はじめに
生成AIについて調べていると、「AIエージェント」という言葉をよく目にします。しかし、チャットボットや従来の自動化システムと何が違うのか、曖昧に感じることもあります。
AIエージェントの基本的な定義を確認したうえで、手動・従来の自動化・AIエージェントの違いを整理します。さらに、AIエージェントが目標を達成するまでの基本的なループと、LLMチャットボットやワークフローとの違いを見ていきます。
AIエージェントとは
AIエージェントとは、与えられた目標を達成するために、必要な作業を自律的に計画・実行するAIシステムです。環境や外部ツールから情報を取得し、その結果に基づいて次の行動を判断します。さらに、実行結果を確認しながら計画を修正し、複数のステップからなる作業を継続的に自動化します。
従来の自動化システムは、あらかじめ人によって定義されたルールや処理手順に従って動作します。一方、AIエージェントは、与えられた目標と現在の状況に応じて、必要な作業を自律的に計画・実行します。その過程で、実行する手順や使用するツールを動的に選択できる点が大きな特徴です。
この説明は、エージェントを「環境と相互作用し、外部から与えられた目標に向けて自律的に行動するソフトウェア」とするNISTの定義とも整合します。
具体例:メルカリの商品探しを「手動・従来の自動化・AIエージェント」で比較
AIエージェントの特徴を理解するために、メルカリで希望の商品を探すケースを例に、次の3つの方法を比較します。
- 人が手動で探す方法
- 従来の自動化を利用する方法
- AIエージェントを利用する方法
ここでは、次のような希望があるとします。
2万円以内で、状態が良く、旅行にも持って行きやすい中古カメラを探したい。
メルカリとは
メルカリは、個人がスマートフォンなどから商品を出品・購入できるフリマサービスです。カメラ、衣類や本、家電など、さまざまな新品・中古品が出品されています。
商品を探すときは、キーワードやカテゴリー、価格、商品の状態などを指定します。その後、検索結果から商品説明、写真、送料、発送までの日数などを確認し、希望に合う商品を選びます。また、メルカリには検索条件を保存し、その条件に一致する商品が新しく出品されたときに通知を受け取る機能があります。この機能も含めて、3つの方法を比較してみます。
1. 人が手動で探す場合
人が手動で探す場合、まず「中古カメラ」や具体的な製品名などのキーワードを入力します。必要に応じて、カテゴリー、価格、商品の状態、販売状況などの条件も設定します。検索結果が表示されたら、商品ページを一つずつ開き、次の情報を確認します。
- 商品名と型番
- 販売価格
- 商品の状態
- 傷や汚れの有無
- 送料の負担
- 発送までの日数
- 付属品
- 出品者の評価
さらに、旅行に持って行きやすいかを判断するために、商品のサイズや重量、バッテリーの持続時間などを別のWebサイトで調べることもあります。
細かな条件を自分で判断できる一方、多くの商品を確認して比較する必要があるため、時間と手間がかかります。適切な商品が見つからなければ、検索キーワードや価格条件を変更し、同じ作業を繰り返します。
2. 従来の自動化を利用する場合
条件に基づく従来の自動化の身近な例として、メルカリの「検索条件の保存」と「新着通知」があります。たとえば、次のような条件で商品を検索します。
- キーワード:中古カメラ
- カテゴリー:カメラ
- 価格:2万円以下
- 商品の状態:目立った傷や汚れなし
- 販売状況:販売中
検索結果画面で「この検索条件を保存する」を選択し、新着通知を有効にすると、条件に一致する商品が新しく出品された際にプッシュ通知やメールを受け取れます。これにより、ユーザーが毎回同じ条件を入力して検索する手間を省けます。設定した条件で検索と通知を繰り返す、ルールベースの自動化と考えることができます。
ただし、通知された商品が本当に旅行に適しているかは、ユーザー自身が商品説明や仕様を確認して判断しなければなりません。希望の商品が見つからない場合も、予算を広げたり別のキーワードを試したりするには、検索条件を手動で変更する必要があります。また、2026年9月時点で、新着通知は条件に一致する商品が新規出品された場合に送られるもので、既存商品の価格変更は通知対象ではありません。
詳細は、メルカリの公式ガイドにある商品の検索方法・検索条件の保存方法とお知らせ・機能設定で確認できます。
3. AIエージェントを利用する場合
AIエージェントを利用する場合、ユーザーは検索条件を一つずつ指定する代わりに、目的や希望を自然な言葉で伝えます。
2万円以内で、状態が良く、旅行にも持って行きやすい中古カメラを探してほしい。
AIエージェントは、この依頼から条件を整理します。
- 予算は2万円以内
- 中古カメラが対象
- 商品の状態を重視
- 旅行に適したサイズや重量を重視
- 購入可能な商品が対象
そのうえで、利用を許可された検索ツールやAPIなどを使い、「中古カメラ」だけでなく、商品の種類や型番を含む複数のキーワードを使って検索します。検索結果から商品名、価格、状態、送料などの情報を取得し、必要に応じてメーカーのWebサイトなどで製品仕様も確認します。最初の検索で条件に合う商品が見つからなければ、AIエージェントは検索結果に応じて次の行動を判断します。
- 別のキーワードで検索する
- カメラの種類を変更する
- 予算に近い商品まで検索範囲を広げる
- 商品の状態と価格の優先順位を調整する
