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【炎上教訓】初日で批判殺到しサービス停止 データ倫理とSNSの闇 | FFXIVTrends【新規サービス開発者へ】

Last updated at Posted at 2025-07-25

はじめに

2025年7月16日に公開し、リリース後数時間で1万PVを達成。
しかし炎上の末、わずか1日も経たずサービス停止したWebサービス「FFXIVTrends」の開発者、Yukaperoです。
ここで言う「炎上」とは、いわゆる「炎上プロジェクト」ではなく、SNSでの炎上といったような、一般的な意味の方です。

本サービスの設計からサービス停止に至る一連の経緯は、これから新しいサービスや機能を世に送り出そうとしている方々にとって、何かしらの知見になり得るかもしれないと感じたので、自戒の念も兼ねて、ここに記録として残します。
また、エンジニアだけでなく、FF14プレイヤーで本件について経緯を詳しく知りたい方にも最適な記事となっております。

ITの技術的な話にも触れていますが、どちらかと言えばWebサービスの企画、設計、データ倫理寄りの記事となっていますので、その点ご了承ください。

本記事は、まず1〜4の章で事の経緯を事実ベースで説明し、5章以降で振り返りや考察、そして雑多な思いなどを綴る構成となっています。

思ったことや考察を片っ端から書き殴っていたら、文章力が低すぎてとんでもなく長文になってしまいました。
お急ぎの方は 1章,2章,3章,5章の最初 のみ読まれるとよいかもしれません。

1. どんなサービス?

モックサイト

「FFXIVTrends」はFF14(Final Fantasy XIV)というMMORPGに関連するWebサービスとして開発しましたが、Qiitaを利用されているエンジニアの多くは、FF14というゲームやオンラインゲーム自体に馴染みがないかもしれません。
また、「FFXIVTrends」は既にサービス停止しているため、なかなかイメージが掴みにくいと思われます。

スクリーンショット 2025-07-23 18.59.54.png
https://cattrends-n15ve37b0-yukapero-coms-projects.vercel.app/ja

そこで、サービスの雰囲気(UI)だけでも体験いただけるよう、テーマを猫に差し替えた上で、モックサイトとして「CatTrends」をこちらに用意しました。本記事を読み進めながら触っていただくと、より理解が深まるかと思います。

本家「FFXIVTrends」に対し、「CatTrends」には次のような特徴があります。

  • 全ての機能は実際には動作しません。あくまで 動作しているように見せかけたモックサイト であり、全てのデータが固定値です
  • できる限り元々の「FFXIVTrends」のUIやテキストをそのまま表示しています。ただし、炎上の原因となった部分は全て著作権フリーの「猫」に差し替えていますニャン
  • 言語切替え(英語への切り替え)機能は廃止
  • AI診断のレビュー文については、実際の診断結果から無作為に抽出したものを複数表示しています。レビュー文からわざわざ元の個人(キャラクター)が特定されることは考えにくい&万一特定されたところで害は無い判断
  • 「よくある質問」ページは、「寄付」の項目以外は公開当時そのままです
  • モックサイトの裏側のシステムは全て無料枠で収めてるので、(無いとは思いますが)アクセスが集中すると容易に落ちます。モックサイトを閲覧しなくても読める記事となるようにしているので、万一サイトが落ちてる場合でもご安心ください

大前提

まずはゲームに全く馴染みのない方であっても理解しやすいように「猫の例え話」を主軸に経緯を説明し、その後に実際の話に訂正する構成を取ります。

🐈 例え話 「猫が政府に管理されている世界」

この記事では、以下の少し特殊な設定を前提として話を進めます。

  • 猫の管理体制
    • 日本の全ての猫は、日本政府によって所有・管理されています。
    • 全ての猫は、政府のデータベースに登録されています。
  • 猫DBの仕様
    • 日本の全ての猫のほぼリアルタイムの写真、猫種、性別、名前、年齢、ファッションデータ(服、靴下、アクセサリ等)など、あらゆる属性のデータが含まれます。
    • 様々なファッションに身を包んだ猫の写真やデータで溢れかえっています。
  • 情報の利活用
    • 猫DBの情報は、政府運営のWebページで誰もが自由に閲覧可能です。
    • 主に 非営利という条件下で、自身のWebサイトやSNS、動画配信などで猫DBのデータを利活用できます。
  • 国民と猫の関係
    • 国民は政府から「猫を飼う権利」を購入し、ペットとして猫と暮らすことができます。
      • ただし、猫の所有者はあくまでも日本政府です。
    • 飼い主が希望すれば、貸与された猫の情報をWebから非公開にすることも可能です。
  • 猫ファッションの流行
    • 日本全国で、猫に様々な服装やアクセサリーを着用させることが流行っており、他の猫のファッションを参考にすることに需要が十分ある状況です。

さて、この世界で我々エンジニアが、猫DBのデータを基にしたサービスを開発しようと考えたとします。

サービス概要

猫のデータは政府のWebページから閲覧できますが、「特定の猫の情報をピンポイントで閲覧する」ことに特化しており、「他の猫のファッションを参考にする」という使い方をする上では、検索性や一覧性、統計性、そしてエンタメ性といった様々な面で機能が不足していました。
そこで、主にこの課題を解決するために開発したのが「CatTrends」です。
本サービスは、政府の猫データベースで公開設定されている猫関連データを収集・活用し、主に次のような機能を提供するものでした。

検索機能

特徴 参考
80万件以上の猫データを基に、ファッションアイテム・名前・猫種・性別・年齢などで絞り込み検索。条件に該当する猫を写真で一覧表示
猫写真クリックで詳細ページ表示。
写真に映る猫が身につけているファッションアイテムの詳細や、名前、猫種、性別などの詳細情報が確認可能.
その猫の属性に関連する他の猫の情報のレコメンド機能も
80万という膨大なデータ数は前例がないが、登録型で同じような機能を提供しているサービスは他にも多く存在する

ランキング機能

機能 参考
80万件以上の猫データをもとに、人気の猫ファッションアイテムをランキング形式で表示。
猫DB上で何匹の猫が特定のファッションアイテムを身に着けているかを基準にランキング化している。
ファッションアイテムの統計(人気アイテムの統計)を閲覧できる機能は猫界隈では初出

AI猫ちゃんファッション診断機能

機能 参考
政府管理のデータベースの猫ちゃん画像をもとに、AIが数百文字で面白おかしくファッションレビューを生成. 猫のテーマや、タグ付けも。自分の猫でも他者の猫でも、どの猫にも認証不要でレビュー可能な仕様
レビューはAI猫ちゃん診断一覧ページ及び猫詳細ページにて表示される。タグで絞り込み検索をすることも可能
診断した上でSNSでシェアすると、診断結果が表示された専用の画像とともにシェアできる機能を搭載
本機能も猫界隈では初出

お気に入り機能

他のと同列に並べるほどではない機能ですが、念の為...

