ずっと語りたかった、令和6年度第1種放射線取扱主任者の実務の問1についての記事です。
第1種放射線取扱主任者の試験について
第1種放射線取扱主任者の筆記試験(選択式)は1年に1回、夏の暑い時期に、2日間にわたり行われます。科目は法令、実務、物理、化学、生物です。受験料は約2万円です。
詳しい情報は原子力安全技術センターのサイト
https://www.nustec.or.jp/syunin/syunin01.html
をご確認ください。受験者等の統計の資料
https://www.nustec.or.jp/syunin/pdf/R07_toukei.pdf
も見ておくと良いと思います。
令和6年度試験に関しては、令和5年度の2種の合格率が低かったことなどから、1種2種ともに易化することが予想されていました。
私のバックグラウンドについて
私は大学の物理学科を出ていたので、物理や実務の計算問題にあまり抵抗がありませんでした。大学受験では物化選択だったので、資格試験の勉強を始めたとき、生物だけ不安でした。しかし、生物は過去問で見たことのある問題が多く、暗記問題が多かったため、結局60問中53問正解(88%、自己採点)できました。法令、実務、物理、化学、生物の合計でも約8割(合格のボーダーは6割)得点できました。試験が終わったときに合格の自信があるというのは心の健康にとても良いので、これからも試験は十分に合格が見込めるところまで勉強をして挑もうと思いました。
これは予想ですが、物理を大学受験で選択していない人は、物理や実務の初見の計算問題を捨てることになってしまうと感じました。そうなると、それ以外のところでの失点をなるべく抑えなければいけないのですが、正直過去問をしっかりやっていたとしても正解である確信が持てない場合も結構多かったので、苦戦するかもしれない(運ゲーに近くなっちゃう)と思いました。
なぜ令和6年度第1種放射線取扱主任者の実務の問1について語りたいと思ったのか
放射線取扱主任者の「実務(=実務に関する課目)」は、放射線取扱主任者試験が制度化された当初からずっと試験科目として存在しており、途中で新設されたものではありません。ただし、内容が大きく改正されたタイミングは 2019年(令和元年)4月1日施行の法改正です。ここで試験科目の構成が見直され、現在の「実務に関する課目」の形になりました(Copilot調べ)。
というわけで、受験生も新しい形式の実務に関しては情報が少なかったのです。令和6年度第1種放射線取扱主任者の実務の問1は放射線計測における不確かさの問題で、試験開始直後、予想外の出題だったせいか、会場がどよめくのを感じました(私だけ?)。
問題と解答
問題はすでに公開されているので、こちらの記事で公開しても良いと判断し、写させていただきます。なお、選択肢をすべて載せると長くなるので省略します。
問1 放射線計測における不確かさに関する次のⅠ、Ⅱの文章の[ ]の部分について、解答群の選択肢のうち最も適切な答えを1つだけ選べ。ただし、半減期は計数時間に比べて十分長く、放射能の減衰は無視し得るものとする。
I
放射線壊変は確率的な事象であり、放射性核種(壊変定数$λ[$s$^{-1}]$)の個々の原子核が、観測時間$t[$s$]$の間に壊変する確率は[ A ]で表される。原子核数が$n$のとき、$t$の間の壊変数が$x$となる確率$P(x)$は、平均値を$pn$とする2項分布に従う。通常、nは非常に大きい値であるため、2項分布はポアソン分布で近似され、さらに$pn$が20ないし30以上のとき、ポアソン分布は、同じく$pn$ を平均値とする正規分布(ガウス分布とも呼ばれる)で近似される。$P(x)$は$pn$を平均値とする正規分布で近似され、次式で表される。
$$P(x)=[ B ]\qquad (1)$$
$P(x)$の標準偏差は[ C ]である。この式は、次式で定義される分散の平方根として与えられる。
$$分散=[ D ]\qquad (2)$$
放射線計測においては、計数値が正規分布に従う集団から抽出された値であると仮定し、その集団の標準偏差の予測値をもって計数値の不確かさ(標準不確かさと呼ばれる)とすることが慣例となっている。
Iの解説
確率的事象というのは、例えば、交差点での事故とか、光子の到来のような出来事が挙げられ、ほかにも日常生活にたくさん登場している。確率とは、ある現象の起こりやすさを数値で表したものであり、代表的な確率分布として、問題にも登場する正規分布がある。

ちょっと難しい式だけど、正規分布の確率密度関数は、
