0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

Google Cloud Next Tokyo '26 Day1基調講演レポート、Gemini Enterpriseで変わる企業のAI活用最前線

0
Last updated at Posted at 2026-07-30

はじめに

2026年7月30日、Google Cloud Next Tokyo '26のDay1基調講演に参加しました。本記事は当日の内容を、公開情報と突き合わせながら整理したレポートです。

Day1基調講演のテーマはひと言でいえば「Gemini Enterpriseを軸にした企業のAI活用」でした。小売業を想定したデモに始まり、損保ジャパン、Sky株式会社、スクウェア・エニックスという業種の異なる3社の事例紹介、Google Workspaceの新機能デモ、そしてセキュリティ領域の新発表まで、幅広い内容が扱われています。

会場で語られた数値の一部は、本記事執筆時点で公式ブログ等での裏付けが取れませんでした。該当箇所は「基調講演内で紹介された数値」として区別して記載しています。


Gemini Enterpriseによる店舗運営の自動化(デモ)

最初のセッションは、全国チェーンの小売業を想定したGemini Enterprise活用デモでした。登場する店舗名や人物(店舗担当のスーパーバイザー、本部のマーチャンダイザー)は説明の中で明言されておらず、実在企業の事例ではなく、機能を示すための想定シナリオとして紹介されたものと考えられます。

現場側:巡店アシスタントエージェント

スーパーバイザーは巡店前に、本部が重点カテゴリに設定している飲料部門について、過去の数値をもとにしたポイント整理をエージェントへ依頼します。エージェントは店舗ごとの好調・不調カテゴリとその要因仮説(このデモでは「ミネラルウォーターの売れ行きが悪く、陳列棚のフェイス数が不足している可能性」)を提示し、あわせて過去の巡店記録から確認すべきポイントも洗い出します。

巡店中はスーパーバイザーが気づいた点を音声でメモし、写真も添付します。エージェントはこれらをマルチモーダルに解析し、衛生・安全などの基本項目はスコア化、良かった点は横展開すべきナレッジ、課題は改善事項として自動的に整理します。さらに巡店報告書をPDFで作成し、店長へチャットツールで共有、改善事項は期限付きタスクとして外部のタスク管理ツール(Outlook)にも連携されます。店長側はこの報告書をもとに改善を実施し、結果を報告する流れです。

本部側:需要予測から棚割設計まで

本部のマーチャンダイザーは夏商戦向けの飲料棚の最適化を検討していましたが、POSデータ、新商品データ、気象データAPIなど複数のデータソースを横断する分析が必要で、これまでは時間がかかる作業でした。デモでは、分析エージェントに必要なデータソースを指定したうえで分析を依頼し、翌朝には季節変動の大きいカテゴリの抽出や、気温・湿度と売上の相関分析結果が届く様子が示されました。

この分析結果をもとに棚割プランナーエージェントを起動すると、まず需要予測エージェントが気候と売上の相関を再確認し、続いて棚割設計エージェントが「熱中症対策商品を目線の高さに配置し、炭酸水の在庫比率を調整する」という具体的な棚割案を作成します。承認後は店舗のオペレーションシステムと連携し、棚替え計画の下書きまで自動的に準備されます。

このデモで印象的だったのは、分析結果の保存先や改善タスクの連携先としてOneDriveやOutlookが登場していた点です。Gemini Enterpriseが自社製品だけで完結する構成を前提にしていないことを示す一例といえます。


損保ジャパン:3万4000人へのGemini Enterprise導入

損保ジャパンからは、CDO(Chief Digital Officer)の中島正朝氏が登壇しました。同社は2016年、東京とシリコンバレーにSOMPOデジタルラボを設立し、約10年間グループ全体のデジタル変革に取り組んできたといいます。DX戦略は「横のDX」(現場のビジネス部門が主体となり、自分たちの手で新しい顧客体験を作る。この10年で約200名のデジタルスペシャリストを採用)と「盾のDX」(デジタルによる新規事業創出。米Palantir社との合弁事業などが該当)の2軸で説明されました。

AI戦略:特化型AIと汎用型AI

中島氏は自社のAI活用を「特化型AI」(業務効率化・生産性向上のために、AIに任せられる業務は任せる)と「汎用型AI」(人間にしかできない能力を最大化するため、社員一人ひとりの相棒として新たな価値創出を支える)の2領域に整理して説明しました。

