情報処理技術者試験には、ITサービスマネージャという試験区分があります。ITサービスを効率的、効果的にマネジメントし、最適な IT サービスを提供することにフォーカスした試験です。
マーク式の午前問題と長文読解の午後Ⅰ、小論文を書く午後Ⅱから構成されています。小論文ではテーマが定められており、そのテーマに対してあなたはITサービスマネージャとしてどのような取り組み、工夫をやってきたかを書く出題が定番パターンです。
小論文の問題文は、日々 IT サービスをよりよく運用するための考察する観点を与えてくれます。この記事では過去問題をピックアップし IT サービス提供にあたって管理すべき観点を整理しました。日々の運用において、観点リストとして改善につなげられるものを目指して書きました。
SRE や one on one ミーティングなどが話題となる今日ですが、重要なのは自分の組織に最もあった施作を取捨選択していくということ。IT サービスマネジメントからも参考になることがあれば、必要なものだけ自組織風にアレンジして取り入れていけばいいのです。日々、改善していきましょう!
前提知識
ITILv3
この記事では、ITILv3 に基づいて試験問題を分類しています。ITILv3 について知りたい! という方は Wiki をご参照ください。
また、ITIL を学ぶ書籍としては、個人的にはこちらの書籍がオススメです。
新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!
小説風に業務プロセス改善する様子を物語で読めるので、ITIL をどう取り入れていけば良いかのイメージが湧きやすいかと思います。
ITIL の専門用語
ITIL に関する文書を読む際は、専門用語を理解しておくことも肝要です。
顧客
サービスのオーナと捉えるとよいかと思います。エンドユーザではありません(エンドユーザは単に「ユーザ」)。ビジネス目標を達成する責任のある人で、ITサービスにお金を出資する人になります。
供給者
業務の委託先であったり(サービスデスクをアウトソースするなど)、データセンターやクラウドなどのサービスを提供する外部組織のこと。
チェックリスト
以下は ITILv3 に基づいて分類したチェックリストになります。
共通項目:ITサービスマネージャのあるべき姿、求められる力
分類する前に、共通項目を。
多くの試験問題で共通して求められている能力は、以下の能力です。
- 個別最適ではなく、全体最適の観点で考えられること
- 主体的に関係者と協議し、折衝する能力
- 不備や問題を分析し、対策を立案する能力
- 立案した施作を遂行する能力
- ルールを定め、遵守されているかどうかを管理する能力
- 組織への展開力
サービスストラテジ
財務管理
平成27年問1:ITサービスに係る費用の最適化を目的とした改善について
- 費用の発生源、発生状況を把握できているか?
- 費用を低減することは可能か?
- 不要な活動はないか?(費用対効果が低い、非効率な活動、形骸化し実は不要な活動、など)
- 改善できる活動はないか?(サービス・ツールを選定し直す、ライセンスの適正な購入、自動化の推進、要員配置の見直し、など)
- 改善にあたっては、優先度を定め実現可能性を考慮できているか?
- 必要な業務に適切な投資、リソースが割かれているか?
サービスデザイン
サービスレベル管理
平成25年問1:サービスレベルが未達となる兆候への対応について
- サービスレベル未達の兆候を捉える仕組みはあるか?(モニタリング、サービスデスクの問い合わせ分析、など)
キャパシティ管理
平成23年問2:キャパシティ管理について
- 適切にメトリクスを選定し、モニタリングできているか?(ユーザ目線、コスト目線)
- キャパシティは適量か?(多すぎず、少なすぎず)
サービス継続性管理
平成24年問2:ITサービスの継続性管理について
- 災害時など、不測の事態への対策を立案できているか?(部分稼働、目標復旧時点、目標復旧時間、など)
- 連絡体制、実施体制を定めているか?
- 練習やテストは十分か?(リハーサル、訓練・教育、海外リージョンへ切り替え、など)
供給者管理
平成27年問2:外部サービス利用における供給者管理について
- その供給者は、顧客からの要求要件を満たすことができるか?
- リスクへの対応はできているか(運営能力、セキュリティ、など)
- 供給者の評価は規格などを活用して網羅的、客観的に評価できているか?
平成25年問2:外部委託業務の品質の管理について
- 外部委託先と作業スコープ、品質目標の合意を取れているか?
- 外部委託先の提供するサービスの品質を適切に管理できているか?
サービストランジション
変更管理
平成21年問1:変更管理プロセスの確実な実施について
- 変更管理プロセスを定めているか?
