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脳科学から見る、AI時代のエンジニアが成長する考え方

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Last updated at Posted at 2026-05-12

はじめに

新入社員が入ってきて、今年も研修やOJTが始まっている頃でしょうか。
そんな中で、なかなか成長できない、成長してくれない。そんなことを悩んでいる方も多いかと思います。
本記事では、エンジニアがより成長するために必要な考え方について 「脳科学」 の側面から切り込んでみます。

また、AI時代で常識すら日々激変していく中、我々エンジニアは何を目指していけば良いのか。目の前の指針すら見えない世界ですが、そんな今だからこそ、石器時代から変わらない脳の視点から考えてみます。

本記事の想定読者

  • もっと成長するにはどうしたらいいのだろうか? と感じている方
  • みんなにもっと成長してもらうには、何をしてあげたらいいのだろうか? と考えているメンターやマネージャー
  • AI時代に向かうべき指針が知りたい方
  • 脳科学に興味がある方

学術的な難しい話ではなく実践に近いレベルでの話です。非エンジニアにも通ずる話ですので、誰でも気負わずに読んでもらえればと思います。

留意点

本記事における「脳科学」という言葉は、アカデミックな厳密性を保証するものではなく、脳の仕組みを元にした「役に立つ考え方」という意味合いでとらえてください。
筆者自身が工学系出身で、心理学や脳神経科学の修士号を取得したわけではないので、そこだけはご留意いただければ幸いです。

1章 脳の基礎理解 ~やる気と成長に関わる、ドーパミンとアドレナリンの解説~

本記事で扱うのは、人間のやる気や成長に大きく関わる ドーパミンアドレナリン です。この2つは様々な場所で語られ混同されがちですが、全く違う性質を持つものです。
それぞれがどのように作用し、どのような状況が最適な成長につながるのでしょうか?

ドーパミン

いわゆる報酬系の脳内物質です。
達成、勝利、ギャンブル、承認、共感、性衝動、食事(特に高糖質、高脂質)、期待(ワクワク)、未知の体験、etc...

より感情的に表現するならこんな感じでしょうか?

「やったぜ!」
「面白そう!」
「身に余る嬉しさ!」
「気になるぅ!」
「やってみたい!」
「もっと欲しい!」
「最高にハイッてやつだ!」

生きるために必要なリソースを獲得するために、推進力として働くプラスの感情です。よりよい未来へ向かうために脳を震わせて、私たちに力(脳内麻薬)をくれます。

そして本記事の文脈で一番重要なことなのですが、ドーパミンが分泌された状況では学習能力が高まる と言われています! 成長という観点では、ドーパミンをいかにうまく使うかがカギを握っているのです。

デメリットは?

ドーパミンという物質自体には目立った悪作用はありません。
ただし、ギャンブル依存など、結果として社会的に問題のある行動に繋がってしまうことはあります。
現代社会ではSNSや高カロリーな食事など、インスタントにドーパミンを得る手段が増えすぎており、過剰摂取によるドーパミン中毒や、報酬に対する感度低下が指摘されています。

(細かい話をすると、脳は想定された報酬と実際の報酬の差分に反応します。例えばギャンブルでは報酬が未確定な状態から確定する瞬間の差分がとても大きいので、人を引き付けてしまうのです。また近年問題となっているのは、SNSでインスタントに強烈な承認や共感を浴びすぎると、「いつもこのぐらいの称賛を浴びているから、これは通常だ」と脳の予測報酬しきい値が上がって、ささやかな喜びを感じづらくなるという研究結果もあるそうです)

まとめイラスト

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アドレナリン

いわゆる 「闘争・逃走」反応 (英語では Fight or Flight) と呼ばれる、覚醒系の脳内物質です。
大昔、狩猟採集の時代。獣の狩りをする場面を想像してください。相手は鋭い牙によだれをしたたらせ、こちらの首元を狙っています。戦って勝てば食料が手に入りますが、負ければ何も得られないどころか命の危険があります。勝てないと判断したなら、すぐさま逃げなければなりません。あなたは木と石でできた槍を手に持ち、報酬と自分の命を天秤にかけています。さあ、戦うのか、それとも逃げるのかを判断するのです……
こんな状況で集中力や能力を高めてくれるのが、アドレナリン(※1)です。

現在では猛獣に出くわす機会なんてないので、もう少し現実的な例も考えます。

  • 暗闇を歩いている時に、隣でガサゴソと音がする
  • ジェットコースターに乗り、だんだんと上昇していく
  • 入れ墨の入った兄ちゃんがすごんでくる
  • 車を運転していて、あわやという場面に遭遇する
  • 上司から強い叱責を受ける

アドレナリンは生存の危機に出る物質ですが、なにもこれは物理的なものだけではなく、社会的な危機にも適用されます。
締め切りを守れない ⇒ 社会的に失敗、無能の烙印を押される ⇒ 社会での生存確率が下がる
という理屈で、生産性を無理やり高めてくれるのです。
いわゆる「締め切り効果」というやつです。これもアドレナリンが活用される事例ですね。

(※1 脳に作用するのは正確には「ノルアドレナリン」ですが、本記事では「アドレナリン」で統一します)

デメリットは?

