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Tricentisを用いたテスト自動化の基本的なことまとめ

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はじめに

S/4HANA への移行や RISE with SAP の普及により、基幹システムの世界でも「アップグレードを前提にした運用」が求められつつあります。そのため、導入して終わりではなく、数年おきにバージョンアップを繰り返し、そのたびに回帰テストをきちんと回す必要があります。

一方で、人手による総当たりテストには限界があります。慢性的な IT 人材不足で保守要員は簡単に増やせません。加えて DX への意識の高まりもあり、業務部門の協力余力も減っているケースが多いのではないでしょうか。「テストが大事なのは分かっているが、現実的に回せない」——そんな状況があちこちで起きています。

このギャップを埋める解の一つとして SAP が強く打ち出しているのが、Tricentis によるテスト自動化です。Tricentis は長くテスト自動化の世界で使われてきたツールですが、2020 年以降は **SAP Solution Extensions(SolEx)**として公式に取り扱われています。特に「SAP Enterprise Continuous Testing by Tricentis(Tricentis ECT)」が、SAP 導入・バージョンアップの現場で話題に上がることが増えました。

本記事では、以下の点を整理します。

  • Tricentis/ECT がどのようなツールなのか
  • 従来の ERP テスト自動化と何が違うのか
  • どのようなプロジェクトで効果が出やすいのか
    概要把握や検討のたたき台として読んでいただければ幸いです。なお、本記事は概要把握や個人トライアル利用の参考としてまとめたものです。プロジェクトで利用する際は、SAP 社や Tricentis 社の正式ドキュメントやサポート窓口を必ず参照してください。

一言で言うと

Tricentis ECT は、「人が SAP 画面で行うテスト操作と証跡取得を、機械が代わりに繰り返すツール」です。テスターが一度操作を記録すれば、その手順を何度でも自動再生でき、画面キャプチャ付きのエビデンスも自動で出力されます。

従来のテスト自動化ツールと基本的な発想は同じですが、Tricentis は

  • ローコードな操作性
  • 画面変更への強さ
  • シナリオの自動生成(+統計的な絞り込み)
    によって、「ERP の現場で実用的に使えるレベル」に到達している点が特徴です。

Tricentis社とSAP向け製品の位置づけ

Tricentis はもともと、SAP に限らず Web やモバイル、各種業務システムのテスト自動化を得意としてきたベンダーです。テスト自動化領域のリーダー企業の一社として認識されており、近年は SAP との連携が特に強化されています。

SAP 領域向けには、いくつかの製品がラインナップされています。

  • SAP Change Impact Analysis(CIA)

    コード・カスタマイズ・設定変更・権限変更などの影響範囲を解析し、どこをどれだけテストすべきかの当たりをつけるアプローチ。

  • SAP Enterprise Data Integrity Testing(EDIT)

    データ移行や日次バッチなどで、データ整合性(比較・突合・整合チェック)を担保する領域。

  • SAP Enterprise Performance Testing(EPT)

    性能問題を早い段階から発見するための性能テスト支援。

  • SAP Enterprise Continuous Testing(ECT)

    本記事の主役。SAP の画面操作(GUI や Fiori)を記録し、再生し、エビデンスを残すことに特化。

ERP のテスト自動化が広がらなかった理由

テスト自動化は決して新しいテーマではありません。ERP の世界でも 20 年以上前から様々なツールが試されてきましたが、「導入したプロジェクトはごく一部」というのが実感に近いはずです。背景には、構造的な理由があります。

1) 準備工数が重い(しかも範囲が広い)

ERP は対象範囲が広く、トランザクションが数百単位になることも珍しくありません。画面操作を記録するだけでもかなりの手間がかかり、それに加えて、

  • テストデータを作る
  • シナリオパターンを考える
  • 維持していく(変更が入れば直す)

必要があります。ここが「導入初期で重い」と捉えられる理由です。

2) ECC 時代は「アップグレード頻度が低い」ため投資回収が難しかった

ECC 時代は「一度導入したら 10 年以上大きなアップグレードをしない」ケースが多く、「準備にかけた手間を、回帰テスト頻度で回収できない」という判断になりやすい背景がありました。

3) 画面変更・環境差に弱いツールが多かった

古いタイプのツールは座標ベースだったり、表示ラベルやレイアウトに強く依存していました。そのため、GUI バージョン差・解像度差・Fiori レイアウト変更などでシナリオが壊れやすく、「大きな変更をしなくとも、仕組みを維持するのが非現実的」という結論になりがちでした。

