概要
本投稿は、SI(システムインテグレーション)業界初心者の方に
業務の全体像を把握してもらうことを目的としています。
守秘義務に関わる事ですので、ベンダーが特定されない粒度での記述を前提としています。
筆者が6つのベンダーと約10の事業所を経験した中で、共通していると感じた事項を記述します。
企業により、本投稿の記述と事情が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
また、筆者がネットワークの設計構築業務に携わるが多かったため、その分野・フェーズに偏ることをご了承ください。
併せてこちらもお読み下さい。
【初心者向け】円滑に業務を進めるために ネットワークエンジニアが把握しておくべきこと
インフラとは
「インフラストラクチャ」の略で、「基盤」と訳されます。
例えとして解り易いのが電気・水道・ガスです。
これら3つを総称して「ライフライン」と呼び、
家計におけるそれらの費用を「光熱費」と呼びますが、
それらを国土全域や町の各家庭に行き渡らせる設備が「インフラ」です。
情報システムに置き換えれば、
- ライフライン ⇒ 情報コンテンツ全般
- 電線や水道管・ガス管 ⇒ ネットワーク
- 発電所や浄水場、製油所・ガス工場 ⇒ サーバ
- ダムや燃料貯蔵施設 ⇒ ストレージ
といった具合でしょうか。
開発モデル
インフラ大手ベンダー系のシステム開発では、
ウォーターフォール型と呼ばれるモデルに沿って進められます。
上流工程 | 下流工程 | |
---|---|---|
企画 | ← | 保守運用 |
↓ | ↑ | |
要件定義 | 移行 | |
↓ | ↑ | |
基本設計 | テスト | |
↓ | ↑ | |
見積り | 構築 | |
↓ | ↑ | |
調達 | → | 詳細設計 |
各フェーズの説明
企画
「基本計画」として要件定義と一括りにされる事が多いようですが、敢えて分けて説明しますと、
現行の情報システムおよび業務プロセスにおける問題点や要望をヒアリング調査します。
ネットワークで言えば、
「あの部屋にもLANを敷設したい」
「無線LAN化したい」
「接続する端末を増やしたい」
「外出時も社内のリソースにアクセス可能にしたい」
というものです。
要件定義
生産性を向上させるために次期システムに必要な機能、
機会損失を生まないために必要なシステム規模(スケーリング)
顧客従業員(ユーザ)が使いやすい設計(ユーザーインタフェース)
を列挙します。
ネットワークで言えば、
「端末200台を1Gbpsのイーサネットで接続する」
「端末を20台接続可能な無線アクセスポイントを講堂に20m間隔で設置する」
「Windows, iOS, Android端末に対応するVPN」
というものです。
基本設計
システムを実現するための構成・製品・機能を選定します。
ネットワークで言えば、
「棟間のコアスイッチ間のルーティングはOSPF」
「L3SW・L2SWともに冗長化し、RSTPによりループ防止」
「SFP+が2ポート、1000BASE-Tが24ポートのL2SWを10台」
「L3SW ― L2SW間はVLANトランクとし、IEEE802.1Qを採用」
「○○社のSSL-VPNを採用」
「無線APを無線LANコントローラで集中管理」
「IEEE802.11ac準拠の無線AP製品を採用」
というものです。
見積り
基本設計時の製品選定でも大きく関わる部分ですが、
開発から運用までの費用を見積もります。
見積もる内容としては、
- ハードウェア・ソフトウェア・部材等の販売価格
- 設計・構築の人件費
- 保守・運用・技術サポートの料金
- 利益上乗せ分(販売管理費・内部留保等を賄う)
受注者(候補)すなわちベンダーが見積もった金額が
発注者すなわちユーザの予算に見合わなければ、
失注となります。
発注者が複数の業者に見積りを依頼する相見積りの場合には、
安さ、提案内容、信頼度を総合的に鑑みて契約先を決定します。
調達
晴れて受注した場合には、下記に挙げる通り、
揃えなければいけないものを調達し、
納期までに着々と進めていかなければなりません。
- 構成製品の仕入れ
- 保守サービスの契約
- 構築・運用に従事させる人員の確保
保守サービスとは、製品のメーカーまたは販売会社に
不具合が起きた場合の問合せ、故障機器の交換依頼ができるサービスの事です。
受注前のフェーズと受注後のフェーズでは、
担当する人員が大きく変わります。
感覚としては、概ね以下に挙げた通りです。
- 企画 … ユーザー企業、コンサルティング会社
- 要件定義 … ユーザー企業、ベンダーのプロパー
- 基本設計 … メーカー、ベンダーのプロパー・協力会社
- 調達 … ベンダーのプロパー
- 詳細設計~テスト … ベンダーの協力会社
- 移行 … ベンダーのプロパー・協力会社
- 保守運用 … ユーザー企業、ベンダーの協力会社
プロパーとは、正社員すなわち直接雇用の従業員を指します。