ドーパミンと違い、アドレナリンの使用には明確なデメリットが存在します。
それはアドレナリンと一緒にストレスホルモン(コルチゾール)も分泌されることです。

具体的には以下のような現象となって現れます。

  • 激しい疲労感に襲われる
  • 長期間続くと、過労や鬱になる
  • 冷静さを欠き、攻撃的になったり短絡的な判断をしやすくなる

アドレナリンには命の危機を乗り越えるという設計思想があるので、ブースターとしてはドーパミンより優秀なケースが多いですが、長期間使用すると大きな負荷がかかるのです。
「闘争か逃走か?」「生か死か?」というレベルの極限環境にずっと身を置けば、人間はいずれ物理的に死んでしまうでしょう。だから脳は「そこに長時間留まるとヤバいぞ!」とストレスホルモンを分泌し、肉体に極限状態からの脱出を促すのです。ストレスを感じてその環境から逃げることで、人間は本能的に危機管理をしてきたわけです。

まとめイラスト

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ドーパミンとアドレナリンの比較

ドーパミン アドレナリン
きっかけ 期待、達成、報酬 生命、社会的地位などの危機
効果 集中力の向上、記憶力の向上 集中力の向上、記憶力の向上(※1)
発生後 幸せホルモンの分泌 ストレスホルモンの分泌
クリエイティビティ 向上する 下がる
過剰摂取 中毒、感度の低下 鬱、健康障害

(※1 過剰分泌は逆効果で、全方位に集中力が向いてしまい、結果としてやりたい仕事に集中できなかったり、生命維持に脳のリソースが囚われて複雑な思考ができなくなったりします)

見てもらった通り、アドレナリンに比べてドーパミンは下手に摂取しすぎなければ最強のツールです。インスタントに浴び続けると感度が下がるという現代の問題もありますが、それ以外に目立ったデメリットはなく、学習効果も上がります。

じゃあドーパミンだけ使えばいいのか?

そんなことができれば理想的ではありますが、現実そうはいきません。
学習の文脈でドーパミンの元となる「好奇心」も無限ではないですし、自分の興味が向くものと社会から必要とされるものが同じとも限りません。
また、興味という感情は永遠には続きません。初めて得た新鮮さもだんだんと色をなくして、推進剤としての効能が落ちてしまいます。
だから、時に危機感というアドレナリンをブースターにすることが必要だったりするのです。

まとめ

私見も入りますが、まとめます。

  • ドーパミンベース
    • 学習、作業の文脈ではいいことしかない
    • ただし、だんだんと推進力は落ちてくる
      • どこかで新しい刺激や興味、もしくはアドレナリン(危機感)を注入することが必要
  • アドレナリンベース
    • 危機感ベースの推進剤
      • 危機感から作業を開始することはむしろ推奨される
    • ただ、ずっとアドレナリンだけでは負荷過剰で、いずれは鬱や健康障害にもなりえる
    • どこかのタイミングで、作業などを「面白い」と感じたり、達成感に酔いしれたりと、ドーパミン主導の安定した推進に移ることが大事

マリオカートで言うならば、ドーパミンは通常エンジンで、アドレナリンはスタートダッシュやドリフトダッシュのようなものでしょうか。うまく使い分けることが大事なのです。

コラム:心理的安全性の重要性と過信の禁物

内容を読む

「心理的安全性」という言葉をよく聞くようになりました。文脈によって様々ですが、チームメンバーが失敗や意見を恐れず発言できる環境のことかと思います。これが高い組織はパフォーマンスが高いという研究(Googleのプロジェクト・アリストテレスなど)もあり、特にエンジニア組織では重要視されています。

脳科学の観点からも、心理的安全性は理にかなっています。アドレナリン(ストレス)が慢性的に高い環境では、クリエイティビティが低下し、長期的な学習が阻害されます。心理的安全性が担保された環境は、ドーパミンベースでの学習を促しやすいのです。

ただし、過信は禁物だと思います。

「失敗していい環境」が「何もしなくていい環境」になってしまうケースもあります。アドレナリン(危機感)が全くない環境では、行動のきっかけすべてをドーパミンに依存することになります。しかし先も触れた通り、ドーパミンによる推進は興味が薄れていくのに比例して弱くなっていきますし、誰もが必要とされることに興味を持って取り組めるわけでもありません。
人が進んでいくためには、適度な危機感が無ければなりません。もっとこだわると、この危機感は「一方的にたたきつけられたもの」ではなく「自ら受け入れたもの」である方が望ましいです。
人は自分で決めたことをやり遂げることで、自己効力感や達成感に繋がり、その成長実感がドーパミンの「達成」に繋がり、脳神経的にも困難な道を進めるようになるからです。

2章 成長が大嫌いな脳と、ニューロンの強化

1章では『ドーパミンとアドレナリンが成長に効く』と説明しました。しかしそもそも、脳は何をもって成長したと言えるのでしょうか? この章ではニューロンの視点から「成長とはなんなのか?」を定義し、成長を阻む壁と才能の壁を突破する考え方を紹介します。