- 変更管理プロセスがルール通り遵守されているかを管理できているか?
リリース管理
平成26年問1:ITサービスの移行について
- リリース内容の検証を十分にできているか?(組織内の合意、ユーザへの情報展開、作業手順、要員確保、キャパシティが十分か、切り戻し可能か、など)
- サービスを展開するにあたっての時間、環境、体制は十分に考慮できているか?
[memo]
『SRE サイトリラティビティエンジニアリング』の書籍を持っている人は、「付録E ローンチ調整チェックリスト」も参考になります。
平成22年問2:リリース管理におけるリリースの検証及び受入れについて
- リリースの検証、受入れの際に発生した問題に対し、関係者と協議の上、適切に対応できるか? また、発生した問題に対し、根本原因を特定し再発防止策を策定できているか?
構成管理
平成22年問1:ITサービスの構成品目に関する情報の管理について
- 構成品目の管理ルールは定められているか?
サービスオペレーション
平成26年問2:ITサービスの障害による業務への影響拡大の再発防止について
- インシデントの記録は蓄積され、発生原因、根本原因の分析をしたレポートを出しているか? また、インシデント対応のレポートが関係者に情報が行き渡り、参照可能になっているか?
- 再発防止策を策定できているか?
[memo]
『SRE サイトリラティビティエンジニアリング』の書籍を持っている人は、「付録D ポストモーテムの例」も参考になります。
平成24年問1:重大なインシデントに対するサービス回復時の対応について
- 重大インシデント発生時の指揮系統は定まっているか?
- 顧客、エンドユーザへの情報提供を適切に行えているか?
平成22年問3:インシデント発生時に想定される問題への対策について
- インシデントを想定し、先手を打って対応を取れているか?(復旧手順をトレーニングする、手順を整備、利用者へのアナウンス方法を準備しておく、など)
- 対応する項目の優先度は適切か?(SLAへのインパクト、費用対効果、など)
平成21年問3:事前予防的な問題管理について
- 過去に発生したインシデントを分析し、根本原因を特定し再発防止策を講じられているかどうか?
平成21年問2:ITサービスの改善計画の立案におけるサービスデスクの活用について
- 問い合わせを分析し、改善点を見出せているか?
継続的改善
平成28問1:ITサービスを提供する要員の育成について
- 要員とのサービス運営に関わるすり合わせができているかどうか?
- 高めるスキルの洗い出しと、優先度を定められているか?
- 教育体制、役割を明確にできているか?
- 経験を積む場を作れているか?
- フィードバック、レビューを行う場は作れているか?
- 要員をリスペクトし、日頃から心理的安全性を確保できているか?
- 社内のナレッジ、研修など活用できるものはないか?
平成29年問1:ITサービスの提供における顧客満足の向上を図る活動について
- 顧客とのコミュニケーション方法を定めているか(いつ、どこで、出席者、開催間隔)
- 定例会議での報告内容は十分か?(サービス目標の達成状況、課題管理、インシデント、変更、リリースなど)
- 定例会議は形骸的なものではなく、顧客の満足度、顧客の真の声を拾えるようになっているか?
- 顧客満足度を分析し、高めるための施作を立案、実施できているかどうか?
平成23年問1:ITサービスに関する顧客への報告について
- 顧客への報告は基礎的なことだけにとどまらず、顧客の視点に立って有益な情報を報告できているか?
- 顧客にとって理解しやすい方法で報告できているか?
平成24年問3:ユーザとの接点から気付きを改善につなげる活動について
- ユーザの声を集取する方法はあるか?(窓口、アンケート、など)
- ユーザの声を分析し、改善点を見出せているか?
- インパクト、緊急度、重要度を考慮して対策を実施できているか?
平成29年問2:継続的改善によるITサービスの品質向上について
- サービス品質の目標は定量的に定めているか?(稼働率、インシデント発生件数など)
- 目標として定めたメトリクスは採取できる状態になっているか?
- 目標を振り返り、改善施作を立案する場、時間を設けられているか?
平成23年問3:ITサービスの改善活動について
- 組織へナレッジを展開できているか?(インシデントの傾向、再発防止策、顧客満足度の高い取り組み、など)
平成28年問2:プロセスの不備への対応について
- プロセスの件数、不備を検出、分析する施作を回せているか?
- 不備に対して、再発予防策を講じられているか?
- プロセス単体ではなく、ITサービスの提供全体の視点から俯瞰した全体最適の観点で考えられているか?