0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

AXとDXは何が違う? 「AIを前提に業務を見直す」の中身

0
Posted at

AXとDXは何が違う? 「AIを前提に業務を見直す」の中身

はじめに

「これからはDXではなくAXだ」という言い方を、2026年に入ってから急によく聞くようになりました。AXは「AIトランスフォーメーション(AI Transformation)」の略です。ただ、聞く人によって意味がばらばらです。「生成AIのツールを全社員に配ること」と考える人もいれば、「DXの次の段階なので、DXはもう古い」と受け取る人もいます。

実は、日本政府は2026年7月に閣議決定した文書で、DXとAXをそれぞれ一文で定義し、両者の関係も書いています。民間企業がそれぞれの意味で使ってきた言葉に、国としての「公式の意味」が付いたわけです。

この記事では、経済産業省・デジタル庁・内閣府・総務省・IPA(情報処理推進機構)が公開している資料を読み比べて、次の3つを説明します。

  • DXとAXは、それぞれ公式にはどう定義されているか
  • 2つは何が違い、どうつながっているか
  • 企業や自治体がAXを進めるとき、国はどんな手順やルールを用意しているか

想定読者は、社内で「AXを進めろ」と言われて戸惑っている方や、DXの担当からAI活用の担当になった方です。専門用語には短い説明を添えます。まず、よくある誤解と、公式資料が示している姿の違いを1枚の図で見てください。

よくある誤解と公式の定義の比較。誤解では、AXはAIツールを配ることで、DXは終わった古い取り組みと考える。公式資料では、AXはAIを前提に意思決定や業務の進め方を根底から見直すことで、DXの取り組みを加速・拡大するものとされている

図1:よくある誤解(左)と、政府資料の書き方(右)。AXはDXの「後継」ではなく、DXを加速させるものと位置づけられています。

この記事の確認範囲

  • 確認日:2026年10月8日
  • 対象:日本の府省庁と公的機関が公開しているPDF・Webページ(一部、比較のため韓国・米国・EUの公式文書も見ました)
  • 引用した文言は、PDFの本文から抜き出して照合しました。ページ番号はPDFビューアのページです
  • 経済産業省のWebサイトは、途中から人間かどうかを確かめる画面が出て自動では読めなくなりました。そのため、経産省の資料の一部は、先に取得できたPDFと他の府省の資料に引用された内容で確認しています(該当箇所に書きます)
  • 「AX」の意味は、コンサルティング会社やITベンダーが独自に定義していることもあります。この記事では、政府の定義と民間の定義を混ぜません

先に結論:政府はAXをこう定義している

いちばん大事な資料から見ていきます。デジタル庁がまとめ、2026年7月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」です。「(2)AIの徹底活用」という段落と、その脚注で、DXとAXが並べて定義されています。

デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の本文と脚注。本文ではDXの取組も活用しつつAIの利活用を一体的に推進するAXにより、従前のDXの取組を大幅に加速し拡大する「AX/DX」を推進するとある。脚注6はDXの定義、脚注7はAXの定義

出典:デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(2026年7月21日閣議決定)PDF p.5〜6。赤枠は筆者。

脚注の2つの定義を書き出すと、次のとおりです。

用語 重点計画での定義(脚注の原文)
DX(脚注6) 企業や組織が、将来の成長や、競争力強化のために、デジタル技術やデータを活用して新たなビジネスモデルを創出したり、柔軟に改変したりすること。
AX(脚注7) あらゆる組織で、AI を前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すこと。

本文のほうでは、AXを「従前のDX の取組を大幅に加速し、拡大する」ものと書き、両者をまとめて「AX/DX」と呼んでいます。つまり政府の考え方は次の3点に整理できます。

