#■これまでのお話
この物語は、シリーズとなっています。前作については昨年のAdventCalendarの投稿をお読みください。
今回は、RINAのところにコンサルタントがやってきたという話です。
果たして、RINAはコンサルタントに勝利?できるのでしょうか。
登場人物紹介 |
---|
**RINA:**主人公。前職はプログラマー |
**冬川:**突然やってきたコンサルタント |
**あさこ:**ショートヘアで意思の強い獅子座の女。あだち部長の右腕 |
**あだち部長:**評価部の部長。QCD必達の「伝説の開発者」だった過去を持つ |
**大楠社長:**クラウディック社の社長。博多の南場智子と呼ばれている |
**YUMO:**評価部のテクニカルリーダー |
**咳:**開発部のテクニカルリーダー、スキルはguruレベル(今回はほとんど登場しない) |
それではさっそく、福岡県の天神にあるRINAのオフィスに向かい、RINAの様子をのぞいてみましょう。
#■シーン1. (コンサルがやってきた)09:10
RINAが勤務しているクラウディック社は上手にクラウドを使うことで、設備投資を最小限に抑えて高収益を上げている中堅のSIerである。社長の大楠は、カーネギーメロン大学(= CMU)に在学中(正確に言えばポスドク中)に3つの企業システムを立ち上げた才女であるが、ピッツバーグの冬の寒さが耐え切れず、日本に戻ってきた。
CMUでの経験を活かし、生まれ育った天神でクラウディック社を起業したのだ。
それが、10年前のことである。今では、50名を超える従業員を抱え、賃貸とはいえ7階と8階の2フロアを占拠している。
RINAはそんな大楠を密かに尊敬している。
大楠「はい。ちゅうもーく!」
『社長と社員の距離が近いこともこの会社の魅力のひとつなんだよなぁ』とRINAは思う。
『“プラダを着た悪魔”に出てくるアンドレアのように、大企業の巨大プロジェクトで“私の仕事に、プランBはないの”って言ってみたいと思うこともあるけど。
でも、こうして、社長自らの言葉で何かが変わっていく瞬間が好きだし、自分の仕事について、社長から「あの件だけど、どうなってる?」って声を掛けられるのも好き……』・・・なぜ、会社が大きくなると、この感覚が薄められるのだろう? とも思うがそれについて、RINAは、まだよくわからない。
一年前は、TVCMがバンバン流れ、誰もが知っているあこがれの大企業に籍を置き、在宅勤務をしていたRINAであったが、クラウディック社に戻ってきていた。
『“出戻り”っていじめられるかな?』と心配していたRINAであったが、再入社日に、大楠社長、あだち部長、先輩のあさことYUMOがホテルオークラ福岡の山里で“おかえりなさい会”をしてくれて、涙があふれそうになった。
なんといっても、揚げたての天ぷらが最高すぎた。『いい記憶は何度も思い出さなくっちゃ』とRINAは思う。
さて、回想から現実に戻ると、大楠の隣にさえない風体の男が立っていた。
大楠「こちら、冬川さんといって、私が留学中に同じCMUのテッパー経営大学に留学されていた方です。その後、テッパーで講師を務めていたのですが、先月日本に戻り、コンサルタントを始めたと聞き、しばらくうちの会社をみてもらうことにしました。会社を良くするためです。冬川さんに聞かれたことには協力してあげてくださいね。それでは、ひとことご挨拶をいただけますか」
冬川「ただいま、ご紹介にあずかりました冬川和也と申します。生まれは神奈川県です。2000年に大学を卒業するときに、就職氷河期と重なり、どこからも内定をいただけなかったので、ピッツバーグに留学に行ってしまいました」
『そうか、それでは今は42歳くらいか』とRINAは思った。『大楠社長は45歳だから、ピッツバーグでは頼りにしあっていたのかな』と想像してみた。『異国の地で若い男女が助け合う。……といえば、うーん。“ボーイフレンド”か。社長はソン・ヘギョか』、、、どんどん妄想が膨らんでいく。
冬川「みなさん、ちょっとこちらをみてください」
冬川はホワイトボードに大きな三角形を描き、それを3段に区切った。
そして、下から、having、doing、beingと書いた。
こんな図である。
