はじめに:「PoCで終わる」呪いからの脱却
SIer業界や受託開発の現場で働くエンジニアなら、誰もが一度は経験する絶望があります。
「AIのPoC、成功しました!……でも本番化は見送りです」
半年かけて構築したAI機能。精度95%を達成し、デモも成功。
なのに、本番化の話が消え、プロジェクトは「今後の検討課題」として棚上げにされる。
これが 「PoC貧乏」 です。
検証は成功するが、MVP(Minimum Viable Product)に至らない、SI業界の構造的な病です。
なぜPoCは本番化しないのか?
PoCが頓挫する理由は、技術的な失敗ではありません。
- 「完璧を待つ」病: 現場の業務フローに100%合わせるため、精度99%を目指して延々と検証を続ける
- インテグレーションコストの高騰: 既存システムに組み込むための工数が見積もりから外れ、予算オーバー
- 現場の実感がない: デモは見たが、実際に使える「形」が見えないから、導入判断が先送りに
つまり、PoCの壁は「技術の壁」ではなく「スピードと形の壁」 なのです。
解決策:「精度80%」のMVPで勝負する
私が提唱するのは、「精度80%で十分、とにかく使える形でリリースする」 アプローチです。
AIの精度を100%にすることは、開発期間を指数関数的に増加させます。しかし、「人間のワークフローにAIを組み込み、人間が最終チェックする」 設計にすれば、80%の精度で十分に業務効率を改善できます。
そして、これを1〜2週間でMVPとしてリリースできる技術選定が、Next.js × Vercel AI SDKです。
技術選定の理由:なぜNext.js × Vercel AI SDKか?
1. フルスタックでAI機能を1ファイルで実装
従来のAI機能開発は、フロントエンド(React)→バックエンド(FastAPI等)→AI API(OpenAI)という多層構造が必要でした。
Vercel AI SDKを使えば、Next.jsのAPI Route(App Router)で完結し、**Streaming Response(逐次表示)**も簡単に実装できます。
2. インテグレーションコスト最小化
既存のレガシーシステム(Javaや.NET製)に、AI機能を「マイクロフロントエンド」として組み込む設計が可能です。
iframe埋め込みや、API Gateway越しの連携で、既存システムの改修を最小限に抑えられます。
3. デプロイの即座性
VercelへのデプロイはGit連携で完了。PoC環境を「URL付き」で即座に共有でき、現場の実感を得やすいのが最大のメリットです。
実装編:1週間で作る「AI業務支援MVP」
以下、実際の現場(例:「顧客対応履歴から要約を自動生成」)を想定した、最小構成の実装例です。
プロジェクト構成
my-ai-app/
├── app/
│ ├── api/
│ │ └── summarize/ # AI処理API
│ │ └── route.ts
│ ├── components/
│ │ └── Summarizer.tsx # UIコンポーネント
│ └── page.tsx # メインページ
├── lib/
│ └── ai.ts # AI設定
└── package.json
1. AI処理の実装(API Route)
Vercel AI SDKの streamText を使うことで、複雑なストリーミング処理を数行で実装できます。
import { streamText } from 'ai';
import { openai } from '@ai-sdk/openai';
export async function POST(req: Request) {
const { customerHistory } = await req.json();
// 精度80%を目指した、実用的なプロンプト設計
const systemPrompt = `あなたは顧客対応のプロです。以下の顧客対応履歴を、3行の要約にまとめてください。
【制約条件】
- 重要なキーワード(商品名、クレーム内容、希望)を必ず含める
- 不確実な情報がある場合は「(要確認)」と明記する
- 推測はせず、履歴に基づく事実のみ記載する
【出力形式】
1. [対応概要]
2. [顧客の感情・要望]
3. [次のアクション推奨]`;
const result = streamText({
model: openai('gpt-4o-mini'), // コストを抑えつつ、十分な性能
system: systemPrompt,
prompt: customerHistory,
// 温度を低めに設定し、再現性を高める
temperature: 0.3,
// 最大トークン数を制限し、コストとレスポンスタイムを最適化
maxTokens: 500,
});
return result.toDataStreamResponse();
}
2. フロントエンド実装(Streaming対応)
useCompletion フックを使うだけで、AIからのストリーミングレスポンスをリアルタイムに画面表示できます。
'use client';
import { useCompletion } from 'ai/react';
export default function Summarizer() {
const { completion, input, handleInputChange, handleSubmit, isLoading } =
useCompletion({
api: '/api/summarize',
});
return (
<div className="max-w-2xl mx-auto p-6">
<h2 className="text-2xl font-bold mb-4">AI要約支援システム(MVP版)</h2>
<form onSubmit={handleSubmit} className="space-y-4">
<div>
<label className="block text-sm font-medium mb-2">
顧客対応履歴を入力:
</label>
<textarea
value={input}
onChange={handleInputChange}
placeholder="ここに対応履歴を貼り付け..."
