はじめに
Slackは便利だけれども、必ずしもそうならないケースもあります。
そもそも、なぜSlackを導入するのか、メールとは何が違うのか、他の選択肢はないのか、といった情報を整理していきます。
まだSlackを導入していない、またはこれから導入を検討しているといった状況においての、手がかりとなれば幸いです。
人が本当に集中すべきものに集中できるように
まずはSlackに限らず、テクノロジー全般において、重要なメッセージがあります。それは、
「テクノロジーは、人が本当に集中したいこと(集中すべきもの)に、集中できるようにするために存在する(べき)」
ということです。
新しいテクノロジーを導入しても、それを利用する人々の負担が増えてしまうのは、望ましいことではありません。また、すでに同様のサービスが世に出回っているにも関わらず、車輪の再発明をするのも望ましいことではありません。
テクノロジーによって望まれる状態とは、そのテクノロジーを利用することで自動的にかつ安定的に課題が解消される、ということがよく挙げられます。
ですが、それ以上に大きなメリットは、解消される課題に対して**「意識しなくてよい状態(=意識の余白)が生まれる」**ことです。
そして、「意識の余白がある」ということは、**「本当に集中したいことに意識を集中できる」**ということにつながります。
※ 例えば、電話を使えば離れた相手と会話することができますが、どうやってそれが実現できているのかを意識する必要はありません。意識は相手との会話の内容に向いています。
※ 自動車やバイクに乗れば速く移動できますが、どうして速く動くのかを意識する必要はありません。意識は目的地への道筋に向いています。
リンク:テクノロジーは人が本当に集中すべきものに集中できるようにするために存在するべきだ - Qiita
メールからSlackに変えて生まれる意識の余白
「メールかSlackか」という議論については、先に私の結論を書きます。
- クローズドな組織における内部間のコミュニケーションは、Slackが有効
- クローズドな組織における外部とのコミュニケーションは、メールが有効
上記はメールの極端なイメージサンプルです。
これから、メールとSlackの比較をしていきます。
クローズドな組織における内部間のコミュニケーション
内部とのやりとりにおいては、Slackは向いています。
メールでのやりとりの度に生じる作業や作法は、すでに見知った組織内においては省略可能なはずです。本当に伝えたいメッセージのみに絞り込むことでノイズが減り、情報の発信者も受信者も、内容そのものに意識を集中しやすくなります。
また、Slackのワークスペース参加者を組織内部だけに閉じた場合、誤った操作による外部への情報漏洩といったセキュリティリスクも軽減されるので、より安心して活発なコミュニケーションが可能になります。
メールのデメリット
- 1-1:メールを送るときは、必ず宛先を指定しなければなりません。
- 1-2:これから送る相手のメールアドレスが正しいという保証は、相手に届くまで確証が得られません。
- 1-3:メールアドレスを間違えると、相手にメールが届かないどころか、違う人にメールが届いてしまうリスクがあります。(誤送信、情報漏洩)
- 2:宛先から外れれば、その情報にアクセスすることはできないため、送信者側にのみ情報の選択権があることになります。
- 3:メーリングリストを使えば、1つのアドレスで複数の人に一括送信できますが、一方で、そのメーリングリストのメンバーに誰が含まれているかの情報は明示的ではありません。
- 4:一度送信したメールの情報を、送信者側から再編集したり、削除したりすることはできません。
- 5-1:急ぎの要件でも、相手にメールを読んでもらうまでは、気付いてもらえません。
- 5-2:共有目的で送られるメールが増えると、自分宛ての重要なメールを見逃す恐れがあります。
- 5-3:迷惑メールにより、重要なメールを見逃す恐れがあります。
- 6:メールのやりとりが、入れ違いになる場合があります。
- 7:ビジネス慣習として、本当に伝えたいメッセージ以外の情報が多く含まれることがあります。
Slackのメリット
- 1:Slackのワークスペースに参加している段階で、ユーザーの認証は済んでいます。