成長を定義する

「成長」という言葉はひどく曖昧なものですが、本節では以下のように定義します。

【成長の定義】
自身が望んでいる、もしくは必要とされる能力に関するニューロン(≒シナプス)が、繰り返しの学習や刺激によって最適化されること

堅めな表現ですが、次節以降で補完します。

あらゆる経験は脳回路に刻み込まれる

ニューロンとは、脳内の神経細胞で電気信号を伝達しているものです。
人間をはじめとして多くの生物は、ニューロンの電気信号パターンで複雑な評価や思考をしています。これはまさに、LLMが数値演算の組み合わせで複雑な思考ができるのと同じですね。
さておき本節で解説したいことは、ニューロンは学習や経験によって「物理的」に強化されること、そして強化されたニューロンは電気信号の伝達性能が上がるということです。

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単純な例を出すと、数学記号の羅列を見ても本来ならば何もわかりませんが、掛け算や九九を覚えれば一瞬で解けるようになります。私たちは指折りして数えることなく、思考の範囲外で勝手に答えを出せていますよね。これが強化されたニューロンの力です。
もっと複雑な領域でも同じで、長年積み重ねた学習は無意識に答えを出してくれることが多いです。最初は意味が分からなかったコードをみてパッと概要を理解できるのも同じです。繰り返し作業によって訓練されたニューロンは幹線道路のようなもので、思考の速度も精度も高くなっています。たとえば「現場の勘」というのは、強化されたニューロンが一瞬で出力した第一回答です。熟練者の第一勘がバカにできないのは、パターン学習で獣道から幹線道路級に強化されたニューロンによる自動回答だからというわけです。

有益な情報を記憶するニューロン

ニューロンは「あっちに行けば報酬がありそう!」という生存に有利な情報も記憶します。
たとえば一度木にのぼって果実を見つけた経験をしたり、枯葉や枯れ枝が火おこしに使えることを経験して、そこから利益を得たとします。その時にニューロンの回路は強化され、次からはただの木を見ただけで色々な連想ができるようになります。これも成長の1つです。

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この仕組みは現代の様々な面でも同じで

  • SNSでバズッた経験から「もっと注目を集める投稿をしたらよさそう」
  • 仕事で叱られた経験から「あれを放置していたらまずそう」
  • 仕組みを理解して気持ちよかった体験から「あれが理解できたら楽しそう」

というように、以前の行動が報酬や悪い事態に繋がった経験としてニューロンに刻まれ、次回以降の行動に影響を及ぼします。この変化こそが 脳内で物理的に観測される 脳の成長と言えるでしょう。

ニューロンは衰退する

しかし、人間は成長ばかりではありません。
私たちは幼児期や小学生のころからたくさんの教育を受けてきたと思います。しかしそのほとんどを忘れてはいないでしょうか?
せっかく学んだなら、なぜ忘れてしまうのか? と文句も言いたくなりますが、これにもきちんと理由があります。すべての原因は、脳が無茶苦茶エネルギーを消費する器官 であるせいです。

脳は重さこそ人体の2%ほどしかないのですが、カロリー消費量は全体の20%ほどある超大食い器官です。
今でこそ飽食の時代でカロリーに困るという言葉の意味が完全に逆転してしまっていますが、生物進化の歴史は常に飢餓との戦いでした。
毎日食べ物が足りない。定期的に食べ物が足りない。余るときもあれば、足りない時もある。足りなければ死ぬ。
そのような環境を生き抜くのに、生存に関係ないことを覚え続けているごくつぶしはお荷物でしかありません。というか、余計なことを覚え続けていた個体は絶滅したのでしょう。
ゆえに私たちの脳は、使われないシナプスを意図的に退化(プルーニング)させ、カロリー消費を抑えるような仕組みになっています。

(※ニューロンは脳神経細胞、シナプスはそれをつなぐ道路のようなもの)

脳は余計な成長を嫌う

脳が退化する理由は話しました。
そしてもっと残念なことですが脳は成長にも膨大なエネルギーが必要です。
脳を電子回路に見立てるのであれば、すでに繋がっている回路で思考するのが「日常」なのに対して、普段使っていない経路に大電圧をかけ、電流を無理やり流すことで次から電気が流れやすくなる現象が「成長」です(焼ききれたら電気流れないやん、というツッコミは見逃してください)。
しかしこの大電圧がかかる状態は、

  • 「なんだかやだ」
  • 「とても疲れる」
  • 「集中できない」

という感情や状態になって現れます。はるか昔から生き延びてきた古い脳が「そんな膨大なエネルギーを使う作業は危険だ!」と必死に抵抗しているのです。

それでもニューロンを強化するには回路に大電流をかけ続けるしかありません。未開の森林でも、無理して何回も歩けば獣道となり、歩きやすくなるようなものです。ニューロンもたとえ「ぐぬぬ」と感じながらも無理やり使い続けるしか、強化する方法はないというわけです。困ったものですね。

ただ逆に言えば、勉強中に無性に抵抗感を感じたり、わからなくて「ぐぬぬ」となるのは、ニューロンが強化されている証拠とも言えるので、捨てたものじゃないかもしれません。

