※ 本記事はGitHub上で公開されたXのアルゴリズム(xai-org/x-algorithm)のコード分析に基づく筆者個人の考察です。コードベースはRust 62.9%、Python 37.1%で構成された約600,000行規模。2026年5月15日にGroxパイプライン等を含む大規模アップデートが行われました。
TL;DR
- Xのフィードランキングアルゴリズムがオープンソースとして公開された
- コード内に slop_score(低品質AI検出)、NSFWフィルタ、広告安全性判定、著者多様性スコア減衰 が明確に実装されている
- AI画像クリエイターにとって「生成して投げるだけ」はアルゴリズムが弾く対象になった
- 量産投下モデルは構造的に不利──少数精鋭+コンテキスト付与が鍵
1. Phoenixモデル──投稿はこう採点されている
Xのフィードランキングの中核は「Phoenix」と呼ばれるトランスフォーマーモデルだ。各投稿に対してエンゲージメント確率を予測し、WeightedScorerが重み付けしてスコアを算出する。
正のシグナル(スコアが上がる行動)
| シグナル | 重み |
|---|---|
| リプライ | 高 |
| リポスト(RT) | 高 |
| 画像クリック | 高 |
| プロフィールクリック | 高 |
| シェア / DMシェア | 高 |
| 長時間滞在(dwell time) | 中 |
| いいね | 低 |
負のシグナル(スコアが下がる行動)
- すぐにスクロールされる(quick scroll)
- 「興味なし」クリック
- ブロック / ミュート / 通報
注目すべきは「いいね」の重みが低いこと。「いいね」を集めるだけではリーチは伸びない。画像をクリックさせ、リプライを誘発する「立ち止まらせる力」が必要。
2. シャドウバンは実在した──SafetyLabelType
「シャドウバンなんて都市伝説だ」という声がある。コードを見れば、そうではないことがわかる。
# safety_label_type 列挙型(抜粋)
# MEDIUM_RISK_LABELS(中リスク=ランク大幅低下)
NSFW_HIGH_PRECISION # 性的コンテンツ(高精度検出)
NSFW_HIGH_RECALL # 性的コンテンツ(広範囲検出)
NSFW_CARD_IMAGE # カード画像内の性的コンテンツ
NSFW_TEXT # テキスト内の性的表現
EGREGIOUS_NSFW # 極めて露骨な性的コンテンツ
NSFA_HIGH_PRECISION # 広告非安全(Not Safe For Ads)
GORE_AND_VIOLENCE_HIGH_PRECISION # グロ・暴力表現
DO_NOT_AMPLIFY # 拡散禁止フラグ
# LOW_RISK_LABELS(低リスク=軽度の制限)
NSFA_LIMITED_INVENTORY # 広告在庫制限
GROK_NSFA_LIMITED # Grok判定による広告非安全
NSFA_HIGH_RECALL # 広告非安全(広範囲検出)
「NSFA(Not Safe For Ads)」 という広告安全性専用のラベルまで存在する。「NSFWではないが広告の隣には置きたくない」というグレーゾーンまでフィルタリングしている。
AI美少女画像を「SFW」タグで投稿しても、コンテンツの実質がNSFW寄りであれば、アルゴリズムはタグではなくコンテンツそのものを見ている。
3. slop_score──AIスロップは検出されている
コードの中に BangerInitialScreenResult というクラスが存在する。
class BangerInitialScreenResult:
quality_score: float
slop_score: int # ← AIスロップ検出スコア
has_minor: float
is_image_editable_by_grok: bool # ← AI生成画像の分析パイプライン
taxonomy_categories: list[dict]
tags: list[str]
slop_score ── 「スロップ(低品質コンテンツ)」のスコアが、投稿の初期スクリーニング段階で計算されている。
「スロップ」と判定される可能性が高い条件:
- 同じプロンプトで量産されたような類似画像の連投
- テキストとの乖離が大きい(画像だけで文脈がない)
- エンゲージメントパターンがbotに似ている
-
taxonomy_categoriesによる低品質判定
4. 広告安全性──収益構造がフィルターを駆動する