機能 参考
検索ページや詳細ページなどで、猫画像上のハートボタンを押下することで、お気に入りに保存することができます。お気に入りはローカルストレージ(ブラウザ)上に保存する簡易的な仕組みです
お気に入りページにてお気に入りした猫を一覧表示可能

2. 炎上

サービス停止までの経緯

「CatTrends」のリリース後、大手猫情報サイトに「CatTrends」の紹介記事が掲載されたことで、アクセスが爆発的に増加。早朝の記事投稿から昼過ぎには、PV数が1万に到達。
平日の日中にもかかわらず、既に数多くの猫愛好家の方々の目に入ることになりました。

特に、自身の猫を検索してAIにレビューさせ、その結果をSNSで共有して楽しむという使い方をされる方が多く、数時間で数千件ものレビューリクエストがサーバーに送られました。
しかしその一方で、次のような意見がSNS上で数多く見られるようになります。
その中でも、特に多く見られた妥当なご意見は次のようなものでした。

  • 私の猫ちゃんが勝手に掲載/レビューされているのが不快
  • 猫データ削除申請が煩雑(本人証明のため政府のWebサイトでログインが必要)
  • AIが使われていること自体が不快

こうした意見が飛び交う中、想定を超えるアクセス数にサーバーが耐えきれずダウン。
Webサーバーを増強してサービスを再開したものの、さらなるアクセス数の増加に耐えきれず、しばらくして再度ダウンしてしまいました。
そして、次の理由でサービスを停止することに決断しました。

  • これ以上愚直にスペックを上げ続けるとポケットマネーが無限に溶けてしまう恐怖. サーバーダウンの主原因となっているロジックを見直したい
  • 一部のユーザーにとって不快なUXになっていることは十分理解の出来るものだったものの、サービスの根本の構造的に「嫌なら使うな」といったスタンスが取れないので、一旦止めるしかない

その後はX(旧Twitter)にてサービス停止を告知し、キャラクター関連のデータを削除。
気分を害された方々へ真摯に謝罪しつつ、ユーザーからのお問い合わせ対応に追われることとなります。

憶測と勘違いに基づく批判

先ほどの至極妥当な批判に加え、憶測や勘違いに基づく次のような批判も多く見られ、それらの投稿がSNSやその他媒体を介して広く拡散されることとなります。
念のため、これらの批判に対する私の見解も併記しておきます。

❌ 憶測や勘違いに基づく批判 ✅ 開発者の見解
著作権/規約違反 政府の著作物利用条件において、特定の条件下でネット上で利活用することが認められています。本記事の本質ではありませんが、念の為、後の章で深掘りします。
政府のWebサイトに誘導してIDとPWを抜いてる(フィッシング) 単なる政府公式サイトへの外部リンクです。当サイト上でIDやPWを入力させることは一切ありません。(設置した外部リンクですが、政府公式サイトに未ログインのユーザーは、政府サイト側の仕様で政府サイト上のログイン画面にリダイレクトされるため、フィッシングサイトだと勘違いを誘発してしまったようです)
アフィリエイト(営利目的) 広告ゼロ・課金要素なし。サービスに掛かる費用はポケットマネーから捻出しています(血反吐)。そもそも著作物の商用利用は規約で禁じられています。
AIの学習に使われている 学習に使われないGemini API(有料)を使用しており、レビュー時にもその旨を明記していました。
詐欺 完全無料で利用可能です。何を指して「詐欺」とされているのかは不明です。
大手猫情報発信サイトに金払って記事掲載 プロモーションのために記事掲載を依頼したのは事実です。宣伝大事。金銭のやりとりは一切ありません。(そもそも情報発信サイト的には、個人からの端金よりもネタ自体にずっと価値があるのでは)
Webスクレイピングが違法 規約的にも法的にもWebスクレイピング自体は禁じられていません。ただし、結果的にサーバーへ過剰な負荷が掛かった場合に業務妨害罪が適用された例はあります。実行する場合はサーバーに負荷が掛かりすぎないように節度を持って行う必要がありますが、どこからがアウトかの明確な基準がないのが現状。

第二次、第三次ソースに基づく批判と、SNSの集団心理

憶測や勘違いに基づく批判が拡散された結果、それらの歪んだ情報に基づく新たな批判や誹謗中傷が生まれ始めました。
本当にあった分かりやすい事実無根の例が、こちらです。

「最初はアフィリエイト広告があったけど、途中で消えた」

FF14著作物の商用利用は規約で禁止されており、私はアフィリエイト広告もその一環だと解釈しています。
しかし、自ら一次情報を確認したわけでもない「誰か」の発言が、SNS上ではあたかも事実かのように拡散されていきました。そして、 「アフィリエイト?人様のデータで金稼ぎはアウト!このサービスを使うな!」 といった、その不正確な情報に基づいた批判が蔓延し始めたのです。
さらに、それらの情報を基にして、より歪んだ批判が生まれるという負のサイクルに陥ります。
あまりに目に余るデマについては、私もSNSで誤りであると訂正を試みましたが、やり方が悪かったのか、残念ながら広く認知されるには至らなかったように思います。

※その他、単なる誹謗中傷や人格否定、レッテル貼りなどもありましたが、読者の皆様の学びになるものではないため、ここでは割愛します。

3. CatTrends -> FFXIVTrends

ここまでの「CatTrends」の例え話を、実際の「FFXIVTrends」に置き換えると次のようになります。

CatTrends FFXIVTrends
Final Fantasy XIV(MMORPG、オンラインゲーム)上のキャラクター。ユーザーが作成し愛着を強く持つユーザーが多いが、全ての権利はスクウェア・エニックスが持つ
AI猫ちゃん診断 「AIミラプリ診断」 FF14におけるファッションは「ミラプリ」と呼ぶと考えて結構です
日本政府 FFXIV を運営するスクウェア・エニックス。
政府公式猫ちゃんWebページ スクウェア・エニックス運営の公式コミュニティサイト「ロードストーン
猫ファッションアイテム ゲーム内でキャラクターに装備可能な武具.
著作物利用規約 ファイナルファンタジーXIV 著作物利用条件
大手猫情報発信サイト FF14の5chまとめサイト(兼FF14専門ニュースサイト). 膨大なアクセス数を誇っており、FF14プレイヤーで知らない人はいないレベルなんじゃないかと思います