$$f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}\exp(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2})$$
になります。これを$-\infty$から$\infty$で積分すると1になります(確率なので)。ガウス積分の公式は一度見てみてください。ちなみに、確率密度関数と似た言葉に確率関数があり、連続型分布だと確率密度関数で、離散分布だと確率関数と呼ぶことがあるようですが、役割はほぼ同じだと思います。$x$はグラフの横軸(変数)なので、グラフにプロットするためには、平均$\mu$と分散$\sigma^2$がわかれば良いですね。正規分布はよく$N(\mu,\sigma^2)$で表します。Nはきっとnormal distributionのNですね。
ということで順番前後しますが、解答欄Bの答えは選択肢3の$\frac{1}{\sqrt{2\pi pn}}e^{-\frac{(x-pn)^2}{2pn}}$です。
解答欄Cの答えは、式の比較から$\sigma = \sqrt{pn}$であるため、標準偏差は選択肢1の$\sqrt{pn}$になります。
実は解答欄Aは暗記してしまっていれば簡単なのですが、理屈を理解して答えるというのは少々難しいです。ある時間内に起こる放射性壊変の回数はポアソン分布に従うものとして近似されるとします(ポアソン分布についてはYouTubeのよびのりさんの動画がわかりやすいです)。すると、壊変までの時間の分布は指数分布です。両者はポアソン過程でつながっています(ポアソン過程の話は難しいので今は解説しません)。$\lambda>0$に対し、確率密度関数
$$f(x)=\lambda e^{-\lambda x}, x>0$$
を持つ分布を指数分布といいます。累積分布関数は、
$$F(x)=\int_{-\infty}^xf(t)dt=1-e^{-\lambda x}, x>0$$と明示的に書けます。ここで累積分布関数という言葉が登場しましたが、これは式や累積分布関数という名前を見ていただくとわかるのですが、確率変数がある値以下となる確率を表す関数です。よって解答欄Aの答えは選択肢2の$1-e^{-\lambda t}$です。
最後に、解答欄Dですが、これは離散分布の場合にXの分散が
$$\sigma ^2=V[X]=E[(X-\mu)^2]=\Sigma_x(x-\mu)^2p(x)$$
であることを知っていれば、選択肢4の$\Sigma_{x=0}^{n}(x-pn)^2P(x)$を選べると思います。
II
測定量$y$が、$N$個に入力量の関数$f(z_1,z_2,...,z_N)$で表されるとき、測定量$y$の標準不確かさ(合成標準不確かさと呼ばれる)$u(y)$は、入力量$z_i$の標準不確かさを$u(z_i)$とすると、次の式で計算される。ただし、入力量は互いに独立と仮定する。
$$u(y)^2=\Sigma^{N}_{j=1}[c_iu(z_i)]^2\qquad (3)$$
係数$c_i$は感度係数と呼ばれる。入力量$z_i$が変化したとき、測定量$y$がどれだけ変化するかを表す値である。数学的には、点($Z_1,Z_2,...,Z_N$)における$f(Z_1,Z_2,...,Z_N)$の、$z_i$についての[ E ]で与えられる。(3)式は不確かさの伝播則と呼ばれる。
具体例を示す。ある試料を計数効率(計数率/壊変率)$0.100\pm0.003$の放射線測定器で計測し、正味の計数率$100\pm2$s$^{-1}$が得られたとする。正味の計数率を入力量$z_1$、計数効率を入力量$z_2$とすると、試料の放射能$y$は次式で求められる。
$$y = \frac{z_1}{z_2}\qquad (4)$$
上式より、試料の放射能1000s$^{-1}$(Bq)が得られる。次に、放射能の合成標準不確かさ$u(y)$を計算する。(3)式は以下の(5)から(7)式のように書き表される。
$$u(y)^2 = \left(\frac{\partial y}{\partial z_1}\right)^2 u(z_1)^2+
\left(\frac{\partial y}{\partial z_2}\right)^2 u(z_2)^2 \qquad (5)$$
$$\left|\frac{\partial y}{\partial z_1}\right|=\frac{1}{z_2} \qquad (6)$$
$$\left|\frac{\partial y}{\partial z_2}\right|=[\mathrm{F}] \qquad (7)$$
