Kumoが公開した解説記事は、Stanfordの調査を引用しながら、ある顧客が今後90日で注文をやめるかを予測するのに、データサイエンティストは平均12.3時間、878行のコードを費やしてきたと紹介している。米Kumo.aiが開発した KumoRFM(Relational Foundation Model) は、この工程を「PQL(Predictive Query Language)」という1行の問いに置き換える。企業のリレーショナルデータベース(relational database)を入力に取り、タスクごとの再学習をせずに予測を返す基盤モデル(foundation model、汎用の学習済みモデル)だ。2026年6月、NVIDIAがKumo.aiを買収したと報じられ、開発チームはNVIDIAへ合流した。
特徴量エンジニアリングが、密かに捨てていたもの
なぜ12.3時間もかかっていたのか。原因は特徴量エンジニアリング(feature engineering)にある。「過去90日の購入回数」のような変数を人手で設計し、1枚の表に平坦化(flatten)してからモデルに渡す作業だ。タスクが変わるたびにやり直しになるうえ、平坦化の過程で時系列の並びやテーブルのつながり(グラフ構造)という手がかりが失われる。単一テーブル中心のTabPFNと異なり、KumoRFMは外部キー関係を崩さず扱う。
DBを「グラフ」に読み替える――行はノード、外部キーはエッジ
KumoRFMは、リレーショナルDBを グラフ表現(graph representation) に読み替える。エクセルの複数シートを1つに潰さず、シートとつながりをそのまま渡すようなイメージに近い。変換規則は次の3つだ。
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テーブル はノードの「種類」になる。
usersとordersは別種のノードとして扱われる。 - 各行 は1つのノードになる。顧客も注文も、独立したノードだ。
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外部キー はノード同士をつなぐエッジになる。
orders.user_idがusersを指せば、注文ノードと顧客ノードの間にエッジが張られる。
多くのテーブルはタイムスタンプを持つため、「時系列・異種混在グラフ」になり、手がかりが消えずに残る。
「新人に前例を見せる」ように予測する――事前学習とin-context learning
予測を担うのは、GNN(Graph Neural Network、グラフ構造を扱うニューラルネットワーク)にTransformerを組み合わせた Relational Graph Transformer(RGT) だ。「どのテーブルの・いつの・どれだけ近い関係のデータか」を区別できるよう工夫されている。このRGTは あらかじめ学習(pre-train)済み のモデルとしてKumoから提供され、学習はここで完了済みだ。あとは推論時に、対象と似た過去の事例を見せてから問いかけるだけでよい。新しく配属された社員に、似た案件を数件見せて「これならどう判断するか」と聞くイメージに近い。この「事例を見せてその場で判断させる」やり方はLLMの few-shot に近い発想で、KumoRFM自身を作り直す(再学習=fit)必要がない点を zero-shot と呼ぶ。前者は推論時に事例を添える工程を、後者はモデルの再学習をしない点を指す、二段構えの言い方だ。数字を見ても壊れにくい。特徴量を大量に欠落させても性能低下はおよそ6%にとどまり(単一テーブル向けモデルでは約17%低下)、関係を表すエッジを75%取り除いても精度は安定したという。
PQLで1行問う――手動の特徴量エンジニアリングを超えられるか
KumoRFMでは PQL(Predictive Query Language) というSQLに似た言語で、Target(何を予測するか)・Entity(どの行か)・Horizon(いつまでか)の3要素を1行で書く。次の概念コードは、あるユーザーが今後90日間注文をしない(チャーンする)かを問うものだ。users_df・orders_dfは、それぞれ既存の顧客テーブル・注文テーブルをそのまま読み込んだデータフレーム(表形式のデータ)を指す。
import pandas as pd
import kumoai.rfm as rfm
# 認証(APIキーで接続。この時点でもモデルの「学習」は一切行わない)
rfm.init(api_key="YOUR_API_KEY")
# 1. 複数テーブルのリレーショナルDBを、そのままグラフとして登録する
# → 「テーブル=ノード型・行=ノード・外部キー=エッジ」に対応。
# from_data がテーブル間の主キー/外部キーを推論してリンクを張る。
graph = rfm.Graph.from_data({
"users": users_df, # 顧客テーブル(主キー: user_id)
"orders": orders_df, # 注文テーブル(外部キー: user_id で users に接続)
})
# 2. 事前学習済みモデルにグラフを渡す(タスク固有の再学習=fit は無い)
# → 「in-context learning で学習なしに予測」に対応。
model = rfm.KumoRFM(graph)
