実務で使えるWBS事例:ECサイトリニューアルプロジェクト
はじめに
「スケジュールどおりに進んでいます」という報告を鵜呑みにしていませんか?
本記事では、ECサイトリニューアルプロジェクトの実例を通じて、WBSの本質と効果的な活用方法を解説します。
プロジェクト概要
- プロジェクト名:ECサイトフルリニューアル
- 期間:6ヶ月(2024年4月〜9月)
- 予算:5000万円
- チーム構成:10名
失敗パターン:単なるスケジュール表での管理
ダメな例:単純な進捗率管理
作業項目 | 予定工数 | 実績工数 | 進捗率 | ステータス |
---|---|---|---|---|
要件定義 | 160h | 160h | 100% | 完了 |
基本設計 | 240h | 240h | 100% | 完了 |
フロントエンド開発 | 640h | 288h | 45% | 予定通り |
バックエンド開発 | 800h | 336h | 42% | 予定通り |
インフラ構築 | 320h | 160h | 50% | 予定通り |
問題点:
- 工数消化のみを見て「予定通り」と判断
- 成果物の品質や依存関係を考慮していない
- 実際の完成度が不明確
改善後:WBSを航海図として活用
1. 成果物ベースのWBS構成例
レベル1 | レベル2 | レベル3 | 成果物 | 受入基準 | 依存関係 |
---|---|---|---|---|---|
1.フロントエンド | 1.1 商品一覧 | 1.1.1 一覧表示 | ・商品一覧画面 ・検索機能 ・ソート機能 |
・レスポンシブ対応 ・1000件表示での性能要件クリア |
・商品API完了 ・デザインシステム確定 |
1.1.2 フィルタ機能 | ・カテゴリフィルタ ・価格範囲フィルタ |
・複数条件の組み合わせ対応 | ・カテゴリマスタ移行 | ||
1.2 決済機能 | 1.2.1 カート | ・カート画面 ・数量変更 |
・在庫数チェック ・リアルタイム価格反映 |
・在庫API完了 | |
2.バックエンド | 2.1 商品API | 2.1.1 検索API | ・API仕様書 ・実装コード |
・応答時間1秒以内 ・負荷テスト完了 |
・DB設計完了 |
2. マイルストーン管理表
マイルストーン | 完了予定日 | 前提条件 | 評価基準 | 現状 |
---|---|---|---|---|
MS1:基本設計完了 | 5/15 | ・要件定義書承認 ・外部連携仕様確定 |
・設計書レビュー完了 ・ステークホルダー承認 |
完了 |
MS2:結合テスト開始 | 7/1 | ・単体テスト完了 ・テスト環境準備 |
・テスト仕様書作成 ・テストデータ準備 |
遅延 |
MS3:受入テスト開始 | 8/15 | ・結合テスト完了 ・性能要件達成 |
・テスト報告書承認 ・残課題0件 |
未着手 |
3. 依存関係管理表
ID | 先行タスク | 後続タスク | 依存度 | リスク | 対策状況 |
---|---|---|---|---|---|
D1 | デザインシステム確定 | フロントエンド実装 | 高 | デザイン変更による手戻り | レビュー実施中 |
D2 | API仕様確定 | フロントエンド実装 | 高 | インターフェース齟齬 | 仕様書作成中 |
D3 | 決済事業者連携仕様 | 決済機能開発 | 中 | 連携テスト遅延 | 調整会議週次実施 |
4. 進捗確認シート
機能分類 | 機能項目 | 実装状況 | テスト状況 | 課題・リスク |
---|---|---|---|---|
商品表示 | 一覧表示 | 90% | 未着手 | ・画像表示パフォーマンス改善要 |
詳細表示 | 70% | 未着手 | ・レビュー表示の仕様未確定 | |
会員管理 | ログイン | 100% | 実施中 | ・セキュリティレビュー待ち |
会員登録 | 80% | 未着手 | ・入力バリデーション追加必要 |
5. 週次レビューチェックリスト
確認項目 | 確認ポイント | 確認結果 | 対応方針 |
---|---|---|---|
成果物の品質 | ・コードレビュー実施 ・テストカバレッジ |
・レビュー83%完了 ・カバレッジ75% |
・レビュー優先度見直し |
依存関係の解決 | ・ブロッカーの有無 ・調整事項の進捗 |
・決済連携仕様未確定 | ・次週までに確定予定 |
リスク状況 | ・新規リスクの発見 ・対応状況の確認 |
・パフォーマンス問題検出 | ・チューニング計画策定中 |
実践的なWBS活用のポイント
1. 進捗報告時の確認項目
良い例:
□ 各成果物の具体的な完了状況
□ 品質基準に対する達成度
□ 依存関係の解決状況
□ 次のマイルストーンの達成見込み
悪い例:
× 単純な工数消化率
× あいまいな進捗状況
× 課題やリスクの報告漏れ
2. 効果的なステータスレビューの進め方
-
成果物ベースの確認
1. 具体的な成果物の確認 2. 品質基準との照合 3. 受入条件の達成度確認
-
依存関係の確認
1. ブロッカーの有無確認 2. 外部調整事項の進捗確認 3. リスクの早期発見
まとめ
WBSを航海図として活用するためのポイント:
-
成果物中心の管理
- 工数消化ではなく、成果物の完成度を重視
- 具体的な受入基準を設定
-
マイルストーンの戦略的設定
- 重要な判断ポイントを明確化
- 具体的な評価基準を設定
-
依存関係の可視化
- 関係者間の認識合わせ
- リスクの早期発見と対策
著者プロフィール
大規模ECサイト開発のプロジェクトマネージャーとして10年以上の経験を持つ。WBSを活用した可視化と進捗管理により、数々のプロジェクトを成功に導いてきました。
参考文献
- 『実践プロジェクトマネジメント』
- 『WBSで失敗しないプロジェクト計画』
- PMBOKガイド 第7版