  1. DXは「デジタル技術とデータで、ビジネスモデルを変えること」
  2. AXは「AIがいることを前提に、意思決定と仕事の進め方を見直すこと」
  3. AXはDXを置き換えるものではなく、DXを加速・拡大するもの

ここから先は、この3点の根拠を、DXとAXそれぞれの公式資料をさかのぼって確かめていきます。

DXとは何か:公式資料での定義と歴史

言葉の始まりは2004年の学術論文

総務省の「令和3年版 情報通信白書」によると、DX(デジタルトランスフォーメーション)という考え方は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したものです。白書は、教授の定義を「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」と紹介しています。もともとは社会全体の変化を指す、かなり広い言葉でした。

これを「企業が取り組むもの」として日本で具体的にしたのが、経済産業省です。同じ白書は、2018年12月の経産省「DX推進ガイドライン」が、企業が取り組むべきものとして示した、と書いています。

経済産業省の定義(デジタルガバナンス・コード)

企業向けのDXの定義として最もよく引用されるのは、経産省の「デジタルガバナンス・コード」にある次の一文です。デジタルガバナンス・コードは、経営者がDXを進めるときに押さえるべき事柄をまとめた指針で、2020年11月に策定され、2022年9月に2.0、2024年9月19日に3.0へ改訂されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
(経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」PDF p.3 脚注1。2.0にも同じ文言)

この定義には「AI」という言葉が入っていません。AIは「デジタル技術」の一つとして含まれている、という扱いです。3.0では生成AIに触れている箇所が2つあります(序文と、デジタル人材の項目)。一方、AIを独立した項目としては扱っていません。経産省自身も、2026年7月の検討会の資料で、3.0は「特定の技術を明示せず、AIについても個別に言及しない形」だったと振り返っています。

なお、デジタル庁の重点計画(前の章)の脚注6も「DXの定義」ですが、こちらは短い言い回しです。どちらも公的な定義なので、記事や社内資料で使うときはどの資料の定義かを書き添えると誤解がありません。

DXの3段階:「デジタル化」と「変革」は別もの

DXを理解するうえで欠かせないのが、経産省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年12月28日)が示した3段階です。レポートは、DXを3つの異なる段階に分けて説明しています。

DXの3段階。第1段階デジタイゼーションはアナログ・物理データのデジタルデータ化、第2段階デジタライゼーションは個別の業務・プロセスのデジタル化、第3段階デジタルトランスフォーメーションは組織全体の業務のデジタル化と顧客起点の価値創出のための事業やビジネスモデルの変革。請求書業務を例に、紙をPDFにする、受け取りから承認までをシステム化する、取引データを使って新しいサービスを作る、と並べている

図2:DXレポート2の3段階。請求書の例は筆者が当てはめたものです。

段階 DXレポート2の説明 例(筆者の当てはめ)
デジタイゼーション(Digitization) アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化。典型例は紙文書の電子化 紙の請求書をスキャンしてPDFで保存する
デジタライゼーション(Digitalization) 個別業務・プロセスのデジタル化 請求書の受け取りから承認・支払いまでをシステムで回す
デジタルトランスフォーメーション 全社的な業務・プロセスのデジタル化と、顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革すること 取引データを分析して、取引先ごとに支払条件や新しい決済サービスを提案する

ポイントは、1段目と2段目は「今の仕事をデジタルでやる」ことで、3段目だけが「仕事や事業のあり方そのものを変える」ことだという点です。DXレポート2は、DXの本質を「レガシー企業文化からの脱却」、つまり固定観念になっている企業文化を変えることだとも書いています。

ひとつ注意があります。総務省の情報通信白書は国連開発計画(UNDP)の定義を使っていて、「デジタライゼーション」の意味の幅が経産省とは違います。3段階の説明では、この記事のように経産省のDXレポート2に合わせるのが混乱しにくいです。

「2025年の崖」から始まった日本のDX政策

日本でDXという言葉が広く知られるきっかけになったのは、経産省の「DXレポート」(2018年9月7日)です。サマリーには、複雑化・ブラックボックス化した既存システムを放置すると、2025年以降に「最大12兆円/年」の経済損失が生じる可能性がある、と書かれていました。これが「2025年の崖」です。あわせて、IT予算の9割以上が既存システムの維持管理に使われていることも指摘しています(いずれも2018年時点の試算と状況です)。

