はじめに
この記事は、アジャイル開発に興味はあるけどLeSSを実践したことがない方に向けて、
- LeSS' Yoakéに参加する意義
- 初心者でも得られる学び
をお伝えします。
私はスクラムについては多少経験がありますが、LeSSはまだ一度も触れたことがありません。そんなLeSS入門すらしていない初心者の私が、LeSSのコンセプトを聞いたときにまず浮かんだのは、「大規模なアジャイルなんて本当に成り立つの?」「複数チームでスクラムをどう回すの?」という疑問でした。さらに、現在参画しているチームは少しずつ規模が大きくなっていて、単一チームでのスクラム運営だけでは今後難しくなるのではないかという不安もあります。そこで、今回のイベントでそのヒントを探したいと思い、せっかくの機会なので参加することにしました。
イベント概要
- 開催日:2025年10月20日(月)〜24日(金)
- うち、私が参加したのは 10/20 Learning Day、10/24 Deep Dive Day の2日
- 主催:LeSS Company / 運営サイト japan.less.works(会場スポンサー・スポンサー構成あり)
- 開催形態:東京オンサイト+プログラム
- 20日・24日はカンファレンス、21〜23日はトレーニング
イベントは、キーノート・ディープダイブ・オープンスペースで構成され、実践知と対話を通じて「組織全体のアジリティ」を考える場でした。
雰囲気はとてもフラットです。既に多くLeSSを実践されている方から私のような初心者まで多様な参加者がいて、「現場で困っていること」「普段疑問に思っていること」「理論と実践とのギャップ」といった様々な話題が、休憩時間中にも活発に繰り広げられていました。
セッションレポート(10/20 Learning Day)
1. Opening Keynote:Lv Yi「From local efficiency to global value」
Lv Yi 氏による講演。「部分効率から全体価値へ」というテーマで、サイロ化したチームから フィーチャーチーム(顧客価値を単位としたクロスファンクショナルなチーム)へ移行する重要性が語られました。
- サイロ化したチームでは、待ち・コミュニケーション不全・責任の押し付け合いが起こりやすく、結果として「全体の価値」が最適化されない
- 顧客価値を単位にしたフィーチャーチームにすることで、「どのチームがどの価値を届けているか」が明確になる
AI については、単なる作業効率化ではなく、マルチラーニングによる能力向上のために使うべきだというメッセージが印象に残りました。
AI活用のポイント
- 完成の定義(DoD)の精緻化や、技術的負債の理解・削減
- 異なる領域の学習をサポートし、チーム内のスキル分布を広げる
2. Sponsor Session:Can We Change Massive Legacy Systems?
Lean Force 社と RedHat 社による、「巨大レガシーシステムの変革は可能か?」をテーマにしたトークセッションです。
- 技術的負債・ドメイン知識の偏り・人の入れ替わりなどが積み重なり、基本的なプラクティス(テストコード、リファクタリング)すら難しくなる
- これを一気に変えようとするのではなく、小さな成功から始め、それを組織が評価する文化をつくることが重要
AI は、特に「前工程」での役割が強調されていました。
- 調査・理解・設計といったフェーズで新しい視点を与え、学習を促進する
- 変革を支える前提知識を速く揃えることで、チームの対話の質を上げる
また、組織側の役割として、
- マネジメント:技術的負債解消に取り組める「環境と時間」を保障する
- プロダクトオーナー:短期財務だけでなく、中長期的なリターンと技術的理解を持つ
といったポイントが挙げられていました。
3. Proposal Session:Paving the Way for Feature Teams! Multi-Team Product Backlog Refinement!
コンポーネントチームとフィーチャーチームの違いを体感するグループワークです。
- 仮想チームに分かれたうえで、代表者を集めて複数チームのリファインメントを疑似体験
- LeSS の「3種のリファインメント」が、チームをまたいだ共通理解づくりに効くことを実感しました
4. Sponsor Session:Three Case Studies of LINE Sticker Development
LINE スタンプ関連の 3 組織における改善事例から、大規模・多拠点・多国籍・職能型組織で LeSS をどう実装していくかが紹介されました。
印象に残ったポイントだけに絞ると:
- 多拠点・多国籍・職能型の組織では、局所最適や外部チーム依存からスピード低下・スケジュールの不透明さが生まれやすい
- ペア/モブプロ、チームコードレビュー、AI エージェントによる支援などを重ね、フィーチャーチームとして安定するまでには長い時間がかかった
- KPI ベースでエリアを3分割したところ、機能重複で管理コストやチームの意味が崩れ、最終的に機能ベースで2エリアに再編した
品質面では、
- QA への集中依存から、Acceptance Test や DoD による「前工程での品質組み込み」へシフト
- ただし DoD やテスト定義の運用には、引き続き改善余地がある
セッションレポート(10/24 Deep Dive Day)
1. Exploring the Organizational System
パスタやマシュマロを使った演習を通じて、ウォーターフォール的な進め方とフィーチャーチーム型アプローチの違いを体感するワークショップでした。
- 伝言ゲーム的な情報伝達
- チーム間で会話禁止
- 常に飛んでくる新しい指示
といった制約のもとで作業することで、「セクショナリズムが強い組織」のつらさがよく分かりました。
この演習からの学び:
- セクショナリズムが強いと、仕事量のコントロールが難しくなり、余計な作業や対立構造が生まれる
- 結果として、部門横断のコラボレーションが阻害され、全体最適から遠ざかる
- これを緩和するには、組織全体を俯瞰する視点と、情報の流れを意図的に設計することが必要
教訓
- セクショナリズムは、全体最適の最大の障害になりうる
- 伝言ゲーム型ではなく、直接対話できる情報の流れを設計する
2. Proposal Session:Systems Thinking Workshop
私と同じ会社・部署の本多さんによる、「システム思考」実践ワークショップです。
以前、社内で同様のワークをしたのですが、その際は、要素定義が曖昧なまま進めてしまい、あまり納得感のない図になってしまった反省がありました。
今回改めてワークショップに参加して感じたのは、
- 因果ループ図そのものの完成度ではなく、前提や観点をすり合わせながら対話する「場づくり」こそがシステム思考の本質だということ
- 図を描くプロセスの中で、「ここがよく分からない」「この因果は本当に正しいのか?」といった問いが生まれ、それ自体が現場の改善の出発点になる
登壇者視点の記事はこちらにまとまっています:
3. Proposal Session:What is Organizational Learning?
このセッションでは、組織学習を「Why に根ざした変化の仕組み」として捉え直すことに取り組みました。
ポイントは大きく3つです。
- 組織学習は「How(スキル習得)」ではなく、「Why(なぜ学ぶのか)」に軸足を置く
- 同じインプットでも、組織構造や文化、制約によって効果は大きく変わる
- 学びを一過性で終わらせず、評価やプロセスに組み込むことで、持続可能な変化にする
4. Closing Keynote:Viktor Grgic「How to Sell Adaptiveness」
Viktor Grgic 氏による講演。「変化への適応(アダプティブネス)をどう売り込むか」がテーマのキーノートです。
特に響いたのは、
- 目的は「説得」ではなく、相手の課題解決に一緒に向き合うこと
- エレベーターピッチ的な一発勝負ではなく、質問を通じて相手の状況を深掘りし、相手自身が気づきを得るような対話を重ねる
- LeSS の概念を押し付けるのではなく、自分の物語や過去の経験を語り、現状とのギャップを一緒に眺める
また、
- クライアントに合わせた「独自アプローチ」を作り込みすぎると、責任が過度に自分に集中し、モデルの専門家として身動きが取りづらくなるリスクがある
- 経営層と話すときは、株主・他部門との葛藤・プレッシャーなど、彼らの現実を理解し、共感を示す姿勢が前提になる
教訓
- 説得ではなく、相手の課題に一緒に向き合うスタンスを持つ
- LeSS を「教える」のではなく、物語を通じて興味を引き、対話の入口をつくる
- 意思決定を急がせず、教育と対話から始める
- 経営層の現実(制約やプレッシャー)を理解し、共感をベースに話す
学びと気づき
このカンファレンスで、LeSS に対する自分のイメージはかなり変わりました。
複雑なルールや仕組みではなく、出発点はとてもシンプルです。
-
教育と対話から始める
- 変革は「説得」ではなく「共通言語づくり」から
- 相手の課題を一緒に整理し、同じ前提で話せる状態をつくる
-
部分最適ではなく、全体価値を見る
- チーム単位の効率化だけを追うと、製品全体の価値が見えなくなる
- 共有バックログや同一スプリントは、「全体最適を見る仕掛け」として機能する
-
Feature Teams は小さな実験から始める
- いきなり大規模に再編しなくても、1〜2チームで共通バックログを試すなど、小さな実験からでも前進できる
-
AI は効率化ではなく「学習のため」に使う
- 効率化だけを目的にすると、「そもそもやらなくていい仕事」まで守ってしまう
- 知識の補完やコードレビューの観点学習など、マルチラーニングを加速するパートナーとして使う
-
組織学習は「なぜそれが必要か」を問うプロセス
- 施策や研修を打つ前に、「なぜ今この学びが組織に必要なのか」を言語化する
- その答えを、評価やプロセス設計にまで落とし込むことで、変化が続く
イベントに参加する意義
LeSS Conference に参加して強く感じた価値は、実践者と直接対話できることでした。
- LINE のセッションでは、機能ベースのエリア再編やクロスチームインターンシップなど、大規模組織ならではの工夫を具体的に聞けた
- Knowledge Hub やオープンスペースでは、「評価制度と価値観のズレ」「心理的安全性」など、自分の現場の悩みをそのまま相談できた
- Networking Party では、同じ課題を持つ仲間とつながり、「一人で悩まず、コミュニティで進めていけばいい」と思えた
また、「AI をどうアジャイルに取り込むか」というテーマについても、LeSS の文脈では一貫して 「効率化より学習」 が強調されていました。
これは、単なるツール導入ではなく、
組織の学習能力とアダプティブネスをどう高めるかを考えるきっかけになります。
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