はじめに
生成AIやAIエージェントを業務に活用しようとすると、「どの業務に適用するか」「人とAIの役割をどう分けるか」で迷うことがあります。
文章作成や要約など個人単位の作業にはAIを導入しやすい一方、AIエージェントを作ること自体が目的になると、個別タスクの効率化にとどまり、業務全体の改善につながらないことがあります。
この課題と、AIをワークフロー・意思決定・ナレッジまで含めて設計する考え方については、以下の記事で詳しく紹介されています。
本記事では、この考え方を 「実際の業務でどう進めるか」 に焦点を当てます。
そこで活用するのが、サービスデザインの考え方です。
サービスデザインでは、利用者が直接触れる体験だけでなく、その体験を支える人、業務プロセス、システムなども含めてサービス全体を捉えます。
この視点をAI活用にも取り入れ、「AIに何をさせるか」から考えるのではなく、「利用者にとってどのような業務が望ましいか」を起点に、人とAIを含めた業務全体を設計することを目指します。
本記事では、そのための5ステップを、論文査読業務への適用例とともに紹介します。
なぜ業務全体からAI活用を考えるのか
AI活用では、「この作業をAIで自動化しよう」のように、既存業務の一部分から検討を始めることがあります。
しかし、一つの作業を効率化しても、その前後に確認待ちや情報の分断が残っていれば、業務全体としては十分に改善されません。
また、AIの機能から要件を考えると、なぜその機能が必要なのか、誰のどの課題を解決するのかが曖昧になることもあります。
そこで、本プロセスではサービスデザインの考え方を取り入れ、
業務を理解する → 課題を特定する → 望ましい業務を考える → AIの役割を決める → 要件に落とす
という順番で検討します。
この進め方には、主に3つのメリットがあります。
-
部分最適を防ぎやすい
個別作業だけでなく、前後工程や関係者を含めた業務全体から改善を考えられる -
人とAIの役割を整理しやすい
AIに任せる工程と、人が判断すべき工程を業務の流れから検討できる -
課題と要件をつなげやすい
「なぜこのAI機能が必要なのか」を業務上の課題まで遡って説明できる
AI活用の要件定義を5ステップで進める
今回紹介するプロセスは、次の5ステップです。
STEP1:業務フローの整理
↓
STEP2:課題抽出
↓
STEP3:アイデア検討・選定
↓
STEP4:利用シナリオ作成
↓
STEP5:要件定義
STEP1〜3で業務全体を分析し、改善すべき課題と方向性を整理します。STEP4〜5では、望ましい業務を実現するために、人とAIがそれぞれ何を担うかを具体化します。
STEP1:業務フローの整理
最初に、対象業務の現状をAs-Is業務フローとして整理します。
単に作業順序を並べるのではなく、誰が何を行い、どこで判断や情報の受け渡しが発生するのかまで可視化します。
利用者の操作だけでなく、その業務を支える関係者やシステムまで含めて見ることで、負荷が集中している工程や情報が分断されている箇所などを把握しやすくなります。
サービスデザインでは、利用者の体験や、それを支える関係者・システム・運用まで捉えます。これにより、単なる作業手順の可視化にとどまらず、利用者にとってどこで負担や迷いが生じているのか、業務全体としてどの接点を改善すべきかを把握しやすくなります。
STEP2:課題抽出
業務フローをもとに、業務上の課題を洗い出します。
例えば、手作業による負荷、情報の分散、判断・確認待ちによる滞留、担当者による品質のばらつきなどです。
ここで重要なのは、課題と解決策を分けることです。
「AIによるレビュー機能がない」ではなく、「レビュー対象が多く、確認負荷が高い」のように、まず業務上の問題として整理します。
AI導入ありきではなく、本当に解決すべき問題から改善方法を考えるためのステップです。
STEP3:アイデア検討・選定
抽出した課題をもとに改善アイデアを検討し、その選択肢の一つとしてAIの活用を考えます。
AIの役割は、大きく2つに分けると整理しやすくなります。
| 役割 | 例 |
