はじめに
この記事はMCPを企画視点から分析し、今どのように活用すべきか、はたまた今後どのようなことが起こるだろうか、を考え想像したものでして、つまりはいつもの技術の皮を被ったポエムです。すまない、またなんだ。
MCPの技術観点での新しい発見はあまり期待できないのでご了承ください。どちらかと言えば、前作MCP超理解のその先をより概念的に捉えたもの、MCPの可能性についての超予測と言ってもいいかもしれないですね。
Why MCP?
あなた(あるいは御社)は、何故MCPに取り組むのでしょうか?話題になっているから?ブームに乗り遅れるとまずそうだから?まあそれもいいでしょう。
バズワードには乗ってけサーフィン。とっかかりはそんなのでいいのかもしれないですね。私の記事もそうですし。
私がMCPに注目する理由を一言で言うと、次の一大ビジネスになり得ると感じているからです。言い換えれば、やっと、寡占的事業で生成AI大手だけが儲けていた仕組みから、下々の民(言い方!)まで利益化できるチャンスが巡ってきたと感じるのです。
弊社も今まで数々の生成AIプロダクトを開発してきましたが、それは言葉悪く言ってしまえば大手生成AIの再販でしかありませんでした。つまり、生成AI活用の具体ニーズに対する適応領域に応じたSI業務を請け負って大手生成AIの導入を支援する、そんなパターンがほぼ全てと言えます。
それが、MCPの普及をきっかけにゲームチェンジできる可能性が見えています。
以下では何故そう考えるかを一緒に考えていただければと思います。
MCPブームを分解して捉えよう
さて、MCPには大きく2つの視点があるといえます。それは、MCPクライアントとMCPサーバ。ざっくり言うと、MCPクライアントはMCPサーバを使った具体アプリケーションで、MCPサーバは生成AIの機能拡張を担う、言わばプラグインです。別の言い方だと、組み込んで使う側と組み込み機能を提供する側ですね。
今の盛り上がりは、大手ソフトウェアを有する企業から、はたまた草の根的に提供された有用なMCPサーバが一気に登場したことによる、MCPクライアント開発、ひいてはアプリケーション開発が捗っていることに起因しています。つまりはMCPクライアント視点での盛り上がりです。
ただしそれはMCPブームの一側面であり、本当の価値を考える上ではMCPサーバ開発についても理解を深めましょう。今は過渡期の盛り上がりですので、これが成熟期へと移った際にクライアント側面でしか捉えられておらず、遅れをとってしまったとなるとビジネスチャンスを逃していたともなりかねません。超理解フリーク(?)の皆様としては是非、MCPというバズワードをこの2つの側面で捉えられるようにしたいですね。
MCPクライアントの現開発戦略
さて、何故MCPはここまで急にバズったのでしょうか?
一つは繰り返し言うと沢山かつ有象無象にMCPサーバが出現したから、有名どころも出してきたから、などですが、もう一つ大事なことは、MCPクライアントへの導入が非常に容易であったことは見逃せないポイントでしょう。いくつかの記事でもMCP導入の方法が紹介されていますので詳細は譲りますが、とにかく簡単な作業でプラグイン的に導入できて、良くも悪くも「動いてしまう」のが特徴です。おそらく生成AIを開発に取り込んでいる人(すでにハードルはいくらか上がってる気がしなくもないですが…)であれば、ものの一時間で試すことが可能でしょう。
そんな特徴を活かす意味で是非チャレンジしたいのが、高速PoCへの活用です。つまり、プロダクトの構想段階でペーパープロトの次の検証として活用するのが良いのではないか、と考えられます。特に、出力イメージの共有に強い効果が得られそうです。最終出力フォーマットと同じ出力機能を持つ、もしくはそれに類するMCPサーバを導入し、プロトコルに出力仕様を記載できれば、それが今検討中のプロダクトの出力結果になるでしょう。これならほぼ実装いらずでやりたいことを確認できます。もちろんこの方法では詳細調整は難しいかもしれないですが、その差分こそ本当に作る・作りこむべき価値のある何かなはずです。さもなければ生成AIでいいじゃん、となっているわけですが、生成AIで実施すれば良いと判断できることも一つの答えです。このように、アジャイルにプロダクト方針固めや変更舵取りができるはずです。
ただし、正式プロダクトへのMCPサーバ利用はいくつか注意すべき課題が残っています。
まずはセキュリティの課題です。良くも悪くも「動いてしまう」、の負の面ではありますが、この仕組みそもそもでセキュアに導入する術が今のところなさそうです。諸脆弱性についてはいくつかまとめ記事を見かけますので例の如く詳細は譲りますが、結論として開発者側で各脆弱性の問題がないか、吟味して導入を判断するしかないのが現状でしょう。
また、運用においてはセキュリティ担保の考え方の変更が伴います。それは、このプロトコルではMCPサーバの利用の是非をユーザ(≒プロンプト入力者)に委ねる仕組みとなっているためです(Specification - Model Content Protocol)。つまり、MCPサーバを利用しようとする時に、MCPサーバから「俺はこういうものだけど使いたいならちゃんと同意取ってね」と言う情報を取得し、MCPクライアントはユーザ側に「これ使っていい?」と判断を委ねてきます。丁度スマホアプリにおける位置情報などの権限利用前の確認に似てますね。
これが従来のアプリケーション内完結型のシステムであれば、わざわざユーザに同意は取らず、代わりにシステム側でセキュリティ品質を担保していたでしょう。ですので、例えばMCPを組み込んだサービスを社内利用を行うのであれば、情シスが頑張る、ではなく、全社員の生成AI活用におけるセキュリティ意識の向上を図る必要があります。その情報、外部に投げていいやつだっけ?、を各自で管理しなければいけないわけです。