4. 著作物利用条件の解釈について

この章は、本件を理解する上での前提となる規約の話です。しかし多くの方にとっては退屈で、しかも炎上の本質からは実は少しずれています。
そのため、 「筆者は、規約上は問題ない、と解釈している」 という点だけご理解いただければ、読み飛ばしていただいても構いません。

ここでは、感情的な要素は一旦置いておいて、最もお問い合わせの多かった「他者のキャラクターデータを自身のサイトで利用してもよいのか?」という点にフォーカスして話を進めます。
なお、これは飽くまでも私の解釈を説明するものであり、ここに記述されている内容が必ずしも正しいとは限りません。
規約に関する意見を発信する際は、必ず一次ソースを自らの目で確認し、ご自身の判断を持つようにしてください。

他者のキャラクターデータを利用してもいいのか?

FF14の著作物を自身のサイトや作品で利用するには、私が把握している限り、以下の規約を考慮する必要があります。
特に3つ目の著作物利用条件が重要です。

※このセクションでは上記ページの内容を一部抜粋しますが、都合の良い部分のみの引用となっている可能性があるので、是非ご自身の目で一次ソースをご確認ください。
※以下2025年7月24日時点での情報です。規約は予告なく変更されることがあります。

本件に関連する、重要な項目を抜粋していきます。

スクウェア・エニックス アカウント規約 第3条

第3条 本規約の範囲

  1. 当社が、本規約の他に別途定めるアカウントに関するご利用上の注意等の一切についても、その名目の如何に関わらず、本規約の一部を構成するものとします。
  2. 各対象サービスの利用にあたっては、各対象サービスの規約が本規約およびCrysta規約に優先して適用されるものとします。

スクウェア・エニックス アカウント規約の内容は、各対象サービス、つまりFF14側の規約が優先されると明言されています。

ファイナルファンタジーXIV 利用規約 第9条

第9条 プレイヤーデータ

  1. ユーザーは、当社のサーバーに蓄積されたユーザーのプレイヤーデータその他の情報について、いかなる知的所有権、請求権その他何らの権利も有しないものとし、それらを複製、頒布、その他利用する権利及び削除する権利を当社又は当社の指定する管理者に与えたものとします。
  2. 前項に基づく当社の権利行使には、ユーザーのプレイヤーデータを、ウェブ上に随時公開することも含まれるものとします。

私たちが直感的に「自分のもの」だと思っているキャラクターデータは、実は全ての権利をスクウェア・エニックスが握っており、ユーザーには何の権利も無いからよろしく!といった内容の規約です。
また、スクエニが指定する管理者に一部権利を与えることが示されていますが、これは後の「ファイナルファンタジーXIV 著作物利用条件」に繋がる話となります。

加えて、プレイヤーデータを自由にWeb上で公開することも宣言されています。
一つ目の項目で権利の所在は十分示されているはずですが、敢えて二つ目の項目で「Web上での公開」という具体例を挙げているのは、ロードストーンでのキャラクター詳細ページや、ディープダンジョンの公式ランキングなどで、ユーザーのキャラクター情報を表示することへの正当性を強調するためではないかと思います。
これは今回の炎上とも少し関連すると考えていて、スクエニは「ユーザー情報をWeb上で公開されることに抵抗のあるプレイヤーは少なくないだろう」と予想し、予め解釈の余地が少ない具体的な形で釘を刺す意図があったのではないかと推測しています。

ファイナルファンタジーXIV 著作物利用条件 第1~2条

  1. 利用できる形態
    ホームページやブログ等の外部サイト、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、動画配信サービス等で公開するインターネット上でのご利用(以下「ネット上の利用」といいます)
    ...
  2. 利用できる著作物(以下「本著作物」といいます)
    ...
    ファイナルファンタジーXIV公式サイト、公式フォーラム、および関連サイト内に掲載されているテキスト・情報・画像・動画
    ...

ロードストーンは、「ファイナルファンタジーXIV 公式関連サイト」に分類されると解釈するのが自然でしょう。
よって、ロードストーンに掲載されているテキストや画像などの著作物は、Webサービスを含む様々な形態で利用が認められていることが分かります。
分かりやすい例で言うと、ロードストーン上で公開されている装備アイコンなんかはよくファンサイトで利用されるのを見かけますね。

ロードストーンで公開されている情報には当然キャラクターデータも含まれるため、「公開されている他者のキャラクターデータを利用」してもよい、と解釈することができます。
ただし、利用にあたっては主に次の条件に従う必要があります。

著作物利用条件

  1. 本著作物の利用条件
    ① すべての利用形態に共通する条件
    (1) 商用・営利目的に利用することは禁止です。なお、「商用・営利目的」とは、利益の有無を問わず、現実社会において何らかの価値のある対価、報酬、謝礼を受けること及び、宣伝や広告に利用することをいいます。
    ...

(3) 本著作物を利用する際には、利用形態ごとに定める権利表記を付記してください。

要するに、

  • FF14の著作物を使った金稼ぎは禁止
  • 権利表記(© SQUARE ENIX)をちゃんと記載してね

といった内容です。まあ当然なので、ここでは深掘りしません。

0か1かで片付けられる話ではない

※飽くまでも持論です。
ここまで厳密な規約の話をしてきましたが、別の視点からも考えてみたいと思います。
それは、規約に反しているように見えても、黙認されているケースです。

結局のところ、スクエニとしては、ユーザー側からもFF14コミュニティを盛り上げてもらえるとビジネス的に美味しいため、著作物の利用を指定の条件の下で許可しているのだと考えられます。

ファイナルファンタジーXIVゲーム内およびファイナルファンタジーXIV関連サイトで使用または配布している著作物を、ファイナルファンタジーXIVのコミュニティ形成を支援することを目的として、二次的にご利用になる場合は、本条件をよくお読みになり、すべてに同意された上で行ってください。

