マーケットデザインの勉強をしている中で公共財供給メカニズムを学んだので振り返りも兼ねて記事にしました。本記事では理論について書いています。実装したプログラムについては別で記事にしようと思います。
1エンジニアの独学で作った記事なので間違った内容を含むと思います。遠慮なくコメントいただけますと幸いです。
【はじめに】
公共財とは
道路・公園・国防・外交・消防などを公共財といい、非排除的かつ非競合的な財・サービスのことを指します。
- 【非排除的】財やサービスに対する利用料(価格)を支払わない人の利用を排除できない、あるいは排除することが不可能なほどの費用がかかること。
- 【非競合的】誰かがその財やサービスを利用しても別の人に利用の制限がかからないこと。
ただ乗り問題
公共財の代表的な問題は「ただ乗り問題(free rider problem)」です。これを一言で表すと「自分は負担せず、他者の負担に便乗して利益だけを享受する行動」のことです。ただ乗り問題の例として以下に2つ示します。
例1:マンションの共用廊下の電球
あなたが住む10世帯のマンションの共用廊下の電球が切れたとしましょう。この電球は「公共財」です。
- 非排除的:電気代や交換費用を払わない住人や訪問者でも廊下を歩くことが可能
- 非競合的:誰かが廊下を歩いても、他の人の歩行は妨げられない
ここで各人は「自分が交換費用を払わなくても、誰かほかの人が払ってくれれば自分も恩恵を受けられる」と考えます。結果として全員が「誰かがやってくれるだろう」と様子を見続け、電球は誰も交換しないまま放置されてしまいます。
例2:公道の清掃
同じ通りに面した5軒の住民が、共同で通りの清掃活動を行う場面を考えます。この清掃は全員が恩恵を受ける「公共財」です。
- 非排除的:清掃費用を負担しない住民でも、きれいになった通りを利用することが可能
- 非競合的:誰かがきれいな通りを歩いても、他の住民の利用は妨げられない
公道の清掃は通りをきれいにできますが、参加者は「他の人が清掃してくれれば、手間ゼロできれいな通りの恩恵を受けられる」と考え、結果として全員が「自分一人くらいサボっても大勢に影響ない」と考えれば、誰も清掃しなくなります。
上記2例がただ乗り問題の例になりますが、他にもグループワークやプロジェクト、集合住宅のゴミ捨てなどもただ乗り問題として考えられます。
公共財供給問題とその定式化
公共財供給では以下の4つを取り扱います。この4項目を考慮してメカニズムを考え、公共財供給問題を分析し、ただ乗り問題の解決を模索します。
- 【ボーエン=サミュエルソン条件】公共財を最適に供給するための条件。
- 【予算均衡条件】公共財の費用徴収のための条件。
- 【個人合理性】不参加よりも参加した方が得をする性質、「参加制約」とも言われる。
- 【耐戦略性】正直に申告することが常に最適な戦略となる性質、嘘をつくことで得をすることがない性質。
【①ボーエン=サミュエルソン条件】
\begin{align*}
\pi(G) &= \sum_{i} v_i(G) - c(G) \\[2mm]
\frac{\partial \pi(G)}{\partial G} &= 0 \iff \sum_{i}^{n} v'_i(G) = c'(G)
\end{align*}
\begin{align*}
\pi(G) &:公共財の総利得 \\
v_i(G) &:プレイヤー\hspace{1mm}i\hspace{1mm}が公共財から得られる便益 \\
c(G) &:公共財の供給費用 \\
\end{align*}
- ボーエン=サミュエルソン条件とは、パレート効率的な公共財供給量を定める条件です。
- 解釈:公共財を1単位追加的に供給した際に、全プレイヤーの限界便益の合計 $\sum_{i}^{n} v'_i(G)$ と限界費用 $c'(G)$ が等しくなる水準 $G^*$ が、パレート効率的な供給量です。
- 公共財は非競合的なため、ある1単位の追加便益は「各プレイヤーの限界便益の総和」で評価します。これは私的財(限界便益の個人値=限界費用)とは異なる点であり、公共財供給問題の核心をなしています。
【補足】パレート効率的
