はじめに
機械学習や深層学習を学ぶ上で、最適化(微積分)と並んで重要なのが「確率・統計」です。特に「ベイズの定理」や「最尤推定」といった概念は、AIがどのようにデータを学習し、予測の確からしさを評価しているのかを知るための心臓部です。
この記事では、「そもそも確率とは何か?(頻度主義とベイズ主義)」という根本的な違いから、具体的な数値計算を用いた「ベイズ更新」の仕組みまでを解説します。
2つの確率:「頻度主義」と「ベイズ主義」
高校数学までの確率は、サイコロの目のように「誰がいつ振っても確率は変わらない(客観的な真実)」とする頻度主義です。
一方、機械学習の根底にあるのはベイズ主義(主観確率)です。
主観確率とは、「観測者が持っている情報量に基づいた、確信の度合い」のことです。
例えば、私の手の中に隠されたコインが表である確率は、あなたにとっては「50%」ですが、こっそり中身を見た私にとっては「100%」です。コインの物理的な状態は同じでも、「新しい情報を得たことで確率(確信度)がアップデートされた」のです。AIの学習とは、まさにこのアップデートの連続です。
ベイズの定理と各パーツの意味
このアップデートを数式にしたのが、ベイズの定理です。
$$P(\theta \mid D) = \frac{P(D \mid \theta) P(\theta)}{P(D)}$$
機械学習の文脈で、各変数は以下のような意味を持ちます。
- $\theta$:モデルのパラメータ(AIの仮説)
- $D$:観測された訓練データ(証拠)
- $P(\theta)$ 【事前確率】:データを見る前の、パラメータに対する思い込み(制約)。
- $P(D \mid \theta)$ 【尤度】:今の仮説 $\theta$ のもとで、このデータ $D$ が発生する確率(辻褄の合いやすさ)。
- $P(\theta \mid D)$ 【事後確率】:データを見た後の、アップデートされた新しい確率(確信度)。
AIの学習の目標は、この事後確率を最大化するようなパラメータ $\theta$ を見つけること(最大事後確率推定)です。
具体的な計算例:サッカーのPK予測
数式だけではイメージしづらいので、サッカーのPKの予測で実際に計算してみましょう。
- 事前確率: 相手エースは右に蹴る傾向が強い($P(\text{右}) = 0.7$)
- 尤度1: 本当に右に蹴る時に「蹴る直前に右を見る(ヒント)」確率($P(\text{見る} \mid \text{右}) = 0.8$)
- 尤度2: 左に蹴るのに「フェイントで右を見る」確率($P(\text{見る} \mid \text{左}) = 0.3$)
ここで、相手が「右を見た」という新しいデータ(証拠)を観測しました。このとき、本当に右に蹴ってくる事後確率 $P(\text{右} \mid \text{見る})$ を計算します。
-
分子(右に蹴る、かつ、右を見る確率):
$0.7 \times 0.8 = \mathbf{0.56}$ -
分母(フェイント含め、とにかく右を見る全確率):
右に蹴って右を見る($0.56$) + 左に蹴るのに右を見る($0.3 \times 0.3 = 0.09$) = $\mathbf{0.65}$ -
事後確率(割り算):
$0.56 \div 0.65 \approx \mathbf{0.862}$
最初は「たぶん右だろう(70%)」だった確信が、「右を見た」というデータを観測したことで「絶対に右だ(86.2%)」へと強力にアップデートされました。
まとめ:今日の事後確率は、明日の事前確率
ベイズ更新の最も美しい点は、「計算された事後確率(86.2%)を、次の新しい事前確率として再利用できる」というループ構造にあります。
次々と新しい訓練データを入力し、パラメータの事後確率を何度も上書き保存していく。これこそが、深層学習におけるAIの「学習」の正体です。
次回は、損失関数として使われる「交差エントロピー」と「KLダイバージェンス」の数学的な繋がりについて解説します!
【深層学習の数学】交差エントロピーとKLダイバージェンス:Loss関数の正体を暴く(直感でわかる確率・情報量 #2)