二次創作物がFF14のブランドを貶めるようなものでなく、コミュニティ形成に一定の貢献をしている場合、たとえ規約に何かしら反している可能性があったとしても、コストを掛けてまで厳しく取り締まることは、かえって自分の首を絞めることになりかねません。

逆に言えば、規約違反ではなかったとしても、

(7) 株式会社スクウェア・エニックス(以下「当社」といいます)から依頼のあった場合には、遅滞無く著作物の掲載、利用を中止していただきます。

こうした包括的な規約を設けることで、クリエイターを都合よくコントロールできる状態にしているとも言えます。

よって、この章で得た知識だけで0か1かの判断に終始し、他のFF14著作物利用者の重箱の隅をつつくようなことは控えていただければと思います。
いわゆるグレーゾーンや軽微な規約違反をすべてなくすことが、必ずしもスクエニを含めたコミュニティ全体にとって良いこととは限らない、という考え方です。
※だからといって積極的に規約違反をしてよいということには全くならないので、くれぐれもご注意ください。

あまりにも目に余るものがあれば、直接指摘するのではなく、スクエニに報告して判断を仰ぐのが賢明でしょう。

5. 問題点・教訓・考察

最大の問題点

さて、前の章では長々と著作物利用の「ルール」について掘り下げました。
しかし、今回の炎上の主な原因は、規約云々とは全く別のところにあると考えています。
(長文を真面目に全て読んでくださった方、ごめんなさい!!)

なぜなら、後に掘り下げますが、言葉を選ばずに言えば 「誰も規約を読んでない」 からです。
炎上の元となった否定的な意見を見ると、前の章で挙げた規約を前提とした意見が見当たりませんでした。
肯定派の中には極一部、規約に触れている方もいらっしゃいましたが、それでも大半は否定派と同様に、規約を前提とした意見ではなかったように思います。
したがって、規約違反の有無にかかわらず、今回の炎上は避けられなかったでしょう。問題の本質はそこにはないと、私は考えています。

では何が問題だったのか?
私が考える最大の問題は、

オプトアウト × センシティブ領域

という「混ぜるな危険!」をしてしまったことだと考えています。

オプトアウト方式とは

情報を受け取る側が、事前に同意することなく、情報を提供する側からの一方的な情報提供を受け入れる方式。情報提供の停止は申請式

今回のケースに当てはめると、ユーザーの同意を得ずにキャラクターデータをWebサービスで利活用し、削除は希望者のみ受け付ける、という仕組みを指します。
先述の通り、規約上はキャラクターはスクエニのものであり、ユーザーの許諾をわざわざ得る必要はないと解釈していましたが、そんな理屈やルールは関係がありません。
規約的にキャラクターがスクエニのものだろうが、プレイヤーは自身のキャラクターをゲーム上で好き放題できるわけで、これは実際の自身の所有物と体感的に変わらないものであり、自身のキャラクターを「自分のもの」と認識している方がずっと自然だからです。
その感覚的に「自分のもの」を、見ず知らずの他人が許可なく勝手に扱っていたら、不満に思うユーザーが出てくるのは自然です。

さらに付け加えると、一部のユーザーにとって、キャラクターは単なる「自分のもの」というだけでなく、非常にセンシティブな存在なのです。
他のMMOがどうかは分かりませんが、少なくともFF14では、自分のキャラクターに強い愛着を持つユーザーが少なくない印象です。
前の章でキャラクターをペットの猫に例えましたが、まさにそんなイメージでしょう。
その愛する我が子のような存在を汚されたと感じた一部ユーザーの不快感は、友達に弁当を勝手に食べられたり、ビニール傘を勝手に使われたりするのとは比べ物にならないほど大きいものとなります。

加えて、昨今では話題の絶えないAIもまた、センシティブな扱いが求められるテーマです。
AIに対する風当たりは一部の界隈で非常に強く、AIの使われ方以前に、AIという存在自体に嫌悪感を示す人も少なくありません。AIを使ったサービスが続々と登場していますが、その利活用には多くの開発者が苦心されていることでしょう。

ただでさえデリケートでセンシティブな領域に、最悪の相性であるオプトアウト方式をぶち込んでしまったのです。
一応、そのような方針を取った理由(言い訳)はありますが、あまり読者の皆様の学びになるものではないので、雑記の章で少し触れたいと思います。

仮にセンシティブな領域でなかったとしても、油断は禁物です。
私たち人間は一人ひとり価値観が異なり、何がセーフで何がアウトか、何が好きで何が嫌いかの基準は千差万別です。
あのHIKAKINにもアンチがいるように(私は尊敬しています)、万人受けするサービスというのはほとんど夢物語でしょう。
オプトアウト方式の場合、サービスを快く思わない層も強制的に巻き込むことになるため、程度の差こそあれ、衝突は避けられなかったのです。

否定派の声 >>> 肯定派の声

肯定派よりも否定派の方が声をあげやすく、その声が広まりやすい、印象に残りやすい、いわゆるネガティビティ・バイアスが存在します。そのため、たとえ8割のユーザーが満足していたとしても、残りの2割の否定的な意見が、あたかも全体の総意であるかのように見えてしまう現象が起こり得ます。そして、これはサービスにとって致命傷になりかねません。
この現象が一度発生すると、肯定派は「自分の意見は少数派で、世間とズレているのかもしれない」と感じてさらに発言を控えがちになります。それだけでなく、自身の考え方も否定的な意見に引っぱられ、結果としてさらに否定派が勢いを増すことにも繋がります。

今回のサービスの賛否が実際にはどの程度の割合だったのかは分かりません。
実はほとんどが肯定派だったのかもしれませんし、逆にほとんどが否定派だったのかもしれません。

ただし、あくまでも参考までにですが、最も物議を醸した「AI診断機能」は、実績値として1万PVに対して約3000回の診断が行われており、PVに対する利用率としては非常に良好でした。
ただこれは、下記の仮定と推測に基づいています

  • 診断の実行回数にはシステム的に制限を設けていたため、少数のファンが数を稼いだとは考えにくい
  • AI診断に抵抗感のある人がわざわざ実行するとは考えにくい

この実績値だけを見れば、大好評と言っても差し支えないかもしれません。
しかしながら、純粋にサービスを楽しんで頂けている方ももちろんいらっしゃいましたが、世間の印象は「否定的な意見が大勢である」と感じられた方がほとんどであったと思います。
本サービスにおいても、多少なりともネガティビティ・バイアスが働いてしまったのではないか、と推測しています。