4) 統合シナリオ(ITA/ITB)で「つなぎ」が難しい

単一画面だけ自動化しても、ERP テストの本質である「受注→出荷→請求」「購買→検収→請求」などの一連フロー(モジュール横断)までカバーするのは困難です。前工程で生成したデータの引継ぎや、多パターンの管理が破綻しやすい、という課題がありました。

SAP Enterprise Continuous Testing(ECT)の基本イメージ

ECT の仕組みはシンプルです。

  1. テスターが通常どおり SAP 画面を操作し、その操作を記録するログイン、検索条件入力、ボタン押下、結果画面確認までをトレース。
  2. 記録した操作に固定値・変数を設定し、テストシナリオ化する例:会社コードや販売組織は固定、品目・数量・条件は変数など。
  3. 自動実行して、結果とエビデンスを出力する専用端末(PC/仮想端末)上で自動的に画面操作し、スクリーンショットや実行ログを残す。

イメージとしてはRPA やバッチインプットに近いですが、「テストケース管理」「再利用」「変更耐性」など、業務テスト向けに最適化されている点が違います。

Tricentisの強みとして意識しておきたい点(効きどころ)

仕組みはシンプルですが、過去のテスト自動化ツールとは明確な違いがあります。この違いが、前述の「ERP のテスト自動化が広がらなかった理由」を解決しています。

1) ローコード操作で準備工数を削減

直感的なローコード操作により、画面の記録やテストケース作成を簡単に行えます。これにより、テスト自動化の課題となりがちな準備工数を大幅に削減できます。(「1) 準備工数が重い(しかも範囲が広い)」と「2) ECC 時代は『アップグレード頻度が低い』ため投資回収が難しかった」を解決)

2) 画面変更に強い(要素認識 + AI)

画面を部品(パーツ)として捉えるため、解像度や位置に関わらず記録・自動操作が可能です。項目名の軽微な変更も AI が識別し、同一項目として認識します。さらに、基本的な SAP 製品の画面操作に対応しており、通常のバッチ入力では扱いが難しいテーブル構造のデータにも対応できます。これにより、画面サイズや項目名の細かな変更にも対応可能になります。(「3) 画面変更・環境差に弱いツールが多かった」を解決)

3) シナリオ自動生成と統計的な絞り込み("勘と経験" の補助)

各画面をブロックのように組み合わせ、一連の業務フロー(モジュール横断)をテストできます。シナリオ内に複数の変数がある場合、それらを網羅する複数のシナリオを自動生成できます。シナリオ数が過剰になる場合は、統計的手法で必要なシナリオを絞り込むことも可能です。これにより、ERP のシナリオテストにも効果的に対応できます。(「4) 統合シナリオ(ITA/ITB)で『つなぎ』が難しい」を解決)

Tricentisの限界と得意領域

Tricentis は「テスト全部を魔法のように肩代わりする箱」ではありません。得意・不得意があるため、それを理解することも重要になります。

一言でまとめると、Tricentis は“UIを通じた動作確認には強い一方、個々のプログラムロジックやアルゴリズムの妥当性を単体レベルまで掘り下げて証明するような用途は守備範囲外です。 その特性を踏まえ、どこまでを自動化に委ねるかを適切に見極めることが鍵になります。

得意:UIレベルの確認

  • 画面遷移が期待通りか
  • 入力が正しくできるか(入力制御含む)
  • UIを通した登録・更新ができるか

苦手:ビジネスロジックの正しさ/バックエンド内部

  • 集計・計算ロジックの妥当性(根拠の妥当性含む)
  • DB内部の整合性や例外ログ深掘り
  • API/IF内部の検証(非同期・タイミング含めた正しさ)

