はじめに
「このドキュメント、Vertex AI って書いてあるけど今は GEAP なんだよな」「昔のブログ記事は Container Engine って呼んでる」。Google Cloud を触っていると、こういう名前のズレに出くわすことがあります。
これは記憶違いでも情報が古いだけでもなく、Google Cloud がサービスの成長に合わせて名称変更を重ねてきた結果です。この記事では、App Engine の登場から現在の Gemini Enterprise Agent Platform(GEAP)まで、主要な名称変更を時系列で整理します。個々の変更点だけでなく、それぞれの変更にどんな背景があったのかも見ていきます。
年表
2008年4月、App Engine が Google Cloud の出発点
Google Cloud の最初のプロダクトは、2008年4月にプレビュー公開された App Engine でした。ウェブアプリケーションを Google のインフラ上で動かせるサービスで、当初は招待制の1万ユーザーからスタートしています。App Engine は2011年9月に正式版(GA)になりました。
2013年ごろ、Google Cloud Platform というブランド名の確立
App Engine 単体のサービスから、複数のクラウドサービス群を束ねる Google Cloud Platform というブランド名が使われるようになったのは、2013年ごろとされています。
2014年から2015年、Kubernetes の公開と Container Engine
2014年6月、Google は社内で使っていたコンテナオーケストレーション技術を Kubernetes としてオープンソース化しました。同年11月には Container Engine がアルファ版としてリリースされ、2015年8月に GA になっています。
2016年、GCP と G Suite を束ねる Google Cloud ブランドへの再編
2015年に Google Cloud の CEO に就任した Diane Greene のもとで、2016年に大規模なブランド再編が行われました。それまで別々に扱われていた Google Cloud Platform(GCP)と G Suite(当時の Google Apps)の営業やマーケティングを統合し、Google Cloud という一つの傘のもとにまとめる動きです。以降、GCP は個別プロダクト群、Google Cloud はそれを含む全体ブランドという位置づけが定着していきます。
2017年11月、Container Engine が Google Kubernetes Engine(GKE)に改称
Kubernetes の認定プログラムが本格化する中、Container Engine は Google Kubernetes Engine(GKE)に改称されました。もともと Container Engine の略称自体が GKE だったため、名前を実態に合わせた形です。
2020年10月6日、G Suite が Google Workspace に
2020年10月6日、Google は G Suite を Google Workspace に改称すると発表しました。Gmail やドライブ、ドキュメント、Meet などのアプリ間連携を強化し、単なるツール集ではなく統合されたワークスペースとして打ち出す狙いがあったとされています。
2021年5月18日、AutoML と AI Platform を統合した Vertex AI が GA
機械学習系のサービスは、Cloud ML Engine、AI Platform、AutoML と別々のブランドで提供されていましたが、2021年5月18日、これらを統合した Vertex AI が正式リリースされました。以降、Google Cloud 上での機械学習開発は基本的に Vertex AI 経由という位置づけになります。
2024年2月8日、Bard と Duet AI が Gemini に統合
2024年2月8日、消費者向けチャットボットの Bard と、Google Cloud や Workspace 向け AI アシスタントだった Duet AI が、どちらも Gemini というブランドに統合されました。Google の担当者は「利用者にとって、これが Gemini であることを分かりやすくするため」とコメントしています。この時点で Google Cloud や Workspace 上の AI アシスタント機能も、Duet AI から Gemini 表記に切り替わっています。
2026年4月、Vertex AI が Gemini Enterprise Agent Platform(GEAP)に統合
2026年4月、Google Cloud Next '26 で Vertex AI の機能群を統合した Gemini Enterprise Agent Platform(GEAP)が発表されました。既存の Vertex AI ユーザーは基本的に自動で GEAP に移行され、API エンドポイントもおおむね互換性が保たれていますが、SDK は別物として扱われており、vertexai パッケージの生成 AI モジュールは2026年6月24日に削除されています。
2026年4月、Looker Studio が Data Studio に名称を戻す
同じく2026年4月、BI ツールの Looker Studio は Data Studio という名称に戻っています。もともと Data Studio として提供されていたものが、2022年の Looker 買収を機に Looker Studio に改称された経緯があり、今回はそこから逆に戻る形です。URL は自動でリダイレクトされ、既存のレポートを作り直す必要はありません。
名称変更に見える2つのパターン
年表を並べてみると、名称変更には大きく2つのパターンがあることが分かります。
一つは、個別プロダクトの実態が変わったことによる改称です。Container Engine が Kubernetes 準拠の実装になったタイミングで GKE に変わったように、機能や技術的な位置づけが変わったことを名前に反映するケースです。Cloud ML Engine と AI Platform、AutoML が Vertex AI に統合されたのも、バラバラだった機械学習系サービスを一つのプラットフォームとして再設計した結果です。
もう一つは、会社としてのブランド戦略による再編です。2016年の GCP と G Suite の統合や、2024年の Bard と Duet AI の Gemini への統合は、個別サービスの技術的な変化というより、Google のクラウドや AI 事業をどう見せたいかという上位方針の変更です。2026年の Vertex AI から GEAP への統合も、AI エージェント時代への移行という会社としての方向づけが背景にあります。
技術的な改称は付いていきやすい一方、ブランド戦略による再編は影響範囲が広く、ドキュメントや過去記事の表記が入り乱れる原因になりがちです。
古い名前の記事に出会ったときの対処
過去の名前が残ったままの記事やドキュメントに出会うのは避けられません。実務では次のように対応すると混乱を減らせます。
- 公式ドキュメントの製品名で検索し直す。旧称でヒットした記事は、現行の製品ページへのリンクがないか確認する
- リリースノートで「旧称」「formerly known as」といった注記を探す。多くの場合、公式ドキュメント側で旧称からのリダイレクトや注記が用意されている
- SDK やパッケージ名は製品名より変更が遅れることがある。
vertexaiパッケージのように、ブランド名が変わった後もしばらく旧パッケージ名のまま提供され、後から新パッケージへの移行期限が設定されるパターンがある
まとめ
Google Cloud は App Engine の登場から現在まで、Container Engine から GKE、G Suite から Workspace、Bard や Duet AI から Gemini、Vertex AI から GEAP など、個別プロダクトからブランド全体まで何度も名前を変えてきました。技術的な再設計に伴う改称と、事業戦略としてのブランド再編の2種類があると理解しておくと、次に名前が変わったときも背景を推測しやすくなります。
各サービスの現行名称や仕様は変更される可能性があるため、実際に使う際は必ず公式ドキュメントで最新情報を確認してください。
参考
- Google App Engine(Wikipedia)
- Google Cloud Platform(Wikipedia)
- G Suite is now Google Workspace(Google Workspace Updates 公式ブログ)
- Introducing Certified Kubernetes (and Google Kubernetes Engine!)(Google Cloud 公式ブログ)
- Google Cloud launches Vertex AI, unified platform for MLOps(Google Cloud 公式ブログ)
- 次世代のエージェントを推進する Gemini Enterprise Agent Platform を発表(Google Cloud 公式ブログ)
- Vertex AI SDK migration guide(Google Cloud 公式ドキュメント)
- Welcome to Data Studio(Google Cloud 公式ドキュメント)