この記事では簿記2級に含まれる工業簿記の全体像について説明していきます。
まず簿記2級の工業簿記は簿記3級でも扱われている商業簿記とは考え方が大きく異なります。
商業簿記が「商品を仕入れて販売するまでのお金の流れ」を扱うのに対し、工業簿記は「製品を製造するためにどれだけ原価がかかったか」を計算する学問です。
そのため、個々の論点を暗記するより原価がどのような順番で製品へ集計されていくのかという全体像を理解することが何よりも重要になります。
この記事では簿記2級範囲の工業簿記の全体像について3つの図を用いながら解説していきます。
この記事は主に簿記を勉強しようとしている方~簿記2級の学習者に焦点を当てた内容となっております。
目次
・まず工業簿記とは
・原価の分類分け
・原価計算のステップ
・原価計算の種別
・まとめ
まず工業簿記とは
工業簿記とは冒頭でも説明した通り、「製品を製造するためにどれだけ原価がかかったか」を計算するための学問です。
この学問、工業簿記において目的となるのは 「製品1個あたりの原価を正しく計算すること」 です。
例えば自動車メーカーなら
自動車に必要な材料にいくら使ったか
工場で働く人達の人件費はいくらかかったか
工場全体で発生した電気代や設備費はいくらかかったか
これら全てを集計し
「この自動車1台作るのに○○円かかった」という原価を算出することが目的となります。
原価の分類分け
まず最初に覚えるべきなのが原価の分類です。
原価は次の3種類に分類されます。
材料費
労務費
経費
材料費とは製品を作るために消費した金額を指し、労務費は工場で働く全ての人にかかる賃金や給料を指します。
また経費については材料費、労務費以外の全ての費用を指します。
さらに、これらそれぞれ「製品に直接結びつくかどうか」といった点で
製造直接費
製造間接費
の2つに分けることができます。
製造直接費は製品に直接結びつくもののため
例えば
木材、鉄板
製品を作る人の賃金 等が当たります。
一方、製造間接費は直接製品に結びつかないもののため
工場の電気代
工場で働く事務員の給料
工場の備品や建物の減価償却費 等です。
材料費、労務費、経費のうち材料費を例に挙げると、製品に直接使われる "主要材料費"、 "買入部品費" は直接材料費に分類され、どの製品に直接使われたかが分からない(ただしその製品を作る上で消費したもの) "補助材料費" 、 "工場消耗品費" 、 "消耗工具器具備品費" については間接材料費に分類されます。
以下の図が材料費、労務費、経費それぞれを直接費、間接費の2つに分類分けしたものをまとめた図になります。

原価がこれら3つの分類かつそれぞれ直接費、間接費に分類分けされるということを理解することが工業簿記の最初の重要ポイントになります。
原価計算のステップ
前項で原価を材料費、労務費、経費の3つに分類分けしそこから更に直接費、間接費に分類分けしました。
ただ工業簿記においてはこれらの原価をそのまま製品へ集計することはできません。というのも製品を製造する一連の過程において製品になる前の仕掛品という段階を経る必要があり、加えて製品に直接結びつかない間接費についてはこの仕掛品に全て配賦(間接費を全て製品に投入)してあげる必要があるからです。
そのため工業簿記においては原価計算は大きく分けて次の3段階に分けて計算されます。
費目別原価計算→部門別原価計算→製品別原価計算
まず第1ステップの費目別原価計算についてですが、こちらは前項で説明した原価の分類分けのことを指します。
つまりまず当期に発生した費用を材料費、労務費、経費の3つに分類分けする作業になります。
例えば
材料費 100万円 | 買掛金 100万円
労務費 80万円 | 現金 80万円
というように何の費用が発生したかを把握し、仕訳するといった作業です。
次に第2ステップとして行うのが部門別原価計算です。
本ステップの部門別原価計算は以下のようなフローで集計されます。
部門個別費と部門共通費の集計→補助部門費の製造部門への配賦→
製造部門費の仕掛品への配賦
このステップについて概して言うと
製造部門・・・直接製品を製造する部門
補助部門・・直接製品を製造しない部門
の2つに分け費用を集計していき、直接製品を製造しない補助部門費を製造部門へ配賦しそこから製造部門費を製品(仕掛品)へ配賦する作業といえます。
重要なのがここでこれら2つの部門へ集計していく対象となるのはあくまで製品に直接結びつかない 「製造間接費」 のみです。というのも製品に直接結びつく直接費についてはそのまま製品(仕掛品)へ結びつける(直課)ことが出来るからです。
つまるところ言うとこの第2ステップの部門別原価計算は部門という製造形態を加味した状態で製品に直接結びつかない製造間接費をより 「正確」 な形で仕掛品に配賦する方法だということが言えます。
第2ステップの後、最後に行うのが製品別原価計算となります。ここで各製品へ原価を配賦(製品ごとに原価を分けてあげる)する作業を行います。