また、運用するにあたっては保守性も見逃せないところです。特に野良で開発されたMCPサーバについては、公式のプロダクトからの情報取得、あるいは操作を何らかのAPI実装を用いているのがほとんどですので、仕様変更に伴う追従性は提供元次第となってしまいます。
たとえ公式に(同プロダクトを保有する企業から)提供されているMCPサーバであったとしても仕様変更はあり得ますし、必要性が無くなった場合には削除される可能性だってあります。もちろんこれはMCPに限った話ではないですが、現状としてMCPは仕様がまだまだ固まり切っていない話ですので変更の頻度は高いと考えた方が良く、利用するにあたってはその保守体制をいかに確保するか、また、仮に同MCPサーバが利用できなくなった時の代替策を取れるかが重要になりそうです。
総じて言うと、具体利用や販売を用途とするプロダクトへの利用はまだ様子見が良さそうです。とはいえ、プロトタイプ開発には即時で効果が出せそうです。高速PoC実現にあたっては、プロト開発の考え方の改革や、企画者自らコンセプトを打ち出しプロトタイプまで作ってしまえるような人材、サービスデザイナー(企画・開発両面の繋ぎ役?)のような存在が必要そうです。君が担ってもええんやで。
MCPサーバの現開発戦略
次はMCPサーバについてフォーカスを当ててみましょう。
MCPクライアントから見ればMCPサーバはただの便利ツールになりますが、一転提供する側に回れば、営利企業としてはそんな便利ツールを誰だかわからない見ず知らずの人々に提供する意味とはなんぞや、を問われます。シンプルに言えば、MCP化したいとか言うけど、それどうやって儲けるんじゃい、を論理的に答えられないといけません。
さて、一つ、上司を説得するMCP化で利益貢献できるアイディアとしては、社内活用が挙げられます。つまり、いきなり一般への公開を行うのではなく、まずは社内でMCPを活用して、いわゆるDXを達成するために用いることです。
そしてその結果で特に刺さりそうなのが、社内共通情報基盤での実装です。社員情報、顧客情報、製品情報。これらは社内で頻繁に利活用され、また、複数の部署・システムが取り扱う、まさにセンター・オブ・ビジネスなデータです。それをMCPサーバとして提供することで、簡単に社内向け生成AIシステムが作れるようになります。
そのほかの適用先としては、会社として提供中の主サービスのバックエンドのMCPサーバ化が挙げられます。特に、B2B提供する上で個別にフロントを改修提供するようなサービス、かつ、開発部隊が分業化されている場合は相性が良さそうです。つまり、メイン機能が他社提供の結果として枝分かれしてしまうことを避けつつ、フロントは個別に作り込みができるようにすると効果を発揮しそうです。
要は、展開先が複数検討される機能・データについては、一度労力をかけてMCPサーバ化してあげることで、それを利用する開発の効率を高められると言うことですね。一石二鳥。これはコスト削減になり得ます。
この事例を説明だけ聞くと、内部API(やら類似内容)とどう違うの?と思うかもしれないですが、MCP化の一番のメリットはなんといってもクライアント側の導入のしやすさにかかってくるでしょう。前述の通りとりあえずのPoC作成が容易な上、生成AIによる自動調整の効果でAPIの仕様確認の手間も省けて、システム突合調整のために情シス相談必要だー、みたいな労力が減るでしょう。
さらにAPI仕様の把握を超えて、どうAPIを使うべきか、なんてところまでカバーしてくれます。例えば、今月のXX部門の売り上げが欲しい、のような、この範囲・この期間のデータが欲しいといったニーズがある場合は、以前であればそのデータの構造を理解した上で適切なSQL構文の作成が必要でしたが、その作業すら生成AIがよしなにカバーしてくれるでしょう。
このような手助けもあるため、社内DXの観点では開発者の母数を増やす効果が見込めるのも強みですね。導入そこそこに頑張るのはプロンプトエンジニアリング。例えば月次集計の自動化が担当の頑張りで完成しちゃったりするわけです。
ただ、ここで注意していただきたいことは、なんでもMCP化すれば良いわけではないことです。MCPサーバは雑に言えばAPI(function calling)の生成AI向けラッパーのようなものですので、例えば、唯一の導入先にインプリしたいケースにおいては、提供元・導入先のトータルコストで考えれば素のAPI結合よりも開発が余計にかかると考えたほうが良いです。今は(既存でAPI構築できている場合は)MCPサーバ化の実装自体はそこまで重くはなさそうですが、前述の通り、MCPは今まさに普及し改良されている真っ最中です。特にセキュリティ要件については今後増えていく可能性は高く、満たすべき要件は増えていくでしょう。
また、要件が明確であり、つなぐ必然性が見えているのであれば、素直に内部で結合するのが正しいです。導入が楽とはいえ、間に処理の曖昧性を残す生成AIが挟まれることになるのでハルシネーションのような不確定な要素が入り込んでしまいますからね。
さらに先のMCP未来像予想
さて、MCP化の勘どころがわかった上で、社外に目を向けてみましょう。ここまで説明した通り、なるほど生成AIプロダクトを素早く作る上でMCPサーバは有用そうです。いいMCPサーバが出来たあかつきにはついでに外部公開したいと思うかもしれないですね。では、MCPサーバを提供した時にそれを使う側、つまりMCPクライアント開発者はどう思うでしょうか?使いたい!となってくれるでしょうか?
