はじめに
高圧配電系統など中性点非接地方式の三相回路では、健全時に各相の対地静電容量を介してわずかな充電電流が流れているだけであるが、いずれか1相が大地に短絡(地絡)すると、他の2相の対地静電容量を経由した電流が地絡点に集中し、比較的大きな地絡電流が流れる。この地絡電流の大きさは、地絡継電器(GR)の整定や地絡保護方式の検討における基礎量であり、電気工学における古典的な計算問題としてもよく知られている。
本稿では、Y結線された対称三相起電力源の中性点Nを非接地(絶縁)とし、各相の対地静電容量をCで平衡させたモデルにおいて、A相が抵抗Rを介して1線地絡した場合の地絡電流を、
- テブナンの定理(普通)
- ミルマンの定理(凄く難しい)
- 対称座標法(難しい)
の3通りの方法でそれぞれ導出し、いずれも同一の結果に帰着することを確認する。最後に具体的な数値を代入し、3手法の答えが数値的に一致することも検証する。
モデル
対象とする回路を以下に示す。起電力 $E_a,E_b,E_c$ はY結線され、中性点Nはどこにも接地されていない(浮遊電位)。各相線には対地静電容量Cが平衡して存在し、A相のみ抵抗Rを介して大地に地絡しているものとする。
つまり、零相インピーダンスが対地静電容量のみによって決定される($Z_0=\frac{1}{3 \omega C}$)で、線路インピーダンス等で決定される正相、逆相インピーダンスが零相インピーダンスよりも十分に小さい場合を考える($Z_0>>Z_1,Z_2$)。
Y結線電源の中性点Nは非接地。B相・C相は対地静電容量Cのみ、A相は対地静電容量Cと地絡抵抗Rが並列に大地へ接続される。
角周波数を $\omega$ とし、大地の電位を基準(0V)、中性点Nの対地電位を $V_N$(未知)とすると、各相線の対地電位は
V_A=V_N+E_a,\qquad V_B=V_N+E_b,\qquad V_C=V_N+E_c
であり、各相から大地へ流出する電流は
I_A=\left(j\omega C+\frac{1}{R}\right)V_A,\qquad I_B=j\omega C\,V_B,\qquad I_C=j\omega C\,V_C
となる。中性点Nは他にどこにも接続されていない孤立節点であるから、キルヒホッフの電流則より
I_A+I_B+I_C=0
が成り立つ。この1本の式が、以下の3手法いずれの根底にも流れている関係式である。以降、$E_a,E_b,E_c$ は大きさE、互いに $120°$ 位相差を持つ対称三相電圧とし、$E_a+E_b+E_c=0$ を用いる。地絡電流 $I_g$ は地絡抵抗Rを流れる電流、すなわち $I_g=I_A=V_A/R$ として定義する。
1. テブナンの定理による解法
この解法は、2,3番目の解法と比べると、3相が平衡しているという条件付きではあるが、計算量が少なくて済む。
(もちろん、各相の対地静電容量が平衡しているということが条件に入っている。)
地絡抵抗Rを一旦取り外し、A相-大地間から見た1端子対回路網としてテブナン等価回路を作る。
開放電圧 $E_{th}$:Rを外した状態では、A・B・C相はいずれも対地静電容量Cのみを負荷とする平衡回路になる。このとき $V_N=0$ とすれば $V_A=E_a,V_B=E_b,V_C=E_c$ となり、$I_A+I_B+I_C=j\omega C(E_a+E_b+E_c)=0$ を満たすので、これが唯一の解である。したがって、A相-大地間の開放電圧は
E_{th}=V_A=E_a
内部インピーダンス $Z_{th}$:起電力源を全て短絡(内部インピーダンス0のため、N・A・B・Cが1点に短絡される)して見ると、その1点から大地までは3個の対地静電容量Cが並列になっているだけなので
Z_{th}=\frac{1}{j\omega C+j\omega C+j\omega C}=\frac{1}{j3\omega C}
以上より、地絡点から見た等価回路は次のようになる。
A相地絡点から見た1端子対網は、起電力 $E_{th}=E_a$ とインピーダンス $Z_{th}=1/(j3\omega C)$ の直列接続に等しい。
