🧩はじめに
フォトニクスの研究・開発をしていると、「シミュレーションして、レイアウト作って、実験して、データ解析して…」と、どうしても多くのツールが必要になります。
加えて、どれもそれなりにコストも高い。
そんな中、最近ユーザーの間でもよく耳にするのが
「OSS(オープンソース)をうまく使えば開発効率が上がるんじゃないか?」
という声です。
確かに、OSS はここ数年で驚くほど増え機能も拡充してきました。Githubなどを通じてその動きは加速してきている印象を持っています。データ解析の現場で使われているソフトはOSSで十分すぎますし、開発の現場でも問題なく使えるレベルです。
そうはいってもOSSにはバグのリスクや技術的なサポートが無く、問題が発生しても自力解決が求められるので、企業の開発の現場でOSS中心に製品開発を行うのは、大きなリスクがあり、
以下の観点で、
・大規模解析の圧倒的な速度と安定性
・GUI ベースで誰でも使える操作性
・高度な連成解析(光・電気・熱など)
・製品レベルの精度検証
・サポート体制と信頼性
有償ソフトの方にメリットがある、という点は変わらないでしょう。
但し、
プロトタイプレベルでの試作検証の段階ではOSSを使用した方が大きな武器にもなりえます。
OSSのメリットとして
・無料で試せる
・Python との連携が強力
・自動化や解析パイプラインを自分で組める
・一部ソフトの開発コミュニティが高速で進化している
研究初期の検討や概念実証(PoC)では、OSS の柔軟さは大きな武器になります。
かつては、OSSは基本的にスクリプトベースでの使い方が多く、そこの使いにくさ、学習コストの高さが敬遠されるポイントでしたが、生成AIが登場したことによって、そのハードルは一気に低くなりました。
やりたいことを生成AIに指示すればAIがOSSスクリプトを書いてくれる時代になりました。やることと言えば要件定義と、動作チェックだけ。とはいっても高度な内容になれば自分でスクリプトを書く場面には遭遇しますが。。
そこで今回はGithubのページであるAwesome Photonics(https://github.com/joamatab/awesome_photonics)
をご紹介します。
Awesome Photonicsで挙げているソフトウェアについてカテゴリごとに見ていきながら、
「どこまでOSSでできるのか?」
「どこから商用ソフトの活躍領域になるのか?」
という視点も合わせて紹介していきます。
Awesome Photonics の良いところは、単に OSS を列挙しているだけではなく、
フォトニクス開発のワークフローに沿ったカテゴリ構成になっていることです。
・レイアウト(GDS)
・シミュレーション(FDTD / FEM / モード解析)
・逆設計(adjoint method, topology optimization)
・実験・ラボオートメーション
・データ解析・可視化
・電子回路・システムレベル設計
パッシブのフォトニックデバイスであれば、ほぼ全ての領域について、何らかの OSS が揃っていることが分かります。
もちろん、これらの OSS をそのまま製品開発に使うのは現実的ではない場合もあります。ただし、プロトタイプ作成や概念検証では強力な加速剤になり得ます。
✨レイアウト(Layout)系 OSS
最初にあげるのがレイアウト関係の OSS です。これは企業の開発現場で普通に使われているツールと言って良いでしょう。
代表的なものとしては
gdsfactory
phidl
gdspy
KLayout
Nazca Design
picwriter
ipkiss(Free 版)
SiEPIC-Tools
Gdshelpers
辺りでしょうか。筆者もNazca design、klayoutは使いやすいので、たまに使用したりします。KlayoutはDRC機能もそなえており、多くの開発現場で使用されているツールです。
CAD生成ツールの基本的な使い方としてはpythonでスクリプトを書いて、実行してGDSファイルを生成するものになります。ファブへのテープアウト手前までを OSS で完結させるケースも普通に見られるようになっています。
🚀シミュレーション(Simulation)系 OSS
フォトニクスといえば、やはり光学系のシミュレーション。Awesome Photonics には以下のような OSS が挙がっています。
光学計算のオープンソースは数多くそろっており、FDTD/EME/RCWAなどの計算手法を用いたものが数多くあります。
MEEP:MIT発の FDTD ソルバー
MPB:モード解析・バンド計算
FEMWELL:偏微分方程式のmulti physicsソルバー
MEEP などは研究初期の“現象理解”には十分な性能があります。
小規模の導波路構造の解析や、PoC レベルの検証なら MEEP だけで回せるケースもあり。
半導体デバイス解析用のOSSとしてはDevsimあたりが有名どころでしょうか。この一覧には掲載されておりませんが、Tibercadなどかつては有償だったツールもgithub上に掲載されています。
しかしながら、アクティブのフォトニックデバイス解析用のツールは皆無というのが現状で、この領域では依然として商用ソフトの独壇場です。
「軽い解析はOSS、大規模・高度なデバイス解析は商用」という割り切りが最も実務的です。