冬川「いいですか。havingは“持っているもの”。doingは“実施していること”。beingは“こうありたいという状態”のことです」
冬川「持っているものにはパソコンやアプリケーションなどもありますが、身につけたスキルも持っているものです」
冬川「どうして持っているかというと、何かをしたいと思ったからですよね。よく、“本を買うんだけど、読む時間が無くて積読なんだ”という人がいますが、いまや、“Tsundoku”は、オックスフォード辞典に載っているほどイギリスでは広まっています。世界共通の悩みなんですね」
冬川「本を買った時には、doingしたいことか、beingなりたい姿があったに違いありません。私は、みなさんがhavingしてる専門スキルは持っていません。でも、みなさんがお持ちの知識を仕事にdoingして、beingなりたい姿に近づけるお手伝いをしたいです」
RINAは、冬川が、いやらしいくらい英語っぽい発音で、hǽviŋ、dúːiŋ、bíːiŋというたびに、『なんだよー、この人は~。ルーかよ』と思った。
でも、『beingか。独眼竜政宗で「梵天丸もかくありたい」って言って大成していたし。案外、そういうのが大切なんだよ』と思った。
#■シーン2. (コンサルの宿題)14:00
ピコン!とRINAのメールボックスがメールの到着を知らせた。
メールの通知は切っている人が多いけれど、RINAは昔ながらのbiff機能が好きだ。
Slackなどのメッセージングツールも気楽で良いが、『メールはメールで風情があってよき』とRINAは思っている。
RINA「どれどれ、誰からかな?」
とメールボックスを開くと冬川から技術者全員にあてたアンケート調査依頼だった。
メールにあるURLを開くと、SharePointのアンケートシートが開いた。
RINA「社員番号を入れるのか。“本アンケートは、個人を特定し業績評価に反映するためではありません”か。、、、反映されてたまるか。業績評価は仕事の結果でするものだよ」
どうも在宅勤務以降、画面に向かってブツブツ言う癖がついてしまったようだ。
アンケートはこんな感じでどれか一つを選ぶタイプだった。
質問 | 回答 |
---|---|
仕様書から直接プログラミングしていますか? | 〇いつも 〇直接ではない |
レビューしていますか? | 〇いつも 〇時間があれば 〇していない |
TDDしていますか? | 〇いつも 〇時間があれば 〇していない |
どんな会議ですか? | 〇進捗確認が中心 〇直近の実施事項を決める |
属人化についてどう思いますか? | 〇しかたない 〇怖い 〇属人化って何? |
項目数は20しかないので10分くらいで終わった。
『こんなのRINAに聞いてくれたらいいのに? 何が分かるんだろう? ま、20問ならいいか』とRINAは思った。
#■シーン3. (ご協力くださいね)10:00
アンケートを取った翌週のこと。仕事をしていると、大きな声が聞こえてきた。
冬川「みなさん、すみません。ちょっと手を止めて集まってください。10分くらいで済む話です」
クラウディック社の仕事のほとんどは、自席のパソコンで済む。
なんならリモートで自宅からでも仕事ができるのだが、新型コロナも一息ついて、会社に来る人の方が多い。同じ場所にいれば、すぐに話ができるからだ。
冬川「先日はアンケートへ協力いただき、ありがとうございました。おかげさまでみなさんの今の仕事の様子を数値で捉えることが出来ました。それによると、要求獲得とテストの方法について自信が無いとわかりました。今後、改善策を作るため、個別に質問に参りますのでその際はご協力よろしくお願いします」
『アンケートだけで対策案を作るのは無理なんだな』、そりゃそうだよなとRINAは思った。
#■シーン4. (ランチミーティング)12:30
冬川を囲んでランチミーティングをしようと言い出したのは、あだち部長である。
新型コロナウイルスの感染拡大ですっかり客足が減ってしまった一流店が仕出し弁当をデリバリーしてくれるようになって久しい。
今日は、魚天みやざきの「銀鮭の西京焼と若鶏の照焼」弁当である。1段目に山菜とじゃこのご飯、2段目に銀鮭の西京焼きと若鶏の照焼きが詰まった豪華なお弁当で、RINAも大好きである。