className="w-full h-32 p-3 border rounded-lg"
required
/>
</div>
<button
type="submit"
disabled={isLoading}
className="w-full bg-blue-600 text-white py-2 px-4 rounded-lg
hover:bg-blue-700 disabled:bg-gray-400"
>
{isLoading ? '生成中...' : '要約を生成(AI支援)'}
</button>
</form>
{completion && (
<div className="mt-6 p-4 bg-gray-50 rounded-lg border">
<h3 className="font-semibold mb-2">AI生成要約(確認用):</h3>
<div className="whitespace-pre-wrap text-gray-800">{completion}</div>
<p className="text-sm text-gray-500 mt-2">
※この要約はAIによる支援情報です。送信前に必ず内容を確認してください。
</p>
</div>
)}
</div>
);
}
3. エラーハンドリングと「80%精度」の設計
PoC貧乏を脱却する鍵は、「AIの失敗を想定したUI設計」 です。
AIが間違ったことを言っても、業務が止まらないようにします。
import { streamText } from 'ai';
import { openai } from '@ai-sdk/openai';
export async function POST(req: Request) {
try {
const { customerHistory } = await req.json();
// 入力検証(簡易版)
if (!customerHistory || customerHistory.length < 10) {
return Response.json(
{ error: '対応履歴が短すぎます(10文字以上必要)' },
{ status: 400 }
);
}
const result = streamText({
model: openai('gpt-4o-mini'),
system: `【重要】以下の点に注意して要約してください:
- 事実に基づかない推測は「(推測)」と明記
- 金額や日付は必ず原文を確認
- 不確実な場合は「(要確認)」を付加`,
prompt: customerHistory,
temperature: 0.2, // より確実な出力を優先
maxTokens: 400,
});
return result.toDataStreamResponse();
} catch (error) {
// 本番運用を見据えたエラーログ(ログ収集システム連携可能)
console.error('AI処理エラー:', error);
return Response.json(
{
error: 'AI処理中にエラーが発生しました',
// 現場では「エラーコード」で運用チームに通知
errorCode: 'AI_PROCESSING_001',
message: 'しばらく経ってから再試行してください'
},
{ status: 500 }
);
}
}
「精度80%」で現場が喜ぶ理由
実際に現場でこのMVPをリリースした際、驚くべき反応がありました。
「完璧じゃなくても、時短になる!」
- 従来: 要約作成に5分 × 20件/日 = 100分
- AI支援後: AI生成(10秒)→ 確認・修正(30秒)× 20件 = 約13分
80%以上の時間削減です。
精度が80%でも、残り20%の修正は人間の目でスルッとこなせるから、圧倒的に効率的になります。
重要なのは「AIが書いたものを鵜呑みにしない」UI設計です。「(要確認)」という明確なフラグと、人間の最終チェックを必須とするワークフロー設計が、精度80%を受け入れ可能にします。
本番化への最短ルート:1週間スケジュール
| 日 | 作業内容 |
|---|---|
| 月 | 要件ヒアリング(「どの業務が一番単純か」に絞る) |
| 火 | Next.js環境構築 + プロンプト設計 |
| 水 | API実装(Streaming対応)+ 簡易UI作成 |
| 木 | 現場テスト(3〜5ユーザーに試用) |
| 金 | フィードバック反映 + 軽微な修正 |
| 週末 | デモ環境公開(URL共有) |
月曜日には「使えるもの」を見せ、現場の「実感」を得る。これが、PoC貧乏から脱却するための最短の道です。
まとめ:「PoCのプロ」から「MVPのプロ」へ
SIer業界で生き残るためには、**「PoCは成功するが本番化できないエンジニア」ではなく、「1週間でMVPを作り、現場の生産性を上げるエンジニア」**になる必要があります。
Next.js × Vercel AI SDKは、それを可能にする強力な武器です。
さあ、今すぐ npx create-next-app して、現場を変えにいきましょう。
参考リンク
著者:@YushiYamamoto
株式会社プロドウガ代表 / フルスタックエンジニア。
「技術的負債は返せるなら背負え」がモットー。n8nとTypeScriptを駆使して、泥臭くも止まらない業務自動化システムを構築しています。