ただし、何もここで本サービスの実際の満足度について考察したところで意味がありません。
重要なのは、集団心理、ネガティビティバイアス、そしてSNSや人間の特性上、起こりやすい現象を警戒しておくに越したことはないということです。

このような性質も考慮し、特にオプトアウト形式のサービスを開発する方は、否定的な視点も十分に考慮したサービス設計が求められるでしょう。
「使いたい人だけが使えばいい」というスタンスはオプトアウト方式では通用しないのです。

思想の多様性

前のセクションと重なる部分もありますが、私個人の話をすると、

  • 自身で情報の公開・非公開を選択できる状態であること
  • 法や規約に違反していないこと(と解釈できる余地があること)

という前提さえ満たしていれば、「公開情報が他所で同意なく使われたとしても、それは自己責任の範囲内だろう」と考えていました。
しかし、それは飽くまでも一個人の思想に過ぎず、それだけを頼りに物事を進めると、世間の感覚からズレてしまうリスクを孕んでいます。
そして、そのズレに対して、一部のユーザーは非常に敏感に反応するのです。

チーム開発であれば、個人の思想は自然と平均化され、世間から大きくズレるリスクは低減されるでしょう。
今回は個人開発で、誰にも相談せずに作り上げた結果、そのズレが顕著に表れてしまったのだと思います。

たとえ個人開発であっても、企画段階で(できれば知人ではなく、様々な属性を持つ第三者に)意見を求めることで、この種のリスクはかなり減らせるのかもしれません。

「前提」のズレ

そもそも私の思想の前提であった「自身で情報の表示非表示を選択できる状態&法や規約に触れていない」ということが、一般的にどれだけ認知されているのか、という点への考慮が足りませんでした。

  • ロードストーンでは、自分のキャラクターデータがデフォルトで公開されていること
  • 希望すれば、非公開に設定できること
  • そもそも、キャラクターに関する一切の権利はユーザー側にはないこと
  • FF14著作物利用規約が存在し、一定の条件下で素材を二次創作に利用できること

規約を前提としない著作権云々のお問い合わせが非常に多かった事実からすると、本サービスが規約に則しているか否かに関わらず、これらは、恐らくほとんどのプレイヤーに知られていないことでしょう。
私はFF14の著作物を利用する側として、権利者であるスクエニに迷惑を掛けないよう、規約を読み込み、自分なりの解釈を持つ必要がありました。
また、開発の過程でロードストーンの仕様についても自然と詳しくなりました。
しかし、大半のユーザーは純粋なFF14プレイヤーであり、ゲームを楽しむ上で著作物利用規約など読む機会はありませんし、加えてロードストーンを積極的に利用するユーザーは極極一部です。
よって、直感的に「人のキャラクターデータを勝手に使うなんて、NGに決まっている」と考えてしまうのはいたって自然です。私も純粋なFF14プレイヤーだったとしたら、直感的に同じことを感じたことでしょう。
このサービスの主な利用者層がそうした純粋なFF14プレイヤーであることを踏まえると、彼らの視点こそが最も重視すべき前提です。しかし、今回のサービス設計ではその点が軽視されてしまっていたのです。
俗に言う「ユーザーファースト」の視点が、決定的に欠けていました。

法や規約の問題が炎上の直接的な原因ではなかったとしても、ユーザーの不快感や批判に大きく拍車をかける一因となったのは間違いなく、到底無視できない問題です。

よくある質問ページ? そんなの関係ねぇ!

前のセクションで、「規約を知らないユーザーの前提」を「軽視」してしまったと書きましたが、実は全く考慮していなかったわけではありません。
例えば、批判の中で特に目立っていた「著作権違反」という指摘については、よくある質問(FAQ)ページの冒頭で次のように明言していました。

image.png

が、悲しいことに、ほとんどのユーザーがこのページを確認することはなく、FAQは存在しないも同然でした。
※FAQページへのリンクはヘッダーに大きく(そしてフッターにも小さく)設置していたので、導線自体が不足していた可能性は低いと予想

image.png
image.png

意外だったのは、ユーザーにとって手間であるはずのお問い合わせフォーム経由のフィードバックでさえ、「よくある質問」を全く読んでいないと思われる内容の投稿が非常に多かったことです。
その原因として、次のような点が挙げられると考察しています。

  • めんどい!
    • 私も説明書とかFAQページとかよっぽどのことが無いとメンドイので一切見ません!(キリッ) フィーリングで何とかなるやろ
  • とにかく、いち早く不快感を発散させたい
    • 人間誰しも、不快感を覚えると感情的になるものです。その感情を発散させる手段として、いち早く運営に直接思いをぶつけるのは確かに効果的です
  • あの人がそう言ってた!それが真実!
    • 「他の皆や、自称有識者がそう言っているのだから、それが事実に違いない。サイト側の"言い訳"なんて読む価値もない」
  • 見たかったけど、その頃にはサービスが停止していて見れなかった
    • これが、前述の「第二次、第三次ソースに基づく批判」にさらに拍車をかけた面もあります。
  • (石を投げること自体が目的になっている人)
    • こうした人々はどこにでも現れるので、ノイズとして諦めて無視するしかありません。強いて言えば、石を投げる隙を極力与えないことでしょうか

後ろめたい部分はFAQページで補足したから良いでしょ?という考え方はあまりにも不十分で、甘過ぎました。

一般的な認識とサービスの実態がズレている可能性が高い機能については、利用規約への同意を必須にするなど、何かしら強制的に読ませる仕組みを導入する方が安全かもしれません。
それでも読まない人は必ず現れるので完璧な対策とは言えませんが、何もしないよりはずっと良いはずです。

デマ情報が拡散される主要因は開発者側にある

SNSで誤った情報が拡散されてしまったことは先述の通りですが、もしかしたら「デマで叩かれてかわいそう」と同情して頂けた方もいらっしゃっるかもしれません。
しかし、少なくとも本件においては、デマ情報が広まる主要因は開発者側、私にあったと考えています。
理由をいくつか挙げてみます。

  • そもそもSNSはデマ情報が蔓延っており、さらにそれらが広まりやすいという性質を踏まえて利用する必要があること
  • ぱっと見で気づくような叩ける隙を与えてしまったこと(1つ隙があると粗探しで連鎖する)
  • デマであることの訂正の声明方法を何も考えてなかったこと
  • 勘違いからのデマ情報を誘発するような仕様に前もって気付けなかったこと
  • 短時間での全機能のサービス停止のため、ユーザーにデマがデマであると確認する手段を残さなかったこと