というわけでこの先、ニューロンを強化するためのエネルギー障壁のことを、「ぐぬぬの壁」 と呼ぶことにしましょう。

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コラム:乳幼児の爆発的成長

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シナプス(ニューロン同士の接続)が一番発達するのは乳幼児です。生まれた直後から猛烈に増え続け、だいたい2~3歳ごろにシナプスの密度が最大になり、その後不要な部分の選択的刈り込みが行われます。この作業が成人とは別次元のスケールで行われるため、生まれたばかりでは視覚情報すら処理できない状態から、言語習得に至るとのことです。
以前聞いたことのある英会話塾の呼び込みフレーズで「海外の赤子にも覚えられるのだから、あなたにできないはずがない」と聞いたことがあるのですが、成長状態が違うので比較することすらおこがましいでしょう。
この時強固に作られたシナプスは、いわゆる幹線道路のようなものです。脳科学の視点では、シナプスが物理的に強化されることが成長と言えるでしょう。
しかしその時期を過ぎると、新たに幹線道路を作るようなシナプスの新設はできなくなり、学習は既存の回路を強化したり、特定の回路同士を結び付けることで行うようになるのです。

まとめ: ニューロンの成長について

  1. 成長とは、繰り返し学習でニューロンが物理的に強化され、望ましい思考を簡単にできるようになること
  2. ニューロンは使っていなければ衰退する
  3. ニューロンを強化する(成長する)のにも大きなエネルギーが必要
  4. 脳は本能的に、大きなエネルギーを要する行動(学習を含む)を忌避する

つまり、社会が人間に成長を求めているのに対し、脳は「いやだいやだ」と言っているわけです。世知辛いと思います。

3章 「ぐぬぬ」のエネルギー障壁を超えろ! ~短期戦略~

ここまでで、脳がいかに大食いで、それゆえに無駄な成長が嫌われてきたかが分かったと思います。
では、いやいやながらにも学習を続けるしか道はないのでしょうか? 裏技はないのでしょうか?

実は1章で触れた「ドーパミン」と「アドレナリン」こそが、その高い壁を突破するためのツールなのです。

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ドーパミンで壁を越える

最初に「ドーパミンが分泌された状況では学習能力が有意に高まる」と説明しましたが、それはニューロン強化のエネルギーコストを、ドーパミンが補填してくれるからです。
何もない状態では「ぐぬぬ」と感じた瞬間にやめてしまうことでも、「面白い!」だとか「これを超えたら報酬がある!」と感じることができれば、やる気が出てこないでしょうか?
ドーパミンは脳に大電流がかかっている状況でも、正の感情で「ぐぬぬ」を忘れさせてくれるのです。

好きこそものの上手なれ、とはよく言ったものです。好きなことであればドーパミンが手助けしてくれるので、普通の人が苦しいと感じる場面でもテンションを上げて乗り切ることができるのです。
しかも、ドーパミンが出ている最中は学習能力が高まるというオマケつき。何事でも、好きな人には勝てないわけですね。

アドレナリンで壁を越える

ドーパミンとは別の種類ですが、アドレナリンでも壁を超えることができます。
ただし、こちらは作業自体が楽しいというより、「この作業よりももっとヤバい状況が近づいている!」という危機感から来るものです。
締め切り効果はまさに、「ここで作業する面倒より、締め切りで叱責される方がいやだ!」というモチベーションによって行動が促されます。
他にも「このテストができなければ浪人するかもしれない」という不安から勉強をしたりするかもしれません。

ただし、これは短期的な解決策でしかありません。アドレナリンは強力なツールですが、本質的には「外部からの刺激」に依存していますし、長期間続けると精神が疲弊してしまいます。

才能(好き)は超えられないのか?

ここまでの話をまとめると、「なんかだるい」という人類史上最も重い壁を超え続けるためには、ドーパミンが重要だということになります。
それはつまり、特定の領域に興味を持てるかどうかが重要になってくるということですが、エンジニアの皆さんなら思い当たるところがあるのではないでしょうか?
技術が好きでひたすらに走っていく人と業務として割り切っている人で、どれだけ成長のスピードが違うか。ある種絶望があるかもしれません。

では表題の問ですが、才能(好き)は超えられないのでしょうか?
遺伝子レベルで脳メモリが優秀で、技術のことにワクワクして、勉強を苦痛と思わない人に、作業だりー、と思っている人間がどうやって勝つというのでしょうか?
同じ土俵で戦えば、まず勝てないでしょう。(同じ土俵で戦わないという戦略は抜きにして)

なら才能がない人間はやめるべきかと言われれば、上を見ればキリがないですし、極論ウォズニアック級のエンジニア以外は全員やめろという話で議論が終わってしまいます。

視点を変えましょう。注視すべきは昨日の自分であり、今まさに困っている新人たちだと考えましょう。

さて、ここからが核心です。脳科学をベースに少しでも才能(好き)に抗う術を紹介します。

4章 「ぐぬぬ」のエネルギー障壁を超えろ! ~長期戦略~

短期的には、ドーパミン(楽しさ)かアドレナリン(危機感)のどちらかで「ぐぬぬ」の壁を越えることができます。ただしアドレナリンは長続きしないため、結局どこかでドーパミン主導のループに移行することが必要になります。
これが本章のテーマ、長期戦略に繋がります。