ところが、2年後のDXレポート2は、このレポートが「DX=レガシーシステム刷新」という本質的ではない解釈を生んでしまった、と反省しています。2019年の自己診断では、約95%の企業がDXにまったく取り組んでいないか、散発的な実施にとどまっていました。その後、経産省は2022年7月のDXレポート2.2で、デジタルは「省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ」使うべきだ、と踏み込みます。

この「効率化で止まらず、稼ぎ方を変える」という課題は、後で見るように、AXの議論でもそのまま引き継がれています。

日本のDXの現在地(IPAの調査)

では、日本企業のDXは今どこまで来ているのでしょうか。IPAは毎年、企業のDXの状況を調査しています。最新の「DX動向2026」(2026年7月30日公開、国内1,799社)までの推移を見てみます。

IPAの調査によるDXの推移。DXに取り組む企業の割合は69.3%、73.7%、77.8%、75.7%と推移し、2026年版は横ばい。成果が出ている企業の割合は58.0%、64.3%、6割弱、60.8%。DX動向2026では経営面の成果はコスト削減が70.9%に対し、売上高の増加は17.9%、利益の増加は19.6%

図3:IPAの調査の推移。数値は各報告書から。調査年度ごとに設問が少しずつ違うため、厳密な比較ではなく傾向として見てください。

報告書(調査年度) DXに取り組む企業 「成果が出ている」
DX白書2023(2022年度) 69.3% 58.0%(米国は89.0%)
DX動向2024(2023年度) 73.7% 64.3%
DX動向2025(2024年度) 77.8% 6割弱(米国・ドイツは8割以上)
DX動向2026(2025年度) 75.7%(横ばい) 60.8%

※「成果が出ている」の割合は、DXに取り組んでいる企業の中での割合です。

数字から読み取れるのは、取り組む企業は増えたが、頭打ちになり、成果も6割前後で止まっているということです。しかも成果の中身は、コスト削減(70.9%)が中心で、売上高の増加(17.9%)や利益の増加(19.6%)は少数です。IPAはこれを「内向き」の成果と表現しています。DX動向2025の副題は「『内向き・部分最適』から『外向き・全体最適』へ」でした。

AXとは何か:2025年から2026年にかけて生まれた公式の言葉

法律と計画の流れ

AXが政府の言葉になるまでには、法律と計画の土台づくりがありました。年表で見ると、DXの流れとAXの流れが2026年に合流していることが分かります。

DXとAXの公的資料の年表。2004年ストルターマン教授がDXを提唱、2018年経産省DXレポート、2020年デジタルガバナンス・コードとDXレポート2、2024年デジタルガバナンス・コード3.0、2025年5月AI法成立と9月全面施行、2025年12月人工知能基本計画第1期でAIトランスフォーメーションを脚注で定義、2026年7月人工知能基本計画第2期の副題が日本AX、同月の骨太の方針と重点計画でAX/DX、2026年7月から経産省がデジタルガバナンス・コードの改訂を検討

図4:DXとAXに関する主な公的資料の年表。AXが政府の文書に本格的に出てくるのは2026年からです。

AXの土台になったのは、2025年5月28日に成立した「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法、AI推進法とも)です。2025年9月1日に全面施行されました。内閣府の概要資料によると、罰則で縛る規制法ではなく、研究開発と活用を国として推進するための法律です。主な中身は次の3つです。

  • 内閣に「人工知能戦略本部」を置く(本部長は内閣総理大臣、本部員はすべての国務大臣)
  • 政府は「人工知能基本計画」をつくり、閣議決定する
  • 基本理念として、AIの悪用(犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害など)を防ぐため、透明性の確保などの施策を講じる

人工知能基本計画:第1期は「DXの定義をAIに置き換えた」形

AI法に基づく最初の「人工知能基本計画」は、2025年12月23日に閣議決定されました。副題は「『信頼できるAI』による『日本再起』」で、4つの基本方針として「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」を掲げています。