…ならないですよね?
利用しようとなるためには、MCPの題材となっているサービスの価値もそうですが、ひとえに信用。セキュリティはどうだろうか、すぐサービス停止にならないか、保守性はどうだろうか、そう疑ってくることでしょう。あなたたちがさっきそうしたように!(英語直訳風)
そこで考えられる次の動向が、MCPサーバを選ぶ手段としての(デファクトスタンダード含めての)MCPサーバマーケットの確立です。すなわち、今後は良い・使える、安全なMCPを探すための、丁度スマホのアプリストアのようなMCPマーケットプラットフォームの登場が予想されます。
スマホでの過去事例に従えば、そのマーケットではMCPサーバの登録に厳しい審査を科すでしょう。内容説明は適切か、機能にセキュリティホールはないか、など、プロトコルに従った実装チェックが入ります。もしかしたらテスト用の生成AIによる抜き打ちテストなんかもあるかもしれませんね。
代わりにマーケットは検索機能による集客と販売代行機能を提供し、MCPサーバ開発者に利益をもたらすでしょう。
さてさらに妄想を膨らませましょう。はじめのうちはこのプラットフォームを使うのはMCPクライアントや生成AIプロダクト開発者だけかもしれません。しかしながら、前述の通りMCPサーバの導入が容易なので、実際はこれら開発者も目利き程度の役割しか果たせていません。そして、安全なマーケットができたと言うことは、その目利きの部分も大分意味を失ってしまいます。
そうなると次にどうなるか。一般ユーザが直接MCPサーバを選ぶようになるのではないでしょうか。つまり、自分のチャットアプリに自分の趣味嗜好に基づいたMCPサーバを好きなように加えて使う、そんな時代がいずれやってくると大胆予想します。自分なりのAIエージェントを自分で作る時代。天気を生成AIに聞くけど、自分が欲しいのは気温湿度とかじゃなくて傘が必要かどうかなのでこの地域限定・雨予報特化のサーバ入れよう!とか。
こうなればいよいよ生成AIはコモディティ化し、一家に、いや一人に一台、あなたのための専用エージェントを選り好みで作りこむ世の中となっていきます。MCPサーバはエージェント共通機能からの差分を作るためのオプションとして別途課金する対象となることでしょう。
自分のAIを自分で作る。これが未来なんだね、まるでSFか夢のようなお話です。
MCP時代の勝ち馬に乗れ!
…はっ!?これは夢だったか…!
さて、もしこれが正夢になるのであれば、次にあなたが取り組むべきは、そのMCP時代でどうやって先行利益を得るか、ですね。どこがそのデファクトマーケットになるのか、ウォッチし続けましょう。乗り遅れてはいけません。あなたが今、生成AIの何らかのプロダクト開発に関わっているとしても、上記の時代変化はプロダクト自体の価値をだんだんと失わせてしまいます。MCPサーバ開発にも目を向けてみましょう。
もしくは今ならあなた(御社)がデファクトマーケットを取りにいいですね。みんなに使われるMCPクライアントをプロダクトとして開発し、MCPマーケットも内部機能として提供する。MCPサーバ開発者に使われた分の利用料を払いつつ、お客様からはマーケット利用料をいただく。これが一番あり得そうなエコシステムのかたちでしょうかね。
どちらにしろ、MCPでいかに商売を組み立てられるかが今後の成功の鍵であると私は考えます。こういう金、金、金。のお話をするとうんざりしてしまう方も多いかもしれません。ただし今、MCPは過渡期であり、ある意味で無法地帯状態。どのような方向に進もうと多数の無料なMCPサーバが用意されている状態はいずれ変わっていくでしょう。その次の状態を見据えた検討と対策を考えてみても良いのではないでしょうか。
ところで超理解って流行ってるの?
いや、全然。そもそもこういう記事自体特殊というか…みんな妄想夢語ろうぜ。