はじめに
本記事はSAP Business Technology Platformの基本的なことのまとめの1項目の説明となります。全体を把握したい方はまずはそちらをご確認ください。
また、本記事は概要把握や個人のトライアル利用の参考としてまとめたものなので、プロジェクトでの利用の際は、SAP社への問合せの実施や正式情報であるHelp Portalを活用してください。
SAP Business Technology Platformの歴史
サービス開始当初は「SAP HANA Cloud Platform」と呼ばれ、2010年代半ばに登場しました。
2017年頃に「SAP Cloud Platform」に名称が変更され、略称「SCP」として広く知られるようになりました。(この呼び方は業界に深く浸透し、現在でも「SAP社のクラウド開発基盤はSCPですよね」という声をよく耳にします。その後、略称は「SAP CP」に変更されましたが、こちらはあまり普及しませんでした。)
そして2021年に「SAP Business Technology Platform (SAP BTP)」へと名称が変更されます。重要なポイントは、「BTP」がサービス群を表す概念(ブランド)となり、「SAP Cloud Platform」を包含するものとなったことです。(SAP社の表現によれば「BTPはDXのための単一のビジネステクノロジープラットフォームとしてのブランド名称」とされています)。そのため、「旧SAP Cloud Platform」に加えて、代表的なサービスである「SAP Analytics Cloud (SAC)」などもBTPに含まれます。
あまりに領域が広いため、2025年4月時点では、「Application Development and Automation(アプリケーション開発と自動化)」、「Extended Planning and Analysis(拡張計画および分析)」、「Data and Analytics(データおよびアナリティクス)」、「Integration(統合)」、「Artificial Intelligence(人工知能)」に分類されます。なお、「旧SAP Cloud Platform」は「Application Development and Automation(アプリケーション開発と自動化)」、「Integration(統合)」、「Artificial Intelligence(人工知能)」の中に包含される形となっています。
このため「BTPを導入する・しない」や「良い・悪い」といった議論は抽象的すぎてしまいます。BTPについて議論する際には、「どのBTPサービスについて話しているのか」という具体的な条件設定が必須となります。
なお、2021年末から2022年中頃にかけては、「Database and Data Management」、「Analytics」、「Application Development and Integration」、「Intelligent Technologies」という分類が使用されていました。古い資料でこの分類を目にすることもあるため、注意が必要です。
Leonardoってあったような。。。
2017年後半に発表された「Leonardo(レオナルド)」という用語を覚えている方も多いかと思います。これも「SCP」や「BTP」と混同されやすい概念です。
正確にはプレスリリースなどを確認していただきたいのですが、私の理解では、「Leonardo」は「SAP Cloud Platform」などを包含する「概念(ブランド)」でした。当時、IBMが先端IT技術群を「Watson」としてブランド化して注目を集めていたため、Salesforceが「Einstein」、SAP社が「Leonardo」と、同様の戦略を取りました。このアプローチはキャッチーではありましたが、実体が不明確だったため、徐々にフェードアウトし、現在はその概念がBTPに引き継がれる形で使われなくなっています。
SAP社製品の中の位置付け
ここまでは、クラウド開発基盤としての歴史を振り返りましたが、次は位置付けです。
基本的には開発プラットフォームの位置付けですが、他の製品との関わり方についても整理していきましょう。
SAP社のサービスはざっくり下記の種類に分類されます。
- SAP Signavio 旧Business Process Intelligence (BPI):ビジネスプロセスを描画したり、分析したりするコンポーネント
- Intelligence Suite:「S/4HANA」や「Success Factors」などのビジネスアプリケーション
- Industry Cloud:Intelligence SuiteやBTPを用いて、パートナーなどが作成した、業界・業種別のテンプレート(ベストプラクティス)
BPI自身は最近登場した新領域なので一旦おいておくと、「Intelligence Suite」がアプリで、「Industry Cloud」がそれを用いたアセットのようなものなので、それ以外の領域がほぼBTPとなり、非常に広い領域であることがわかると思います。
次にあまり聞き慣れない、「SAP Signavio」と「Industry Cloud」について補足します。
SAP Signavio 旧Business Process Intelligence (BPI)
2021年から大々的にプロモーションがされ始めた新領域で、構成の大部分を占めるのは、2021年に買収した「Signavio」です。これまでは、Excelなどで書いていた、ビジネスプロセスを描画(定義)する機能とその定義したプロセスとシステムをつないで、プロセスを分析する機能(専門的な言い方をつかうとプロセスマイニングの領域)が主な役割です。BTPの文脈だと、将来的にはその分析結果をトリガーに、改善点に対してワークフローやRPAをシームレスに起動することなども視野に入れられているため、そのあたりの機能はSAP Signavioのコンポーネントとしても製品説明上は組み込まれています。これ以上の説明は長くなりそうなので、ここまでとします。
Industry Cloud
Intelligence SuiteやBTPを用いて、パートナーなどが作成した、業界・業種別のテンプレート(ベストプラクティス)になります。SAP社としては、ベーシックなアプリケーションは提供するので、業界個別要件に対しては、パートナーがベストプラクティスとして拡張し、汎用化することで、より発展的にSAP社製品を使ってほしいというスタンスだと推測され、このような概念が定義されています。
日本でどの程度のものがあるかは把握しておりませんが、勤務先のUS本社などは、それなりに現実味のあるものを作成していました。(基本のアプリケーションコンポーネントを決定した上で、それらの連携やよくあるUX改善などをBTP上でアセットとして作り上げているようなイメージになります。)
まとめ
歴史的な変遷を簡単にまとめると、以前SCPと呼ばれていた開発基盤が、新しく設立されたBTPという広範な概念の一部となったと理解していただけると良いでしょう。ただし、多くの人がSCPとBTPを同一視する傾向があるため、BTPという用語が使われる際は、実際には「Application Development and Automation」および「Integration」領域を指していることが多いという点に注意が必要です。
次の記事では、「SAP Business Technology Platformアプリケーション概要」を説明していきたいと思います。