この第1期の計画では、「AIトランスフォーメーション」という言葉が本文に1回だけ出てきて、脚注9で定義されていました。

AIを活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
(人工知能基本計画〈2025年12月23日閣議決定〉PDF p.14 脚注9)

前の章の経産省のDXの定義と見比べてください。「データとデジタル技術を活用して」の部分が「AIを活用して」に変わっただけで、残りはほぼ同じ文言です。つまりこの時点のAXは「AIを手段にしたDX」という、企業向けの定義でした。略語の「AX」もまだ使われていません。

第Ⅱ期の計画で「日本AX」へ

それが半年余りで大きく変わります。2026年7月14日に閣議決定された人工知能基本計画(第Ⅱ期)は、副題が「日本AX、より強く、より豊かに」です。定義も書き直されました。

内閣府「人工知能基本計画~日本AX、より強く、より豊かに~」の表紙と本文。PDF p.4では、あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直す「AIトランスフォーメーション(AX)」を進めていくとある。PDF p.18では、行政においては、単にAIを導入することにとどまらず、意思決定や業務の進め方を根底から見直すAXに率先して取り組むとある

出典:内閣府「人工知能基本計画 ~日本AX、より強く、より豊かに~」(2026年7月14日閣議決定)表紙・PDF p.4・p.18。色付けは筆者。

新しい定義は「あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直す」です。デジタル庁の重点計画の脚注7と同じ文言で、ここから政府全体の共通の定義になりました。第1期からの変化は3つあります。

  • 主語が「企業」から「あらゆる組織」に広がった。 行政、自治体、医療・教育などの準公共分野も対象です
  • AIの位置が「活用する道具」から「前提」に変わった。 AIがいる状態を出発点にして、仕事の組み立てを考え直す、という書き方です
  • 見直す対象が「意思決定」と「業務の進め方」に絞られた。 誰が(人かAIか)、どの順で、何を判断するかを変える、という意味です

さらにPDF p.18では、行政について「単にAIを導入することにとどまらず」と念を押しています。AIツールを入れただけではAXと呼ばない、という線引きを国の計画自体が書いているわけです。

第Ⅱ期の計画は、AXの重点として、領域特化型の「バーティカルAI」と、ロボットなど現実空間で動く「フィジカルAI」を挙げています。原則には、第1期の3つに「挑戦と学習」(まずやってみる)が加わりました。

同じ7月21日には、骨太の方針2026(経済財政運営と改革の基本方針)と日本成長戦略も閣議決定されています。日本成長戦略は「加速装置となるのが、AIトランスフォーメーション(AX)である」と書き、骨太の方針は「AX/DXの推進」という見出しを立てました。骨太の方針2025を全文検索すると「AX」は「JAXA」の1件しか出てこないので、AXが国の基本方針に入ったのは2026年が初めてです。

経産省は「AIはDXの単なるツールではなくなった」

DXの定義の持ち主である経産省も動いています。2026年7月15日から「AI時代におけるデジタルガバナンス検討会」を開き、9月18日に第3回を開催しました。目的は、デジタルガバナンス・コードに「AIやAX」を盛り込む改訂の検討です。

第1回の事務局資料(2026年7月)は、DX・AXをめぐる流れを、次のような見出しで整理しています。

AIはDXを構成する単なるツールから政策対象の一つへと格上げ

あわせて、日本企業のDXについて「デジタル技術の導入が目的化し、事業やビジネスモデルの変革に十分結び付いてこなかった」と書いています。AIについても「PoCや部分的活用にとどまり」としています。PoC(概念実証)は、本格導入の前に小さく試すことです。そのうえで、企業のAI活用を3つのフェーズに分けて示しています。

経産省の検討会資料によるAI活用の3つのフェーズ。AI導入フェーズは既存業務を効率化するためにAIを補助的に使う段階。AI拡大フェーズはAIエージェントと人が業務を分担する共創型。AI駆動フェーズはAIを企業活動の中核に据えたAI駆動型。DXの3段階と並べると、AI導入はデジタライゼーションに、AI駆動は変革にあたる

