はじめに
JISのG5502 球状黒鉛鋳鉄品やG5505 CV黒鉛鋳鉄品において、組織画像から画像処理により黒鉛球状化率を測定する場合、黒鉛の形状を丸み係数というパラメータで評価します。ここで、丸み係数は次式で定義されています。
丸み係数 = \frac{黒鉛の面積}{黒鉛の最大軸長を直径とする円の面積} (1)
式(1)を画像処理のライブラリOpenCVを使って求める場合、{黒鉛の最大軸長}を直接求める関数はありませんが、これに近い「黒鉛の最小外接円の直径」を求められる関数があります。このため、上式の分母を
丸み係数の近似値 = \frac{黒鉛の面積}{黒鉛の最小外接円を直径とする面の面積} (2)
と置き換え、「丸み係数の近似値」が「丸み係数」とほぼ同じであることを確認できれば、実用上は式(2)から丸み係数を求めればよいことになり、計算が容易にできます。そこで今回は、種々の形状の黒鉛に対して、式(1)と(2)の値を求めて比較しました。
検証1
JIS G5502のISO法ではISO 945-1の黒鉛形状図をもとにして黒鉛形状を分類するため、ここではISO945-1のFig.1のⅠ~Ⅵの黒鉛形状図について、個々の黒鉛に対して式(1)の丸み係数と式(2)の丸み係数の近似値を求めました。結果を下図に示します。図において縦軸は丸み係数で、横軸は丸み係数の近似値です。また、図の斜めの直線は
丸み係数=丸み係数の近似値
を表します。図より、丸み係数の近似値は丸み係数とほぼ一致していますが、ところどころに、直線から外れた点が見られます。これらは「丸み係数の近似値」<「丸み係数」となっている点です。
図 ISO945-1のFig.1の黒鉛形状図の個々の黒鉛の丸み係数と丸み係数の近似値の関係
検証2
実際の組織画像に対して、丸み係数と丸み係数の近似値を使って黒鉛球状化率を求めたときに違いが見られるか調べました。組織画像には次のURLのsample1~3を用いました。
結果を下表に示します。下表において、二列目と三列目はJIS G5502-2022のJIS法とISO法で求めた球状化率です。四列目と五列目は式(2)の丸み係数の近似値を使って得られたJIS法とISO法による近似値です。
JIS法の近似値はJIS法に比べて、ISO法の近似値はISO法に比べて、各ファイルとも1%程度低い値になっていることが分かります。
先日
https://qiita.com/_Moony/items/ec5beeaa1def4549b09a
で書いたように、JIS G5502-2022は従来の規格に比べて球状化率が低めの値になりやすいですが、式(2)の丸み係数の近似値を使うとさらに低い値になります(わずかですが)。式(2)の丸み係数を使って球状化率を求める場合、この点を理解した上でお使いになることをお勧めします。
表 JIS G5502のJIS法・ISO法による黒鉛球状化率(%)
ファイル名 | JIS法 | ISO法 | JIS法の近似値 (式(2)を使用) |
ISO法の近似値 (式(2)を使用) |
---|---|---|---|---|
Sample1 | 83.5 | 86.2 | 82.7 | 85.9 |
Sample2 | 82.8 | 89.5 | 81.9 | 88.8 |
Sample3 | 82.4 | 87.7 | 81.3 | 86.2 |