最初の費目別原価計算から製品が完成され、販売されるまでの一連の流れを示すと
材料→仕掛品→製品→売上原価
といったフローになります。
ここで仕掛品というワードが出てきますが、仕掛品とは 「完成していない製品」 全てのことを言います。
例えば最終成果物が自動車の場合、車体は完成しているがエンジンは未搭載のもの、最終成果物がノートパソコンの場合、品質検査中のPCなど、完成していないものは全てこの仕掛品に分類されます。
そのため会計において本仕掛品(勘定)は 全ての費用を一時的にプールさせておくための科目 だということが言えます。
一方で製造間接費(勘定)については 全ての間接費を一時的にプールさせておくための科目 だということも言えます。
仕掛品から完成した製品は「製品」という資産になります。そしてこの製品が販売されたタイミングでこの製品の原価が「売上原価」に転化され、損益計算書に初めて計上されるといった流れです。
はじめの費用発生から商品が販売されるまでの一連の流れを工業簿記会計においてよく使用されるボックス図、合わせてそれに対応する仕訳をまとめたものが以下の図になります。

この工業簿記における一連の流れをボックス図による勘定連絡、それに対応する仕訳と紐づけて理解することが非常に重要だといえます。
原価計算の種別
前項までで原価計算は費目別原価計算→部門別原価計算→製品別原価計算の順に集計されるということを説明してきました。
この原価計算は 「原価を集計する範囲」、「原価を計算する方法」、 「生産形態」 の3つの
分類分けにより更に区分分けすることができます。
原価を集計する範囲による分類分け
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 全部原価計算 | その期の固定費を製造原価に含める集計方法 |
| 直接原価計算 | その期の固定費は製造原価に含めず変動費のみを製造原価 として集計する方法 |
原価を計算する方法による分類分け
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 実際原価計算 | 実際に発生した費用で原価を計算。正確だが集計が遅くなる、 その都度材料の単価などが変わり管理が大変というデメリットあり。 |
| 標準原価計算 | あらかじめ設定した標準値を元に原価を計算。実際原価との差異を 分析することが目的。スピーディで管理に有効。 |
生産形態による分類分け
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| 個別原価計算 | オーダーメイドや特注生産(造船、建設、特注家具など)など 1つずつ製品を生産する方法。各注文(各製造指図書)ごとに原価を集計。 |
| 総合原価計算 | 大量生産や連続生産により製品を生産する方法(飲料、化学など) 工程や期間ごとに原価を集計し平均して製品1つ当たりの原価を 割り出す。 |
さらに総合原価計算はその生産工程、生産する対象の製品により
単純総合原価計算
工程別総合原価計算
組別総合原価計算
等級別総合原価計算
の4つの計算方法へ細分化されます。
直接原価計算は意思決定、利益分析などの管理会計の領域で用いられますが、実際に財務諸表を作成する場合はその期の固定費を製造原価に含めた全部原価計算の値を用いないといけないため
直接原価計算のみで原価を集計している場合でも最終的には全部原価計算に原価を調整する必要があります。
また財務諸表を作成するにあたっては標準原価計算で原価を集計している場合でも当月ごとに生じる実際原価計算との差異を一旦標準原価差異に集計し会計年度末に売上原価へ振替を行う形になるため最終的なアウトプットは実際原価に調整されている必要があります。
とすると標準原価計算、直接原価計算は会計処理の中で発生する集計方法である一方、最終的なアウトプットは実際原価計算、全部原価計算により算出された原価であるということが言えます。
まとめ
工業簿記は、最初は専門用語が多く難しく感じるかもしれません。しかし全体像は
意外とシンプルです。
覚えておきたいポイントは次の5つです。
- 原価は「材料費・労務費・経費」の3種類に分類される。
- 更にそこから直接費と間接費に区分分けされ、直接費は製品へ直接計上、
間接費は一度部門へ集計して配賦する。 - 原価計算は「費目別原価計算 → 部門別原価計算 → 製品別原価計算」の3段階によって計算される。
- 原価は「材料 → 仕掛品 → 製品 → 売上原価」という流れで移動する。
- 原価は各分類分けの方法により大きく分けて計8パターン存在する。
この全体像を理解したうえで各論点を学習することで、それぞれの論点が「どこで何をしているのか」が明確になり、より体系的な理解のもと学習を進めることができます。
著者: T.M (株式会社ウィズツーワン)