図5:経産省の検討会資料が示すAI活用の3つのフェーズ(上)と、DXの3段階(下)を並べたもの。上下の対応づけは筆者の整理です。

フェーズ 検討会資料の説明(要旨) AIの役割
AI導入フェーズ 既存業務を効率化するため、AIを補助的に使う 人の道具
AI拡大フェーズ AIエージェントと人が業務を分担する「共創型」 人と仕事を分け合う同僚
AI駆動フェーズ AIを企業活動の中核に据えた「AI駆動型」 事業の中心

AIエージェントとは、指示を受けて自分で手順を考え、ツールを操作しながら仕事を進めるAIのことです。この3フェーズをDXの3段階と並べると、AIを補助的に使う「AI導入」は、まだデジタライゼーション(個別業務のデジタル化)と同じ位置にいることが分かります。AXと呼べるのは、人とAIの分担や、事業の中心そのものが変わる段階からです。

なお、2026年10月8日時点で、改訂版のデジタルガバナンス・コードはまだ公表されていません(経産省のコードのページで確認)。

AXとDXの違いを比べる

ここまでの公式資料をもとに、DXとAXの違いを並べます。定義の欄は政府の文言、それ以外の欄は筆者がそれらの資料から整理したものです。

DXとAXの比較。DXはデジタル技術とデータを使い、ビジネスモデルや業務・組織・企業文化を変える取り組みで、問いはデジタルで何を変えるか。AXはAIを前提に意思決定と業務の進め方を根底から見直す取り組みで、問いはAIがいる前提で誰が何を判断するか。AXはDXを加速・拡大するもので、DXのデータ基盤の上に乗る

図6:DXとAXの比較。AXはDXの土台(データとデジタル化された業務)の上で、意思決定と仕事の分担を組み替えるものです。

観点 DX AX
政府の定義(重点計画2026) デジタル技術やデータを活用して新たなビジネスモデルを創出したり、柔軟に改変したりすること あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すこと
主な対象 企業や組織(経産省の定義は企業) あらゆる組織(行政・自治体・準公共分野を含む)
中心になる技術 デジタル技術全般とデータ(クラウド、システム、データ連携など) AI(生成AI、AIエージェント、バーティカルAI、フィジカルAI)
変える対象 製品・サービス、ビジネスモデル、業務、組織、企業文化 意思決定と業務の進め方(人とAIの役割分担)
出発点の問い デジタルで何を変えられるか AIがいる前提で、誰が・何を・どの順で判断するか
主な公的枠組み DXレポート、デジタルガバナンス・コード、DX認定、DX銘柄 AI法、人工知能基本計画、AI事業者ガイドライン、デジタルガバナンス・コードの改訂検討
両者の関係 土台(データ連携、業務のデジタル化) DXを「大幅に加速し、拡大する」もの(AX/DX)

いちばんの違いは「変える対象」です。DXはビジネスモデルや業務プロセスという「仕組み」を変えるものでした。AXはそこから一歩進んで、判断を誰がするのかまで踏み込みます。これまでは人が判断することを前提に、それを支えるシステムを作ってきました。AXでは、AIが下書きや一次判断をし、人が確認・決定する、という分担を最初から設計します。

もう一つの違いは「主語の広さ」です。経産省のDXの定義は企業の競争力を軸にしていますが、AXの定義は最初から「あらゆる組織」です。政府自身が「隗より始めよ」として、行政のAXに率先して取り組むと書いているのが特徴です。

AXとDXの関係:置き換えではなく地続き

公式資料は一貫して「DXの延長」と書いている

「AXの時代だからDXは終わり」という理解は、公式資料とは合いません。重点計画の「従前のDXの取組を大幅に加速し、拡大する」、デジタルスキル標準 ver.2.0のIPAプレスの「DXの実現に不可欠なテクノロジーとしてAI活用が進む中で」という書き方は、どれもDXの上にAXを重ねる発想です。

