■ はじめに
ここ数カ月、各社で共通して聞こえてくる声があります。
「結局、何を決めれば“安全にAIを使っている”と言えるのか?」
生成AIの導入が広がる一方、判断の軸が社内に存在しないことで、情シス側もビジネス側も、どこから手をつければよいのか迷いやすい状況です。
そこで手がかりとなるのが、総務省・経産省が出した 「AI事業者ガイドライン(1.0版)」 です。
本記事では、このガイドラインを“そのまま読む”のではなく、社内ルールへ翻訳するための手順にフォーカスします。
1. まず押さえるべき「AI事業者ガイドライン」の骨格
ガイドラインは200ページを超える文書ですが、要点は実はシンプルで次の3つです。
| 観点 | ざっくり言うと |
|---|---|
| 安全性(Safety) | 誤回答・偏り・有害出力の抑制 |
| セキュリティ(Security) | 情報漏洩や攻撃面の縮小 |
| 説明責任(Accountability) | ユースケースの透明性、ログの確保 |
つまりガイドライン=「AIを使うなら最低限ここは押さえて」という共通チェックリストなのです。
2. 社内ルールに落とす前の“下ごしらえ”
まずは以下の 3 点を確認するだけで、後の整理が一気に進みます。
(1) 自社がAIを使う「範囲」を決める
- 対象はチャットボットだけか?
- RAGや業務自動化も含むか?
- 部門利用(マーケ・法務・人事)まで広げるか?
※ ここの曖昧さが後で混乱を生むので、明確化が必須です。
(2) リスクが高い情報の棚卸し
- 個人情報
- 顧客データ
- 契約書・未公開情報
- 社内ナレッジ(権限制御が必要なもの)
→ “外部AIに絶対入れてはいけない”レイヤ と
→ “匿名化すれば使える”レイヤ に分けておくと後がラクになります。
(3) 利用者が誰かを特定する
- 全社員向け?
- 一部部門の業務利用?
- 開発チームのテスト用途?
3. ガイドラインを“社内ルール”に翻訳する(本丸)
ここからが実務ステップ。
実際に多くの企業で採用されているのは 「3段階で決めていく方式」 です。
STEP1:使ってよいAIサービスの“ホワイトリスト”化
ガイドラインも触れている通り、AIの種類は多すぎてチェックしきれません。そこでまずはシンプルに “使ってよいサービスを限定” します。
例:
- ChatGPT Enterprise / Teams
- Azure OpenAI Service
- Google Gemini(企業契約版のみ)
逆に、個人アカウント利用・無料版は原則禁止。
STEP2:入力禁止情報の明確化
曖昧なまま運用すると、必ず事故が起きます。
禁止情報の例(そのまま社内文書に使える形で):
- 顧客・従業員の個人情報(氏名・住所・メール)
- 契約書全文、法務レビュー対象の文書
- 機密度A/Bに分類された社内ナレッジ
- 未公開の製品情報や営業戦略
※ A4一枚の早見表にして配る企業も増えています。
STEP3:利用フロー(最小限のガバナンス)を決める
ここは“重くしすぎない”のがポイント。
最低限、以下のような形にすれば十分運用できます。
- 社員はホワイトリストのAIのみ利用可
- 入力禁止情報は入れない
- 業務利用の回答は、本人 or 上長が最終チェック
- 定期的にログを情シスがレビュー
- 新しいユースケースが出たら相談窓口へ
4. 運用とアップデート(ここが最も大事)
ガイドラインの最大のポイントは、
“一度作って終わり”ではなく、状況に応じて更新すること
です。
運用の段階で取り入れておきたい要素は以下の通り:
● 教育・啓発(年1〜2回で十分)
- ハルシネーション
- プロンプトインジェクション
- シャドーAI
など、最新事例を織り交ぜて伝えると理解が深まります。
● ログとモニタリング
- どのサービスにどんな情報が送られたのか
- 生成結果に問題はなかったか
- イレギュラーな利用がないか
● ルールの改訂
- 新しいAIサービスの追加
- 入力禁止情報の見直し
- 利用フローの改善
など、3〜6か月ごとのアップデートが最適です。
まとめ:ルールづくりは「完璧より、まず形にする」
AIガイドラインを読むと、網羅的すぎて「全部やらないといけないのでは?」と不安になりがちです。
しかし現実は、“しっかりした最初の一枚” を作れるかどうかが勝負です。
- 使ってよいサービス
- 入力禁止情報
- 最小限の利用フロー(監査・レビュー)
この3つが明確になれば、AI利用は一気に健全になります。
本記事は、ナレッジコミュニケーションによる生成AIセキュリティ支援の実務知見をもとに執筆しています。
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