さいしょに
この記事は顔学2020アドベントカレンダー二日目の記事です.
この記事では顔の研究で昔から話題になっている平均顔についてまとめます.
顔学とは
顔学とは文字通り顔の学問です.
日本顔学会設立の背景には近年の多様性を重んじる価値観の変化・個性を重んじる時代の変化があります.
日本顔学会の設立は1995年であり,これから主流になるであろうであろう多様性の価値観を先取りして研究を行ってきた若い学会だと思っています.僕を含めてZ世代(1996年生まれ ~ )は特に,自分らしさや個性を重んじる世代だと言われています.僕にとっての顔学は,まさにこの自分らしさを重んじるZ世代の価値観と合致していてそれが研究のモチベーションにもなっています.
顔の研究については,ナチス・ドイツが骨相学と称して顔面角を根拠にユダヤ人を差別したという歴史があります.ゆえにタブーとして見做されやすい学問です.しかし,これからの個性を尊重する時代においてはお互いの違いを正しく理解することが求められます.臭いものには蓋をするのではなく,しっかりと慎重に向き合っていく必要があります.顔学はこれからの時代の相互理解を支えていく重要な基礎を作る学問になり得ると思います.
日本顔学会が設立された背景には,
ここ十年ほどの社会における顔に対する意識の変化があるでしょう.個性を尊重する時代に、一人一人を区別できる顔はますます重要な意味を持ってきます.さらにはその人の内面が表に出る部分としても顔は欠かせなくなっています.
従来の専門化・細分化してきた研究の流れとは逆の,統合化・総合化の動きとしてとらえることができます.
統合化の中心はコンピュータグラフィックスを始めとするコンピュータの発達と普及です.コンピュータ技術が多様な分野を結び付ける接着剤の役割を果たしています.
このように見てくると、時代が顔学会を作ったという表現も成り立つでしょう.
時代の変化に顔はつきもので,時代を代表する顔などを描いているアーティストの方もいます.
.Japan (Mei) | 100 Years of Beauty - Ep 16 | Cut
2020年は新型コロナウイルスの流行で,マスクが習慣化し顔の匿顔性が高まる一年でしたね.これからのwithコロナ時代はオフラインでも匿顔社会を生きていくことになりそうで,どんな研究が出てくるのかが楽しみですね.マスクをしているとiPhoneのFaceIDが使えないので,むしろ指紋認証のTouchIDが恋しくなっています.iPhone買い替えちゃおうかって思うくらい指紋認証がなくて不便な生活を送っております.
平均顔とは
さて、さきほども述べた通り顔学は違いを理解することがテーマの一つになっています.ここからは,職業や人種間に見られる顔が集団として持つ特徴に注目して顔の違いを考える平均顔について説明します.
最近だと,○○顔とか言って俳優を分類したりしていますよね.あれがわかりやすい顔が集団として持つ特徴です.
調味料を使った表現だと,マイナビウーマンさんの記事を参考にすると下記が主流です.
- ソース顔: 二重・彫りが深くて外国人のようなくっきりとした顔立ち
- しょうゆ顔: 小顔・彫りが浅い・唇が薄いことなどが特徴で、浴衣や着物といった和服がよく似合う
- 塩顔: 一重か奥二重のすっきりとした目元・鼻が高い・色白で輪郭がシャープといった特徴があり、クールでミステリアスな印象
- ケチャップ顔: しょうゆとソースの中間.ソース顔に日本人らしさが加わったような、目鼻立ちはある程度はっきりしつつも、あっさりとした顔立ち
- マヨネーズ顔: 少年らしさと大人の色気が混ざった顔立ち
(引用: https://woman.mynavi.jp/article/190828-11/)
これらに見られる特徴は,日本人俳優全般の見られるものではなく集団固有のものです.こういった顔の集団ごとの特徴を,顔画像から抽出するために平均顔が用いられます.
そもそも平均とは
平均は,「集団の中心的傾向を表す値」すなわち「集団の代表値」の一つです.
集団を理解するためには分布の中心を表す代表値を決める必要があり,以下の三つが基本統計量と呼ばれておりよく用いられます.
- 平均値: 全データの合計をデータの個数で割ったもの
- 最頻値: データが最も集中・密集しているデータ値・範囲
- 中央値: データをソートし,ちょうど中央にくる値
実は単純に平均と言ってもいろいろあるのですが,上記で説明した平均は相加平均と呼ばれるものです.本稿では平均といったら相加平均を表すものとします.
顔学の分野では,顔画像の集団の代表値として平均値を用いることで集団の中心的傾向を理解しています.
顔画像における平均とは
画像は機械で処理する際には数字の配列で表現されます.数字で表されるということは,平均を取ることができます.
(引用: https://dr-code.net/python/image-analysis/image-to-list/)
画像で平均を計算する場合には,複数の画像の値を足し合わせて画像の枚数で割るという処理を行います.このような画像同士を重ね合わせることで平均顔を生成する手法を重ね合わせ法といいます.
先行事例ではATR-PromotionsさんのFUTONの実行例が参考になります.男性と女性それぞれ60名の平均顔を公開してくれています.
(引用: https://search.ieice.org/data/d_data/j85-a_10_1126/data/data5/data1.htm#average)
この他にも東京大学の研究グループの顔ギャラリーでも面白い結果を見ることができます.
平均顔の特徴
平均顔には以下の特徴が見られます.
- 整った顔つき
- 肌が綺麗
- 若い
- 左右対象
これらの特徴は平均顔であるがゆえに発生しています.
サンプル個別の顔を見てみると、顔というのはばらつきがあります.にきび・ひげ・そばかす・しわなどは人によって個人差があります.しかし,これらの個別のばらつきというのは平均化処理によって打ち消されていき,平均顔には出てきません.60人全員に同じ位置ににきびがあれば話は別ですが,そんなことはまずないので肌は綺麗になり、顔の歪みも平均化されて左右対象になります.しわも消えるので若く見えます.
平均顔に抽出されるのは、「集団に固有の特徴のみ」です.それ以外は消えてなくなってしまいます.
東京大学の顔ギャラリーの平均顔ページでは,銀行員・プロレスラーなどの職業別の平均顔がまとまっています.(転載不可のためリンクのみの紹介となります.)
職業別平均顔を観察すると,明らかにどの顔がどの職業なのか違いがわかると思います.直感的にも平均顔は顔が集団として持つ特徴を捉えることができているということが実感できるはずです.
まとめ
- 顔学: 顔を扱う学問で,日本顔学会で熱く議論がされている
- 平均顔: 顔画像を重ね合わせて平均をとったもの
- 平均顔の特徴: 集団の固有の特徴だけが残る.個人のばらつきの要素は平均処理で相殺されて,綺麗な顔立ちで左右対象に.
- 平均顔は顔が集団として持つ特徴を抽出することができる
さいごに
本稿では顔学で頻繁に話題にあがる「顔が集団として持つ特徴」「平均顔」についてまとめてみました.まだまだ至らない点もあると思いますが,わからないことなどがありましたら気軽にコメントや記事修正依頼をいただければと思います.
また,顔と工学に関してや平均顔についてより深く学びたい場合は東京大学の講義アーカイブから,原島博先生の2002年度の「コミュニケーション・システム」の第4回・第5回をご覧いただくのが勉強になるかと思います.