制度の名前にもそれが表れています。経産省・東京証券取引所・IPAの「DX銘柄」は名前を変えていません。それでもDX銘柄2026のレポートは「特に今回の選定では、企業におけるAXの取組に着目」したと書いています。総務省が2026年7月に立ち上げた「地方自治体におけるAIトランスフォーメーションに関する研究会」(自治体AX研究会)も、出発点を「従来のDXでは依然残る作業負担を軽減するため」としています。DXで片付かなかった課題を、AIで先へ進める、という位置づけです。

DXとAXの関係を積み木で表した図。一番下にデータの電子化と業務システムなどDXの土台、その上にAIの活用、一番上に意思決定と業務の進め方の見直しとしてのAXが乗る。土台が欠けると、AIは個人の文書作成など部分的な使い方にとどまる

図7:DXとAXの関係。データと業務のデジタル化(DX)が土台になり、その上でAIを前提に仕事の組み立てを変える(AX)。

なぜ土台が必要なのでしょうか。AIが意思決定を手伝うには、判断の材料になるデータがデジタルで、しかも使える形でそろっていなければなりません。紙の帳票や部署ごとにばらばらのシステムのままでは、AIは目の前の文章を要約したり下書きしたりする「個人の道具」にとどまります。自治体AX研究会の資料が「AI-Readyな環境整備」を挙げているのも、この土台づくりのことです。

現場ではDXとAIが別々に進んでいる

ところが実際の企業では、DXとAIがつながっていない例も少なくありません。IPAのDX動向2026は、DXに取り組む企業に「AIの利活用をDX推進の中でどう位置づけているか」を聞いています。

IPA「DX動向2026」図表3-12。AI利活用のDX推進に対する位置づけ(2025年度、n=1,355)。DXとAIは個別に取組んでいる26.1%、DXの推進のためAIを中心に活用している9.3%、DXの推進の一部としてAIを活用している45.1%、DXからAIを活用した変革にシフトしている3.8%、その他1.3%、AIは特に活用していない14.4%

出典:IPA「DX動向2026」(2026年7月30日公開)p.34 図表3-12。

「DXの推進の一部としてAIを活用」が45.1%、「DXの推進のためAIを中心に活用」が9.3%で、合わせて半数以上がAIをDXの手段と位置づけています。一方で「DXとAIは個別に取組んでいる」が26.1%、「AIは特に活用していない」が14.4%あります。DXの担当とAIの担当が別々に動いている会社が、4社に1社あるということです。

AIを入れた効果の中身も、DXの成果と同じく「内向き」に偏っています。同じ調査で、AIの効果として「業務が効率化したり迅速化した」を挙げた企業は91.6%でした。「売上や利益が向上した」は3.9%にとどまります。使い道も、文書・音声の要約・翻訳・校正(82.5%)や文書作成(80.5%)が中心で、自社の製品・サービスの高度化は10.9%です。

利用の広がり自体は急です。総務省の「令和8年版 情報通信白書」によると、生成AIを使ったことがある個人は日本で58.8%と、前年の26.7%から大きく伸びました(2025年度調査から15〜19歳が対象に加わったため、20歳以上に限ると52.2%)。それでも米国75.6%、ドイツ75.6%、中国93.6%との差は残っています。

生成AIの利用は広がったが、変革にはつながっていないことを示す図。左は令和8年版情報通信白書の個人の生成AI利用率で、日本58.8%、米国75.6%、ドイツ75.6%、中国93.6%。右はIPA DX動向2026のAIの効果で、業務の効率化・迅速化が91.6%、売上や利益の向上が3.9%

図8:使う人は増えた(左)が、効果は効率化に偏っている(右)。この差を埋めることが、AXに求められている役割です。

AIを「使う」段階までは進んだものの、「仕事の組み立てを変えて稼ぎ方を変える」段階にはまだ届いていない。IPAがDX動向2026の副題を「広がるAI導入、DXは変われるか」としたのは、この状況を指しています。国がAXという言葉で強調しているのも、まさにこの差です。

