JAIST Tech サークル Advent Calendar 2025 の25日目の記事です。
はじめに
本記事では JAIST Tech サークル内で進めている「ホームページ制作」「技術記事執筆の取り組み」を例として、強制力やインセンティブが弱い学生サークルで、どのようにプロジェクトを推進するか という観点から、現時点における私の考え方や取り組みをまとめます。
私は現在修士学生ですが、学部時代から個人開発に加えて複数の企業・組織でエンジニアとして開発に関わってきました。その経験を踏まえると、学生サークルのプロジェクトは企業や研究室での進め方と前提が大きく異なると感じています。
そのため今回の内容は技術の詳細というよりもプロジェクトの進め方や組織的な工夫に焦点を当てた記事となります。同じように学生コミュニティや小規模な任意参加の組織で活動している方にとって、参考となる部分があれば幸いです。
学生サークルにおけるプロジェクト推進の難しさ
学生サークルのプロジェクトが止まりやすい背景には、次の3つの特徴があると考えています。
1. インセンティブが弱い
基本的には報酬や評価がなく、参加は各自の興味やタイミングに強く依存します。そのため「やりたい人がいれば進み、いなければ進まない」という構図が生まれやすいです。
2. 忙しさが読みにくい
多くの大学院生にとって優先度の高いタスクは研究活動、講義、就活です。これらの前提は共通認識である一方、個々の研究進捗や学会発表、講義・就活事情までは互いに把握することが難しいため、チームとしての稼働が予測しづらくなります。
ここでの具体例として、私自身のアドベントカレンダー執筆の遅延を挙げます。本記事は25日目の記事として公開していますが、別途担当していた1日目の記事が学会発表や期末試験のタイミングと重なっており、想定以上に時間が取れず実際の投稿は12月9日と後ろ倒しになりました。このように学生サークルの活動はどうしても優先順位が低くなりがちであるため、この程度のズレは起こり得ることを前提とした進め方が必要だと考えています。
3. 役割が自然に確定しにくい
強制力がないため「誰がどこまでやるか」「何から始めるか」が曖昧なままとなり、初動が遅れやすい傾向にあります。
なお、これはあくまで私の感覚ですが、学生サークルでのプロジェクトの動き方は企業活動よりも OSS の活動に近い部分があると感じています。私は OSS への貢献を不定期に行っているのですが、参加の動機や関与の濃淡、進捗の生まれ方に共通点が多く、前提として似た性格を持っているように思います。
停滞を防ぐために意識している3つのこと
これらの特徴に対して、私が意識しているのが次の3点です。
1. 目標を小さくする
一般論ではありますが、大きなゴールを一気に目指す形は学生サークルでは成立しにくいです。そのため、最初から目標を小さく分けて設計します。
ホームページ制作であれば、「他サークルの事例調査 → ページ構成の決定 → 各ページの内容整理 → テキスト内容の作成 → ページの実装」のように、具体的な作業単位が見える形に分解することを意識しています。これにより具体的な作業イメージを共有しやすくなり、参加のハードルを下げることが狙えます。
この段階で理想的な分業体制を作ることは目標にせず、まずは小さな単位でも確実に、最悪自分一人でも進められるくらいの心持ちで準備を整えることを優先します。
2. ゆるくても期限と内容を明示する
期限がないと進捗は生まれにくい一方、厳しい期限は参加の障壁になりやすいと考えています。そこでゆるめの期限と具体的な作業内容をセットで示す方針を取っています。「何を」「いつまでに」「どの程度まで」という情報で参加可否の判断がしやすくなり、結果として関わりやすくなると考えています。
また期限内での実現が難しいと判断した場合は躊躇なくスコープを縮小することも重要であると考えています。これにより進行の停滞を防ぎつつ、少しでも確実に進捗を生むことができます。遅延を許容するというよりは「小さくても前に進むこと」を評価するというメンタルモデルです。
具体例としてホームページ制作のデザインについて挙げます。当初はデザイン込みで実装を行う想定でしたが、期限内にサークル内で合意を取ることが難しい状況でした。そのためデザインは仮の形に留めて実装を進め、本格的なデザインは実装後に持ち越すことを決定しました。
3. まず自分が動き、状況を見える形で共有する
学生サークルでは最初から大人数が一斉に動くことは期待しにくいです。そのため発起人として、初期の推進力は自分が担う前提で動いています。
ホームページ制作ではデザインが期限に間に合わない場合、仮のデザインを当てて目標に合わせるなど、完璧よりも前進を優先する調整を行いながら進めています。
また継続的な進捗共有も意識しています。コミュニケーションはサークル全体として Discord が使われており、そこで継続的な状況共有をすることでプロジェクトへの関心を持ってもらえることを期待しつつ、参加ハードルの低下につながればと考えています。
事例:アドベントカレンダーを起点にした技術記事執筆
忙しい時期ほどサークル活動の優先順位は下がりやすいので、逆にアドベントカレンダーのように入口が明確なイベントを起点に技術記事執筆の流れを作ることを狙いました。
特に学生サークルでは「最初の一歩が重い」と動きが止まりやすいため、参加の最小単位は一人一枠で十分という前提を最初に共有しました。さらに枠が埋まり切らない可能性が参加への不安につながらないよう、空き枠は主催側でカバーする前提を示しつつ、完走の見通しを先に示すことで心理的安全性を作る意図がありました。
また執筆そのものだけを参加条件にしてしまうと初動の人数が伸びにくいと考えたため、テーマ相談やタイトル案の壁打ちといった軽い関与も歓迎する運用を明示しました。これにより「書き切る約束は重いが、相談から入るなら関われる」という入口を用意できたため、参加ハードルを下げられた感覚があります。
締切についても厳密に守る運用にはせず、「遅れても最終日までに投稿できればOK」という雰囲気を共有しました。学生組織においては期限の厳格さよりも途中離脱を防ぐ設計の方が重要だと判断したためです。結果として心理的なハードルは下がったと感じています。ただし、空き枠カバーやリマインドなど、主催側のフォローコストが増えることには注意が必要です。
結果として、外部から見える形での参加者は9人、Discord 上での相談を含めれば15人以上が活動に参加してくれています。記事の内容も学園祭での取り組みや研究を活かしたテーマなど、サークル初期の取り組みとしては十分にポジティブな手応えを得られました。忙しい合間を縫って記事を書いてくれたメンバーには本当に感謝しています!
おわりに
サークル活動を通して、技術より難しいのは 組織的な進め方 だと痛感しています。
ホームページ制作・技術記事執筆も、やるべきこと自体は比較的分解しやすいタスクです。しかし、学生サークルでは「強制できない」「報酬がない」「忙しさがバラバラ」といった条件が重なり、一般的な開発フローはそのまま通用しません。だからこそ、さまざまな工夫でプロジェクトを進めていくのが面白くもあり、私がサークルに参加してプロジェクトを進める主な理由でもあります。
まだすべてがうまく回っているとは言えません。ただ、アドベントカレンダーでの参加者が想定以上に集まったことは活動設計による大きな成果であり、今後の活動を後押しする結果を得られました。
「無理なく続く動き方」を模索しながら、これらの取り組みが JAIST Tech サークルをより賑やかなものにする一助となっていれば幸いです。