Team Canvasを使ったチームビジョン再定義
はじめに
「このチーム、なんとなくバラバラな気がする……」
そう感じていたのは、自分だけではありませんでした。
スプリントは回っている。リリースも止まっていない。でも、チームの方向性や価値観についての共通認識が薄れてきている、そんな感覚が積み重なっていました。
今回は、スクラムマスターとして企画・ファシリテートした 「ありたい姿の再定義ワークショップ」 の目的・進め方・得られた気づきを、等身大でお伝えします。
なぜやったのか(背景と目的)
チームが抱えていた課題
ワークショップを開催するに至ったのには、いくつかの兆候がありました。
- 改善案がチームの内側に閉じがち。 ビジネスやユーザーに直結するような改善提案がなかなか出てこない。
- 優先度についての会話が少ない。 アサインされたPBIに個々がフォーカスするあまり、「チームとして何を優先すべきか」の議論が薄い。
- ありたい姿と現状の乖離。 以前に設定したチームのビジョンが、今の実態と合わなくなってきていた。
- 外部との調整やリリースが特定メンバー頼みになっている。 知識の属人化が進んでいた。
これらは表面的には別々の問題に見えますが、根っこは同じでした。チームが「何のために、どう動くか」の共通認識がズレてきていたのです。
ワークショップの目的
- チームメンバー全員の価値観・期待・強みを言語化・共有する
- チームとしての「ありたい姿」を再構築する
- 日々の行動と結びつく具体的なアクションに落とし込む
どんなワークショップだったのか(What / How)
使ったフレームワーク:Team Canvas
Team Canvas は、チームの状態を多角的に可視化するためのフレームワークです。個人の目標・役割・価値観・強み・弱みなどを構造的に対話することで、暗黙の前提や「言えていなかったこと」を表面化させる効果があります。
今回は以下の10セクションを使用しました。
| # | セクション | 問いの核心 |
|---|---|---|
| 0 | オープニング | 心理的安全性を作る |
| 1 | People & Roles | 役割認識のズレをなくす |
| 2 | Goals | チームの「向かう先」を揃える |
| 3 | Personal Goals | 個人とチームを接続する |
| 4 | Values | 判断軸を言語化する |
| 5 | Needs & Expectations | 無言の期待を見える化する |
| 6 | Strengths & Assets | チームの武器を認識する |
| 7 | Weaknesses & Development Areas | リスクと学習を前向きに扱う |
| 8 | Rules & Action Points | 話したことを行動にする |
| 9 | Purpose | 「なぜやっているか」に腹落ちする |
5W1H
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Who | スクラムマスター(ファシリテーター)+チームメンバー全員(8名) |
| What | Team Canvasを使ったチームビジョン再定義ワークショップ |
| When | 2025年12月25日実施 |
| Where | チーム定例の場(オンライン) |
| Why | ありたい姿と現状の乖離を解消し、チームの向かう先を再合意するため |
| How | 個人ワーク → 共有 → 対話 → アクション決定のサイクルで進行 |
ファシリテーションの工夫
- 7割は個人ワーク → 共有の流れにすることで、声が大きい人に引っ張られず、全員の考えを引き出す
- 「それは行動で言うと何?」という問いを繰り返し、抽象的な発言を具体化
- 全部決めようとしない。1〜2つのアクションに絞ることで実行可能性を高める
- ファシリテーター頼りにならないよう、メンバー自身が話し合いをドライブできる構成に
何が見えてきたのか(ワークの結果)
チームの強みとして再認識されたこと
対話の中で、このチームには確かな強みがあることが改めて確認されました。
- 技術の幅広さ。 ネイティブ(iOS/Android)・バックエンド・インフラ・UIと、チーム内でカバーできる技術領域が広い
- 心理的安全性の高さ。 「適当に発言しても誰かからアドバイスが来る」という安心感がある
- 安全性・安定性へのこだわり。 「ここ大丈夫ですか?」という指摘が自然に出てくる文化
課題として浮かび上がったこと
同時に、率直な課題も共有されました。
- 優先度の判断が甘い場面がある。 「アサインされたPBIを完了すること」が目的になり、優先度視点が薄れる
- ナレッジが属人化している。 特定の技術領域やリリース・外部調整が一部のメンバーに集中
- ビジネス・ユーザー目線の提案が少ない。 チーム内に閉じた改善が多く、POへの提案機会が少ない
- 意見を言いづらい場面がある。 発言することへの心理的ハードルを感じているメンバーも
個人と個人が「つながった」瞬間
このワークの最大の収穫の一つは、メンバー同士が互いの価値観を初めて言語化して共有できたことでした。
「リソース効率を高めたい」という意見と「個人の学習機会を確保したい」という意見が、実は対立するように見えてぶつかる場面も。しかしその対話こそが、チームとしての判断軸を作るプロセスでした。
合意したチームのありたい姿
ワークの末に、チームとして以下のありたい姿を言語化・合意しました。
私たちは、優先度と価値に向き合いながら、学習と改善を止めずにフローを高め続けるチームでありたい。
このありたい姿を支える「チームらしさ」
- 待ちや滞留が起きたPBIを見逃さず、事実から深掘りできている
- 個人で抱え込まず、ペアや対話を通じて知識と経験を循環させている
- 技術だけでなく、ユーザー・ビジネス視点でPBIを考える時間を確保している
- ふりかえりでは感想でなく、計測結果と実態の差から改善を決めている
- これまで作ったものを定期的に見直し、改善案をPOに提案できている
決めたアクション
ありたい姿から逆算して、以下の具体的なアクションを合意しました。
① 優先度に沿った行動の振り返りを習慣化する
振り返りで「優先度通りに動けていたか」を精査し、ポイント見積もりと実作業量の乖離を議論・改善する。
② ペアワークを積極的に取り入れる
ネイティブ・インフラを中心に、経験とナレッジ共有を目的としたペアワークを実施。
③ PBIの計測と深掘りを継続する
待ちがない状態で落としてしまったPBIの計測と、優先度に沿った行動ができていたかの確認を続ける。
④ 3ヶ月ごとの「これまでの見直し」を定例化する
過去に開発したものから改善できるものをチームで話し合い、あればPOに提案する。
やってみてわかったこと(SMとしての気づき)
「ありたい姿」は問い直してこそ意味がある
一度決めたビジョンを「そのまま使い続ける」のは危険です。チームの状況・メンバーの成長・プロダクトのフェーズが変われば、ありたい姿も更新される必要があります。定期的な問い直しそのものが、チームを健全に保つ営みです。
全員の発言を引き出す設計が鍵
ワークショップでは「発言することへの怯え」が課題として上がっていました。心理的安全性は「宣言すれば生まれる」ものではなく、構造として設計するものだと改めて感じました。個人ワーク先行・少人数共有・具体的な問い——こうした設計の積み重ねが、普段言えていないことを引き出します。
アクションはシンプルに絞る
盛り上がったワークショップほど、「あれもこれも」とアクションが増えがちです。しかし実行されなかったアクションはチームの信頼を損ないます。「今日決めたことは1〜2個」の原則を守ることが、長期的な変化につながります。
まとめ
Team Canvasを使ったチームビジョン再定義は、予想以上に「チームが自分たちを知り直す」体験になりました。
課題を洗い出すためではなく、「自分たちはどんなチームでありたいか」を自分たちの言葉で再構築するプロセスとして機能したとき、ワークショップは本当の価値を持ちます。
スクラムマスターとして、これからも定期的にこの問いをチームと向き合い続けたいと思います。