ドーパミンをハックする

才能(好き)とは、つまりドーパミンがどれだけ出るかということです。
ここでドーパミンがどのような状況で発露するか振り返ってみます。

達成、勝利、ギャンブル、承認、共感、性衝動、食事(特に高糖質、高脂質)、期待(ワクワク)、未知の体験

学習に関係ありそうなのは、
達成、承認、期待(ワクワク)、未知の体験
あたりでしょうか。
いわゆる才能(好き)が高い人を分解すると、まずは「期待、未知の体験」の部分でドーパミンが大量に発生します。
このドーパミンが行動を促し、熱量を持って取り組んだ結果、その先に達成があります。しかもその後承認までついてくる。こうして正のループに突入し、無限の成長スパイラルに入っているのです。

では才能(好き)が無い人はどうかというと、まず「期待、未知の体験」という所でなにも起こらず虚無です。なぜなら、作業そのものに興味もなく、作業の先に何かを得た経験すらないからです。達成も中途半端になり、承認もなし。ループの入り口に立てていないのです。

しかし逆に言えば、無理やりにでもこのループに乗っかってしまえばいいのです!

最初の推進剤

何をしようにもモチベーションがわかない。ドーパミンが出ないから困っているので、ここではアドレナリン、つまり危機感を使うしかありません。

アドレナリンを発生させられる状況をいくつか列挙します。

  • 周りの人間に対して「これをやる」と宣言する(やらなければ、社会的に自分の信用が失われる)
  • できなかった場合のペナルティを設定する
  • とりあえずプロジェクトに飛び込んでみる
  • 周りの人間がみんなやっている環境に身を置く

失敗に対して、自分が忌避するペナルティが発生するシチュエーションを作るのが望ましいですね。こうすれば、やる気以前にやらざるを得なくなります。
そうしてタスクをこなし、まずは達成を目指しましょう。

ワクワクは言霊で作る

作業を始めたら、次は興味を持つフェーズです。「期待(ワクワク)、未知の体験」でドーパミンを作る必要があります。
スピリチュアルな話に近くなりますが、ここでは言霊を使います。
プロセスはこんな感じです。

  1. わからないことに直面する
  2. 調べて理解する
  3. この時「なるほどなぁ!」と声に出してみたり、新しい技術には「これは面白いな!」と言葉に出してみる

大事なのは、心の底からそう信じることです。人間の脳はそこまでよくできていないので、本気で感情をエミュレートすれば、ある程度勘違いしてくれます。
これで実際に「新しい技術⇒面白い」「理解できること⇒楽しい」と、ニューロンに条件付けをすることができます。

バカのようだと思うかもしれませんし、前時代的な儀式のようにも思えるかもしれません。しかしこのようなプロセスを冷笑せずに信じれば変われるのだと、脳波の研究結果が言っているのです。

コラム:パブロフの犬実験

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「パブロフの犬」という有名な実験をご存じでしょうか?
ベルを鳴らしてから餌を与えることを繰り返すと、犬はベルの音を聞いただけで(餌がまだなくても)よだれを垂らすようになる、という「条件反射」の実験です。

人間で例えると、辛味というのは純粋に痛み刺激ですが、辛味と美味しさを同時に摂取し続けることで「辛い」≒「素晴らしい」と条件付けされていきます。
「休日」「デザート」「リリース」。思い出すだけで素敵な気分になれる言葉も、似たようなものかもしれません。

実はこの記事で紹介した「苦悩→達成→反芻」のサイクルも、本質的にはこれと同じ「条件付け学習」です。

ベルの音 = ぐぬぬ(苦難・思考の負荷)

餌 = 達成感(ドーパミン報酬)、言霊(たーのしー、うーれしー)

本来、脳にとって「ぐぬぬ」という負荷は、エネルギーを浪費する避けるべき「不快な刺激」です。しかし、その直後に必ず「達成感」という最高のご褒美がくることを何度も脳に教え込むと、どうなるでしょうか。

これが後天的に成長ループに入るための1つの方法なのです。

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達成と承認は、苦悩と成功の記憶を反芻して強化する

脳は「苦悩の後の達成」という体験を非常に強く記憶します。

  • 2日間かけて探し当てた綺麗な石
  • たくさん練習してできるようになったピアノ
  • いろいろな方法を考えて、ようやく解けた問題
  • 勉強の時間を削って徹夜調整したデッキで、カードゲーム大会に優勝する

これ以外にも、たくさんあると思います。脳は、わからなくて何時間も格闘した問題が突然スルッと解けた瞬間や、「ぐぬぬ」の後に「わかった!」となったとき、通常よりも多くのドーパミンが分泌されると言われています。

しかし、達成するだけでは足りません。それでは達成の無駄遣いで、せっかく達成したのならそれを有効活用するのです。
大事なのは2つで、達成体験を意識的に反芻することと、その時の苦労もセットでしっかり反芻することです。これらはセットでなければなりません。

なぜか。
まず「達成」は人間にとって報酬です。これだけでドーパミンが出て気持ちよくなれます。
そして達成のために苦労をしているはずです。その苦労と達成を同時に思い出すと、脳のニューロンは「今回の達成」と「そのために苦労したこと」を強く紐付けます。
最終的に「この苦労をすれば、あの達成感が得られる」という条件付けとなり、次の苦労が楽になるのです!

