8sのオーバヘッドを避け、シンプルなコンテナ実行環境も選択肢。必須セキュリティ機能の適用に絞る。 |
まとめと次回予告
第1回では、ハイブリッド構成が必要な本質的な理由と、連載を通して解説する2つの設計モデルの構造を明確にしました。
次回以降、この構造を「コンピュート」「ストレージ」「ネットワーク」の要素ごとに分解し、実務で使える具体的な設計判断とIaCコードを提示していきます。
次回予告
次回は、コンピューティング基盤(第1部):モデル比較と選定をテーマに扱います。
VM、コンテナ、サーバーレスのメリットとコスト、用途別比較を通じて、フロントエンドに最適なコンピューティングモデルを選択するための判断基準を解説します。
ハイブリッドクラウド × ゼロトラスト × IaC の実践アーキテクチャ設計