|---|---|
| 代替 | 定型チェック、分類、情報整理など |
| 支援 | 判断材料の提示、レビュー補助、改善案の提示など |
このとき、AIの役割を「代替」として位置づけるのか、「支援」として位置づけるのかによって、後続の設計で検討すべき観点が変わります。代替の場合は、品質基準、例外時の人による確認方法を明確にする必要があります。一方、支援の場合は、AIが提示する判断材料を人がどのように確認し、次のアクションにつなげるのかを設計することが重要です。
こうした観点を踏まえつつ、検討したアイデアの中から、実現可能性、必要なデータ・ナレッジ、業務上の効果、ユーザー価値などから対象を選定します。
「AIでできるか」だけではなく、その改善によって利用者や業務がどう変わるのかを基準に考えることがポイントです。
STEP4:利用シナリオ作成
選定したアイデアについて、実際の業務でどのように利用するのかをシナリオとして整理します。
誰が、どの場面で利用し、AIが何を処理し、その結果を人がどのように判断して次の業務につなげるのかを明確にします。
これをTo-Be業務フローとして可視化することで、AIが担当する工程と、人が判断する工程を整理できます。
AI単体の使い方ではなく、AIが入ることで利用者の業務体験と、その裏側の業務がどう変わるのかを設計するステップです。
STEP5:要件定義
最後に、利用シナリオを実装可能な要件へ落とし込みます。
AIエージェントだけでなく、AIを業務の中で機能させるためのワークフローも対象とします。
| 設計対象 | 主な内容 |
|---|---|
| AIエージェント | 利用者、入力、出力、参照ナレッジ、機能要件など |
| ワークフロー | 起動条件、ステータス、通知、システム連携、履歴管理など |
これにより、「AIに何をさせるか」だけではなく、「業務の中でAIをどう機能させるか」 まで要件として定義します。
適用例:論文査読業務
この5ステップを論文査読業務に適用しました。
業務全体を整理すると、査読者の確認負荷だけでなく、進捗の見えにくさやレビュー情報の分散といった課題も見えてきました。
業務全体から課題を捉えたことで、AIによる事前レビューだけでなく、進捗の可視化やレビュー情報の一元管理も改善対象となりました。
| Before | After |
|---|---|
主な課題:査読負荷、進捗の見えづらさ、フィードバック管理の複雑さ
|
期待効果:AIによる査読支援、査読プロセスの可視化、コメント管理の一元化
|
論文査読業務におけるAIは、定型チェックを完全に任せる「代替」と、判断材料を揃えて人をアシストする「支援」の役割を適切に組み合わせています。
すべてをAIに丸投げするのではなく、「AIが得意な作業」と「人が担うべき判断」を明確に切り分けたことで、確認負荷を大幅に下げながら査読の質の向上を目指した設計としました。
AIエージェントを既存業務に追加するだけではなく、AIを含めて望ましい業務全体を再設計したことが、この事例のポイントです。
まとめ
生成AIやAIエージェントを業務に活用するうえで重要なのは、AIそのものを作ることではなく、AIを含めた望ましい業務を設計することです。
今回紹介した5ステップでは、
- 業務フローの整理
- 課題抽出
- アイデア検討・選定
- 利用シナリオ作成
- 要件定義
という順番で、業務上の課題からAI活用の要件までを段階的につなげます。
一つの作業をAIで効率化しても、前後の業務に情報の分断や確認待ち、役割の曖昧さが残っていれば、利用者が体験する業務全体が良くなるとは限りません。
だからこそ、サービスデザインの視点で利用者の体験と、それを支える人・業務・システムまで捉え、 「AIをどこに入れるか」ではなく、「AIを含めて業務をどう変えるか」 を考えることが重要です。
AIエージェントを作って終わりにせず、業務全体の改善につなげるための一つの進め方として、今回の5ステップを活用できます。
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