つまり、苦悩→達成→反芻のサイクルを意図的に作ることで、成長プロセス自体を報酬に変えられる のです。

成長プロセスを自分自身でコントロールするのも大事ですが、プロジェクトが終わった後は「あんなに大変だったのに、こんな成果を得て、昔の君では考えられない成長と成果だ」と、先輩が意図的にピースを揃えてあげると、後輩の成長速度が上がるかもしれません。

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コラム:ヒーローインタビューのニワトリとたまご

苦悩→達成→反芻サイクルを補完する内容です。

内容を読む

スポーツの世界でも、エンジニアの世界でも、成功した人はよく言います。
「この仕事が大好きで、だから続けられました」
では、質問です。好きだったから成長したのか、成長したから好きになったのか?

まず、どこの分野のスペシャリストも、生まれてオギャーといった瞬間から「大好き!」ではなかったはずです。最初は単純な好奇心や、外圧(親の指示、友達の誘い、授業)で始まったのでしょう。
しかし取り組むうちに、小さな「わかった!」「できた!」が積み重なっていきます。才能があれば成果が大きいので、ドーパミンも沢山出てくれます。
そして最後には「あんなにつらかったのに、頑張ったから最高の結果になった」と学習するのです。
このループの繰り返しは自己効力感を上げ、苦しいことでも積極的にトライできる精神が育っていきます。

成功がヒーローインタビューになり、ヒーローインタビューが苦悩と達成を思い出させ、その想起が次の挑戦の土台になる。ここで大事なのは、最初から「好き」でなくていいということです。 危機感のアドレナリンベースから始まっても、苦悩と成功と反芻を繰り返すことで、やがて脳は学習そのものを「報酬」として認識するようになります。このニワトリとたまごの循環に無理やり入っていくという矛盾した方法こそが、長期的な成長の本質なのです。

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まとめ:何事も全力で取り組む姿勢が大切なのだ

本章で紹介した内容をまとめます。

まず、才能がある人は「期待、未知の体験」 ⇒ 「達成」 ⇒ 「承認」のループが高速で回る人です。しかし才能がなくとも、以下の手順で無理やりループに入っていくことが重要なのでした。

  1. 危機感(アドレナリン)を使って、無理やりにでも作業を始める
  2. 作業の途中で、面白い、楽しいという感情を過剰に表現して、言霊でニューロンに刻み込む
  3. 作業が完了したら、実行する過程で、苦しかったこと、大変だったことも同時にフォーカスし、「苦しいこと⇒達成感」の条件付けを追加する

ドーパミンとアドレナリンを使って脳をハックし、「達成」すら無駄遣いせずニューロンに刻み込もう、ということです。

なんだか子育てメソッドにも通じそうな部分がありそうですが、まさにその通りです。というより、子育て本にも似たようなことが書いてありました。組織においては子育てのように手取り足取りというわけにはいきませんが、本記事で書いたことをあくまで原理原則として受け取っていただければ、ケースによってカスタマイズできると思います。

終章 AI時代のエンジニアはどこへ向かっていけばいいのか?

ここまで成長成長と言ってきましたが、AIが台頭して状況が目まぐるしく変わる中で、先月必要だった技術が来月には陳腐化しているかもしれません。1年先だけではなく10年先を見据えると、そもそもエンジニアとして成長することの必要性や、エンジニアの必要性そのものが揺らいでいる気がします。

本章では、直近のムーブメントを踏まえて、脳科学の側面から我々はどうしていくべきなのか考察していきます。

エンジニアは不要か?

今、エンジニア採用が減少している

AIが台頭してもそれを使うエンジニアは減らない。少し前までそう考えていました。しかし私自身ClaudeやCodexを使っていると、自分の存在意義がどんどん薄れている気がしてなりません。
そしてどうやら、この感覚は間違っていないようです。米国の企業では生産性を理由に労働者の解雇が起こっていますし、日本でもエンジニア採用数が減っているという話を聞きます。「とにかく人を雇って、人月で解決する」という時代から「ある程度経験のある人間にAIを使わせよう」というフェーズに突入しているのです。

経験豊富なマネージャー層、技術力のある中堅は大丈夫でしょう。というか、今まで以上に引く手数多かもしれません。なぜなら、彼らがAIを使えば、少ないコストでプロダクトが完成するのですから。
ですが、新卒をはじめとした若手はどうでしょうか?

苦難の若手エンジニア

AI台頭のあおりを最も受けるのは若手エンジニアだと思います。
今までは企業側も新人に任せるタスクがありましたし、長期的には教育コストに見合ったリターンもありました。しかし残念なことに、今から新人が1年かけて覚えることはAIに代替されてしまいました。現在のエンジニアに求められている「経験から来る直感的な全体設計把握」であったり「AIが出したコードのレビュー」「AIへの適切な指示出し」は長年の経験が無ければ難しいものです。新卒が身に着けるまで、いったいどれだけのコストを払う必要があるでしょうか? よしんば身に着けたとして、その頃にその技術は陳腐化してはいないでしょうか? 将来の技術進歩まで織り込むと、教育にかけたコストを回収できそうにない気がするのです。

中堅が大丈夫かと言われると、それも長くて数年でしょう。コードレビューも、セキュリティの把握も、だんだんとAIに代替されていきます。どこまでが代替され、最後まで残る仕事が何かは、今からでは想像もできません。