has_avoid 関数がすべてのスコアリング済み投稿を safe と unsafe に分類する。
unsafe判定 → 広告の隣に表示されない → フィードの「収益に貢献しない枠」に押し込められる → リーチを伸ばす動機がプラットフォームにない。
NSFW系のAI画像は、この広告安全性フィルターに引っかかる最有力候補。
5. 連投は減衰する──AuthorDiversityScorer
# AuthorDiversityScorer
multiplier = (1.0 - floor) * decay_factor ** position + floor
同一著者の2投稿目以降は指数関数的にスコアが減衰する。
1日に10枚、20枚とAI画像を投稿しても、フォロワーのフィードで優先表示されるのは最初の1〜2枚。残りはスコア減衰によってリーチが大幅に低下する。
少数精鋭の投稿で深いエンゲージメントを取るか、量産して減衰に沈むか。アルゴリズムは明確に前者を優遇している。
6. Banger検出──「良い投稿」を積極的にブースト
PlanInitialBanger() ── Xのアルゴリズムは低品質を排除するだけでなく、「バズるべき高品質コンテンツ」を積極的に探している。
quality_score、description、tags、taxonomy_categories で投稿を多角的に分析し、品質の高いものを優先的にブースト。
「排除のアルゴリズム」ではなく「選別のアルゴリズム」。良いものを見つけて伸ばす。悪いものを見つけて沈める。両方を同時にやっている。
7. プラットフォーム経済の構造的趨勢
ここまでの分析で見えてくるのは、Xだけの話ではない。プラットフォーム経済全体が同じ方向に動いている。
| レイヤー | プラットフォーム | フィルター |
|---|---|---|
| 制作環境 | Floyo | NSFWモデルのプリロード拒否、2GBアップロード上限 |
| 配信 | X | NSFW・slop・量産投下をコードレベルで排除 |
| 収益化 | CrowdWorks等 | 商用品質の審査基準 |
3層すべてが、同じフィルターを適用し始めている。
8. AI画像クリエイターは何をすべきか
1. 「主語」を変える
AI生成物の主語が「美少女」「セクシー」であるうちは、3層すべてのフィルターに引っかかる。主語を技術・質感・素材に変えること。テクスチャ、マチエル、構図──これらは広告安全性をクリアし、slop判定を回避し、商用プラットフォームの審査を通る。
2. 量より質に転換する
AuthorDiversityScorer は量産モデルにスコア減衰を適用する。1日の投稿数を絞り、1投稿が「画像をクリックさせ、プロフィールに飛ばせ、リプライを誘発する」ものであること。
3. コンテキストを付与する
slop_score は「画像だけ投げる」行為を検出している可能性が高い。テキストで文脈を与え、タグで分類し、会話を生む投稿にすることで、slopではなくbangerとして判定される可能性が上がる。
4. 商用導線を設計する
制作 → 配信 → 収益化のパイプラインを意識的に設計し、各レイヤーのフィルターを理解した上で、すべてを通過するコンテンツを作る。
補足:アルゴリズムが見ない「もう一つの証明」
Xのアルゴリズムは投稿の品質を判定するが、「誰が、どんな意図で、何を使って生成したか」は追跡しない。slop_scoreは低品質を検出するが、高品質なAI生成物の「来歴」までは保証しない。
C2PAやSynthIDが「AIが生成した」ことを証明する技術だとすれば、もう一つ必要なのは「このクリエイターが、このLoRAで、この質感設計の意図を持って生成した」という事実の証明だ。
この「構造的ギャップ」を埋めるアプローチとして、ブロックチェーンベースの画像保護ツール AI和指紋くん がある。生成画像に不可逆の来歴情報を刻むことで、アルゴリズムの評価とは別の軸で「作品の所有と意図」を第三者検証可能な形で記録する。
プラットフォームのフィルターを通過するだけでなく、通過した先で「自分の作品であること」を証明できる仕組みが、これからのAI画像クリエイターには必要になる。
★ 2026年5月時点のコード分析に基づいています。アルゴリズムは今後変更される可能性があります。
✍️ この記事を書いた人
シツカン|質感LoRA研究所
日本画→芸術学→英国博物館学修士→AIエンジニア。キャンバスの質感をAIに刻む研究をしています。
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