はじめに
今回、アドベントカレンダーという機会をいただき、何を書こうか非常に悩みました。プログラミングの技術的な知見については、百戦錬磨の先輩方が素晴らしい記事をたくさん書いてくれています。そこで私は、学生時代の自分ならではの経験とそこからの学びを、「チームのメンタルマネジメント」 という切り口で執筆することに決めました。
なぜなら、インターンを通して1社会人として開発現場に身を置く中で、学生時代にサークルの副代表として経験した「ある苦い記憶」が、仕事にも驚くほど直結していると最近つくづく感じるからです。
チームのマネジメントと言っても、マネージャーの方から自分のような現場の新人まで、立場によらず意味がある教訓を得られたと思っているので、ふとした時に思い出していただけると幸いです。
その教訓を一言で言うと、「進捗がない」こと以上に、「状況の停滞」こそが、自分とチームの心を削るということです。
1. 「感情的負債」を溜め込んだサークル時代
私が大学のサークルで副代表を務めていた頃、メンバー間で大きな人間関係のトラブルが起きました。
当時の私及び運営側のメンバーは、「とにかく波風を立てたくない」という一心で、こう考えました。
「当事者から個別に事情を聞いて、裏で穏便に済ませよう。わざわざ全体に周知して、場を荒らす必要はないはずだ」
この甘い考えと判断ミスがすべての「停滞」の始まりでした。
真実が不透明なまま、具体的な解決策も示されずに時間だけが過ぎていく。すると、サークル内には何とも言えない重苦しい空気が漂い始めました。
- トラブルの当事者: 「いつになったら対応してくれるのか」という焦燥感、そして放置されていることへの苛立ち。
- 周囲のメンバー: 「何か起きているようだが、本当のことが分からない」という不信感。その不透明さが不安を呼び、運営や当事者達への疑念へと変わっていく。
- 私(運営): 「わざわざ説明しなくても、みんな空気を読んで察して、いつも通り振る舞ってほしい」という身勝手な期待。時間経過とともに余計に手をつけづらくなる。
現実は、私の期待とは真逆の方向へ進みました。説明を後回しにし、状況を動かさなかったことで、組織には 「感情的負債」 がどんどん溜まっていきました。この負債は、一度溜まると利子がつくように膨らみ、メンバーのモチベーションやメンタルを確実に蝕んでいきました。
私自身も、「言いたくても言えない」という状況を独りで抱え込み、毎日そのことが頭の片隅にありました。常に脳のバックグラウンドで「解決していない問題」という負荷の高い思考が走り続けているような、精神的にもパフォーマンス的にも不健全な状態でした。
2. 「不快な真実」は「不透明な不安」に勝る
事態が深刻化し、これ以上は取り返しのつかないことになると考え、私はついに全員の前でトラブルの経緯をありのままに説明し、自由に意見を出し合う場を設けました。
正直、これほど乗り気になれないことはありませんでした。私含む運営の判断の遅さを非難する声もあれば、私が予想もしていなかった角度からの厳しい指摘や、メンバー間での批判的な意見もありました。しかし、その場が終わった後の空気は、それまでの「どんよりとした停滞」とは明らかに違っていました。
メンバーからは、意外にも次のような言葉が返ってきたのです。
「ようやく事情を理解できた。肩の荷が下りたような気分だ」
「今の状況には納得はできないけど、話が前に進み出したことは良かった」
たとえそれが厳しい現実や不快な真実、納得できない経緯であっても、「今、何が起きているのかを正しく認識できている(=状況が動いている)状態」 は、放置されるよりもずっと人間のメンタルに優しいのだと、身をもって痛感した瞬間でした。
3. 仕事で実践できる「停滞」を壊す3つのアクション
このサークルでの「苦い経験」から得た教訓は、現在の業務での考え方に大きく影響しています。技術力が未熟な私だからこそ、チームの「停滞」を防ぐという点で貢献すべきことは大きいからです。
具体的に、今回の教訓から得られた3つの考え方を紹介します。
① 嫌なこと(負の情報)ほど「即」報告する
開発中にミスをしたり、予定外のバグに直面したりしたとき、かつての私は「自力でなんとかしてから報告しよう」と抱え込みがちでした。しかし、それは自分自身のメンタルを圧迫するだけでなく、チーム全体に「進捗の不透明さ」という毒を撒く行為です。
早く報告すれば、それは単なる「解決すべきタスク」ですが、隠した瞬間に「感情的負債」へと変わります。 自分を楽にするためにも、負の情報ほどスピード感を持って共有するようにしています。
② 「できないこと」を早期に共有し、期待値をコントロールする
自分のキャパシティを超えそうなタスクに対し、「もう少し頑張れば…」と粘ることや現実離れした理想的な計画を立てることは、相手に無駄な期待を抱かせ続け、最終的に「待ち時間」や「打てたはずの対策が打てない」という形で停滞を作ることになります。
「今、ここまでできていて、ここから先は自分の力では厳しいです」と早めにヘルプを出す、「現実的にこの期日では終わりません」と早期に報告する。これだけで周囲も自分も感情的負債を抱えることがなくなります。自分がずっと悩んでいたことを先輩に相談してみたらあっさりと解決策が見つかったとき、どれほど心が軽くなり、チームが前に進むかを実感しました。
③ 次のアクションは「具体的な期日」を決める
サークル時代、私がメンバーを不安にさせた原因の1つは、「いつまでに対応するか」を明言しなかったことでした。
仕事においても、「いつかやります」という曖昧な返答は、相手の脳内に「未完了のタスク」として残り続け、無意識にリソースを奪い続けます。TODOや日程調整において 「〇日の〇時までにやります」と期日を確定させる。 それだけで、相手は「その時まで待てばいい」と安心でき、自分自身も余計な迷いなく作業に集中できるようになりました。
おわりに
「進捗が出ない」こと以上に、「状況が止まっている」ことが、個人を、そしてチームを壊します。
技術力が未熟な現在の私では、すぐに技術でチームをリードすることはできません。しかし、「情報を透明に保ち、停滞を壊す」 という振る舞いによって、チームのメンタルを支え、生産性に寄与することは今この瞬間から可能です。
「感情的負債」を溜めないスピード感。これを、技術力と並ぶエンジニアとしての武器にできるよう、これからも磨き続けていきたいと思います。