もちろん、画面上の値を別の値と突き合わせるロジックを「テスト側に組み込めば」一定の検証は可能です。

ただし、深く追求すると「テスト自動化」ではなく「ロジック検証(別レイヤーのテスト)」に近づくため、どこで線を引くかが重要です。

どのようなプロジェクトで効果が出やすいか

テスト自動化の効果

テスト自動化は、次のような特徴を持つため、一定以上の規模や複雑さを持つシステムに対して特に効果を発揮します。

1) テストの効率化・短期化

同じテストを繰り返し実施する場合、自動化によって実行時間と工数を大幅に削減できます。その結果、リリースサイクルの短縮やリリース頻度の向上が期待できます。

2) テスト品質の均一化

手動テストでは、担当者や拠点によってテストの粒度や観点が変わりがちです。自動テストでは同じスクリプトを繰り返し使用するため、テスト品質のバラつきを抑えられます。

3) 不具合の再現と早期検知

テスト手順がスクリプトとして固定されるため、同じ事象を再現しやすく、原因分析を効率的に進められます。また、定期的な自動実行により、不具合を早い段階で検知できます。

このような特性から、「同じテストを何度も」「広い範囲に」「継続的に」実施する必要があるプロジェクトほど、テスト自動化の効果が大きくなります。

次に、そうした特徴を持つ代表的なプロジェクトタイプを整理します。

効果が発揮できるプロジェクトタイプ

1) グローバル多拠点展開(ロールアウト)

本社テンプレートを複数の国・地域・会社に横展開するプロジェクトでは、各拠点で「ほぼ同じテスト」を繰り返し実施する必要があります。一度作成した自動テストシナリオを各拠点へ展開することで、次のような効果が期待できます。

  • テスト準備・実行の期間を短縮できます。
  • テストスクリプトを基準にすることで、拠点ごとのテスト品質のばらつきを抑えられます。
  • グローバル共通シナリオに拠点固有の差分シナリオを追加する形で整理でき、資産として管理しやすくなります。

2) S/4HANA のテクニカルバージョンアップ

S/4HANA のメジャーバージョンアップなどのテクニカルアップグレードを定期的に行うプロジェクトでは、業務プロセスは大きく変えない前提でも、標準機能の挙動や内部仕様の変更により広範囲に影響が出る可能性があります。テスト自動化を活用することで、次のような効果が期待できます。

  • 重要業務の回帰テストシナリオを自動化しておけば、アップグレードのたびに同じシナリオを再利用でき、テスト工数を削減できます。
  • アップグレード頻度が高いほど自動化シナリオへの投資効果が蓄積され、「安心してアップグレードを継続できる体制」を構築しやすくなります。

3) M&A が多い企業・組織再編が頻繁な企業

M&A や組織再編により、グループ内で新会社のシステム統合や、事業売却・会社分割に伴うシステムの切り出し・再構築が繰り返し発生する企業では、統合テスト・回帰テストの手間が毎回大きくなりがちです。テスト自動化を活用することで、次のような効果が期待できます。

  • 統合・分割・組織変更時の標準的な業務シナリオ(例:受注〜出荷〜請求〜会計など)を自動化しておけば、次回以降も同じシナリオをそのまま再利用できます。
  • 「統合後に最低限確認すべきエンドツーエンドシナリオ」が自動テストとして明確になり、タイトなスケジュールでも一定レベル以上の品質を確保しやすくなります。
  • テストシナリオがプロジェクト横断のナレッジとして残るため、メンバーが変わっても前回と同等のテスト品質を維持しやすくなります。

4) AMS(保守運用)における回帰テスト

本稼働後の AMS フェーズでは、小規模な改修や法改正対応、不具合修正などが継続的に発生し、そのたびに回帰テストが必要になります。月次・四半期などのリリース前にテスト作業が集中しやすい特徴があります。テスト自動化を活用することで、次のような効果が期待できます。

  • 閑散期に主要業務の自動テストシナリオを整備しておけば、リリース前に夜間の自動回帰テストを一括実行でき、担当者の残業や休日対応を抑えやすくなります。
  • テストシナリオが業務ナレッジとして蓄積されるため、担当者が入れ替わってもテスト観点が失われにくくなります。
  • どの領域で不具合が発生しやすいかを継続的に把握でき、改善の優先順位付けに活用しやすくなります。

まとめ

本記事では、S/4HANA や RISE with SAP によってアップグレード前提の運用が求められる中、Tricentis(SAP Enterprise Continuous Testing)によるテスト自動化の位置づけと特性を整理しました。従来ツールが抱えていた準備工数の重さ、画面変更への脆さ、統合シナリオ管理の難しさに対し、ローコード操作、画面要素認識、シナリオ自動生成などで対応できる点がポイントです。得意な領域もはっきりしているので、この記事を参考にプロジェクトでの適用を検討いただければと思います。

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