とても人気があるのでデリバリーとはいえ、かなり先まで予約が埋まっている。今日は、あだち部長の裏コネクションを使って、何とか4食分手に入れたのである。
クラウディック社の応接室には、冬川、あだち部長、あさこ、そしてRINAの4人がいた。お弁当による人数制限で参加できなかったYUMO先輩は「なんだよ~」って言ってたっけとRINAは思った。
RINA「わぁ。おいしそう♡ あ、栗の甘露煮も入っている」
冬川「RINAさんは、栗が好きですか? おいしいですよね。でもピッツバーグでは道に栗の毬(イガ)が落ちていても食べ方を知らないので誰も拾わないんですよ」
RINA「そうなんですか。それはもったいない。私は今、渋皮煮にハマっていて、毎日、栗剥きしています」
冬川「どうやって剥いています? 大変じゃないですか?」
RINA「VICTORINOXのナイフを使っています。先端が丸くて、でもとても切れ味がいいんですよ」
冬川「それは、いいね。VICTORINOXといえば、スイスのアーミーナイフ。僕も、何個か持っています。スイスの怪しい店で買うと、税関を抜けるためのスーツケースへの隠し方を教えてくれるんですよ。RINAさんの栗剥きナイフも見てみたいな」
RINA「いいですよ。こんど持ってきますね」
あだち部長「そういえば、英語で栗のことを“マロン”と言っても通じないんですってね」
冬川「そうですねぇ。ナッツの一種なので、英語では“チェスナット(chestnut)”と言います」
あさこ「それじゃあ、マロンは?」
冬川「食用のザリガニのことを、maroon、mərúːn、というので、そっちを思い浮かべるかなあ」
あさこ「どうしてこんなことに!」
あだち部長「もともと、フランスにマロングラッセというお菓子があって、それは、マロニエ(marronier:トチノキ科の木)になる、マロン(marron)という実から作るんだけど、それを食べた日本人が、これは美味しいというので、日本でも作ろうとしました。でも、そのころの日本にはマロニエの実はなくて、栗を代用したそうなんです。そのお菓子をマロングラッセって呼んでいたら、栗のことをマロンというと誤解しちゃったんですって」
冬川・RINA・あさこ「へぇ~、へぇ~、へぇ~」
冬川「そういえば、栗って、一晩冷凍してから熱いお湯に入れて、温まったところで剥くと手でも楽に剥けるらしいですよ。詳しくは、ここに書いてあったので読んでね」
RINA「栗のシーズン前に教えてよー」(笑)
#■シーン5. (ヒアリング)10:45
冬川のヒアリングは、技術者全員(といっても、そもそも技術者は30名であったが)に対して行われた。今日はRINAの番である。RINAはすでにヒアリングが終わった同僚に「何を聞かれた?」と聞いて回ったが、「うーん。技術的なことでなく、雑談だったよ」と要領を得ない答えしか得られなかった。
RINAは、『ヒアリングなんかより、バシッと新しいテストの方法を教えてくれないかなあ。ヒアリングにうまく答えられなくて、変な宿題をもらいたくないなあ』と思った。
そこで、以前にYUMO先輩と実施したTPI NEXTのセルフアセスメント結果を持参することにした。それは、TMapの公式サイトからダウンロードした日本語版のアセスメントシートによるものであった。RINA達は、このセルフアセスメント結果をもとにして改善活動も実施している。
セルフアセスメントの方法は、ダウンロードしたアセスメントシートのC列にに、こんなふうに、Y、N、NAをプルダウンメニューから選択するだけであるが、何を聞かれているか分からない質問も多かった。『そのたびにYUMO先輩に質問してたっけ』と思い出していた。
入力が終わると別のシートに結果が表示されるのだけれど、どうしたら良いかについては、TPI NEXT本をみんなで読みながら話し合った。
本を読んではじめて質問の意味が分かったり、用語の理解がクリアになることが多かった。
現場のノウハウが満載の本だったので記載されている内容をネタにディスカッションになることが多く、みんなで読み終えるのに半年かかった。
でも、「やってよかったねー」というのがみんなの感想であり、決めたことは行動に結びついているので『良い活動だったなあ』、『コンサルなんていらんよ』とRINAは思っていた。
