本記事は 新居浜高専ロボット研究部 Advent Calendar 2025 2日目の記事になります。
目次
- ご挨拶
- ロボットにかかる荷重とは
- 1. 荷重の種類
- 1-1. 静荷重
- 1-2. 動荷重
- 1-3. 衝撃荷重
- 1-4. 疲労荷重
- 2. ロボット特有の荷重ケース
- 2-1. 駆動軸のねじり荷重
- 2-2. アームの曲げモーメント
- 2-3. ベアリング荷重
- 2-4. フレームの座屈
- 2-5. ギアの強度
- 3. 私がやっている荷重計算の仕方
- 3-1. 手順a
- 3-2. 手順b
- 3-3. 手順c
- 3-4. 手順d
- まとめ
ご挨拶
こんにちは、Teruruです。今年のNHK高専ロボコンで新居浜高専Bチームリーダー・設計製作をしておりました。
私は全体のフレーム、挟むアーム、吸引アーム、足回り、真空ポンプなどのユニットを担当していました。
至らぬ点が多く、大会では1勝1敗で予選を超えることが出来なかった為 悔やんでも悔やみきれません。
ですので来年に向けて化けようとしている最中です。
閑話休題、本記事ではその経験をもとに、ロボットの設計において必ず直面する荷重の種類と設計時の考え方について基礎的なものに絞って解説します。
充分実用可ですが少しゆるめに書いてます。
ロボットにかかる荷重とは
ロボット設計において「荷重」は最重要パラメータの1つです。
これを間違えると、
- モータが焼ける
- 減速機破損
- フレームがひん曲がる
- 軸受の寿命低下
- 回路部品破損
といった致命的なトラブルに見舞われます。
以下にその「荷重」の種類を示します。
1. 荷重の種類
1-1. 静荷重
時間によって変化しない荷重です。
F = mg
事故例:
- 自重
- 把持したワークの重さ
- 据え付けた時の押し付ける力
これらによるフレームの湾曲
ベアリングの破損
対処法:
- フレームの強度の見直し
- ベアリングの定格荷重見直し
- ネジの締結力の最適化
1-2. 動荷重
加減速によって発生する慣性力です。
F = ma
事故例:
- 走行する際の加速
- アームを振り上げきれずにモーターがストール
- 急停止でロボットが転倒
対処法:
モーター周りは加速時に大きなトルクが発生するため、ギヤ等でトルクを調節することが多いです。
※ 動荷重は静荷重の2~10倍になることが珍しくないので、くれぐれも忘れないように心がけましょう。
1-3. 衝撃荷重
物体がぶつかった際に発生する荷重。
F ≒ mv/Δt
事故例:
- ロボットを投げて着地したときにパーツが粉砕
- 壁に衝突し、フレームが変形
- 落ちてくるワークを受け止めきれずに機構が破損
Δtが小さいほど力は無限大に発散します。
理論計算は現実的には使えません。
が、そういうときのために実際に試してみるという手があります。
対処法:
実験値や経験係数で対処します。
ゴムやスポンジ類を使うと衝撃には強いと思われます。
壊れても良い壁をつくって、思い切りぶん投げてみたらいいんじゃないでしょうか。(安全を確認したうえで)
1-4. 疲労荷重
繰り返し負荷が加わることで、疲労が蓄積することです。
事故例:
- 芯ずれやプーリ荷重などで駆動軸が変形
- クランクのR部から亀裂が入り、破断
- 摩耗により表面荒れしたところへ応力が集中し、亀裂が入る
対処法:
- 軸継手を活用
- テンションを調整する
- Rを大きくとる
- 潤滑剤を塗る
2. ロボット特有の荷重ケース
2-1. 駆動軸のねじり荷重
T = Fr = (mar)/η
m:質量
a:加速度
r:車輪半径
η:伝達効率
軸のねじり応力:
τ = 16T/πd^3
d^3 に注目です。
軸径3乗ということは、2mm細くするだけで破断リスクがめちゃくちゃでかくなります。
2-2. 角パイプ等の曲げモーメント
M = FL
F:長さ方向に垂直な力[N]
L:長さ[m]
最大曲げ応力:
σ = M/Z
Z:断面係数
角パイプは方向で2倍以上変わります。
2-3. ベアリング荷重
ベアリングには2種類の荷重があります。
- ラジアル荷重 F[r]
- スラスト荷重 F[a]
↓ 以下の計算過程は個人的におもしろいと思ったから書いただけです。
飛ばしてもらっても構いません。
等価動荷重:
P = XF[r] + YF[a]
このPが動定格荷重C以下でなければいけません。
寿命式:
L[10] = (C/P)^p * 10^6 [rev]
L:基本定格寿命 [回転数 rev]
C:基本動定格荷重 [N]
P:等価動荷重 [N]
p:指数(玉軸受=3,ころ軸受=10/3)
L[10]の10について、同一条件で多数のベアリングを運転したとき