などなどです。
SNS利用者全員が自分の目を持ち、必ず1次ソースを確認し、自身の意見をもって発信するような世界になれば、ここまで考える必要はないかもしれませんが、そんなことは人間の性質から見てもありえません。
となると、相手を変わらせるのではなく、自身の戦略を環境に合わせて変えるべきだよね、という考え方です。

システム構成

エンジニア向けの章です。炎上の経緯や考察だけ読みたい方はスキップ推奨

お問い合わせの中で技術的に興味を持たれている方がちらほらいらっしゃったことと、Qiitaであることを踏まえて、超簡易的ではありますが、「FFXIVTrends」の技術的な部分にも少し触れておきます。
(特に何か高度なことをしている訳ではないので見どころはありませんが…)

また、負荷でサービスが落ちた原因にもついでに触れておきます。

技術スタック

領域 技術 備考/感想
Webサーバー, リバースプロキシ Nginx web鯖と言えばapacheかnginxかと思いますが、この規模のサービスだと比較して考える必要性も感じなかったので、何も考えずに馴染みある方を選択しただけ
FE/BE Next.js (React / Node.js) reactもnextも初利用. 何故ここまで広く使われているか納得しました。神。今後の個人開発ではnextを採用したい
DB MySQL 会社でも個人でも昔からmysql一本. ただの惰性. 費用を抑えるため、webサーバーと同様のvps上に自前で立てて利用
ORM Prisma 初利用. うん…まあ普通のORMという印象. nextのunstable_cacheやuse cacheと相性が悪く、デバッグに大変苦労したので、あまり良い思い出がない
UI TailwindCSS, shadcn/ui 初利用. UIはこれさえあればもう十分じゃん感がすごい
インフラ ConoHa VPS, Cloudflare R2 初利用. 日本のvps界隈ではconohaが最安?らしい。nextということでvercelも考えましたが、vps上にnginxやらnextやらmysqlやらバッチ処理やら何でもかんでも自前で詰め込むことによって、安定性を犠牲に費用軽減したかったので、vpsを選択. R2は無料枠が強すぎてCloudFlareが心配になる
外部API Gemini API 初利用. AIミラプリ診断機能で利用
IDE Cursor Editor 初利用. AI駆動開発の学習目的. あんまり上手くAIを使いこなせなかったが、それでも工数の削減と、Next, Reactの学習という点で大きく貢献した。今後も積極的に使いたい
その他 v0 大まかなUI構築に利用.微調整はCursor上で修正. 特にWebデザイン周りに強い苦手意識を持っていたので、ふんわりした指示でも「それっぽい」UIを作ってくれるという点で非常に役立ちました。しかし結局は指示を出す人が素人だと成果物のショボさを隠すのが難しく、長い時間をUIの試行錯誤に費やすことになります。結局UI構築に最も時間が掛かってしまいました。

費用周り

費用発生元 費用
Conoha VPS 約1000円/月. 負荷に関係なく固定額なのが嬉しい
CloudFlareR2 分からないが極小額. 無料枠が本当に強い
Gemini API 実績値として約200円(約3000のAI診断リクエストあたり)

結局はこの激安構成でアクセス過多でサーバーがダウンしてしまった訳ですが、後述しますがアプリケーション側の対策でも何とかなったように思います。
よって、今後リニューアルするとしても、同じような構成を取る可能性はあります。

アクセス過多でVPSが落ちた原因

サーバーダウンの直接的な原因は、技術者として誠に恥ずかしながら、負荷想定があまりにも甘すぎたことです。
一応、費用を安く済ませるなりに、できる限りサーバー/クライアントキャッシュできるところはキャッシュさせたり、RDBのインデックス及びパフォーマンスチューニングを突き詰めたり、長時間同一のレスポンスを返すようなAPIはCloudFlareR2側に切り離したりなど、様々な負荷対策を施した一方で、たった一つの処理の負荷を無視してUXを優先してしまったことが、サービスの命運を分けました。
ConoHa VPSのような固定スペックのサーバーは、オートスケーリング機能がないため、キャパシティを超えたアクセスが集中するとサーバーダウンに直結します。今回、手動でスペックを上げる対応を取りましたが、それでも増加し続ける負荷には耐えきれませんでした。

致命傷となったのは、「AI診断結果のOGP画像をリアルタイムで生成する処理」です。
ユーザーがAI診断の結果をSNSでシェアする際に、その内容を反映したユニークな画像(OGP画像)が表示されれば、高い宣伝効果が見込めます。この拡散効果、つまり「バズ」を狙い、UXを最大化するため、AI診断の度にリアルタイムでの画像生成をさせるようにしたのです。
しかし、画像生成は非常にサーバー負荷の高い処理です。1万PVに対し3000リクエストというAI診断の実行頻度の高さを考えると、WebサーバーからDBまで全てを詰め込んだ単一のVPS上で、このリクエストをリアルタイムで処理し続ける余力は到底ありませんでした。

実は、開発当初は非同期で処理する「ジョブキュー方式」も検討していました。リクエストを一旦キューに溜め、サーバーの都合で順次処理する方式です。これなら負荷のスパイクは防げます。
しかし、この方式ではユーザーが診断結果をシェアしたいと思った瞬間に、OGP画像がまだ生成されていない可能性があります。ユーザー体験を損なうと判断し、この選択肢を捨ててしまったのです。しかし、サーバーが落ちてしまっては元も子もありません。

この一点の楽観的な判断が、キャッシュ戦略やDBチューニングといった他の地道な負荷対策をすべて無に帰してしまいました。
振り返れば、

  • オートスケーリング機能のあるクラウドサービス(AWS, Vercel等)を利用する
  • 画像生成処理だけを別のサーバーに切り出す
  • UXのデメリットを許容し、ジョブキュー方式を採用する

など、打つ手はいくつもありました。この負荷の見積もりと、それに対する技術選択のミスが、今回のサービス停止における技術的な最大の敗因です。

おわりに

「え?結局見えてる地雷を自ら踏みに行っただけやんかーい!」と思われた方。
はい、その通りですごめんなさい。
当然と言われれば当然の結果ではあるのですが、

  • ルール的には問題なさそう
  • 技術的、サービス的に面白そう
  • オプトアウト方式

が重なった結果、本来重視すべきものを蔑ろにしてしまった人もいたんだよ、ということを記憶の片隅に留めていただき、皆さんが今後同じ過ちを犯さないための参考になればと思います。