会議室に入ると、冬川がにこやかに迎えてくれた。
冬川「RINAさん、そちらにお座りください。あと、テーブルの上のお菓子と紅茶をどうぞ」
6人がけの木で出来た丸テーブルには、お皿の上にクッキーが3つと、その隣に紅茶のポットがあった。
RINA「それでは遠慮なくいただきます」
紅茶をカップに注ぐとローズヒップの良い香りがした。
冬川「紅茶がお好きと聞き、家からバシラーティーを持ってきました。セイロンティーは飲まれますか?」
RINAはルピシアのアールグレイやフォートナムアンドメイソンのフレーバーティーがお気に入りだが、バシラーティーも渋みがなくいいなと思った。🤗
RINA「甘くて美味しいです」
『ああ。緊張するなア、何か会話しなければ』とRINAは思った。
RINA「そうだ。冬川さんって、アメリカの大学で何を教えていたのですか?」
冬川「フィロソフィー、哲学を教えていました」
『しまった! 哲学なんて話が続かないよぉ。こんなときどうしたら?』とRINAは焦った。
『そうだ。中田敦彦のYouTube大学で、一流の雑談力を観たじゃないか。そしてそのあと、『雑談の一流、二流、三流』という本を買って読んだじゃないか』とRINAは思い出した。
『本には、自分が知らない話題となったときに、どうしたらよいかについても書いてあった。うん。それは覚えているけど、、、内容は、、、忘れた。てへ』……そんなもんである。
ところで、RINAは本を読むときに、書いてある各ノウハウを全部忘れても、これだけ覚えていればなんとかなるポイントを頭に残すように努力している。
『そうそう、“一流の雑談は、話の内容よりも、対話している時間と空間が相手にとって快適となるようにする”に集約されるって思ったんじゃない』、RINAは、ようやく、雑談の真髄を思い出し会話を続けた。
RINA「哲学ですか。私は哲学のことほとんど知らないのですが、どんなことを教えていたのですか? 色々教えてほしいです」
冬川「喜んで! ところで、RINAさんは、哲学について何か知っていますか?」
RINA「カントって人の名前が浮かびました!」
冬川「すばらしい! カントは『純粋理性批判』を書いて、西洋哲学を進めた大哲学者です」
RINA「私が知っているくらいですから、やはり大哲学者なんですね。冬川さんは、カントの哲学を教えていらしたのですか?」
冬川「いいえ。私は廣松渉という日本の哲学者について教えていました。廣松氏は福岡県出身なのでご存知かもしれませんね。
私が彼を研究テーマとして選んだのは、彼の思想が好きだったのはもちろんなのですが、彼が書いた書物を日本語で理解できる強みがあったからです」
RINA「その思想は、どのようなものですか?」
冬川「うーん。どう説明したら」、、、冬川は眉間に皺を寄せて考え込んでしまった。
RINA「きっと難しいんですよね。また今度にしましょう」、、、RINAは、この話題が終わりそうで、少しほっとした。
冬川「いや、興味を持った時に少しでもインプットしたほうが良いです。そうだ。RINAさんは、
“If a tree falls in a forest and no one is around to hear it, Does it make a sound?” By John Warren |
---|
って聞いたことありませんか?」
冬川はホワイトボードにさらさらと英文を書いた。
RINA「“もし、森で木が倒れ、そして、周りに聞くものが誰もいなかったら、音はしたのか” でしょうか?」
冬川「完璧です。RINAさんは翻訳が上手ですね」
英会話レッスンを受けているRINAではあるが、まだ、得意といえるほどではないと思っている。でも、『このくらいの英語のリーディングなら。知らない単語は一つもないし』と思った。
冬川「RINAさんは誰もいない森で木が倒れたときに音はすると思いますか?」
RINA「当たり前です。木が倒れたら大きな音がするに決まっているじゃないですか」
冬川「そうですね。でも、哲学者はそう考えなかったんですよ。別の事象で同じことを考えてみましょう。もし、RINAさんがテストしているソフトウェアにユーザーが知らない機能があったら、その機能は存在すると言ってもよいのでしょうか?」
