■ はじめに:AIの“振る舞い”はプロンプトで決まる
生成AIを使う際、もっとも誤解されやすいポイントがあります。
「プロンプトはただの入力文ではなく、AIの“安全装置”でもある」
プロンプトの書き方ひとつで、
- 情報漏えいにつながる回答を誘発したり
- 不正確な応答が業務に混入したり
- 意図していない行動をエージェントが実行したり
といった問題が起きます。
そのため最近では、産総研・海外政府機関などのガイドラインで、 プロンプト管理が“安全性の中核” と明言され始めました。
本記事では、安全かつ安定品質のAI応答を作るための “セーフプロンプト設計”の基本原則とテンプレ化のノウハウ をまとめます。
1. なぜセーフプロンプトが必要なのか
プロンプトは AI の最初の入力であり、“攻撃面にもなり、制御装置にもなる” という二面性を持ちます。
◆ 不適切なプロンプトが招く問題
- 余計な内部情報をAIが出力(情報漏えい)
- 回答の範囲が広すぎて誤情報が混入
- 曖昧な指示で品質が不安定
- 禁止領域に踏み込んだ回答を誘発(法務・倫理的リスク)
結局、 “プロンプトを丁寧に設計する=AIの品質と安全性を担保する” という関係にあります。
2. 安全なプロンプト設計の5原則
セーフプロンプトには多くの要素がありますが、“再現性が高く、誰でも実践できる” という観点で以下の5つに整理できます。
① 機密情報・個人情報をプロンプトに含めない
プロンプトそのものがクラウドに送信される以上、“貼った瞬間にリスクが発生する” と考えるのが基本。
回避策:
- 固有名詞 → 一般名詞に置換(A社 → 大手小売企業)
- 個人情報 → などのプレースホルダー化
- 文書全文 → 要約または論点部分だけに切り出す
② AIに回答させる範囲を明確に限定する
曖昧な指示は、曖昧なアウトプットを生みます。
例:
×「企画書つくって」
〇「以下の要素を含む『課題→原因→施策案』構成の企画書案を作って」
“境界を明確にする” のがポイントです。
③ モデルに役割と専門度・文体を明示する
AIは“人格”を与えると安定して動きます。
例:
- 「あなたは情報セキュリティ担当者です」
- 「専門用語は使いすぎず、実務者が読めるレベルに調整してください」
- 「表や箇条書きを適度に使って整理してください」
一貫性ある回答を引き出すための重要な設計です。
④ 出力形式を指定する(構造化の徹底)
AIは構造の指示があるほど安定します。
例:
- 箇条書き
- 見出し構造(H1 → H2 → H3)
- JSON形式
- 表形式で整理
「期待するフォーマット」を明示するだけで再現性が劇的に向上します。
⑤ 禁止事項もプロンプト内に明記する
“やってはいけないこと” を書くと安全度が上がります。
例:
- 「憶測で情報を補完しない」
- 「不確実な情報は必ず“未確認”と明記する」
- 「法律・契約に関する断定的助言は行わない」
- 「内部情報・機密情報と推測できる記述を生成しない」
禁止事項は短くてよいので “境界線を示す” のが目的です。
3. テンプレ化のコツ(社内で共有すると劇的に安定する)
セーフプロンプトは毎回ゼロから作るより、“型” を持っておくことで安全性・効率性の両方が向上します。
以下は そのまま使える実務テンプレ です。
《セーフプロンプト基本テンプレ》
1. 役割設定
あなたは[専門領域]の担当者です。
2. 目的の明示
これから[目的]を達成するための回答を作成してください。
3. 条件(求める範囲の限定)
- 対象範囲は[●●]に限定
- 想定読者は[●●]
- 使用する情報は以下のみ:[引用文/要約文など]
4. 禁止事項
- 憶測で内容を補完しない
- 機密情報・個人情報に該当する表現を作らない
- 法的助言・断定的表現をしない
5. 出力形式の指定
- 箇条書き中心
- 表が必要な場合は作成
- 最後に“要点3つ”をまとめて記載
このテンプレを使うと、「安全で、読みやすく、再現性の高い回答」が得られます。
4. まとめ:セーフプロンプトは“制約”ではなく“品質設計”
プロンプトの工夫は、AIの能力を制限するためのものではありません。
- 情報漏えいの防止
- 回答品質の安定化
- 読みやすさ・業務利用の再現性向上
- 攻撃(プロンプトインジェクション)の抑制
つまりセーフプロンプトとは、AI活用の“安全性”と“品質”を両方担保するための設計技法 です。
テンプレ化してチームで共有すれば、AI活用は一段とスムーズに、安全に、広がっていきます。
本記事は、ナレッジコミュニケーションによる生成AIセキュリティ支援の実務知見をもとに執筆しています。
安全にAIを活用するための導入支援・運用設計をご希望の方は、ぜひご相談ください。
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