💡逆設計(Inverse Design)
近年非常に盛り上がっている分野で、
• JAX
• PyTorch
• TensorFlow
などの機械学習フレームワークを用いて、adjoint method による最適化を行う OSS が増えています。
商用ソフトで逆設計機能を持つものはまだ多くないため、
この領域だけは OSS が商用を上回るスピードで進化している と言えます。
とはいえ、逆設計で得た構造を実際のプロセス制約に落とし込むところは、
やはり商用ソフトの堅牢さが活きる部分です。
🔧データ解析・可視化
ここは完全に OSS の牙城です。
• NumPy
• SciPy
• pandas
• matplotlib
• Plotly
フォトニクス研究で出てくるデータは、ほぼ全てこれで扱えてしまいます。
商用ソフトの GUI グラフより圧倒的に自由度が高く、自動処理も簡単。
AI・機械学習との統合もしやすいため、研究者としては OSS の優位性が際立ちます。Lumerical ユーザーであれば、python apiを用いて簡単に連携ワークフローを組めるでしょう。
📘OSS と商用ソフトは“どちらか一方”ではない**
Awesome Photonicsを眺めていると、
「これだけ揃っているなら、もうOSSだけで開発できるんじゃ?」
と思う方もいるかもしれません。
しかし、実際に企業の研究・製品開発の現場に関わっていると、
OSS だけ、商用ソフトだけ、どちらか一方に振り切るというのは現実的ではありません。
効率とリスクのバランスを考えると、
• OSS:初期検討・プロトタイプ検証
• 商用ソフト:最終検証・量産設計・信頼性確保
という役割分担が最も合理的です。
OSSにはOSSの強みがあり、
商用ソフトには商用ソフトにしかできない領域があります。
そして最も効率が良く、開発スピードを最大化できるのは
“OSS × 商用ソフトのハイブリッド運用” という考え方です。
🛠️OSSが強い工程
OSSが活きるのは、次のような工程です。
• 新しい構造を試す、思いつきを形にする 探索フェーズ
• “まずは動かしてみる”という 小規模な概念検証(PoC)
• 数百ケース以上のパラメータスイープ(Pythonで自動化しやすい)
• gdsfactory 等で レイアウトの自動生成
• PyVISA・pandas 等で 実験の自動化・データ解析
特に、
「試してみたい案が数十個あるが、いちいちGUIで設定するのが重い」
という場面では OSS は圧倒的に強力です。
Pythonスクリプトで一気に回せるため、
研究初期のスピード感が全く変わります。
また、生成AIにより OSS のスクリプト生成が容易になったことで、
“Pythonに詳しくないけど OSS を触りたい”というユーザーでも使える環境が整ってきました。
🛠️商用ソフトが強い工程
一方で商用ソフトは、やはり以下の領域で圧倒的な強さを持っています。
• 大規模3D構造の 高精度解析
• 電気・光・熱などの マルチフィジックス連成解析
• 製品開発に必須となる 信頼性評価・最終検証
• バージョン管理された 安定したアルゴリズム・収束性
• 困ったときに頼れる 専任サポート
研究者・設計者だけでなく、企業側の品質保証部門、量産担当者、客先レビューなど、
“後戻りができないフェーズ” に入れば入るほど、商用ソフトの信頼性は不可欠になります。
OSSがいくら進化しても、
最終的な製品保証を担える土台はやはり商用ソフトにある
という点は揺らぎません。
🧠最も効率がよいのは“ハイブリッド運用”
結局のところ、OSSと商用ソフトを対立構造で見る必要はありません。
役割が違うのです。
例えばこんなワークフローが現実的です:
試作検討フェーズ
・gdsfactory / phidl /nazcaでレイアウトを素早く生成
・MEEP などで軽い解析を行い、設計候補を絞る
・Pythonスクリプト + OSS でパラメータスイープ
製品開発フェーズ
・有望な候補のみを商用ソフト(Lumerical / COMSOL / RSoft など)で高精度解析
・商用ソフトを用いて最終検証 → 量産設計へ
この流れを導入すると、
商用ソフトの使用時間・ライセンスコストを大幅に減らしながら、
最終成果の品質はむしろ向上する
という非常に合理的な効果が得られます。
📊“OSSが商用ソフトを破壊する”のではなく、“OSSが商用ソフトの価値をより明確にする”時代へ
一部では「OSSが商用ソフトを駆逐するのでは?」という議論もありますが、
フォトニクス分野においてはそこまで単純ではありません。
むしろ、OSSの発展によって
商用ソフトが担うべき核心領域が明確になりつつある
という見方のほうが正確です。
企業の製品開発に求められる
• 再現性
• 安定性
• サポート
• 品質保証
これらはOSS単体では担いにくい領域です。
だからこそ、OSSと商用ソフトをどう組み合わせるかが
これからの研究開発における“競争力の差”になっていくと感じています。
※本記事は筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を示すものではありません。
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