この等価回路にRを接続すれば、地絡電流は
I_g=\frac{E_{th}}{Z_{th}+R}=\frac{E_a}{\dfrac{1}{j3\omega C}+R}=\frac{j3\omega C\,E_a}{1+j3\omega CR}
と求まる。
2. ミルマンの定理による解法
このやり方は、3相が不平衡でも計算できることが最大の利点である。また、現象自体は後述する3よりも優しい。
ただ、計算量が多く複雑になる。
ミルマンの定理は、複数の枝が1つの共通接点に集まっている回路において、その接点の電位を各枝の起電力とアドミタンスの重み付き平均として求める定理である。ここでは中性点Nを共通接点とみなす。
各相の枝は「大地→(アドミタンス)→相線→(起電力 $E_i$)→N」という構成になっている。もしある枝1本だけが存在する(他の枝を外す)とすると、その枝には電流が流れようがなく、相線の対地電位は0になる。このとき $V_N=0-E_i=-E_i$ となるので、ミルマンの定理における各枝の実効起電力は $-E_a,-E_b,-E_c$ である。またA相のアドミタンスは対地静電容量Cと地絡抵抗Rの並列であるから $Y_a=j\omega C+1/R$、B・C相は $Y_b=Y_c=j\omega C$ となる。
中性点Nと大地の間に3本の枝(各枝は実効起電力 $-E_i$ とアドミタンス $Y_i$ の直列)が並列に接続されているとみなし、ミルマンの定理でNの電位を求める。
ミルマンの定理より
V_N=\frac{(-E_a)Y_a+(-E_b)Y_b+(-E_c)Y_c}{Y_a+Y_b+Y_c}
$E_b+E_c=-E_a$ を用いて分子を整理すると
(-E_a)\left(j\omega C+\frac1R\right)-j\omega C(E_b+E_c)=-E_a\left(j\omega C+\frac1R\right)+j\omega C\,E_a=-\frac{E_a}{R}
分母は $Y_a+Y_b+Y_c=3j\omega C+1/R$ であるから
V_N=\frac{-E_a/R}{3j\omega C+1/R}=\frac{-E_a}{1+j3\omega CR}
A相の対地電位は $V_A=V_N+E_a$ なので
V_A=E_a\left(1-\frac{1}{1+j3\omega CR}\right)=\frac{j3\omega CR\,E_a}{1+j3\omega CR}
地絡電流は $I_g=V_A/R$ より
I_g=\frac{j3\omega C\,E_a}{1+j3\omega CR}
となり、テブナンの定理による結果と完全に一致する。
3. 対称座標法による解法
このやり方の原理は、とてつもなく難しいが、計算自体はパターン化(座標変換、等価回路)されている。
対称座標法では、A相地絡点から見た正相・逆相・零相それぞれのテブナン等価インピーダンス $Z_1,Z_2,Z_0$ を求めたうえで、A相1線地絡(地絡インピーダンス $Z_f=R$)の標準公式
I_{a0}=I_{a1}=I_{a2}=\frac{E_a}{Z_0+Z_1+Z_2+3R}
I_g=I_a=I_{a0}+I_{a1}+I_{a2}=3I_{a0}
を適用する。ここで問題になるのは $Z_1,Z_2,Z_0$ の値である。
起電力源は理想電圧源(内部インピーダンス0)なので、これを除去(短絡)すると中性点Nと3相の端子A・B・Cはすべて1点に短絡される。この状態で各相端子に対称な電流を注入して応答を見る。
正相・逆相回路:正相(または逆相)の対称三相電流は、3相の合計が常に0になる($I_{a1}+I_{b1}+I_{c1}=0$)。3端子が短絡されて1点になっているため、この1点に流入する正味の電流は0であり、したがってこの点の電位も0のままである。ゆえに
Z_1=Z_2=0
零相回路:零相電流は3相とも同相・同大きさ($I_{a0}=I_{b0}=I_{c0}$)であるため、短絡された1点には合計 $3I_{a0}$ が流入する。この点から大地までは3個の対地静電容量Cが並列であるから、そのアドミタンスは $3j\omega C$ となり