政府自身のAX:国と自治体の取り組み

AXの定義が「あらゆる組織」になったことで、政府自身も当事者になりました。主な動きを整理します。

政府自身のAXの仕組み。AI法に基づき人工知能戦略本部(本部長は総理大臣)が人工知能基本計画をつくる。デジタル庁は生成AIの調達・利活用ガイドラインで各府省にAI統括責任者CAIOを置き、ガバメントAI源内を全府省庁約18万人の職員が使える予定。総務省は自治体AX研究会で窓口業務などのAI活用を検討する

図9:政府自身のAXの仕組み。法律と計画が上にあり、その下でデジタル庁と総務省が国・自治体の現場を受け持っています。

  • 生成AIのルール:デジタル庁は2025年5月27日に「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を決め、2026年6月12日に第2.0版にしました。各府省にAI統括責任者(CAIO:Chief AI Officer)を置き、利活用の推進とリスク管理を一体で進める仕組みです
  • ガバメントAI「源内」:政府職員向けの生成AI環境です。デジタル庁の政策ページ(2026年9月30日更新)は、2026年度中に全府省庁の約18万人の職員が使えるようにする予定だとしています
  • 自治体AX:総務省の自治体AX研究会(2026年7月発足)は、窓口から始まる業務など、標準化の対象になっている事務の一部で、AIによる代替や補助を検討しています。ルールベース・機械学習・生成AIの組み合わせ方や、AIエージェントの型の違いも論点に入っています

AI基本計画の言い回しを借りると、行政は単にAIを導入するのではなく、「意思決定や業務の進め方を根底から見直す」立場です。民間企業にとっても、国の取り組みは「AXをどう進めるか」の参考になります。

AXを進めるときに使える国の資料

企業がAXに取り組むとき、何を手がかりにすればよいのでしょうか。国の資料から、使える指針を順番に並べます。

AXを進める手順のフロー。1 DXの土台を確認する(データがデジタルで使える形か、デジタルガバナンス・コード)。2 AIに任せる判断と人が決める判断を分ける(経産省の3フェーズ)。3 AI事業者ガイドラインでAI利用者としての責任を確認する。4 人材をデジタルスキル標準ver.2.0で整理する。5 成果を効率化だけでなく売上や顧客価値でも測る。土台が足りなければ1に戻る

図10:AXを進めるときの確認の順番。各ステップで参照できる国の資料を添えています(順番は筆者の整理)。

1. DXの土台を確認する

まず、AIに判断を手伝わせたい業務で、データがデジタルになっていて使える形かを確かめます。紙や個人のファイルにしかない情報は、AIから見えません。この段階はDXそのものなので、経産省のデジタルガバナンス・コード3.0や、DX推進指標(自己診断の仕組み)がそのまま使えます。

2. AIに任せる判断と、人が決める判断を分ける

次に、業務の流れを書き出して、どこをAIに任せ、どこで人が確認・決定するかを決めます。経産省の検討会資料の3フェーズで言えば、「AIを補助的に使う(導入)」から「AIエージェントと人が分担する(拡大)」へ進む部分です。AI基本計画の定義にある「意思決定や業務の進め方を根底から見直す」とは、この線引きをやり直すことです。

3. AI事業者ガイドラインで責任を確認する

総務省と経産省の「AI事業者ガイドライン」(最新は2026年3月31日の第1.2版)は、AIに関わる事業者を3つの立場に分けています。AIを作る「AI開発者」、AIを組み込んだサービスを提供する「AI提供者」、事業でAIを使う「AI利用者」です。同じ会社が複数の立場を兼ねることもあります。

立場 ガイドラインの定義(要旨) 例
AI開発者 AIシステムを開発する事業者 基盤モデルや業務用AIを作る会社
AI提供者 AIシステムをサービスや既存システムに組み込んで提供する事業者 AI機能付きのSaaSを売る会社
AI利用者 事業活動でAIシステム・AIサービスを利用する事業者 社内業務でAIを使う会社(多くの企業がここ)

