はじめに
本記事では、リング共振器における Four-Wave Mixing(FWM)を古典論で解析する方法をご紹介します。対象とするのは Lumerical(MODE / FDTD / INTERCONNECT)を用いた Add–Drop 型リング共振器です。
以下は参考論文です。
本記事で扱う FWM の位置づけ
本記事では量子論、すなわち SFWM や光子対生成といった議論は扱いません。量子論的な取り扱いについては、下記のアプリケーションギャラリーにあります。
Spontaneous Four-Wave Mixing (SFWM) Microring Resonator Photon Source
また、リング共振器全体を FDTD により直接シミュレーションすることもしません。最終的には、Application Gallery で言うところの ステップ4(共振周波数と Q 値の取得)までの結果を用い、Python によってアイドラー光の出力強度を評価するところまでを示します。
今回の解析対象
こちらが今回の解析対象になります。Add-Dropのレーストラック型のリング共振器です。
今回の計算ではポンプ光、シグナル光、アイドラー光の波長はリング共振器の共振波長に合っているものと仮定して解析を進めます。
計算フロー
こちらが計算フローになります。
今回はアプリケーションギャラリーベースの方法をそのまま取り入れています。
アプリケーションギャラリーの手法ではリン共振器とバス導波路との光結合を厳密に扱うためにFDTDシミュレーションを用いて、各波長ごとの光結合係数を求めています。曲がり導波路の光損失の解析にはMODEで計算しています。ここについては必ずしもシミュレーションである必要はなく、実験結果から求めた実測値などでがあれば、その方が良いでしょう。
なお、今回の解析ではリング共振器をFDTDシミュレーションせず、interconnectに実装されたモデルを用います。解析的なモデル式を立てて計算しても良いでしょう。

なぜリング共振器全体を FDTD で計算しないのか
リング共振器を扱う際には、「なぜ共振器全体を FDTD で直接解かないのか」という疑問がしばしば生じます。その理由は、計算コストと物理的本質の両面から見て合理性がないためです。
リング共振器は典型的に周長が数十〜数百 µm、Q 値が 10^5〜10^6 程度の構造を持っています。このような高 Q 共振器を 3D FDTD で直接解析しようとすると、非常に長い過渡時間と微小な時間ステップが必要となり現実的ではありません。
さらにKerr 係数と $L_{\mathrm{ring}}$ が分かっていれば、古典論に基づく FWM の評価は可能です。
リング共振器における FWM の周波数関係
リング共振器では、共振周波数が Free Spectral Range(FSR)間隔で並びます。この構造は FWM と非常に相性が良いものです。FWM のエネルギー保存条件は
$ 2\omega_p = \omega_s + \omega_i $
で与えられますが、リング共振器上では自然に
$ \omega_s = \omega_p - m\mathrm{FSR}, \qquad \omega_i = \omega_p + m\mathrm{FSR} $
という関係を満たす共振モードが選択されます。ここで $m$ は整数です。ポンプのみを与える場合は縮退 FWM としてサイドバンドが自発的に現れ、ポンプとシグナルを与える場合は非縮退 FWM として対応するアイドラー光が生成されます。本記事では後者を対象とします。
各ステップで求めるパラメータ
Lumerical Application Gallery のワークフローに従うと、ステップ4までの時点で pump・signal・idler に対応する共振周波数、各共振ピークの Q 値、そして FSR,有効断面積 が得られます。


古典論による FWM 定常解
リング共振器の結合モード方程式から次の定常解が得られます。
$ P_i = \left|\frac{g|a_p|^2}{\kappa_s\kappa_i}\right|^2 P_s $
ここで
$ \kappa_j = \frac{\omega_j}{Q_j}, \qquad |a_p|^2 = \frac{P_p Q_p}{\omega_p} $
です。$\kappa_s,\kappa_i$ はそれぞれ signal および idler モードに対応する共振減衰率(エネルギー損失率)であり、Q 値によって決まる量です。Q が高いほどエネルギーが共振器内に長く滞在するため、$\kappa$ は小さくなります。
非線形結合係数 $g$ は
$ g = \frac{\gamma c}{n_g L_{\mathrm{ring}}} $
で与えられます。ここで $\gamma$ は導波路で定義される Kerr 非線形係数であり、
$ \gamma = \frac{n_2 \omega_p}{c A_{\mathrm{eff}}} $
と書けます。$\gamma$ は「単位長さあたりの非線形の強さ」を表す量ですが、リング共振器の解析では時間発展方程式を用いるため、この空間的に定義された非線形係数を時間あたりの効果に変換する必要があります。
導波路中での光の群速度は $v_g = c/n_g$ であるため、$\gamma c / n_g$ は「非線形効果が単位時間あたりにどれだけ蓄積されるか」を表します。さらに、これをリング一周分の長さ $L_{\mathrm{ring}}$ で平均化したものが、共振器モードの時間発展に現れる結合係数 $g$ です。
Python によるアイドラー光強度評価
上述のapplication galleryではqinterconnectを用いて量子論的な取り扱いをしていたのに対して、今回は古典的な取り扱いでアイドラー光の強度を求めます。
以下に、上記の式をそのまま実装した Python スクリプトを示しておきます。
具体的な計算はしてません。
import numpy as np
c = 3.0e8
pi = np.pi
lambda_p = 1550e-9
omega_p = 2*pi*c/lambda_p
Qp = 1.0e6
Qs = 1.0e6
Qi = 1.0e6
Aeff = 0.5e-12
n2 = 2.4e-19
ng = 2.0
L_straight = 20e-6
R = 10e-6
theta = np.pi
Lring = 2*L_straight + 2*R*theta
Pp = 10e-3
Ps = 1e-6
kp = omega_p/Qp
ks = omega_p/Qs
ki = omega_p/Qi
gamma = n2*omega_p/(c*Aeff)
g = gamma*c/(ng*Lring)
ap2 = Pp*Qp/omega_p
Pi = (g*ap2)**2/(ks*ki)*Ps
print("Idler power Pi =", Pi, "W")
※本記事は筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を示すものではありません。
Lumericalを用いたFour-Wave-Mixingシミュレーションの事例
以下にはLunmericalを用いた4光波混合に関するデモがapplication galleryとして提供されていますので、以下に示しておきます。
Four wave mixing with Kerr nonlinear material
Four wave mixing (varFDTD)
Spontaneous Four-Wave Mixing (SFWM) Microring Resonator Photon Source
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