- 2:チャンネルという「場所」に対して書き込むことができるので、受信する側にも情報の選択権が生まれます。
- 3:メンバー一覧にてチャンネルに参加している人を確認することができます。
- 4:一度送信したメッセージを再編集したり、削除したりすることができます。
- 5:メンションをつけることで、相手がメッセージに気付きやすい仕組みがあります。
- 6:他の人がメッセージを書き込んでいる間は、「○○が入力中」と表示されます。
- 7:本当に伝えたいメッセージのみに絞って投稿することが望まれます。
※※※書き出していてピンキリで際限がなさそうなので、あとで追記するか、新規で記事を起こすことにします。
クローズドな組織における外部とのコミュニケーション
外部とのやりとりにおいては、Slackは不向きです。
外部とのコミュニケーションでSlackを使用する場合は、下記のような注意しなければいけない課題が多く、メールでやりとりする以上に、意識を割かれることになります。
Slackのデメリット
- 無料プランの場合は、ワークスペース全体で直近1万件までしか表示することができません。(データとしては保存されているので、有料プランに変更すると1万件以上過去のメッセージも見えるようになります)
→過去のメッセージが見えなくなっても問題ないか、または有料プランに切り替えられるかが判断基準になります。
- ワークスペースを所有する組織側でのアカウント管理が必要になります。
- チャンネルへのアクセスを制限する場合は、ゲストアカウントとして招待する必要があります(有料プラン必須)
- 複数のチャンネルに参加できるマルチチャンネルゲストの場合、通常メンバーと同額で請求が発生します。
- 1つのみのチャンネルに参加できるシングルチャンネルゲストの場合、有料アクティブメンバー1人につき5人まで無料で招待することができます。
→外部からの参加者に情報をフルオープンにするかが判断基準になります。情報制限する場合は、アカウントの費用を自組織が負担できるかが判断基準になります。
→共有チャンネルを使えばアカウント管理や請求の負担は軽減されますが、双方のSlackワークスペースの契約プランが有料プランである必要があります。
- ゲストアカウント側は関わる組織の数だけ、参加するワークスペースが増えることになります。
→ワークスペースごとにアカウントが分離するので、IDとPASSの管理の手間が増えます。
※※※書き出していてピンキリで際限がなさそうなので、あとで追記するか、新規で記事を起こすことにします。
そもそもメールはなくならない(今のところは)
メールとSlackは、サービスの形態がそもそも異なります。
メールは、長い年月を経て培われてきた共通のコミュニケーション基盤となります。
宛先のメールアドレスが確かであれば、安定して相手にメッセージを届けることがほぼ保証されています。 ※迷惑メールは例外。
メール文化における慣習も、共通言語といってもよいほど熟成されています。
1つのメールアドレスがIDとなって、さまざまな相手とコミュニケーションをすることができます。
一方でSlackは、一企業によるサービス提供となります。
機能変更があっても、障害があっても、サービス提供企業の方針に左右されます。
他のチャットサービスもしかり、機能の類似や相違はあったとしても、一企業によるサービスであることには変わりません。
サービスごとにアカウントも異なれば、操作方法も異なります。
チャットが文化として熟成するには、もう少し時間がかかりそうです。
メールかSlack(チャット)かのどちらか一方に固執するのではなく、使い分けて共存する、という道筋があってもいいのではないでしょうか。
数あるチャットサービスの中で、なぜSlackなのか
Slackは単なるチャットサービスではなく、**「コラボレーションハブ」**だからです。
人と人との会話だけでなく、他のツールやサービスとも連携可能で、各サービスにアクセスしなくても、あらゆる通知情報をSlackに集約することができます。
とりあえずSlackを見れば、情報が確認できるという状態=ハブがSlackの強みとなります。
また、Slackから離れることなく情報を取り込んだり、タスクやアクションを完了させたりと、業務をより効率よく進めることも可能です。