2026年1月、従来のチャットボット型AIからGemini Enterpriseへ切り替え、グループ全社員3万4000人に「損保AIエージェント」として提供を開始しています(公開情報でも、SOMPOホールディングスが国内グループ会社の約3万人規模に2026年1月からAIエージェントを展開したことが報じられており、時期・規模感は一致します)。

選定理由として挙げられたのが、Gemini Notebook(旧NotebookLM)の存在です。保険会社には約款や規定集、膨大なマニュアル類など大量の社内文書があり、出典を明示しながら文書に基づいて回答するソースグラウンディング型のAIとの相性が高いと判断したといいます。

日常業務への組み込み

導入にあたって同社がこだわったのが、日常業務への組み込みです。社内で開発した音声メモアプリを使うと、会議の録音終了後に自動でGemini Notebookへデータが追加され、参加者全員にすぐ共有される仕組みを作りました。狙いは「AIに議事録を作らせること」ではなく、議事録作成そのものをなくす方向で会議のあり方自体をトップダウンで変えていくことだといいます。あわせて、本社各部門が作成し全社に公開する公式ノートブックも整備され、「本社に問い合わせる前に、まず公式ノートブックに聞く」という使い方が定着しつつあるとのことでした。

市民開発から生まれた3つの公式エージェント

もう一つの動きが、現場の社員自身によるエージェントの市民開発です。数ヶ月で1万件を超えるエージェントが作られたとして、そのうち全国で使われている公式エージェントとして次の3つが紹介されました。

  • 目サポ:目標設定に関する社内ガイドラインや評価方針を学習し、AIとの対話を通じて目標設定と思考整理を支援するエージェント
  • 文字起こし:写真や画面キャプチャから文字を即座にテキスト化するエージェント
  • レッカーミル:文字起こしの発展形。自動車事故に伴うレッカー費用の請求書を読み込んでテキスト化し、相場と照らし合わせて価格の妥当性を自動チェックする、保険会社特有の専門業務に特化したエージェント

半年間の成果

導入から半年で、週1回以上AIエージェントを利用する社員の割合(WAU)は80%を超え、部長以上のマネジメント層に限るとWAUは98%に達したと報告されました。中島氏は、利用率の高い社員ほど単なる業務効率化にとどまらず、AIで生まれた時間を使ってこれまで着手できなかった価値の高い業務に挑戦する傾向が見えていると述べました。

最後に中島氏は、AIツール導入自体は当然の一歩に過ぎず、その先の決め手は「社内の価値あるデータをAIレディにできるか」と「平均値ではない突出した成果を生み出せるか」の2点にあると総括しました。この2つを左右するのは結局のところ社員の経験・見識であり、問いを立てる力=AIを使いこなす人間力をどこまで拡張できるかが最大の鍵になる、というのが同氏の主張です。


Sky株式会社:全社導入と市民開発エージェント文化

続いてSky株式会社の太田氏が登壇しました。同社は自社パッケージ商品を開発するメーカー事業と、システム受託開発を行うインテグレーション事業の2本柱を持つソフトウェア開発企業で、従業員約4600名のうち約3100名がエンジニアだといいます。2025年10月には、コーポレートメッセージを「AIとともに、まだ見ぬテクノロジーの空へ。」に変更し、AIとの共生を軸にした事業展開を進めていることが公式に発表されており、2026年1月からのGemini Enterprise全社導入もあわせて公式にリリースされています。

選定理由:処理精度と検索ガバナンス

選定理由として挙げられたのは、AIエージェントの処理精度と、エンタープライズ用途で求められる検索ガバナンスの強さです。同社はディープリサーチのようなAIエージェントをフルスクラッチで内製構築してきた経験があり、裏側で自律的に繰り返される反復処理が多いタスクほど、モデルやアーキテクチャによる精度差が顕在化することを実感していたといいます。他社サービスとの比較検討の結果、Geminiが高い精度を示したこと、AIのビジネス利用で主軸となる検索調査においてGoogleの検索精度が強みになること、エンタープライズ検索とガバナンスを両立できる点が決め手になったと説明されました。

独自エージェントが業務に浸透

Sky株式会社の特徴は、各社員が自分の業務に合わせた独自エージェントを自作する文化が広がっている点です。用途はコーディング、情報検索、文章作成で全体の約半分を占める一方、一般的なコーディングエージェントではカバーしきれない組み込み開発やテストケース作成にも独自エージェントが活用されています。分類が難しい複合的なプロンプトが全体の約48%を占めるという数字も紹介されており、社員それぞれが自分の業務に合わせて細部までチューニングを重ね、多様なエージェント活用が進んでいることの表れだと位置づけられていました。

