🧩 この記事でわかること
- LLMは モデル単体ではなく“巨大な依存関係の塊” で動いている
- そのどれか一つが侵害されると システム全体が攻撃にさらされる
- モデル改ざん、偽ライブラリ、悪意プラグイン、外部API悪用…実際に起きている
- SBOMやモデル選定、検証・監査の導入が 2025年の必須スキル
1. LLMのサプライチェーンとは?
従来のソフトウェアと違い、LLMは次のような“多層構造の依存物”で成り立っています。
◆ LLMエコシステムの構成要素(ざっくり)
- モデル本体(Foundation Model / Fine-tuned Model)
- 学習データ & 評価データ
- SDK・ライブラリ(Python / JS / CLI など)
- プラグイン・ツール・外部API
- RAGに使うナレッジベース
- クラウドインフラ・推論基盤
これらは互いに連動しており、どれかひとつが侵害されると、 最終的に“AIが誤答する/攻撃者が操作できる”状態に直結 します。
SplunkのAIセキュリティ分析でも、 「AIアプリは“サプライチェーンの弱点”から攻撃される可能性が最も高い」 と警告されています。
2. 主要なリスク領域
実際の事例や研究、MITRE ATLAS の分類を踏まえて、LLMサプライチェーンの弱点を整理します。
◆ 2-1. モデルの改ざん・バックドア化
例:
- 不正に改造されたモデルがコミュニティに公開
- ダウンロードしたモデルに、特定トリガーで“裏モード”が動くよう細工
- 企業が誤って組み込み → 意図しない回答・情報漏洩を引き起こす
特にオープンモデルは、
「誰でも公開できる」
=「誰でも毒物を混ぜられる」
構造的な危険があります。
◆ 2-2. SDK・AIライブラリの脆弱性
例:
- 偽SDK(npm / PyPI)が“正当なライブラリに偽装して”公開される
- インストールすると内部で勝手に外部へデータ送信
- LLM呼び出しのログや入力内容が漏洩する
AI周辺ライブラリは“急増中”のジャンルで、攻撃者にとって格好のターゲット。
◆ 2-3. プラグイン / 外部APIの悪用
AIエージェント系のリスクが特に顕著。
例:
- AIプラグインに不正コード
- 外部APIの認証キーがリーク
- 攻撃者が“AIのふり”をしてAPIを実行
- データ削除・不正送信が可能に
外部連携が多い生成AIは、 サプライチェーンの末端まで攻撃面が伸びる のが特徴です。
◆ 2-4. 学習データ・評価データの混入(データポイズニング)
Day4で扱ったように、
- ほんの少しの悪意サンプル
- 評価基準のすり替え
- 学習データ内に攻撃者の文章
などが入ると、 モデルが深層レベルで操られる(バックドアLLM) 状態が成立します。
これはモデル内部の問題なので、後から気づくのが最も困難。
3. 実際に起きたインシデント例
「AI特有の話ではなく、すでに現実に起きているリスク」であることが重要。
◆ 3-1. 偽ライブラリ問題(npm / PyPI)
生成AIの普及に伴い、次のような攻撃が増加。
- AIが“存在しないライブラリ名”を提案
- 攻撃者がその名前で悪意のパッケージを公開
- 開発者が「AIが言ったから」とインストール
- → 認証情報・トークン漏洩
AI普及以降、明確に増えた新しいリスク。
◆ 3-2. 悪意あるモデル配布
オープンモデルホスティングサイトにて、
- 改ざんされたLLM
- バックドア付きモデル
- “有名モデルのふり”をした偽モデル
が複数報告されている。
◆ 3-3. プラグインの悪用
AIエージェントが利用するプラグインが、
- 権限過大
- ログを外部送信
- 不正操作を行う
といったケースが実際に確認されており、 AIのツール実行権限=攻撃者の権限 になる危険性が指摘されています。
4. リスク低減策(現実的にできるもの)
サプライチェーンリスクの本質は、 「どの部分が安全かを自分で確認しないといけない」 こと。
AIだからといって魔法の安全性は存在しません。
◆ 4-1. 信頼できるモデルとデータソースを使う
- 有名ベンダー or 信頼性あるモデルプロバイダ
- 出所不明のオープンモデルは避ける
- “人気だから使う”は危険
- 学習データの説明(Data Transparency)があるか確認
◆ 4-2. SDK・ライブラリの監査
- npm/PyPIは特に 公式・署名付き を優先
- ダウンロード数だけでは安全性は判断できない
- 依存関係(transitive dependency)も確認
◆ 4-3. SBOM(Software Bill of Materials)を導入
AI時代のSBOMは、
モデルの出所・学習データの構成まで含める方向へ進んでいる。
- どのモデルを使ったか
- どのバージョンか
- どのSDK・ライブラリに依存していたか
- どのAPIと連携したか
SBOM管理は 2025年のAIセキュリティの必須科目。
◆ 4-4. プラグイン / API は最小権限で
- 原則「読み取りのみ」
- 書き込み・削除操作をさせない
- キーをAIに渡さない(中継Proxyで管理)
- 実行時に人間の承認ステップを挟む
◆ 4-5. モデル・データの定期監査
- 挙動の変化(モデル劣化・ドリフト)
- 意図しない応答(バックドア疑い)
- プラグイン利用履歴
- RAGの参照元ログ(Lineage)
監査を“後付け”するのではなく、 最初から仕組みに組み込むことが重要。
📌 まとめ:LLMの“影の部分”はサプライチェーン全体に広がっている
LLMは単体で完結した技術ではありません。
モデル、データ、SDK、プラグイン、外部API…。そのどれか一つが攻撃されれば AIは簡単に乗っ取られます。
- 不正モデル
- 偽ライブラリ
- プラグイン悪用
- 外部API経由の侵害
これらはすべて“既に起きている”リスクです。
だからこそ、
- 信頼できるリソース選定
- SBOM管理
- 最小権限原則
- 継続的な検証・監査
このあたりを揃えて、 AIシステム全体を“透明化”し、依存関係を把握すること が、2025年以降の企業に求められる姿勢です。
本記事は、ナレッジコミュニケーションによる生成AIセキュリティ支援の実務知見をもとに執筆しています。
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