#目次
[はじめに](# はじめに)
医療崩壊リスクの現状
重症者を受け入れる病床確保の可否について
重症者搬送モデル
重症者の搬送先について
おわりに
はじめに
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背景
感染症指定医療機関は逼迫しており、重症者を受け入れるための十分な病床の確保が困難を極めています。各地では、重症者を受け入れる病床の確保のために、軽症者をホテルや自宅等で療養させる対策が取られるようになってきました。 -
課題
新型コロナウイルスの感染が拡大する今、同時多発的に発生する重症者をいかに早く感染症指定医療機関に搬送するかが重要になってくると考えられます。また、搬送による感染リスクや更なる重症化を避けるためにも、距離も出来るだけ短いことが望ましいです。 -
目的
- 新型コロナウイルス感染拡大による感染症指定医療機関の逼迫状況の可視化を行い、医療崩壊リスクの現状を理解すること
- 軽症者全員をホテルや自宅等で療養させた場合における重症者を受け入れる病床確保ができるかどうかをシミュレーションにより判断すること
- 重症者の総搬送距離を最小化にする数理モデルを構築し、その挙動を考察すること
- 上記分析結果をもとに、自身の新型コロナウイルスに対する危機意識を高めたり低めたりすること
(結論から言うと、東京都民が鹿児島県に搬送される結果になってしまい、危機意識は爆上がりしました)
筆者の危機意識(5段階評価):☆☆☆☆☆(初期値:みんなコロナコロナうるさいなあ)
医療崩壊リスクの現状
感染症指定医療機関の病床数と感染者数の関係を都道府県別に可視化し、現在の医療崩壊リスクについて考察していきます。都道府県別病床数と都道府県別感染者数は、新型コロナウイルス患者数オープンデータのみを使用した新型コロナウイルス対策ダッシュボードより2020年4月23日20時時点で取得しています。
感染者全員が感染症指定医療機関を使用した場合の都道府県別病床使用率のヒートマップ(左図)と病床使用率Top10(中央表)・Worst10(右表)です。
- 100%以上の都道府県が多く、軽症者をホテルや自宅等で療養させる対策をせざるを得ない状況
- 病床数の少ない富山や沖縄もTop10に入っており、医療崩壊リスクが高いのは単に人口の問題だけではない
筆者の危機意識:★☆☆☆☆(とりあえずなんかやばそうな雰囲気するなあ)
重症者を受け入れる病床確保の可否について
医療崩壊リスクの現状から、やばそうな雰囲気であることがわかりました。次に、気になるのは、軽症者全員をホテルや自宅等で療養させるとしても、そもそも重症者を受け入れるための十分な病床の確保できているのかという点ですよね。
Novel Coronavirus Pneumonia Emergency Response Epidemiology Team (2020)の報告によると、中国の感染者(4万4672人)のうち軽症が約81%、重篤を含む重症が約19%であったとのことでした。
この報告に基づき、病床確保状況をシミュレーションしていきます。総感染者のうち無作為抽出された19%が重症者と仮定し、都道府県ごとに病床使用率を算出します。乱数を変えて1000回繰り返した時の各都道府県の病床使用率について考察していきます。
シミュレーション結果の都道府県別病床使用率平均のヒートマップ(左図)と病床使用率平均Top10(中央表)・Worst10(右表)です。
- 9の都府県で病床利用率平均が100%以上になっており、重症者でも居住地域の感染症指定医療機関に入院できない可能性がある
- 最悪の場合、近隣の都道府県に搬送しなければならない事態に陥る可能性がある
筆者の危機意識:★★★☆☆(東京余裕で病床使用率平均100%超えてるじゃん...)
重症者搬送モデル
シミュレーション結果より、とにかくやばそうな雰囲気であることがわかりました。次に、気になるのは、居住地域の感染症指定医療機関に入院できなかった重症者はどうすればいいかという点ですよね。今回は、苦肉の策ではありますが、別の都道府県に搬送するということを考えていきます。賛否両論、否が多めかもしれませんが、トロッコ問題を解けない筆者にはこうするしかありませんでした。
搬送による感染リスクや更なる重症化を避けるためにも、距離も出来るだけ短いことが望ましいと考えられるので、重症者の総搬送距離を最小化にする数理モデルを考えます。
数理モデルの詳細が気になる方はコチラ
数値実験として、総感染者のうち無作為抽出された19%の重症者の搬送先を最適化します。ただし、位置情報に関するデータが不足しているため、重症者の位置情報は居住地の県庁所在地、感染症指定医療機関は各都道府県に1つだけ存在し、距離はVincenty法より導出することにします。
最適化前後の都道府県別病床使用率平均のヒートマップ(左/左中央図)、搬送距離の要約統計量(右中央表)・分布(右図)です。
- 鹿児島県、沖縄県以外の病床使用率は全て100%になり、感染者数の増加が止まらなければ完全に医療崩壊してしまう状況
- 総搬送距離は201940km、1人あたり187kmとなった。
- 居住地域の感染症指定医療機関に搬送される重症者が多くいる一方で、数100km単位で搬送される重症者もでてきている
筆者の危機意識:★★★★☆(日本が真っ赤ってなんかやばいんじゃない?!)
重症者の搬送先について
シミュレーション結果より、リアルにやばそうな雰囲気であることがわかりました。次に、気になるのは、重症者ってどのような移動したのかという点ですよね。重症者の遷移ネットワーク図の可視化をします。
- 東京都の重症者は北は北海道、南は鹿児島県の感染症指定医療機関に搬送される結果となっている
- 総搬送距離最小化をするために、他都道府県を受け入れを優先してしまうケースがあることがわかった
- 最大搬送距離の962kmは東京都の重症者が鹿児島県に搬送される時であり、31人もいる
筆者の危機意識:★★★★★(元気な時でも962km移動するのは疲れるのに)
おわりに
- ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。極論振りかざしている点も多々あると思いますが、感想・助言等ありましたら是非コメントしていただけると幸いです。
- 社会距離戦略の意思決定に資する(少なくとも議論の題材になる)データ分析を目的としたSIGNATE様のCOVID-19チャレンジ(フェーズ2)でも「感染症指定医療機関の逼迫状況の可視化と重症者搬送計画モデルの提案」という類似分析も行なっておりますので、ご興味があれば閲覧・いいね・コメントをしていただけると嬉しいです。