はじめに
今年(2022年)4月にJIS G5502 球状黒鉛鋳鉄品が改正されました。ここでは、改正前(G5502-2007)を旧規格、改正後(G5502-2022)を新規格と呼ぶことにします。これらの規格において、組織画像から画像処理によって黒鉛球状化率を測定する方法として、次のものが規定されています。なお、詳しい測定方法について知りたい方はJIS等でご確認ください。
新規格
JIS法:JIS G5505-2020 CV黒鉛鋳鉄品 と同じ方法です。
ISO法:次の①、②の方法があります。
①ISO945-1の黒鉛形状区分のタイプⅥおよびⅤに分類される黒鉛の全面積を、全黒鉛の面積で割って求める方法
②丸み係数が0.6以上の黒鉛の面積を、全黒鉛粒子の面積で割って求める方法
旧規格
組織写真等から黒鉛球状化率を測定する方法と同様な方法で行うと規定されています(画像処理の方法は規定されていません)。なお、組織写真等から球状化率を測定するには、旧規格の「黒鉛粒の形状分類図」のⅤとⅥの黒鉛数を、全黒鉛数で割って求めます。
新旧規格の球状化率の比較
同じ画像を用いて、新規格(JIS法、ISO法の②)と旧規格で黒鉛球状化率を求め、結果を比較しました。旧規格については、丸み係数のしきい値で形状ⅤとⅥの黒鉛を分類しました。用いた丸み係数のしきい値は0.4522)と0.423)で、これらのしきい値を用いる方法を旧規格A、Bと呼ぶことにします。
旧規格A:しきい値0.452
旧規格B:しきい値0.42
球状化率の評価に用いた最小黒鉛の大きさは、いずれの方法についても10μmとしました。
下表に結果を示します。新規格に比べて旧規格の球状化率が大きいことが分かります。特に、新規格のJIS法と旧規格Bの結果を比較すると、旧規格Bの方が約10%大きくなっています。
新規格のJIS法は以前NIK法と呼ばれていたものと同じです。NIK法で得られる球状化率は、旧JISで得られる球状化率に比べて10%程度低い値を取る4)ので、上記の約10%の差はこのことを表していると考えられます。一方、ISO法②においても旧規格に比べて大きいしきい値を0.6としているため、旧規格に比べて低めの球状化率になるのは否めないと考えられます。
表 新規格(JIS法、ISO法の②)と旧規格(丸み係数法)による黒鉛球状化率(%)
ファイル名 | 新規格 JIS法 |
新規格 ISO法の② |
旧規格A 丸み係数0.456 |
旧規格B 丸み係数0.42 |
---|---|---|---|---|
Sample1 | 83.5 | 86.2 | 91.3 | 93.1 |
Sample2 | 82.8 | 89.5 | 89.8 | 92.8 |
Sample3 | 82.4 | 87.7 | 91.8 | 93.5 |
プログラム
旧規格の球状化率の測定プログラム
https://github.com/repositoryfiles/Nodularity-G5502-2007
新規格の球状化率の測定プログラム
https://github.com/repositoryfiles/Nodularity
終わりに
JISでは、新規格、旧規格とも球状化率80%以上を求めています。新規格は旧規格に比べて低めの球状化率になりやすいので、新規格での球状化率を求められた際は注意すべきと考えます。なお、JIS G5502の7.6.1には、球状化率が80%未満の場合の合否判定についての記載があることからも、厳しい規格になったことが窺(うかが)い知れます。ご参考になれば幸いです。
参考
1)球状黒鉛鋳鉄品のJIS改正について, 鋳物, 59-5, 1987, pp.254-260
2)青木ほか, 画像解析を用いた球状黒鉛鋳鉄の黒鉛球状化率の評価方法, 近畿大学工学部研究報告, 55, 2021年, pp.1-6
3)斎藤, 画像処理による球状黒鉛鋳鉄品の黒鉛球状化率判定試験, 工業技術研究報告書, 50, 2022年, pp.42-44
4)新版 球状黒鉛鋳鉄品の標準顕微鏡組織写真集, 1996, (社)日本強靭鋳鉄協会, pp.2-4