競合するチャットサービスも他サービスとの連携やAPIの拡充に力を入れていますが、この連携機能においてはSlackが抜きん出ているため、ユーザーに選ばれているのだと私は考えています。
不特定多数のオープンなコミュニティには向いていない
Slackの場合、管理者から参加メンバーを招待する必要があるので、どちらかというとクローズドなコミュニティ向けです。
※Slackinを活用すれば、外部の参加者から主体的に参加することも可能ですが、Slackinの環境を用意する負担が発生する上、一度退場して無効化されたアカウントは、Slackinだけでは再入場できない(Slack管理者がアカウントを有効化する必要がある)ため、やはりオープンコミュニティには難しいように感じます。
そこで、参加者が出入りしやすいオープンなコミュニティ向けの代替サービスを、2つご紹介したいと思います。
代替案1:Discord
オープンコミュニティで活発にコミュニケーションが生じる場合は、Discordがオススメです。
他サービスとの連携も少なく、チャット中心となる場合は、SlackよりもDiscordがオススメです。
- 無料でサーバ(Slackでいうワークスペース)を立てることができます。
- 参加者のサーバへの出入りは自由です。(Discordアカウントが必要です)
- 過去のメッセージはすべて参照可能です。
- テキストチャットだけではなく、複数人でのボイスチャットも同時利用が可能なので、非同期的にも同期的にもコミュニケーションが取りやすくなっています。(Slackの場合は、無料版での音声通話は一対一のみ)
- 他のサービスやAPIとの連携がSlackに比べると容易ではない、もしくはできない場合があります。
▼Discordの実例
代替案2:Googleグループ(≒メーリングリスト)
オープンコミュニティだけど、コミュニケーション頻度が多くない場合は、Googleグループがオススメです。いわゆるメーリングリストです。
- 無料でGoogleグループを作成することができます。
- グループに参加していなくても、過去の投稿内容を確認することができます。
- 投稿する場合は、グループへの参加が必須です。(Googleアカウントが必要です)
- 誰かが何らかの投稿をした場合、メーリングリストとして配信されるので、ウォッチしやすいです。(逆に頻度が多いと、配信されるメール数も多くなるので、ほどほどのコミュニケーション向けとなります)
- SlackやDiscordに比べて、同期的にコミュニケーションをとることは難しいですが、チャンネルやトピック、権限などについて考えることからは解放されます。
▼Googleグループの実例
情報は常に肥大化する、意識は常に消耗する
最後です。
コミュニケーションや情報共有は、テクノロジーの発展にともなって、どんどん容易になっています。それと同時に、私たちが日常で触れる情報の量もどんどん増加していく一方です。
多くの情報に触れることは、必ずしも良いこととは限りません。
多すぎる情報は時にノイズとなり、目の前のことに対する集中力を欠いてしまいます。(シャロー・ワーク)
また多すぎる選択肢は、決断への迷いや後悔を生じさせ、幸福度が下がるとも言われています。(選択のパラドックス)
意識的にせよ、無意識的にせよ、情報に触れるということは、何らかの身体への影響を与えるということです。
「人が本当に集中すべきものに集中できるように」と冒頭で書きましたが、Slackを導入したからといって、ただそれだけですべてが実現できるわけではありません。
本当に大事なことは何か、それをきちんと見定める必要があります。
そして本当に大事なものに集中するために、いかにして意識の余白を作れるか、そこがテクノロジー導入のカギとなります。
ただSlackで会話することや情報を集約することがゴールではありません。時には、情報の整理・削減も必要です。
Slackはコミュニケーションハブですが、本当に実現したいことはSlackの外にあるはずです。
Slackはその入り口、きっかけなだけです。
Slackを眺めるだけで、あなたの大切な1日が終わってしまわぬよう、
そして本当に大事なことに集中して、近い将来でそれが実現されることを、切に願っております。
参考
以前に書いたSlackに関するQiitaページへのリンクも記載しておきます。
以下は、関連記事です。(随時、追加するかもです)