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データ分析基盤でプロダクトを強くする【マルチテナントSaaSにおけるエンジニアリング大全 Day24】

Last updated at Posted at 2025-12-23

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はじめに

本記事は any Advent Calendar #2 「マルチテナントSaaSにおけるエンジニアリング大全」 Day24 の記事です。 弊社anyのアドベントカレンダーをひとつ丸ごと占有して、ひとりアドベントカレンダーとして、筆者の「マルチテナントSaaSのエンジニアリング」への経験をすべてアウトプットしていくカレンダーです。

今回は、マルチテナントSaaSにおけるデータ分析基盤について取り扱います。B2B SaaSにおいては、プロダクトの改善、顧客理解、ビジネス意思決定のためにデータ分析基盤が不可欠です。マルチテナント環境では、テナント横断での分析とテナント個別の分析の両立、データ分離の維持、スケーラビリティの確保など、独特の課題に直面するので、そのあたりについて触れていきましょう🏄‍♂️

データ分析基盤の必要性

データ分析基盤は、単なる技術的な仕組みではなく、ビジネスの成長を加速させる重要な資産です。特にマルチテナントSaaS(B2B)のプロダクトにおいては、以下のような観点でデータ活用が求められます。

プロダクト改善として

プロダクトの機能をリリースすれば、それがどの程度利用されているかをチェックすることは必要不可欠でしょう。

  • ユーザーの行動ログを分析し、利用頻度の高い機能・低い機能を特定
  • エラーログやパフォーマンスデータから品質課題を発見
  • A/Bテストの結果分析による機能の最適化

これらを即座に分析できることはプロダクトの成長においても非常に重要です。

カスタマーサクセスの用途として

マルチテナントSaaSにおけるカスタマーサクセスは、顧客のオンボーディングや利用活用を推し進める部門の一つです。カスタマーサクセスは下記のような顧客の利用状況をキャッチアップすることが必要になります。

  • テナントごとの利用状況を可視化し、アクティブ度合いを把握
  • チャーン(解約)の予兆を検知し、先回りでのフォロー
  • オンボーディングの進捗管理と改善

実際にはSalesforceなどを活用して可視化し、ヘルススコアなどを計測していることが多いですね。

ビジネスの意思決定として

いわずもがなではありますが、経営判断やロードマップ策定などにおいても非常に重要な定量データになります。特にマルチテナントSaaSにおいては、そのプロダクトのターゲット層によっても分析したいテーマなどが異なることもあるため、非常に重要な仕組みになります。

  • ARR、MRRなどのSaaSメトリクスの計測
  • 顧客セグメント別の収益性分析
  • 新機能のROI測定

SaaSメトリクスはエンジニアが知っておいても損がないのでぜひ覚えておきましょう。

マルチテナント環境特有の課題

データ集約とアーキテクチャの複雑性

Day3で紹介したデータ分離戦略では、テナントごとにデータベースを分離するケースやスキーマを分離するケースなどがありました。社内のデータ分析基盤では、これら複数のデータソースから集約したデータレイクやデータウェアハウスを構築する必要があります。異なるデータ分離アーキテクチャから効率的にデータを抽出し、統一的なスキーマで分析可能な形式に変換するETL/ELTパイプラインの設計が重要になります。

横断分析と個別分析の両立

マルチテナント環境では、全テナントを横断したプロダクト全体の分析と、個別テナントの詳細分析の両方が必要になります。

例えば以下のような分析ニーズが同時に存在します。これらを意識したDWHの構築が求められます。

  • 全テナント横断での機能利用率の分析(プロダクト改善に活用)
  • 特定の大口顧客における利用状況の詳細分析(カスタマーサクセスに活用)
  • 業界別・規模別などのセグメント分析(ビジネス意思決定に活用)

スケーラビリティとリソース管理

テナント数の増加に伴い、データ量も線形に増大します。さらにDay9で紹介したノイジーネイバー問題と同様に、特定の大規模テナントがデータ分析基盤のリソースを圧迫する可能性があります。

  • 大規模テナントのデータは別パーティションで管理
  • クエリの実行優先度制御やタイムアウト設定
  • インクリメンタルなデータ処理による負荷分散

といった個別の対策が必要になる場合が多いです。

セキュリティとコンプライアンス

データ分析基盤には顧客のさまざまな機密データが蓄積されるため、セキュリティとコンプライアンスへの配慮が不可欠です。本番環境のデータを分析環境にコピーする際には、個人情報のマスキングや匿名化を実施しなければなりません。GDPR等の規制に準拠する必要がある場合は必須となります。

またDay16で紹介した監査ログと同様に、データ分析基盤へのアクセスも記録・監視する必要があります。特に個人情報を含むテーブルへのアクセスは厳格に管理し、誰がいつどのデータにアクセスしたかをトレース可能にしておくべきです。

他社の事例

データ分析基盤については、どの企業においてもニーズが高く歴史が長いため、非常に多くの他社事例が存在します。おすすめの記事をいくつか紹介しておくので、ぜひ参考になさってください。

さいごに

データ分析基盤は、B2B SaaSの成長において不可欠な基盤の一つであることが伝わっていれば幸いです。さてここまで連載を続けてきた「マルチテナントSaaSにおけるエンジニアリング大全」もついに明日で最終日になります!👋

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