RINA「そ、それは……」
冬川「RINAさんは車を運転すると聞きましたが、自分の車の全ての機能を知っていますか?」
RINA「全く触ったことが無いスイッチがあります」
冬川「そのスイッチで動く機能は存在していると言えるでしょうか?」
RINA「うーん、そういう意味なら、知らない機能は無いのと同じかもしれません」🧐
冬川「一時期、このような議論が流行りました。そして、哲学の世界では、『認識するから存在する』という考え方が主流になりました」
RINA「『認識するから存在する』ですか。確かに、『幸せと認識するからそこに幸せが生まれる』ような気もします」
冬川「そうなんです。ところが、廣松渉は、『本当にそうかな?』と思い、マルクスの哲学を基盤として自らの哲学を構築しました」
RINA「ううう。頭が爆発しそうです」
冬川「ごめんごめん。もっと簡単にいいますね。私はここにクッキーがあると認識しています」
RINA「はい。“認識したからクッキーが存在する”という考え方ですよね」
冬川「そう。ところで、私が死んだらこのクッキーは消えてなくなりますか?」
RINA「なくなりませんよー。おじいちゃんが死んでも何もなくなりませんでしたし」
冬川「そうですよね。私とRINAさんが認識したから存在しているはずのクッキーが認識している人が消えても存在しているということは」
RINA「『認識するから存在する』は間違った主張かもしれない!」
冬川「そう。そんなことを廣松も考え、私はそういったことを大学で教えていました。では、そろそろ本題に入りますが、その存在が消えないうちに、クッキーを食べながら気楽にお答えください」
RINA「はい。クッキーが消えたら悲しいです」😢
RINA「それから、あのー、これ、私たちが以前に実施したテストプロセスのセルフアセスメント結果なのですが……」
RINAはおずおずと、TPI NEXTのセルフアセスメント結果を差し出した。
冬川「ありがとうございます。後で拝見しますね」
RINAは『今見て欲しかったのにな』と、ちょっと不満に思った。
その後のヒアリングも本当に雑談が1時間続いただけの気がした。席に戻ったRINAは何を聞かれて何を答えたのか思い出せなかった。
#■シーン6. (職質)8:45
朝、いつものように、クラウディック社に着くとビルの前にパトカーが3台並び、立ち入り禁止の黄色い規制テープがいく重にも張られていた。
RINA『何だろう? あ、道路の端に黒い血のようなものが、、、でもうちの会社とは関係ないよね。出社しなくちゃ』
警官「すみません。ちょっと荷物を拝見してもよいですか?」
ビルの入り口で職質を受けた。
RINA「どうぞ。どうぞ。こちらです」
ポーターのトートバックの口を開いてみせる。✨キラリ!
警官「こちらのナイフは?」
RINA「いや、栗剥き用で」🙄
警官「栗を剥くお仕事で? ・・・違う、、、それではなぜお持ちです? 銃刀法で“刃体の長さが6㎝を超える刃物を携帯してはならない”と決まっているのはご存知ですよね?」
RINA「えっ、えっ、だって先端丸いですよ」
警官「はさみでしたら、先端の形状も考慮されますが、こちらはナイフですので十分殺傷能力があると思いますよ」
RINA「えっ、えっ、えっ、、、」🥺
あだち部長「どうかしましたか~」
偶然、コンビニに行こうとしていたあだち部長がRINAのピンチに気が付いて声をかけてきた。
RINA「部長! 助けてください。冬川さんに見せてあげようと持ってきた栗剥きナイフで大変なことになっているんです」
警官「冬川だと、ますます怪しい」
RINA「怪しいですって??」
あだち部長「実は、昨晩遅くこの場所で冬川さんが銃撃されて、救急車で病院に搬送されたそうなんですよ。私は昨夜は9時ころに帰ったのでその場には居合わせていないんですが」
RINA「そんな」
警官はRINAとあだち部長のやり取りを聞いていた。あだち部長は落ち着いた声であり、とても悪いことができそうな感じの人ではないし、RINAはみるみるうちに青ざめていてこちらも事件とは関係なさそうだと思った。
あだち部長「ということで、この人は、うちの社員で怪しいものではありません。事件に関係ないことは私が保証します」
あだち部長は名刺を差し出し、頭を下げた。