「誰かの満足度(効用)を犠牲にしなければ、他の誰かの満足度を高めることができない」資源配分の状態を指します。無駄がなくなり社会全体の利益が最大限に引き出されている理想的な状態の一つです。
【②予算均衡条件】
$$
\sum_{i}^{n} x_i = c(G)
$$
\begin{align*}
x_i &:プレイヤー\hspace{1mm}i\hspace{1mm}の公共財供給費用の負担額 \\
c(G) &:公共財の供給費用 \\
\end{align*}
- 予算均衡条件とは、プレイヤーから徴収した負担額の合計が公共財の供給費用をちょうど賄える条件です。
- 解釈:政府(デザイナー)が赤字にも黒字にもならずに公共財を供給できる条件です。予算均衡条件が満たされないメカニズム(グローブスメカニズムなど)では、徴収額が費用を上回るか下回るかのどちらかになるため、実際の制度運用には追加的な財源調整が必要となります。
【③個人合理性】
$$
u_i \geq x_i \quad\text{(}参加後の利得 \geq 参加前の私的財保有量\text{)}
$$
- 個人合理性(参加制約とも呼ばれます)とは、メカニズムに参加することで各プレイヤーの利得が参加前と比べて下がらない性質のことです。
- 解釈:プレイヤーは「参加することで損をする」と分かっていれば、そもそもメカニズムに参加しません。個人合理性が満たされないメカニズムは、強制参加でない限り機能しません。例えばグローブスメカニズムでは、追加費用(クラーク税)の支払いにより、公共財の供給が自分にとって不利なプレイヤーは参加前より利得が低下する場合があります。
【④耐戦略性】
u_i(w_i = v_i,\, w_{-i}) \geq u_i(w_i \neq v_i,\, w_{-i}) \quad \forall\, w_{-i}
\begin{align*}
v_i &:プレイヤー\hspace{1mm}i\hspace{1mm}の真の便益\text{(選好)} \\
w_i &:プレイヤー\hspace{1mm}i\hspace{1mm}の表明する便益 \\
w_{-i} &:プレイヤー\hspace{1mm}i\hspace{1mm}以外の全員の表明 \\
\end{align*}
- 耐戦略性とは、正直に自分の真の選好を表明することが支配戦略(他プレイヤーの行動によらず常に最適)となる性質のことです。
- 解釈:耐戦略性が満たされない場合、プレイヤーは「嘘をつくことで自分に有利な結果を引き出せる」インセンティブを持ちます。これがただ乗り問題の本質でもあります。VCMでは各プレイヤーが「貢献額 $x_i = 0$」と申告することが個人的な支配戦略となり、パレート効率的な供給は実現されません。
公共財供給メカニズムの紹介と比較
前述の4項目(ボーエン=サミュエルソン条件、予算均衡条件、個人合理性、耐戦略性)を踏まえ、公共財供給問題を分析するための「メカニズム(≒アルゴリズム)」を4つ紹介します。登場する4つのメカニズムは下表になり、それぞれ別の記事でプログラムを用いて説明します。
| ボーエン= サミュエルソン条件 |
予算均衡 条件 |
個人合理性 | 耐戦略性 | |
|---|---|---|---|---|
| VCM | × | ⚫ | × | × |
| リンダール メカニズム |
⚫ | ⚫ | ⚫ | × |
| ボーエン メカニズム |
× | ⚫ | × | ⚫ |
| ピボタル メカニズム |
⚫ | × | × | ⚫ |
ここで、4つの望ましい性質をすべて同時に満たす公共財供給メカニズムは存在しません。「ただ乗り問題を避けパレート効率的な公共財供給を実現する」ことを目的とするならば、ボーエン=サミュエルソン条件と耐戦略性の2つを満たすピボタルメカニズムが現実的な選択肢となります。
プログラム実装編
各メカニズムのPython実装は以下のリンクをご参照ください。
サンプルプログラム
もし、ローカル環境でPythonの実行環境がない場合は、PaizaやCodeUtilityなどのWebの実行環境でコードを実行してみても良いかと思います。