全社的な活用を底上げする施策として、優れたエージェント作成者を表彰する社内イベント「エージェント祭り」の開催、AIリテラシー研修の定期実施、エージェントを共有できるプラットフォームの整備、利用状況やフィードバックデータを一箇所に集約するダッシュボードの構築が紹介されました。ダッシュボードでは従業員ごとの活用状況をAIで分析し、誰がどのように活用しているかを定量的に把握できるようにしているといいます。

半年弱で見えた変化

導入の結果として、社内AIへの総リクエスト数は導入前の1日1万5000回から、導入後は約2倍の3万回に増加したと報告されました。エージェント数も、公開開始1週間で2500個、導入5ヶ月で2万個に達しているといいます。

もう一つ大きな変化として挙げられたのが、個人の暗黙知や部署ごとのローカルデータの可視化です。同社は「デジタルワーカー」(AI社員)の社内導入を試みる中で、個人の暗黙知や部署ごとのデータが共有されていないことが大きな壁になっていたといいます。業務効率化のために各自がエージェントを作る過程で、知見やデータが自然とプラットフォーム上に集約され、結果として暗黙知を可視化する手段としても機能し始めているとのことでした。


スクウェア・エニックス:マルチモーダルAIがゲーム体験と開発現場を変える

スクウェア・エニックスからは、AIエンジン領域を担当するエンジニアが登壇しました。同社はファイナルファンタジーやドラゴンクエストをはじめとする数多くのIPを展開しており、10年以上にわたりAIの研究開発とゲームへの実装に取り組んできたといいます。紹介されたのは大きく2つの活用領域、プレイヤー向けの新しいゲーム体験と、開発現場のサポートです。

キーワードとして挙げられたのが「マルチモーダルAIの可能性」でした。プレイヤー体験でも開発サポートでも、現場が求めていたのはテキストのやり取りだけではなく、ゲームの音を聞き、複雑に変化する画面を人間と同じように認識・把握できる能力だったといいます。画像・音声の認識と、それらを組み合わせた判断力に強みを持つGemini Enterpriseを採用した理由もここにあると説明されました。

プレイヤー体験:対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」

紹介された事例の一つが、2026年8月に14周年を迎えるMMORPG「ドラゴンクエストX オンライン」に実装される対話型AIバディ「おしゃべりスラミィ」です。Gemini 2.5 FlashとGemini Live APIを組み合わせ、遅延の少ない自然な音声対話、ゲーム画面を見た状況理解、プレイヤーへの自発的な話しかけを実現しているとのことでした。おしゃべりスラミィは4月下旬からベータ提供が始まり、正式サービスは2026年6月25日に開始されています(各種メディアの報道でも同様の技術構成・提供時期が報じられています)。

開発現場:マルチモーダルAIによるゲーム自動プレイ

もう一つの事例が、開発現場での活用です。ゲームの検証作業量が年々増える中、同社はAIを使った自動化に取り組んでいるとして、Geminiを使ったゲームの自動プレイ映像が上映されました。デモでは「船を見たい」という指示に対し、AIが自ら考え、マップ上のどこに船があるかを確認しながら行動する様子が示されています。画面左下にはAIの思考過程を示すチャットログ、右上にはAIが立てたタスクリストが表示され、画面を見ながらゲームコントローラーを自動操作してタスクを順番に実行していく流れでした。

登壇者は、AIの役割を「検証などの繰り返し作業を巻き取り、開発陣がよりクリエイティブな作業に集中できるようにすること」「バグや問題への対応を早め、開発スパンを縮めること」と位置づけ、その先に新しいゲームタイトルをより早く届けられる未来があるとまとめました。


Google Pics:Workspace上の資料作成をAIで支援するデモ

Next Tokyoで恒例となっている、ショートムービー形式のデモも上映されました。今回のシナリオでは「シンバル社」という名前が使われていましたが、こちらもGoogleのデモ資料でよく使われる架空のブランド名(Cymbal)の日本語表記である可能性が高く、実在企業の事例ではなく機能紹介のための寸劇と考えられます。

