エンジニアのジレンマ
「エンジニアなら、裏側まで理解してコードを書け」
かつてはそう言われていましたし、私自身もそう信じて疑いませんでした。
ライブラリに頼りすぎるな、黒魔術を使うな、車輪の再発明をしてこそスキルが伸びる——。
コードを書かないエンジニア、GUIでポチポチ設定するエンジニアは「技術力がない」、あるいは「手抜きをしている」とすら思っていました。
しかし、自分で法人を設立し、「経営者視点」 を持つようになってから、景色が一変しました。
今の私にとって、コードは「資産」であると同時に、強烈な「負債(メンテナンスコスト)」 でもあります。
コードの本質的コスト
エンジニアにとって、1,000行のコードを書くことは(仕様さえ決まっていれば)造作もないことです。気持ちよくキーボードを叩き、数時間で実装できるでしょう。
しかし、「書いたコード」は、書いた瞬間から「守るべき対象」に変わります。
- ライブラリのバージョンアップ追従
- セキュリティパッチの適用
- OSやインフラのEOS対応
- 書いた本人しか読めないロジックの属人化
その1,000行を、1年後に誰がメンテナンスするのか? 自分が病気で倒れたら誰が直せるのか?
そう考えたとき、「安易にコードを書くこと」は、将来の自分や組織に対する「借金」の発行 に他ならないと気づきました。
ハイブリッド戦略のススメ
そこで私が辿り着いた現在地は、「書くべき場所」と「書かざるべき場所」を徹底的に分けるハイブリッド戦略 です。
1. コアロジック・差別化要因 → ガッツリ書く (Code)
プロダクトの「魂」となる部分、競合優位性を生むUI/UX、複雑なビジネスロジック。
ここには TypeScript / Next.js を投入し、型安全性を担保しながら、フルスクラッチで最高の品質を追求します。ここはエンジニアの独壇場であり、妥協すべきではありません。
2. 定型業務・通知・連携 → サクッと繋ぐ (NoCode)
一方で、問い合わせフォームの通知、スプレッドシートへの転記、Slackへのアラート、定期実行バッチ。
これらは n8n や GAS、Zapier で十分です。
- n8nのワークフロー: 視覚的に処理が見えるため、非エンジニアのメンバーでも「ここを変えれば文言が変わるんだな」と修正可能です。
- フルスクラッチのコード: 修正にはGit cloneし、環境構築し、ビルドし、デプロイする必要があります。
明らかに前者の「運用コスト」の方が低い。
だからこそ、**「コードにする価値があるものだけをコードにする」**という選択が、リソース配分の最適化であり、正しい「経営判断」なのです。
「全部書く」からの卒業
変化の激しい現代において、「全部自分で書こうとしない勇気」こそが、持続可能なエンジニアリング組織を作ると信じています。
ノーコードツールは、もはやエンジニアの敵でもなければ、初心者のための玩具でもありません。
エンジニアだからこそ、APIの仕様や認証周り(OAuth)、データ構造(JSON)を深く理解しており、ノーコードツールの「限界」と「旨味」を誰よりも引き出せるはずです。
まとめ
「全部書く」のではなく、「書くべきものだけを書く」。
エンジニアがノーコードを使うのは、手抜きではありません。
技術的負債を最小限に抑え、ビジネスのスピードを最大化するための、高度な 「経営戦略」 です。
これが、経営者エンジニアとして私が到達した、現時点の最適解です。
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