V_0=\frac{3I_{a0}}{3j\omega C}=\frac{I_{a0}}{j\omega C}\ \Longrightarrow\ Z_0=\frac{V_0}{I_{a0}}=\frac{1}{j\omega C}
すなわち、対地静電容量は零相回路にのみ現れ、正相・逆相回路には現れない。これは非接地系統の零相電流(=地絡電流の主成分)が、対地静電容量を介してのみ大地との間を還流できるという物理的事実に対応している。また、線路インピーダンスについては、$Z_1,Z_2 << Z_0$と仮定し今回は無視するものとする。
正相回路($E_a$, $Z_1=0$)・逆相回路($Z_2=0$)・零相回路($Z_0=1/(j\omega C)$)を直列に接続し、地絡インピーダンスの3倍 $3R$ を挿入した等価回路。
以上を先の公式に代入すると
I_{a0}=\frac{E_a}{\dfrac{1}{j\omega C}+3R}=\frac{j\omega C\,E_a}{1+j3\omega CR}
I_g=3I_{a0}=\frac{j3\omega C\,E_a}{1+j3\omega CR}
となり、テブナンの定理・ミルマンの定理による結果と厳密に一致する。
3手法の比較と数値検証
3手法とも最終的に得られた地絡電流は
I_g=\frac{j3\omega C\,E_a}{1+j3\omega CR}
で共通しており、大きさと位相は
|I_g|=\frac{3\omega CE}{\sqrt{1+(3\omega CR)^2}},\qquad \angle I_g=90°-\tan^{-1}(3\omega CR)
と表せる($E=|E_a|$)。$R=0$(完全地絡)の極限では $I_g\to j3\omega CE$ となり、いわゆる非接地系統の地絡電流の基本公式 $3\omega CE$ に帰着する。Rが大きくなるほど $|I_g|$ は減少し、位相は $90°$ から遅れていく。
以下、具体的な数値を代入して3手法の答えが一致することを確認する。相電圧 $E=6600/\sqrt3\ \mathrm{V}$、周波数 $f=60\ \mathrm{Hz}$、対地静電容量 $C=0.5\ \mu\mathrm{F}$、地絡抵抗 $R=100\ \Omega$ とすると、$\omega=2\pi f\approx377\ \mathrm{rad/s}$ である。
import cmath, math
E = 6600/math.sqrt(3) # 相電圧[V]
f = 60
omega = 2*math.pi*f
C = 0.5e-6 # 対地静電容量[F]
R = 100 # 地絡抵抗[ohm]
a = cmath.exp(1j*2*math.pi/3)
Ea = E+0j
Eb = a**2*Ea
Ec = a*Ea
# テブナンの定理
Zth = 1/(1j*3*omega*C)
Ig_th = Ea/(Zth+R)
# ミルマンの定理
Ya = 1j*omega*C + 1/R
Yb = 1j*omega*C
Yc = 1j*omega*C
VN = (-Ea*Ya - Eb*Yb - Ec*Yc)/(Ya+Yb+Yc)
Ig_mm = (VN+Ea)/R
# 対称座標法
Z0 = 1/(1j*omega*C)
Ia0 = Ea/(Z0+3*R)
Ig_sym = 3*Ia0
for name, val in [("テブナン", Ig_th), ("ミルマン", Ig_mm), ("対称座標法", Ig_sym)]:
print(name, val, abs(val), math.degrees(cmath.phase(val)))
実行結果は3手法とも
I_g\approx 0.1215+j2.1479\ \mathrm{A},\qquad |I_g|\approx2.151\ \mathrm{A},\qquad \angle I_g\approx86.76°
