はじめに
「月々の支払いが安い」「3年ごとに新車に乗り換えられる」――
そんな謳い文句で知られる残価設定型クレジット(以下、残クレ)。
その仕組みは一見合理的に見えますが、実は 「抜け出せない無限ループ」 のような構造を持っています。
今回は、プログラム的な視点から残クレの構造を読み解き、
なぜこの仕組みが「負のループ」を形成しやすいのかを考察します。
残クレの基本構造
残クレの仕組みをざっくり整理すると、以下のようになります。
ディーラーによって仕組みは様々ですし、買い取り価格保証などのオプションも設定されていたりしますが、細かな違いはいったん置いておきます(どんなプラン・オプションでも残クレの本質は変わりません)
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車両本体価格のうち、残価分(例えば車両価格の50%) を据え置き。
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月々の支払いは「本体価格-残価」の分を分割払い。
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残価は「数年後にまとめて支払う」か「次の車に乗り換えて先送り」。
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車両価値は経年で下がり、事故や傷、喫煙・汚れなどで減価リスクあり。
この「残価」がシステムの核心です。
安く見える月額の裏には「残価のリスク」が潜んでおり、これが後述するループの起点になります。
プログラムで表現する「残クレ地獄」
では、この構造をPythonでざっくり疑似コード化してみます。
def 残クレ(car_name, deposit, loan_amount, residual, interest, monthly):
# 頭金の支払い
payment(deposit)
# 車を買ったつもりでいるが、実際には自分の車ではない
# ついでに、「下取りに有利」とオプションてんこ盛りにさせられる
this_is_my_car_but_not_mine = new car_name(too_many_option)
# 残クレ無限ループの始まり
while true:
# 60回払い、原則的に中途解約は不可
for i in range(0, 60):
# 月々の支払い
payment(monthly)
# キレイに使う努力をしてみるが
try:
use_carefully()
except overdriving:
# 走行距離オーバーで減額
residual *= 0.8
except soiled_by_children:
# 車内を汚せば減額
residual *= 0.7
except market_fluctuation:
# 下取り相場が大崩れすることも
residual *= random.uniform(0.7, 0.9)
except car_accident:
# もらい事故でも査定額減額
residual *= 0.5
except smoking_in_car:
# タバコを吸えば残価激落ちくん
residual *= 0.3
# 60回ローン終了後、営業さんに勧められて新車に乗り換え
if want_replacement:
# 設定残価と下取り価格の差額を支払ってから再ローン
this_is_my_car_but_not_mine = replacement(remaining_amount - residual)
# 年利は再評価(たいてい上がることが多い)
interest = reassessment_credit()
elif i_dont_have_enough_to_pay_remaining_amount:
# 差額精算不可のため乗り換えもできず再ローン
loan_amount = residual
residual = 0
# 金利は爆上がり
interest = SUBPRIME_INTEREST
# 返済地獄のスタート
monthly *= 2.0
else:
# 乗り換えも再ローンも不可:自己破産で残クレ地獄からやっと解放
raise OverflowError
このコードが示す「抜け出せない構造」
コードにするためにだいぶ端折ってはいますが、ポイントは次の通りです。
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while True:
→ このローンには明確な終了条件がありません。支払いを終えて車を完全に手に入れるルートは「例外処理」にしか存在しない。 -
事故や減価リスクの罠
→ 普通に使っていても価値は下がる。事故や汚れで残価が下がると、さらに負担が増える。 -
「乗り換えループ」の誘発
→ 残価を払えない or 払いたくない → 次の車に乗り換える(新たな残クレ契約へ)。 -
「終わらない借金」
→ 実質的には「次のローンで前のローンを上書きする」の無限ループ。
なぜ人はこのループにハマるのか?
心理的な要因として、以下が考えられます。
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「月々の支払いが安い」という短期的快楽
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「最新型に乗り続けられる」という承認欲求の充足
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「総額負担」「資産価値の減少」に対する無関心
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複雑な金融構造に対するリテラシーの欠如
残クレを「賢く使う」ために考えるべきこと
残クレが絶対悪だとは言いません。
例えば、残クレの一般ローンに対する差額を持たないことに対するコスト と認識して利用する(いわゆるホリエモンスタイル)のは全然ありだと思います。
しかし、残クレの本質は複雑な金融商品を金融リテラシーの低い一般消費者に売りつけている ことであり、消費者側が長期的なシミュレーションをしないと損をする構造 であることは明白です。
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総支払額はいくらか?
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乗り換えを繰り返すことで資産は減らないか?
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残価設定は本当に現実的か?
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事故や減価リスクをどこまで許容できるか?
これらを計算せずに「月々安い!」だけで契約するのは、非常にリスクが高い選択です。
まとめ:「while True」に気づけるか
残クレの怖さは、「借金の完了」がシナリオとして設計されていないことにあります。
この怖さをどう表現しようかと考えていて、ふと思いついてプログラムで表現してみました。
プログラムが読める人なら、この仕組みが持つ無限ループ性 がより鮮明に見えてくるはずです。