どの立場でも守る「共通の指針」として、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティ(説明責任)の7項目と、教育・リテラシー、公正競争確保、イノベーションの3項目が示されています。AIに判断の一部を任せるAXでは、とくに誤った出力(ハルシネーション)を誰が確認するか、判断の根拠を説明できるかが大事になります。

4. 人材をデジタルスキル標準で整理する

経産省とIPAの「デジタルスキル標準」は、DXに必要な人材の役割とスキルをまとめたものです。2023年8月と2024年7月に生成AIを踏まえた改訂があり、2026年4月のver.2.0では「AX(AIトランスフォーメーション)の進展」を理由に、データマネジメントの類型の新設や、AIの実装・運用・ガバナンスのスキルの追加が行われました。AI基本計画(第Ⅱ期)も、全国民が目指す「AI適正活用人材」や、AXの中核になる「AI実装人材」など、5つの人材像を挙げています。

5. 成果を効率化だけで測らない

最後に、AXの成果を何で測るかを決めます。IPAの調査が示したように、AIの効果は今のところ効率化に偏っています。DXレポート2.2の「省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ」という問題意識は、AXでもそのまま当てはまります。削減できた時間だけでなく、その時間で何を新しく生み出したか(売上、顧客満足、新サービス)まで目標に入れておくと、「AIを入れただけ」で終わりにくくなります。

よくある誤解

最後に、AXとDXについてよく聞く誤解を、公式資料に照らして確認しておきます。

よくある言い方 公式資料に照らすと
AXはDXの次なので、DXはもう不要 重点計画は、AXを「従前のDXの取組を大幅に加速し、拡大する」ものとし、「AX/DX」と一体で推進するとしています。DXの土台がないとAXは進みません
全社員に生成AIを配ればAX AI基本計画(第Ⅱ期)は「単にAIを導入することにとどまらず」意思決定や業務の進め方を見直すものとしています。ツールの配布は入口です
AXは法律で定義された言葉 AI法の条文にAXという語はありません。定義は人工知能基本計画や重点計画などの閣議決定文書にあります
AXは国が昔から使っている言葉 骨太の方針2025にはAXの語がなく、本格的に使われ始めたのは2026年7月の閣議決定文書からです
AXは世界共通の政策用語 韓国政府は「인공지능 전환(AX)」を政策用語として多用していますが、米国の「America's AI Action Plan」(2025年7月)は「AI adoption」という言い方で、EUのAI法の本文にもAXの語はありません

まとめ

公式資料を読み比べると、AXとDXの違いは次のように整理できます。

  • DXは、データとデジタル技術を使って、製品・サービス、ビジネスモデル、業務、組織、企業文化を変えること(経産省・デジタル庁の定義)
  • AXは、あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すこと(人工知能基本計画 第Ⅱ期・重点計画2026の定義)
  • 違いの核心は、AXが「誰が判断するか」まで変える点と、行政を含む「あらゆる組織」を対象にしている点
  • AXはDXの置き換えではなく、DXを加速・拡大するもの。政府は両者を「AX/DX」と一体で扱っている
  • 日本の現状は、AIを使う人は急増したが、効果は効率化に偏り、DXとAIが別々に進んでいる企業も多い

社内で「AXを進めよう」という話が出たら、まず「どの業務で、どの判断を、AIと人でどう分けるのか」を具体的に話してみてください。その問いに答えられない部分があれば、それはAIの問題ではなく、DXの土台(データと業務のデジタル化)の問題であることが多いはずです。

次に学ぶなら、自社がAI利用者としてどんな責任を負うかを知るために、AI事業者ガイドラインの「共通の指針」と、AI利用者向けの章を読むのがおすすめです。経産省のデジタルガバナンス・コードの改訂(AI・AXの追加)も、公表されたら確認する価値があります。

参考資料

AX・AIに関する資料

DXに関する資料

海外の資料(比較用)

0
0
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
0
0

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?