- 優先条件を満たせない場合は、条件を変更してよいかユーザーに確認する
購入や決済のように金銭を伴う操作は、必ずユーザーの確認と承認を得てから実行するよう設計します。
3つの方法を比較
この例におけるAIエージェントの特徴は、商品検索を自動化することだけではありません。メルカリの新着通知も検索を自動化していますが、あらかじめ保存された条件に従って動作します。一方、AIエージェントはユーザーの目的を理解し、検索結果を評価しながら、次に使用するキーワードや条件を動的に変更します。
3つの方法は次のように整理できます。
- 手動:人が検索・比較・判断をすべて行う
- 従来の自動化:決められた条件で検索と通知を繰り返す
- AIエージェント:目的に応じて検索方法を自律的に計画・実行し、結果を評価しながら次の行動を決める
この「結果を確認し、必要に応じて計画を変更する」という点が、従来の自動化とAIエージェントを区別する重要な特徴です。
| 比較項目 | 人が手動で探す | 従来の自動化 | AIエージェント |
|---|---|---|---|
| 希望の伝え方 | ユーザー自身が検索条件に変換する | キーワードや価格などを事前に設定する | 自然言語の依頼から条件を整理する |
| 商品の検索 | ユーザーが繰り返し検索する | 保存された固定条件で検索する | 複数の検索方法を選択・変更する |
| 商品説明の確認 | ユーザーが一つずつ確認する | 基本的にユーザーが確認する | 希望との関連性を分析する |
| 商品の比較 | ユーザーが情報を集めて比較する | 条件に一致する商品を通知する | 複数の条件から候補を評価する |
| 商品が見つからない場合 | ユーザーが条件を変更する | ユーザーが保存条件を変更する | 結果に応じて再検索するか、ユーザーに確認する |
| 推薦理由 | ユーザー自身が判断する | 基本的に提示しない | 候補ごとの推薦理由と注意点を説明する |
| ユーザーの役割 | 検索から購入判断まで行う | 通知された商品を確認・比較する | 提示された候補を確認し、最終判断する |
AIエージェントの思考プロセス:自律的な問題解決のループ
これまで、現在注目されているLLMベースのAIエージェントが単なる「自動化」とは異なり、自律的に思考して行動することをお伝えしました。では、具体的にどのようなプロセスを経てタスクを処理しているのでしょうか?
Goal → Plan → Action → Observation → Evaluation → Replan or Completion
その基本動作を概念的な目標達成のループとして整理します。
ここでは、「メルカリで旅行用に持っていく、2万円以内の中古カメラを探す」という身近なタスクを例に、エージェントの内部で回っている基本サイクルを解剖してみましょう。
- Goal(目標の理解と確認)
ユーザーの依頼から、「2万円以内」「状態が良い」「旅行向きの軽さ」といった条件と優先順位を整理します。条件が曖昧で、結果に大きく影響する場合は、この時点でユーザーに質問を投げかけて確認します。
- Plan(計画)
目標の達成に必要な作業を分解します。たとえば、「メルカリ内の検索」「価格の絞り込み」「商品状態の確認」「重量の調査」「候補の比較」といった手順を、現在の状況に応じて自律的に組み立てます。
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Action(行動、ツールの実行)
計画に基づき、実際に行動を起こします。利用可能な外部の検索APIやスクレイピングツールなどを呼び出します。たとえば、これらのツールを使ってメルカリの商品データを取得します。ここで重要なのは、エージェントが許可されたツールとアクセス範囲の中で行動することです。 -
Observation(結果の観察)
ツールの実行結果を受け取り、現状を把握します。条件に合う商品の件数や説明文の内容だけでなく、「探したものの必要な情報が見つからなかった」「ツールがエラーを返した」といった結果も、重要な観察結果として扱い、次の判断材料とします。 -
Evaluation(達成度の評価)
取得した結果が、ユーザーの最終的な目標を満たしているかを評価します。たとえば、「価格は予算内だが、重量が分からず旅行向きか判断できない」という状態であれば、まだタスクは完了していません。 -
Replan or Completion(再計画または完了)
目標を達成できないと判断した場合、エージェントは再計画(Replan)、つまり計画の軌道修正を行います。別のキーワードで検索したり、型番をもとに別の情報源で重量を調べたりして、計画を修正します。必要に応じてユーザーに判断を求めることもあります。
条件を満たす候補が十分に揃った場合は、推薦理由とともに結果をまとめて処理を完了(Completion)します。
このループは、目標を達成するまで無制限に続けるものではありません。完了条件に加えて、最大試行回数、時間、費用、ユーザーの承認が必要な操作など、停止条件やガードレールを設けることも重要です。
「Replan or Completion」と「Completion or Replan」のニュアンスの違い
一見すると同じように見えますが、どちらを先に置くかで「処理のどこに重点を置いているか」というニュアンスが微妙に異なります。