ストーリーは、営業部長からビアガーデン交流会の案内スライドを至急作成するよう依頼された社員が、Google Driveに保存された過去の写真を使ってスライドを作るというものです。写真には本来訴求したいビールではなくスパークリングワインが写り込んでおり、さらに前回参加者の名前が写った横断幕もそのまま写っていたため、画像の修正が必要になります。

ここで使われたのが、Google Workspace向けの新しい画像生成・編集アプリ「Google Pics」です。編集したい対象をクリックすると自動でオブジェクトが検出され、テキストで変更内容を指示するだけで編集できます。デモでは、スパークリングワインをビールに差し替える、画像内の文字を認識したうえで横断幕のテキストを書き換える、範囲を指定して花火のイラストを追加する、という3つの編集がその場で行われました。Google Picsは2026年のGoogle I/Oで発表された、Workspace向けとしては初の画像生成・編集アプリで、画像編集にはNano Banana系のモデルが使われているとされています。

画像が整った後は、GoogleスライドのサイドパネルからGeminiを呼び出し、ワークスペースインテリジェンス機能を使ってGoogle Drive、Gmail、Google Chatに散らばっていた過去の関連情報を集約、箇条書きの案内文としてまとめてスライドに挿入します。最後に「スライドをブラッシュアップ」する機能を使うと、画像とテキストが自動的にレイアウトへ落とし込まれ、短時間で案内スライドが完成する、という流れでした。


AI Threat DefenseとCodeMender:エージェント時代のセキュリティ

最後のセッションはセキュリティ領域です。登壇者は、AIが急速に発展・普及するのにあわせて、AIを悪用した脅威も加速していると指摘しました。基調講演内では、脆弱性が発見されてから実際に悪用されるまでの期間が「1.3年から1.6日にまで短縮された」という数値が紹介されましたが、この具体的な数値は本記事の調査時点で公式ブログ等での裏付けは確認できませんでした。あくまで基調講演内で示された数値として捉えてください。

Googleは月間150億人規模が利用するサービスを運営しており、月間数万件規模の脆弱性報告に対処しているとの説明もありました(こちらも基調講演内の言及です)。人手だけでの対応には限界があるため、優先順位付けから修復、対応までエージェントを活用しており、対応にかかる時間を90%以上短縮できているといいます。

Google自身が社内で使ってきたこの手法を顧客向けに提供する形で、先日発表されたのが自律型セキュリティソリューション「Google AI Threat Defense」です。準備・スキャン・修復・監視の4ステップで脆弱性管理を再構築するもので、この4ステップの構成は公式ブログでも確認できます。中核を担うのが、ソフトウェアの脆弱性を自動で検出・修正するマルチモデル対応エージェント「CodeMender」です。CodeMenderはGoogle DeepMindが開発し、2025年10月にセキュリティ研究プロジェクトとして最初に発表された後、2026年7月22日にプレビュー版の提供が始まっています。

日本国内での展開にあたっては、NTTデータ、NEC、日立製作所、富士通など国内のAI・脅威防御ソリューションパートナーと連携し、重要インフラや政府機関、企業のデータ保護を進めるとしています。あわせて、AI Threat Defenseを使ったセキュリティアセスメントを年内限定で無償提供することもアナウンスされました。


まとめ:オープンなAIプラットフォームとしてのGoogle Cloud

基調講演の締めくくりでは、Google Cloudがフルスタックで提供しつつも特定ベンダーへのロックインを意図しない、オープンなAIプラットフォームであるという立場が改めて示されました。実際、ここまで紹介した事例でもGemini EnterpriseがMicrosoft OutlookやOneDriveと連携する場面があり、単一ベンダー内で閉じない構成が意識されていた点は印象的でした。

Next Tokyo '26は2日間で90社を超える企業がExpoやスポンサーセッションに出展しており、開催記念として認定資格の受講料が50%割引になるキャンペーンも実施されています。Day1基調講演を通して見えたのは、Gemini Enterpriseという共通基盤の上に、小売・保険・ソフトウェア開発・ゲームといった業種ごとに異なる形でAIエージェントが組み込まれている状況でした。中でも、現場の社員自身がエージェントを作る「市民開発」の広がりは、損保ジャパンとSky株式会社の事例に共通して見られた特徴です。

各事例の詳細は、いずれ公開されるであろう公式のセッションアーカイブやブログ記事でもあわせて確認することをおすすめします。

参考

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?