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断熱容器内の透熱壁の等温移動によるエントロピーの変化

Last updated at Posted at 2021-03-12

はじめに

可動断熱壁は力に押されて動くのではない。エントロピー増大則で動く。」という記事の流れで以下の様な場合を考えました

問題設定

熱を通す膜でできた大きさの異なる$N$個の風船が断熱容器内に隙間なく閉じ込められている。風船の中には温度$T$の理想気体が入っており、$i$番目の風船の体積、圧力は$V_i,P_i$であるとする。十分時間が経ち、風船の圧力が全て$P$になった時のエントロピーの変化を求めよ

解答

$i$番目の風船に入っている理想気体が$n_i$モルであるとすると、全体が等圧になった時、全ての風船は等温等圧になりますから、$i$番目の風船の体積$V_i'$は、$n_i$に比例するので
$$
V_i' = \frac{n_i\sum_{i'=1}^N V_{i'}
}{\sum_{i'=1}^N n_{i'}} $$
になります。理想気体のエントロピーは
$$
S = n R \log \frac{V}{n} + nC_V \log T
$$
ですが温度は変化しないので$V$依存性だけ考えればよく、エントロピーの変化$\Delta S$は
$$
\Delta S = \sum_i n_i R \log \frac{V_i'}{n_i} - \sum_i n_i \log \frac{V_i}{n_i} =\left(\sum_{i'} n_{i'}\right)\cdot \log \frac{\sum_{i'=1}^N V_{i'}}{\sum_{i'=1}^N n_{i'}} - \sum_i n_i \log \frac{V_i}{n_i}
$$
と書けます。ここで
$$
\frac{\Delta S}{\left(\sum_{i'} n_{i'}\right)}= \log \frac{\sum_{i'=1}^N n_{i'} \left(\frac{V_{i'}}{n_{i'}}\right)}{\sum_{i'=1}^N n_{i'}} - \log \left [ \prod_{i'=1}^N \left( \frac{V_{i'}}{n_{i'}}\right)^{n_{i'}} \right]^\frac{1}{\sum_{i'} n_{i'}}
$$
と書けることから相加相乗平均の式
$$
\frac{\sum_i n_ix_i}{\sum_i n_i} \geq\left (\prod_i x_i^{n_i} \right)^{\frac{1}{\sum_i n_i}}
$$
より$\Delta S\geq0$であることが分かります。容器全体としては準静的ではない断熱変化ですから当然の結果です。

断熱容器内の透熱壁を介した熱移動は準静的でいいのに、透熱壁の等温移動はなぜ準静的ではいけないのか?

しかし、これを固定透熱壁を介した熱移動によるエントロピーの変化の問題と比べると妙なことが分かります。

固定透熱壁で仕切られた断熱容器の2つの区画に入っている理想気体の温度が異なるとき、熱の移動は十分ゆっくりであり、それぞれの区画内では熱平衡が成り立っているとして$ΔS = Q/T$と仮定すると、熱は高温から低温に流れることを使って容器全体のエントロピー変化は$Q/T_{低温} -Q /T_{高温}>0$より正であることが分かる

などと教科書にはよく書いてあります。ですが、「透熱壁を接して圧力が異なった理想気体が接しているが、全体は等温でかつ断熱容器に入っている場合」に同じこと(透熱壁の移動は、個々の区画が熱平衡を維持できるほどゆっくり動く)を仮定すると準静的な過程ではないのにエントロピーが増えないことになってしまいます。

なぜなら

$i$番目の風船が得た熱を$Q_i$とする。等温過程なので$dS_i=Q_i/T$。だから総エントロピー変化は$\sum_{i=1}^N Q_i/T$。しかし、断熱容器なので外部との熱のやり取りは無く、$\sum_i Q_i=0$。したがってエントロピー変化もゼロ

となってしまうからです。なにがいけないのでしょう?ゆっくり熱を伝える壁が許されるなら、ゆっくり動く壁もよさそうなものです。

この2つの違いは仕事の有無です。ゆっくりと熱を通す壁を想定することは問題ないですが、ゆっくり変形する壁を想定するには外から力を加えて壁の動きを止めなくてはなりません。仮に「堅い壁」を使ってゆっくり変形することを実現したとしても壁の変形にエネルギーが必要になってしまうので、やっぱり仕事が発生してしまいます。仕事が発生すれば、断熱容器で外との熱のやりとりがない以上、熱力学の第一法則(エネルギー保存則)から断熱容器内の理想気体の内部エネルギーが増減しなくてはなりません。理想気体の内部エネルギーは温度に比例していますから、温度が変化してしまいます。結局、可動透熱壁を等温で準静的にゆっくり動かすことはできないので、エントロピーが変化しない、ということはできません。

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