エンジニア職は形を変えて残るか

であればエンジニアという職が消えるかというと、そうとは思いません。
たとえばこれまでも、技術が進化するたびに低レイヤーの技術はどんどん裏側に隠されてきました。
メモリアドレスの細かな制御はOSに内包され、複雑なコードの依存関係はプログラム言語仕様が管理するようになり、物理サーバーはクラウドに隠ぺいされてきました。
しかし、メモリアドレスの管理やサーバーの保守をしていたはずの人は、現在は別の仕事をしているはずです。
AI時代もそれと同じなのでは、という気がしています。何年後かには「あの頃は誰もがコードを自分で書いていたなあ……」と懐かしむことになるかもしれませんが、今までと同じように形を変えてエンジニアは残っているのでしょう。

人間に残るのは生存責任

現在のAI(LLM)のベースはニューラルネットワークです。これは人のニューロンを参考にして作られたものです。より具体的に言えば、脳の一番外側でしわしわの形をしている「大脳新皮質」の部分が主に似ている部分です(※1)。大脳新皮質はロジカルな思考やストーリーを取り扱うのは得意なのですが、人間はそれだけではありませんよね?
感情をつかさどる扁桃体、ホルモンを取り扱う視床下部、その他にも小型哺乳類だった時代から存在している原始的な機能がたくさんあります。もっと欲しい、楽しい、怖い、辛い、死にたくない。言葉になる前の原始的欲求は、脳内で有機物が反応することで発生するものです。AIは模倣できても持ち合わせてはいません。

AIに感情があるないの議論はよく聞きますが、原始的な脳の仕組みを持たないLLMは「このようなシチュエーションではこのような感情になるはず」というドライな論理はあっても、おなかがキューっとするようなストレスや、どうしようもない不安感とは無縁の存在なのだと思います。
人間が「生きたい」と思うのはこれら古い脳から発生する欲求で、これをAIが代替することはできませんし、する意味もないと思います。

だから最後に必ず残るのは、自身や周囲の生存に対して責任を負うことです。そして資本主義の中で生きる限りは、自らの生存のためにサボることはできないのでしょう。

(※1 あくまで概念的な類似で、実際の脳の仕組みとは大きく異なるらしいです)

エンジニアは不要論に対する筆者なりのまとめ

  • 新人をはじめ、若手は苦境に立たされる
  • その波はどんどん上位レイヤーに侵食してくる
  • しかしエンジニアは形を変えて残り続ける
  • 生存責任が残る以上サボることはできない

競争は今まで以上に激しくなるかもしれませんし、研鑽を強制される環境が減るかもしれません。結局は今まで以上に頑張っていくしかないのでしょう。

AI時代でも、人間の脳は変わらない

エンジニアのあり方はこれまでもずっと変わってきました。しかし求められるスキルは変わっても、どんなエンジニアが優秀かはあまり変わっていないのではないでしょうか?

脳科学的には、人間は原始時代からほとんど変わっていません。であれば脳科学に基づく最適解もきっと変わらないはずです!

ということで本記事の最後に、AI時代に成長するための考え方がどんなものか、考察していきます。

淘汰されるのは誰か?

AI時代で一番最初に淘汰される人はだれか。それは思考のすべてをAIにゆだねてしまう人だと思います。
確かにAIの性能が上がって、人間は成果物のQCDすべてで勝てなくなってきています。が、我々の競争相手はAIではなく同じエンジニアです。同じように作業をしても、多くを吸収できる方が強いに決まっています。

仕事を通じて必要とされるスキルに好奇心を持ち、スポンジのように吸収する。エンジニアリングの形が変わっても、こと技術領域ではこの前提だけは変わらないと思います。

1~4章で解説した成長の仕組みは、AI時代でも不変なものです。
エンジニアは楽をしてなんぼとはよく言われますが、だからと言ってすべてAIに任せてはニューロンの成長がありません。少なくとも、楽をするために死ぬ気で頭を使う必要があります。通常の人なら頭が煮えそうになるような難しいことも考え抜き、AIの出力だけに満足せず難解な概念を理解し、「ぐぬぬ」の壁を越えてドーパミン主導の成長サイクルに突入できる人は、いつの時代も相対的に強いのです。

好奇心で楽しく壁を乗り越える、時には苦しくても進み続けられる。それだけなのだと思います。要は気合なのです。

トイレで生まれる天才的なアイデア ~デフォルトモードネットワーク~

AI時代に求められるもう1つの力、それは発想力だと思います。
AIはその場のコンテキストに沿った作業はできても、方針を決定する新しい発想では、まだまだ人間の方が強いです。
本節ではアイデアを生み出すための脳の使い方について紹介します。


「飛躍的なアイデアはトイレの中で生まれる」なんて話を聞いたことはないでしょうか?
ボーっとしているのが良いとか、リラックスが良いとか、天才型の発想とか、そんなざっくりとしたイメージを持っているかもしれません。
実はこの現象、脳科学的にちゃんとした説明ができます。ただなんとなく「リラックスしたから思いついた」というわけではないのです。