で完全に一致した。また $R=0$ とした場合の充電電流 $3\omega CE\approx2.155\ \mathrm{A}$ とも近い値であり、Rによって電流の大きさがわずかに減少し位相が90°からわずかに遅れるという、先の一般式の性質とも整合している。
以上の考察をグラフに反映するプログラムを以下に作成した。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import japanize_matplotlib
import cmath, math
E = 6600/math.sqrt(3) # 相電圧[V]
f = 60
omega = 2*math.pi*f
C = 0.5e-6 # 対地静電容量[F]
# 地絡抵抗[ohm]
n=1000
R_ary=np.linspace(0.01,1000,n)
#R = 100 # 地絡抵抗[ohm]
a = cmath.exp(1j*2*math.pi/3)
Ea = E+0j
Eb = a**2*Ea
Ec = a*Ea
def cal_Ig(R):
# # テブナンの定理
# Zth = 1/(1j*3*omega*C)
# Ig_th = Ea/(Zth+R)
# ミルマンの定理
Ya = 1j*omega*C + 1/R
Yb = 1j*omega*C
Yc = 1j*omega*C
VN = (-Ea*Ya - Eb*Yb - Ec*Yc)/(Ya+Yb+Yc)
Ig_mm = (VN+Ea)/R
# # 対称座標法
# Z0 = 1/(1j*omega*C)
# Ia0 = Ea/(Z0+3*R)
# Ig_sym = 3*Ia0
return abs(Ig_mm),math.degrees(cmath.phase(Ig_mm))
Ig_mm_abs_ary=np.zeros(n)
Ig_mm_deg_ary=np.zeros(n)
for i in range(n):
Ig_mm_abs,Ig_mm_deg=cal_Ig(R_ary[i])
Ig_mm_abs_ary[i]=Ig_mm_abs
Ig_mm_deg_ary[i]=Ig_mm_deg
plt.plot(R_ary,Ig_mm_abs_ary)
plt.xlabel("抵抗R[Ω]")
plt.ylabel("地絡電流[A]")
plt.savefig("地絡電流大きさ.png")
plt.show()
plt.plot(R_ary,Ig_mm_deg_ary)
plt.xlabel("抵抗R[Ω]")
plt.ylabel("地絡電流位相角[度]")
plt.savefig("地絡電流位相角.png")
plt.show()
以下、結果である。地絡電流の大きさは、抵抗値が大きくなるにつれて、急激に低下していく。

一方で、位相角は、進み角がほぼ一定の割合で降下していった。
まとめ
Y結線・中性点非接地の三相電源において、A相が抵抗Rを介して1線地絡した場合の地絡電流を、テブナンの定理・ミルマンの定理・対称座標法という3通りの異なる立場から導出した。
- テブナンの定理では、地絡点から見た1端子対網を $E_{th}=E_a$、$Z_{th}=1/(j3\omega C)$ の等価回路に置き換えて解いた。
- ミルマンの定理では、中性点Nを共通接点とみなし、3本の枝の実効起電力とアドミタンスからNの電位を直接求めた。
- 対称座標法では、正相・逆相回路のインピーダンスが0、零相回路のインピーダンスが $1/(j\omega C)$ になるという、非接地系統特有の性質を示したうえで、標準的なA相地絡の公式に代入した。
いずれの方法も
I_g=\frac{j3\omega C\,E_a}{1+j3\omega CR}
という同一の結果を与え、数値例でもこれを確認できた。3手法が異なる切り口(等価電源、節点電位、対称分)から出発しながら同じ答えに収束することは、これらの定理が同じ線形回路の背後にある同一の物理を異なる言葉で記述しているにすぎないことを裏付けている。