また、負荷想定の側面でも、いざバズった際にサーバーが落ちてしまっては機会損失も甚だしいので、個人開発だからといって横着せずに、万一に備えた構成も検討した方がよいでしょう。

この記事が、あなたの今後の「挑戦」に少しでも活かせるものであれば、これ以上嬉しいことはありません。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

本記事へのコメントについて

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ご都合主義な対応で申し訳ありませんが、何卒ご了承ください。

その他雑記(便所の落書き)

ここからは教訓でも何でもなく、筆者が今回の炎上の中で感じたあれこれの便所の落書きコーナーです。
超絶アルティメットファイナルお暇な方以外はブラウザバック推奨。

誹謗中傷を含むフィードバックの活用法考察

FF14は、吉田直樹さん率いる第三開発事業本部によって開発・運営されています。
リリースから10年以上経つ今もなお、スクウェア・エニックスの収益の柱であり続ける、空前の大成功を収めたゲームです。
しかし、これほど長く、広く受け入れられているゲームでさえも、開発者は度々誹謗中傷に悩まされており、吉田さんがそれをなだめる構図は、この界隈ではもはやお馴染みです。
直近でも「(運営に対するものも含む)暴言や誹謗中傷はハラスメントとして対応する」との声明が改めて出され、実際に開発者を貶めるような誹謗中傷を含む公式フォーラムの投稿は、片っ端から削除されているようです。
どれだけ成功してもユーザーからの誹謗中傷からは逃れられず、上手く付き合っていく必要がある、ということなのでしょう。

FF14開発と個人開発では規模が全く違いますが、今回の炎上でも当然ながら誹謗中傷を含む意見は少なくなく、「誹謗中傷される開発側」という貴重な立場を体験することができました。
厳密には、会社員時代に似たような経験がなかったわけではありませんが、今回は会社の下っ端としてではなく、私が全責任を負う立場のサービスが対象だったので、より直接的に経験できたのではないかと思います。

多数のフィードバックを確認していく中で、それら全てを平等に精査するのではなく、内容によって自然と目を引くものと、流し読みしてしまうものがあることに気づきました。

最も読む気になったフィードバックは、言うまでもなく肯定的な意見です。
自分のしていることが正しいと思わせてくれる心地よい意見は、サービス改善に役立つ情報が含まれているかどうかにかかわらず、強く惹きつけられるものがありました。

対照的に、全く読む気にならなかったのは、誹謗中傷が含まれているフィードバックです。
誹謗中傷の言葉が目に入った時点で読む気が失せ、「改善」という意味では全く心に響きませんでした。
本来、何かしらの改善を期待してわざわざ要望を送ってくれているはずなのに、誹謗中傷の一言が、その思いを全くの逆効果にしてしまうのです。
やはり人間なので、自分にとって不快な情報は、意識的・無意識的にフィルタリングしてしまうのだと思います。

もちろん、本来フィードバックは平等に精査すべきです。しかし、相手もまた人間であることを踏まえ、いかにして自分の意見を相手に受け入れてもらうかを戦略的に考えてみると、

  • 一旦何でも良いので感謝したり、何かしらを褒めて肯定しておく(いわば「エサ」を撒く)
  • 丁寧で冷静な言葉遣いを心がける
  • 文章の中盤で、本当に伝えたかった本題に触れる
  • 最後に応援の言葉で締めくくる

といった構成を取られると、読まざるを得ない気にさせてくれます。
これはフィードバックに限らず、あらゆる人間関係において応用できるテクニックかもしれません。
なんとも打算的ですが、今後誰かに何かをお願いしたり、意見したりする際には、この点を強く意識してみようと思わせてくれました。

しかし、サービスの改善という側面では、肯定的寄りの意見ばかりを選り好みしていてはただの自己満足に終わってしまいます。
誹謗中傷を含む反対意見にも改善に繋がる多くのヒントが眠っているはずで、それら全てを捨ててしまうのは勿体ないように思います。

では、誹謗中傷を根絶できるのか、という問いには「人間である限り不可能だ」と答えるでしょう。
誹謗中傷は、人間を人間たらしめる「感情」と、あまりにも深く結びついているからです。

そこで、今話題の生成AIはこの課題の解決に対してとても相性が良いように感じました。
誹謗中傷を含むかどうかにかかわらず、全てのフィードバックをAIに要約・集計させるのです。
AIの精度にもよりますが、誹謗中傷という毒の根底にある「真っ当な意見」の核だけを、人間の感情を介さずに抽出できるのではないか、ということです。
開発者は誹謗中傷で心をすり減らすことなく、サービス改善のための次の一手を、より客観的に考察できるはずです。

ハッっと思ってまだ存在しないサービスだったら自分で作ろうと思いましたが、まあ世の中そんなに甘くないですね。
フィードバックを要約、集計するものとしては、既にいくつかそれっぽいサービス/機能はあるようでした。

  • Google Workspace
  • Zapier
  • Salesforce
  • ...

これらのツールに完全に依存するのは良くないでしょうが、フィードバック活用の選択肢として知っておくと、どこかで役立つかもしれません。

何故「見える地雷」を踏んでしまったのか?

実は「FFXIVTrends」をリリースする7年ほど前に、「FFTrends」というWebサービスを数年間運営していました。
簡単に言うと、「FFTrends」は「FFXIVTrends」からAI診断機能を取り除き、全体的にショボくしたものですが、何十万ものキャラクターデータを様々な条件で検索できる点では同じです。

この旧サービスは、リリース当初は概ね好評でした。最も反感を買いやすかったであろう「AI診断」機能がなかったためか、データの取り扱いに関する苦情は少なく、今回のような炎上には至りませんでした。
リリース直後の熱気が冷めた後も、数年間にわたり1日数百PV以上を維持しており、一定の需要があることも分かっていました。
しかし、技術選定が非常に甘かったせいで、サービス維持費が月に1〜2万円も掛かるという鬼畜仕様になっており、個人がボランティアで維持し続けられるはずもなく、数年でサービスを停止しました。