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Replan or Completion(試行錯誤のプロセス重視)
エージェントが自律的に「ループを回して探索・修正を繰り返す過程(Replan)」に重きを置いた表現です。基本的には継続的な試行錯誤を前提としており、条件が満たされたタイミングで最終的に完了(Completion)へ移行する、という動的なアプローチのニュアンスが強くなります。 -
Completion or Replan(終了条件の判定重視)
プログラミングの while ループや条件分岐のように、「まずタスクを終了できるか(Completion)」という論理的な判定に重きを置いた表現です。「目標を達成して終了できるか? できなければ再計画へ回す」という、判定ロジックやアルゴリズムとしてのニュアンスが強くなります。
AIエージェントが柔軟に思考を更新しながらタスクをこなす「自律的なプロセスの動的な性質」を強調したいので、「Replan or Completion」と表記しています。
あらかじめ決められた手順を実行する従来の自動化とは異なり、AIエージェントは行動結果を自ら評価し、状況に応じて計画を修正できます。この自律的なループ(Replan)が、単なる自動化とAIエージェントを分ける本質的な違いです。実際のエージェントはLLM単体ではなく、モデル、指示やガードレールを含むハーネス、ツール、実行環境を組み合わせたシステムとして構成されます。
LLMチャットボットとAIエージェントの違い
結論から言うと、重要なのは、システムが目標に向けて実行方法を決め、行動結果を観察しながら、必要に応じて計画を修正できるかどうかです。
AIエージェントの概念が注目され始めた頃は、外部ツールを利用できることが、テキスト応答を中心とするLLMチャットボットとの分かりやすい違いとして挙げられることがありました。
しかし技術の進化に伴い、現在ではLLMチャットボットも必要に応じて自らWeb検索を行ったり、コードを実行したりと、外部ツールを統合できるよう進化しています。そのため、外部ツールを利用するだけで、LLMチャットボットがAIエージェントになるわけではありません。
LLMチャットボットとAIエージェントの境界は、必ずしも明確ではありません。では、現代において両者を分かつ決定的な違いは何でしょうか。
| 項目 | LLMチャットボット | AIエージェント |
|---|---|---|
| 主な目的 | ユーザーとの対話や質問への回答 | 与えられた目標の達成 |
| 処理の進め方 | ユーザーからの入力を中心に進む | 必要な手順を自ら組み立てて進む |
| 外部ツール | 利用する場合もある | 目標達成のために必要に応じて選択・利用する |
| 結果への対応 | 次のユーザー入力を待つことが多い | 実行結果を評価し、計画や行動を修正する |
| 自律性 | 比較的限定される | 設計された範囲内で、より自律的に行動する |
| 処理の終了 | 応答の生成によって一区切りとなる | 目標達成、停止条件、またはユーザーへの確認まで継続する |
重要なのは、システムが「自律的なループ」を持っているかどうかです。単にユーザーの指示に対して1回のツール実行や回答を返す(チャットボット)のではなく、システム自身が目標に向けて実行方法を計画(Plan)し、行動結果を観察(Observe)しながら、必要に応じて計画を修正(Replan)できるか。これこそが、真のAIエージェントを定義する中核的な要素なのです。
ただし、「チャットボット」と「AIエージェント」は完全に排他的な分類ではありません。チャットボットは主にユーザーとの対話形式を表す言葉であり、その内部でエージェントが動作する場合もあります。
LLMワークフローとの違い
LLMワークフローとAIエージェントは、処理の制御方法で区別すると分かりやすくなります。Anthropicは、両者を次のように整理しています。
- ワークフロー:LLMやツールを、あらかじめ定義されたコード上の経路に沿って実行するシステム
- エージェント:LLMがプロセスやツールの利用方法を動的に決めるシステム
たとえば、「検索する → 結果を要約する → 決められた形式で出力する」という順序が固定されていれば、LLMや外部ツールを使っていてもワークフローです。一方、検索結果を見て追加調査の要否を判断し、次に使うツールや手順を動的に変更するなら、エージェントに近い設計です。
この区別は絶対的なものではなく、実際のシステムではワークフローとエージェントを組み合わせることもあります。詳しくはAnthropicのBuilding effective agentsを参照してください。
まとめ
AIエージェントは、与えられた目標に向けて行動を選択・実行し、その結果を観察しながら計画を修正するAIシステムです。
メルカリの商品探しの例では、手動の場合は人が検索・比較・判断を行い、従来の自動化では保存された条件に基づいて新着商品が通知されます。AIエージェントは、目的を条件に分解し、検索結果に応じて次の検索方法を変え、候補と推薦理由をまとめます。
また、外部ツールを使うことだけがAIエージェントの条件ではありません。LLMチャットボットもツールを利用でき、LLMワークフローも複数の処理を自動化できます。AIエージェントを特徴づけるのは、設計された範囲内で、目標に向けて次の行動を動的に決め、結果をもとに処理を継続・修正する点です。