90%が破損せずに到達できる回転数
つまり下位10%はこの回転数へ達する前に壊れる。
単位が[rev]だと色々めんどくさいので、次式で時間に変えてやります。
L[h] = L[10] / 60n
L[h]:時間[hour]
n:回転数[rpm]
ロボは動きが活発なので、データシートに書いてある寿命よりも短くなることがあります。
こちらのNTNのカタログが分かりやすかったので、ぜひ見てみてください↓
NTN-ミニアチュア玉軸受・小径玉軸受
2-4. フレームの座屈
圧縮材の限界荷重:
P[cr] = (π^2 EI)/(KL)^2
P[cr]:座屈限界荷重[N]
E:ヤング率[Pa = N/m^2]
I:断面二次モーメント[m^4]
L:部材の長さ
K:端の拘束条件による係数
- 両端固定:0.5
- 両端回転自由:1
- 片側固定、片側自由:2
肉厚の薄いアルミは、座屈で壊れやすいです。
2-5. ギヤの強度
今回は私がお勧めするルイスの式とJGMA 401-01を紹介します。
ルイスの式
最初にルイスの式を解説していきます。
ルイスの式は、歯車の1つの歯を梁とみなして曲げ応力を求めることが出来ます。シンプルな設計に向いています。
計算がとても簡単なのでコスパが良いですが、計算対象が低速回転、振動・衝撃があまり加わらないところに限るというのが注意点です。
最大トルクT[max]を求めて、モジュールm、歯数z、歯幅bから
d = mz
歯にかかる接線力:
F[max] = 2T[max] / d
ルイスの式から曲げ応力を求める:
σ = F[max]*K / bmY
例:
T = 10[N・m], m = 2, z = 20, b = 10[mm], Y = 0.30, d = 40[mm], F[max] = 500[N]
σ = 500 * 2 / (10 * 2 * 0.30) = 166[MPa]
※Yは歯形係数で、歯数が決まれば自動的に決まる。
形状によって定められるだけであって、材料によって変わることは無い。
「ルイスの式 Y係数表」と調べれば出てくると思う。たぶん。
JGMA 401-01
JGMA 401-01は高速回転に対応しており、正確。衝撃や振動、材料の疲労強度を考慮できる点で長けています。
ルイスの式とは反対に、シンプルな設計、短時間しか運用しない部分には不向きです。
σ = F[max] / K[v] * K[m] * K[s]
K[v]:潤滑速度係数
K[m]:荷重分布係数
K[s]:使用係数
これらはこちらのサイト中の表から決められます。
平歯車およびはすば歯車の歯面強さ計算式 JGMA 402-01:1975
3. 私がやっている荷重計算の仕方
3-1. 手順a
以下の3つの条件を作ります。
- 最大重量
- 最大加速度
- 最悪な姿勢
3-2. 手順b
全て力に変換します。
- 重量 → N
- トルク、モーメント → N・m
3-3. 手順c
荷重がどのようにロボットを伝うか、予測をします。
ロボットアームで例えると、こんな感じです。
- ワーク
- リンク
- 軸
- ベアリング
- モーター
- フレーム
- 足回り
- 地面
さすがに全部計算するのはめんどくさいの極みなので、壊れそうだなーと思うところを抜粋して計算しましょう。
3-4.
安全率を求めていきます。
安全率 = (実際の強度) / (必要な強度)
または (破壊強度) / (使用時にかかる力)
材料によって強度や靭性などが違うので、こんな表があったりします。
アルミは軽金属です。
$\color{lightgreen}{\tiny \textsf{ アンウィンの安全率 出所:JSMEテキストシリーズ 材料力学(日本機械学会)より}}$
私の場合は木材石材を使いませんし、高専ロボコンで使う程度の機構ならと基準を下げて計算しています。
(剛性マシマシにして重量オーバーになるのはもったいないので)
基準としてはこのくらいです。
| 用途 | 安全率 |
|---|---|
| 静的構造 | 2~3 |
| 動構造 | 3~5 |
| 足回り | 3~5 |
| 衝撃部 | 5~10 |
まとめ
設計の初学者は無理にむつかしい計算をせず、いっぱいものを作っていっぱい壊して経験を得たのちに計算をしていくのがいいと思います。
初めて記事を書いたこともあり、そこそこ苦労しましたが無事書ききれてよかったです。計算の混じった記事にしては理解しやすいものが出来たのかなと感じます。
説明しきれないところが沢山ありましたので、気になる機械要素を自分で調べるとかして計算方法を知るとおもしろいかもしれませんね。
文字ばかりになってしまいましたが
読んでいただきありがとうございました。