協力会社とは、準委任契約等で業務に従事する、他社の従業員を指します。
人員の確保は、主に協力会社から人を入れることにより達成させます。
詳細設計
パラメータと呼ばれる細かい設計値を決定します。
設定すべき全ての項目にパラメータを記入したものをパラメータシートと呼びます。
Excelで作成されることが多いです。
他に、構成要素同士の関係を示す構成図も作成します。
Microsoft Officeのアプリケーションの中では、Visioが構成図の作成に向いています。
しかし、Visioを購入している部署は少ないため、PowerPointやExcelで代用していることも多いです。
ネットワークで言えば、物理ポート・IPアドレス・VLANの払い出しが必要になります。
構築
実装とも呼ばれますが、納品物となるものを実際に作成していきます。
ネットワークで言えば、機器への設定の投入、機器の設置、ケーブル敷設といった作業がこれに当たります。
IT業界未経験者が担当する業務は、ラックへの機器の設置、機器の設定、機器へのケーブルの接続くらいになると思います。
ラックを運んできたり、壁の中をケーブルを通したり、ケーブル同士を繋ぎ合わせたり、電源コンセントを設置したりという事は、専門の業者が請け負います。
何故なら、品質にバラつきが出ないようにするためには高度な知識や技能が必要とされ、
いい加減な処理をすると人命に関わる事故に繋がる可能性もあるからです。
電源ケーブルの敷設には電気工事士、通信ケーブルの敷設には電気通信主任技術者などの資格を持った人に限って作業が許されます。このような資格を「業務独占資格」と呼びます。
さらにこれら業務を請け負う会社としては、建設業許可が必要となります。国土交通省のサイトで検索が可能です。
建設業者・宅建業者等企業情報検索システム
実際に作業する際は、予め作業手順書なるものを作成して有識者と認識合わせをし、
当日はそれの通りに作業を実施します。
テスト
製品単体としての動作(単体テスト)、他の製品と連携させた場合の動作(結合テスト)を確認します。
移行
本番環境に導入しての動作確認を実施したのち、
現行システムから次期システムへの切り替えを行います。
保守運用
保守とは、障害およびインシデントが起こらないように対策したり、
障害およびインシデントが発生した場合に修復する業務を指します。
運用とは、システムが正常に稼働し、ユーザの業務が円滑に進むよう、
日/週/月単位といった周期の定期的な作業を遂行する業務を指します。
一つ一つの作業は小さいですが、日々多くの作業を熟さなければなりません。
機器に異常が発生していないかを日夜交代制で見守る監視業務も含みます。
キャリアパス
ベンダーのプロパーの場合は、新卒で入社後は新人研修を経て、最初は詳細設計・調達・要件定義の何れかを担当すると思われます(飽くまで想像です)。
未経験から人材派遣業の会社に入った場合、各フェーズをキャリアパスに当てはめるとしたら次の通りになります。
監視 ⇒ 運用 ⇒ 保守 ⇒ テスト ⇒ 構築 ⇒ 移行・詳細設計 ⇒ 基本設計 ⇒ 要件定義
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保有資格や経歴により、運用監視を経験せずいきなり構築・詳細設計という事も十分有り得ます。
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深夜業務および肉体労働への女性の使用は控えているため、女性の場合はまずは運用かテストになると思われます。
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構築・運用が下流、要件定義・基本設計が上流とされていますが、開発の流れから見た上下であり、職位の上下が必ずそうであるとは限りません。天才プログラマーの報酬が高いように、運用であろうと構築であろうとその道のベテランになれば重宝され、単金も相応に上がるはずです。
※Qiitaでは技術的な投稿が目的ですので、ジェンダーや賃金に関する議論は致しません。
販売部門
上記は、システムインテグレータ (SIer) 専業の企業およびSI事業の部門の場合です。
ディストリビューター企業および販売事業の部門では以下のような業務があります。
- 営業
- 技術営業
- 検証
- コールセンター
Further Information
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【初心者向け】円滑に業務を進めるために ネットワークエンジニアが把握しておくべきこと
併せてこちらもお読み下さい。
業務で扱う情報の類について説明しました。 -
新人エンジニアのためのインフラ入門
インフラの定義、インフラエンジニアの業務について
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