警官「銃刀法違反は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金ですからね。それに、もしも意図的に隠して携帯していたら拘留ですから」
あだち部長「大変申し訳ありませんでした。あとできつく叱っておきます」
『ほら君も謝って』とあだち部長は肘でこづいた。
RINA「申し訳ありません」
警官「しかたないなあ」
……事件性はなさそうということで、RINAはようやく解放してもらえた。
『部長にひとつ借りを作ってしまった』とRINAは小さなため息を一つついた。
ひとに何かしてあげることによろこびを見いだすタイプのRINAであるが、ひとから何かをしてもらう(とくに借りを作る)ことは苦手である。
朝から災難なRINAであった。
#■シーン7. (知らせ)16:00
病院から会社に連絡が届いたのは、午後4時になってからだった。
あだち部長「みなさん、ちょっと集まって聞いてください。昨晩、コンサルの冬川さんがこのビルの1階で撃たれたことは知っていると思いますが、たった今、病院から“手を尽くしたのですが、お亡くなりになりました”と連絡がありました。撃たれてから救急車が来るまでの間の大量出血が原因だそうです。
みなさんのショックも大きいでしょうし、犯人がまだ捕まっていませんので、明るいうちに退社してほしいので、今日の仕事はここまでとしてください。そして1週間はこのオフィスを閉じて自宅勤務とします。その先のことは追って連絡します」
正直、ランチミーティングのときの会話とヒアリングしか直接の接点は無かったが、それでも知り合いが殺害されるのは初めての経験で震えが止まらないRINAであった。
あさこ「RINA、顔が真っ青だよ。大丈夫? 今日は一緒に帰ろっ」
#■シーン8. (タッチ)13:20
冬川が亡くなって5日が過ぎた。ニュースによると、犯人は捕まったらしい。なんでも、冬川はどこぞの組の若頭と瓜二つだったそうで間違えられたとのこと。
コロナ禍もあり、冬川の葬儀は親族のみでひっそりとすませたそうである。
『人違いで殺されたなんて冬川さん可哀想』とRINAは思った。
そう言えば、クラウディック社の1階には鍼灸院が入っていて、退社時に、たまに目つきが悪い人が出入りしているなぁとは思っていた。でも、ここは天神のオフィス街の一角だし、普通に生活しているものには一生関係のない世界の話だと思っていた。それなのに、それなのに。
RINAは自宅でパソコンを開きTeamsを起動した。昨日、あだち部長から「13:30からオンラインミーティングで話したいことがある」とメールが届いていたからだ。
Teamsの予定表を開き「ここをクリック」というリンクをクリックしたらすでにあだち部長はリモート会議に入っていた。
RINA「お疲れさまです。私の声届いていますか?」
あだち部長「はい。よく聞こえるよ」
大きくうなずく、あだち部長だった。
『そういえば、オンラインミーティングでは参加者がうなづくと会議が上手く行くってガッテンで言ってたな』とRINAは思った。
RINA「ちょっと早いですが、会議始めていいですか。お話しされたいことって何でしょうか?」
あだち部長「実は、RINAさんに、冬川さんの仕事を引き継いでもらえないかと思って」
RINA「え? コンサルティングなんて私にはできませんが」
あだち部長「実は、冬川さんから、先日のアンケート結果と、その後のヒアリング結果をまとめたものと、それを元にした提案を受け取っているので、その提案をRINAさんに推進してもらえないかと思っているんだけど、どうかな? 設計改善については、開発部の咳さんの協力がもらえることになっているから」
RINA「その程度ならいいですけど。これで、このあいだの借りはチャラですよ」🙄
あだち部長「え? よく聴こえなかったけど、なに?」
RINA「なんでもありませーん」😃
……つづく。
お読みくださってありがとうございます。
長文になってしまったので、今年はここまでとします。
冬川の分析と提案書の中身はどのようなものだったのでしょう?
冬川の提案書をもとにRINAが組織改革する話は次回とします。
それから、冬川が殺されたのは本当に人違いだったのでしょうか?
えっと、、、次回って、一年後?