この現象を説明するには、2つの概念について解説する必要があり、少し小難しい話になります。

① 「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク」と「デフォルトモード・ネットワーク」

人間の思考機能は大きく2つにわかれます。

  • 意識的に思考を働かせる「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク」
  • ボーっとしているときに働く「デフォルトモード・ネットワーク」

セントラル・エグゼクティブ・ネットワークは、たとえば試験問題を解いたり、プログラムの設計を考えたり、論理的に頭をこねくり回しているときに使われるものです。自分の意志で動かしているので何を考えているかも意識できますし、思考そのものに指向性があります。
デフォルトモード・ネットワークは、ボーっとしているときに働く機能です。何もしていないように見えても脳はきちんと働いており、様々な記憶をさらいつつ、情報の断片をランダムに再結合(情報の整理・統合)させたりしています。
意外なことに、ボーっとしている時も脳は集中時と同程度のエネルギーを消費しています。違いは使う場所で、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークが特定部位を集中的に使うのに対し、デフォルトモード・ネットワークは脳のあちこちを同時に動かしています。
重要なのは、

  • デフォルトモード・ネットワークは大量のエネルギーを使っている
  • デフォルトモード・ネットワークは脳の広範囲を使っている

ということです。

② ニューロンに刻まれる記憶

2つ目の大事な要素は、2章でも話したことですが、何度も繰り返し思考したことはニューロンに刻まれるということです。
例えばある研究者が新しい化学物質の計算を、ああでもないこうでもないとずっと考えていたとします。この思考はセントラル・エグゼクティブ・ネットワークで行われますが、脳の狭い部分しか使えず、一度に考えられることは限られています。
ですがその思考を繰り返していると、ニューロンに刻まれ、ふとした拍子に思い出せるぐらいに染み付いていきます。

両者が揃ったときにおこる化学反応

トイレの中でのひらめきは、この2点が揃ったときにこそ発生するのです!
考え抜いて脳のあちこちに染み付いた情報を、デフォルトモード・ネットワークで脳の広い部分を使い、今まで情報をすべて脳のメモリに載せて、大量に横断的に思考する。そうしてボーっとしているうちに脳のあちこちで考えが巡り、いままで紐付かなかった複数の概念が一気に連結した瞬間、バチンとひらめきが舞い降りるのです!

「新しい理論をトイレでひらめいた」
「全然関係ない雑談から、プロダクトの課題解決のヒントが出てきた」
「お風呂の中で世の中を変えるアイデアを思い付いた」

これはリラックスしてデフォルトモード・ネットワークが働いたからこそ発生する現象ですが、大切なのはそれだけではありません。というかもっと重要なのは、リラックスする前に考えて考えて考え抜いて、脳に焼き付いている情報であることなのです。

つまり、「ぐぬぬ」の壁に何度も挑み続けてニューロンに刻み込んだ記憶こそが、世界を変えてきたのです!

ChatGPT Image 2026年5月12日 20_02_06.png
(※CEN:セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク,DMN:デフォルトモード・ネットワーク)

おわりに

いろいろと細かい話をしてきましたが、言いたいことは単純です。
脳を成長させるには、大半の人が「ぐぬぬ」と感じるようなキツイ思考をしなければなりません。
その壁を乗り越えるためのチートが、「面白そう!」というドーパミンを元にした感情です。好きこそものの上手なれとは言いますが、好奇心で高い壁を乗り越えられる人が、いつの時代も強いということです。
そして、脳をハックすれば疑似的にそのループに突入する術もあるということでした。

「脳科学」と銘打っていますが、結論は「気合で頑張れ」というわけですね。脳科学の知識を仕入れるたびに、気合がいかに合理的なものか分からされます。筆者もこの記事を書きながら、頑張らねばと意識を新たにしていました。

さて、この先AIが席巻する世界でどんなスキルが求められるかはわかりませんが、あくまで脳科学の視点に立って考えれば私たちがやるべきことは変わらないはずです。脳に適切な負荷をかけ、新しい回路が構築される快感を感じ続けること。 変化が激しくて何を目指していくべきか分からなくなりそうですが、目の前のことに全力で取り組み、全力で楽しむ。この積み重ねだけは決して無駄にはならないはずです。

とはいえ、脳科学も考え方の1つの角度でしかありません。エンジニアは楽してなんぼというのも真理でしょうし、ビジネス、マーケティング、人間関係、etc、人間の成長を広義でとらえれば正解は無数にあると思います。なので本記事を読んだ方には脳科学を絶対とするより、考え方の指標に脳科学の視点を追加してもらえたら幸いです。自身の成長のためにも使えますし、「こんな技術すぐに廃れるじゃないすか」と考える新人を説得させるための道具になるかもしれません。

進歩が速すぎて来週のことすらわからないような時代になってしまいました。そんな中どこに向かっていけばよいのかを考える時、本記事のような脳科学の知見を、自分自身や部下・チームメンバーの成長にお役立ていただければとても嬉しいです。

参考書籍

今回の話は、主に青砥さんの書籍をベースに書いています。
読みやすい本なので、脳科学が気になる人はぜひ読んでみてください。

他にもいろいろな知識のつぎはぎではありますが、純粋にとても良い本なので掲載させていただきました。

文章校正、学術的正確性の検証協力:Gemini, Claude
画像提供:nano banana, GPT-Image

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