# 3. 「予測したいこと」を PQL で1行だけ問う
# user_id=42 が今後90日で注文0件=チャーンするか?
query = "PREDICT COUNT(orders.*, 0, 90, days) = 0 FOR users.user_id=42"
# 4. その場で予測が返る(結果は pandas DataFrame)
result = model.predict(query)
print(result)
print(result)を実行すると、user_id=42についてチャーンする確率を含む1行のデータフレームが返る。PREDICT COUNT(...) = 0 の集約条件を書き替えるだけで、チャーン予測は需要予測やレコメンドに切り替わる。特徴量を設計し直す工程が「問い方を変える」だけに縮む。精度は、Kumoの自己申告ではなく公開ベンチマークの数字で確認できる。RelBench(7つのDB・30タスクの公開ベンチ)のAUROC(予測精度を示す指標。RelBenchの表記に合わせた0〜100スケール。数値が大きいほど良い)は、人手の特徴量エンジニアリング+LightGBMが62.44だったのに対し、KumoRFMは学習なし(zero-shot)で76.71、微調整で81.14まで伸びる。従来手法を、KumoRFMは1つも学習せずに上回った。
3000万人のレコメンドを支える現場――DoorDashの本番運用
米フードデリバリー大手DoorDashは、3000万人規模のユーザーに対するレコメンドの改善にKumoRFMを用いており、エンゲージメントを1.8%高めたという。この数字はKumoの自社公表値で、Forbesによれば独立した第三者検証は限定的だ。前節のRelBenchはKumo・Stanford自身のベンチマークで、この数値自体は裏付けない。PQLの問い方自体は、DoorDashほどの規模でなくても同じように使えると考えられる。
使う前に押さえること、そして自社のDBに問いたいこと
KumoRFMの核心は、DBをグラフに変換し、事前学習済みモデルでin-context learningを行い、PQLの1行で問う――この3点に集約できる。ただしKumoのドキュメントは、予測には主キー・外部キー・タイムスタンプが揃っている必要があり、未来の情報が紛れ込む データリーク(data leakage) を避ける設計だと説明する。裏を返せば、スキーマの品質が予測の質を左右するということだ。コスト・セキュリティ・接続方法は本稿の参照資料だけでは確認できず、公式ドキュメントで確認してほしい。「特徴量エンジニアリングに12時間」だった構築が、「DBに1行問う」に近づく――基盤モデルの考え方が、テキストや画像を越えて企業のリレーショナルデータに届き始めた一例だ。自社のDBに、いま何を問いたいだろうか。
参考文献
- Kumo.ai 公式ブログ - Introducing KumoRFM: A Foundation Model for Relational Data - https://kumo.ai/company/news/kumo-relational-foundation-model/
- Kumo.ai - Predictive Modeling(RelBench AUROC・特徴量エンジニアリングの工数・海外実例) - https://kumo.ai/resources/learn/predictive-modeling/
- Kumo.ai Docs - Querying RFM(PQL: Target×Entity×Horizon・構文・クエリ例) - https://kumo.ai/docs/rfm/querying-rfm.md
- Kumo.ai Docs - Setup / SDK Getting Started(rfm.init・Graph.from_data・KumoRFM・predict) - https://kumo.ai/docs/rfm/sdk-getting-started.md
- Kumo.ai Docs - Setup Graph(LocalTable・stype・primary key/foreign key・link) - https://kumo.ai/docs/rfm/graph-creation.md
- Kumo.ai Docs - Introduction(pre-trained relational foundation model / no training required) - https://kumo.ai/docs/rfm/introduction.md
- The New Stack - Kumo AI's Foundation Models for Relational Data - https://thenewstack.io/kumo-ai-foundation-models/
- arXiv - Relational Graph Transformer(ICLR 2026) - https://arxiv.org/pdf/2505.10960
- arXiv - KumoRFM-2: Scaling Foundation Models for Relational Learning(頑健性の数値) - https://arxiv.org/pdf/2604.12596
- Forbes - NVIDIA Buys Kumo AI To Take Foundation Models To Enterprise Data(買収・独立検証への留保) - https://www.forbes.com/sites/janakirammsv/2026/06/10/nvidia-buys-kumo-ai-to-take-foundation-models-to-enterprise-data/
- Prior Labs - TabPFN(表データ向け基盤モデル・SAPによる買収の業界文脈) - https://priorlabs.ai/tabpfn
- Kumo.ai Docs - Which datasets should I use for my predictive query?(データリーク・時間アンカリング・スキーマ要件) - https://kumo.ai/docs/troubleshooting/which-datasets-should-i-use-for-my-predictive-query/