$z_1=100$s$^{-1}$、$z_2=0.100$における感度係数の絶対値は、$z_1$について[ ア ]、$z_2$について10000 s$^{-1}$となる。$u(z_1)=2$s$^{-1}$、$u(z_2)=0.003$より、放射能の合成標準不確かさ[ イ ]s$^{-1}$(Bq)が得られる。これは比較的単純な例であるが、(3)式に立ち帰ることにより不確かさを正しく評価することができる。
最終的な不確かさとして、単に合成標準不確かさが報告されることが多い。一方で、標準線源の校正証明書に見られるように、合成標準不確かさ$u$を定数倍した不確かさ(拡張不確かさと呼ばれる)$U=ku$が用いられる場合もある。定数$k$は[ G ]係数と呼ばれる。真の値が校正値$\pm U$に入る確率をおおよそ95%とする場合、$k$として[ ウ ]が選ばれる。
Ⅱの解説
不確かさの伝播(でんぱ)則として(3)式が示されていますが、少し難しいと感じた人はこちらの式を見てください。
2種類以上の独立な量$X,Y,Z...$の関数(多変数関数)$F(X,Y,Z,...)$があるとします。多変数関数$F(X,Y,Z,...)$の不確かさは
$$\sigma _{\bar{F}}=\sqrt{
\left(\frac{\partial F}{\partial \bar{X}}\right)^2 {\sigma _\bar{X}}^2+
\left(\frac{\partial F}{\partial \bar{Y}}\right)^2 {\sigma _\bar{Y}}^2+
\left(\frac{\partial F}{\partial \bar{Z}}\right)^2 {\sigma _\bar{Z}}^2+...}$$
これは不確かさの伝播の一般式で、求められた値を合成標準不確かさといいます。ベクトル(1,2)の大きさを求めるときに$\sqrt{1^2+2^2}$みたいにするイメージで、
$\delta F =
\left(\frac{\partial F}{\partial \bar{X}}\right) _{X=\bar{X}}\delta X
+\left(\frac{\partial F}{\partial \bar{Y}}\right) _{Y=\bar{Y}}\delta Y
+\left(\frac{\partial F}{\partial \bar{Z}}\right) _{Z=\bar{Z}}\delta Z
+...$の各項をベクトルの成分のように考えれば良いです。ここで、偏微分の計算というのは、$\left(\frac{\partial z}{\partial x}\right)$は$x$以外の変数を定数とみなして$z$を$x$で微分すれば良いです。定数なので微分の記号の前に(外に)出してしまえば良いです(慣れないうちは丁寧に式変形したり、例題を解いたりしましょう)。
よって解答欄Eは選択肢1の偏微分係数です。続いて、解答欄Fについては、$y=\frac{z_1}{z_2}$なので、$\frac{\partial y}{\partial z_2}
=z_1\frac{\partial}{\partial z_2}\left(\frac{1}{z_2} \right)
=-\frac{z_1}{z_2^2}$なので絶対値を取って選択肢7の$\frac{z_1}{z_2^2}$です。解答欄アは、$\frac{1}{z_2}=1/0.1=10$なので選択肢7の10になります。
$$ u(y)^2=10^2\times2^2+10000^2\times0.003^2 =10^2 \times 13$$
$$ u(y)=36$$
よって解答欄イは選択肢10の36です。ちなみに不確かさは有効数字でいうと1桁か2桁くらいしか意味を持たないという認識で良いと思います。また、最終結果の不確かさは使った測定値の不確かさのうち、大きな不確かさを与える測定により決まります(支配的)。今回は$z_1$も$z_2$も同じくらいの影響を与えていましたが、桁が違うときには小さい項を無視してしまうのもありです。実験では、最終結果の不確かさを改善するために、どの測定量の不確かさを減らせばよいか考えるために寄与率を見ることが多いです。
問題の解法を丸暗記するという小手先のテクニックを身につけるんじゃなくて、解析学や統計学での知識をもとにどんな出題のされ方でも答えられるようにしましょうとまとめたかったのですが、最後の解答欄Gとウですが、これは包含係数$k=2$:信頼水準約95%と暗記していたら簡単なので、ここは暗記で良い気がします。
以上です。長すぎる、間違っているなどの意見があったらコメントで教えてください。