それから7年後。
次の仕事を始める前に、休養を兼ねてスキルアップに取り組もうと考えました。
そこで、ある程度の需要があると分かっている「FFTrends」を、

  • モダンな技術をふんだんに使う
  • 維持費を極力掛けない

という目標を掲げてリニューアルすることは、スキルアップの題材として最適でした。
そして、過去の「思ったよりも受け入れられた」という成功体験が、今回の「FFXIVTrends」を、より尖った、前衛的な仕様へと向かわせる一因となったのです。

また、「ユーザーにできるだけ手間を掛けさせず、多くの人に使ってもらいたい!」という善意から、規約を盾にログインなどの認証を不要にし、AI診断を含む様々な機能を手軽に使えるようにしたことも、結果的には大きな過ちでした。

肯定/否定と返信率

本サービスのお問い合わせフォームは、任意でメールアドレスなどの返信先を記載できる形式でした。
返信先が記載されているお問い合わせには、一つひとつ丁寧に回答のメッセージを送りました。
すると、肯定的なメッセージをくださった方からは、ほぼ全ての方から返信がありました。
しかしその逆に、批判的なお問い合わせをくださった方からは、一通も返信がなかったのです。
※このキャラクターを削除してください系のお問い合わせを除く

こちらからの回答で納得いただけたのか、あるいは単に関わりたくないと思われたのか。はたまた、こちらのメッセージの書き方が悪かったのか、単に面倒だったのか、メッセージを送ること自体が目的だったのか。原因は分かりませんが、興味深い傾向でした。

グレーゾーン?

他人のキャラクターデータを活用することの是非の解釈については、既に触れました。
では、AI診断と次の条文についてはどう解釈すべきでしょうか?

(5) 他者を誹謗・中傷する目的で使用してはいけません。

もちろん、開発者である私に誹謗中傷の意図は全くなく、AIへのプロンプトもキャラクターのファッションを褒めるように指示したものです。
実際に生成されたレビューを見ても、私が読んだ限りでは、明らかに誰かを貶めているような内容のものはなかったと思います。
しかし、その診断結果をどう受け取るかは、読み手の感性次第です。受け取った人が誹謗中傷だと感じてしまう可能性は、ゼロではありません。
この場合、「目的」が誹謗中傷でなければセーフなのでしょうか?
それとも、受け手が誹謗中傷だと感じた時点でアウトなのでしょうか?
このあたりの判断は、結局は著作者に委ねられる形になるのだろうか。

image.png

もう一つ、「FAQページで、サービス維持のための寄付を募っていた」点はどうでしょうか?
本サービスに課金要素は一切なく、全ての機能が無料で利用できました。
ただし、運営に掛かる費用は私のポケットマネーから支払われています。
その費用を少しでも賄えれば、という思いで維持費に充てることを明言した上で、寄付のお願いを記載していましたが、規約にはこうあります

なお、「商用・営利目的」とは、利益の有無を問わず、現実社会において何らかの価値のある対価、報酬、謝礼を受けること

特に「利益の有無を問わず」や「謝礼」といった言葉に、寄付が該当しても不思議ではありません。
結局のところ、FAQページはほとんど閲覧されず、さらにこの記載はページの最下部にあったため、大半のユーザーに気づかれることすらなかったのですが、「規約」という観点だけで言えば、ここが一番アウトだったかもしれません。

しかし、これらの規約は海外でも同様のはずですが、スクエニが認知していないはずがない、当サイトとは比べ物にならないほどの超大型FF14コミュニティサイト群でも寄付の呼びかけは行われており、矛盾しているようにも感じます。
その理由は、やはり前述した「0か1かで片付けられない話」に繋がってくるのではないかと推測します。

いずれにせよ、自身のサービスで他者の著作物や機能をお借りする際は、慎重に精査すべきであることは間違いありません。

海外(主にUS)でのAIに対する異常なまでの抵抗感

実は、日本で広く拡散される前日に、海外向けにサービスを少しだけ公開して反応を伺っていました。
結局あまり利用されることなく、宣伝元も絶たれてしまいましたが、その際にいただいたフィードバックで特に目立ったのが、AIそのものへの嫌悪感でした。
「AIに自分のキャラクターがレビューされること」に対してではなく、「AIという技術自体」への嫌悪感だったのです。
どのように使われていようが、「AIが使われている時点でNG」という見方でした。
もちろん日本でもAIに強い嫌悪感を抱く人は少なくありませんが、海外ではその比ではありませんでした。
むしろ、海外の方が日本よりもずっとAIを受け入れているのだろうと勝手に思い込んでいたので、これには正直驚きました。

当然と言えば当然ですが、何かサービスを提供する際には、ターゲットとするユーザー層の文化や価値観をしっかりと調査しておくことの重要性を痛感させられた経験でした。

クリエイターとしての今後の展望

頂いたフィードバックをもとに、「FFXIVTrends」をリメイクしたい、と言いたいところですが、結論から言うと、クリエイターとしては一旦FF14界隈から距離を置こうと考えています。

現在のような逆境だからこそ、まるで根性版FF14からの新生FF14のように、リメイクを試みることは、とてもチャレンジングで面白そうだとも感じます。
しかし、

  • >>> そろそろ仕事再開しないと人生詰む <<<
  • 他にもやるべきこと、やりたいことが山積みで圧死しそう
  • 今回はサービスを作る過程そのものに主目的があったので、その点で一定満足している

などの理由で、「FFXIVTrends」関連のアウトプットとしては本記事を最後に、一旦これにて区切りをつける方針です。
ただしばらくして、また人生の小休止をするようなことがあったら、もしかしたらリメイクも選択肢の一つになるかもしませんが、何とも言えません。

ちなみにプレイヤーとしても半ば引退してしまっているFF14ですが、面白そうなバトルコンテンツがリリースされたタイミングでは、瞬間的にでも遊びたいです。
(絶オメガ、最終フェーズの最終ギミック見たのに固定解散になったのがずっと心残りで、「FFXIVTrends」よりも未練タラタラで夜しか眠れません。落ち着いたら誰か出荷してくださいピエン)

せっかく時間をかけて作ったサービスを稼働させられないのは残念で、しかも多数の方にご不快な思いをさせてしまったことは猛省すべきことですが、今回のサービスの開発からリリース後までの過程で、技術的にも、マーケティング的にも数多く学びを得ることができ、決して無駄にはならなかったと考えています。
さらに本記事で得た知見が、どこかのエンジニアの今後に活きるようであれば嬉しい限りです。

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