Cursor → Claude Codeと続き、あれこれツールを使っていますが、資料作成についてもプロンプトのストックがあったことを思い出し、備忘録として残すことにしました。
背景
「資料作成」という、どの組織でも避けて通れない営みと生成 AIというツール。この両者を どう融合させれば最小の工数で最大のアウトプットを得られるのか──私はここ数か月、社内外のプロジェクトで試行錯誤を続けてきました。
結論だけを書けば、ポイントは単純で、プロンプトを工程単位に分割し、AI に「止まる場所」を与える ことです。しかし、「単純に見える」は「簡単に運用できる」と同義ではありません。なぜなら、プロンプト設計には「情報を削ぎ落としつつ、制約を余さず伝える」という、両立しがたい二律背反が潜んでいるからです。
本稿では、私が社内で展開しているスライド作成ワークフロー──わずか 3 往復で完成ファイルを得る──を、反省点と学びを添えて整理します。以下に示す 5 つのプロンプトセットは“原文ママ”で掲載します。
ワークフロー全体像
- 1st Round … AI に骨子を提示させ、一度停止させる
- 2nd Round … デザイン・画像・レイアウト制約をまとめて渡す
- 3rd Round … 最終チェックプロンプトで自己検証させる
――これだけ です。言い換えれば、各ラウンドでは「追加質問をさせないだけの情報密度」が求められます。そのため私は、「情報は絞り、制約は漏らさず」という二項目を、毎回自問しています。
Prompt Set 1 — 初期プロンプト(構成指示)+アジェンダ
【目的】(例)社内経営層が10分で状況を把握できる進捗レポート 【想定読者】(例)役員・部長級 【必須ルール】 1. **アジェンダに無い情報は追加しない**(補足や脚注も不可) 2. 各ページは A4 縦長(595×842 px)に収める 3. スライド枚数は **内容量を基準に AI が自動決定**(最小枚数で) 4. 骨子案を提示したら一度停止し、OK が出たら次工程へ進む 5. タイトルスライドは不要 ▼アジェンダ 1. ~~~~~~~~~~~~ 2. ~~~~~~~~~~~~ 3. ~~~~~~~~~~~~ …
考察
「アジェンダに無い情報を追加しない」という一行は強力です。AI はしばしば “善意の脚注” を生やしたがりますが、それはレビューコストを跳ね上げる要因になります。**“次は”ではなく“二度と”**を合言葉に、追加情報を封じ込めます。
Prompt Set 2 — デザイン要件プロンプト
■用紙・トーン ・A4 縦長(595×842 px)、ベースは白 ・メインカラー:(自分のお好みの色) ・本文フォント:Noto Sans / text-sm(必要に応じて text-xs) ・ページ番号を右下に「{page}/{total}」形式で表示 ・装飾は最小限、ビジネスライク優先
考察
「白ベース + メインカラーのみ」はブランドガイドラインの最小公倍数であり、マルチプロダクト企業における色彩衝突を防ぐ現実的な解決策です。フォントは “Noto Sans 固定” に振り切りました。可変の余地を残すと、AI が“無難な置き換え”を試みるためです。
Prompt Set 3 — 画像差し込みプロンプト+挿入画像(汎用)
▼画像一覧と配置指示 - 画像A(file: imgA.png):{配置箇所 or スライド番号、左右/上下/中央、縮小率 例:50%} - 画像B(file: imgB.png):{配置箇所 …} - 画像C …(複数可) 【汎用ルール】 1. 画像は “file: …” 形式で列挙し、**配置希望**・**縮小率** をセットで渡す 2. 枚数が多く高さ 842 px を超える場合は **自動的に分割スライドを挿入** 3. 不要なキャプションは付けない(説明が必要な場合は本文に反映)
考察
画像は “file:” で渡す──たった 5 文字ですが、AI に「これは実体ファイルだ」と明示する決定打になります。キャプションの自動生成は“冗長なやさしさ”を生むため、本文側で説明したほうが短く収まります。
Prompt Set 4 — レイアウト&制約プロンプト
■高さ制約 ・各ページのレンダリング高さ ≤ 842 px オーバー時は (a) 行間1.1→1.0→0.9、(b) 余白左右20→10 px を順に縮小 それでも収まらなければページを追加 ■文字制約 ・見出し:text-base/Medium ・本文:text-sm→text-xs で可変 ・箇条書きは 1 行 80 全角文字以内 ■その他 ・挿入画像は本文エリア幅の 40〜60% に収める ・章タイトル直下は 8 px の余白 ・外部 URL はテキスト表示(リンク化不要)
考察
制約は“違反したときの縮小ロジック”まで記述します。ここを曖昧にすると、AI は “なんとなく行間を詰める” ことで帳尻を合わせ、見た目が崩れます。想定外を具体的に規定することで、事故は減るという当たり前の教訓です。
Prompt Set 5 — 最終チェックプロンプト
セルフチェックが ALL ✅ なら「すべてOK」とだけ返信してください。 □ 全ページ高さ ≤ 842 px □ ページ番号 {page}/{total} が連番で入っている □ 指定画像がすべて表示され、位置・縮小率が指示どおり □ アジェンダ順・項目が完全一致(追加・削除なし) □ 太字/必須マーカー箇所を欠落なく反映 □ 誤字・不要改行・過剰余白なし
考察
「『すべてOK』以外の文字列は許されない」──これが最大の肝です。AI は Nice work! ✅
と“善意のオマケ”を付けがちですが、それがパイプライン自動化を阻害します。ルールは逸脱ではなく上書きで破綻するという点を忘れてはなりません。
運用して見えてきたこと
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指示は“短く”より“逸脱不能”であるべきです
一見冗長でも、「抜け道」を塞ぐ言葉は惜しむべきではありません。 -
エラーは検知より予防が安いです
行間・余白の縮小手順を明示したことで、レビュー工数が 30% 減りました。 -
向き合うべきは“生成結果”ではなく“プロンプト資産”です
毎回ゼロから書き直すのは「努力の再発明」に過ぎません。
まとめ
生成 AI は「作業を肩代わりする」だけでなく、プロセス全体を再設計させる鏡でもあります。作業手順を 3 往復にまで圧縮できた事実は、“AI が賢くなった”というより、私たちが「何を伝え、何を捨てるか」を学習した証左でしょう。
そして、ここで示した 5 つのプロンプトセットは完成形ではありません。「次はではなく 二度と“手戻りレビュー”に戻らない」ための暫定解に過ぎません。
明日もまた、私はプロンプトを少しだけ削り、そして少しだけ足します。