はじめに
この記事では、Open Source Compliance に取り組む上で、役に立った情報や、役に立つよと紹介頂いた情報をまとめます。この記事にあるものだけが全てではありませんが、いくらかでもお役に立てば幸いです。
なお、本稿中の OSS はとくに断りがなければ Open Source Software を意味します。
この記事は全体で上下2部構成になっています。
Open Source Compliance のお役立ち情報まとめ・上 (前の記事)
- Open Source & Compliance
- Open Source Software
- Open Source Software License
- ツールなど
Open Source Compliance のお役立ち情報まとめ・下 (この記事)
- 業界的な集まりなど
- イベントや会合など
- ニュースや書籍など
Open Source Compliance のお役立ち情報まとめ・下
業界的な集まりなど
Open Source Compliance について、特定の業種による団体や、特定の目的のための団体が知られています。
Fintech Open Source Foundation (FINOS)
金融業界を中心としてOSSの利用を促進する団体です。"Open Source License Compliance Handbook" などを公開しています。
Open Invention Network (OIN)
OIN参加企業同士は Linux Stystem として定義される OSS について自社が保有する関連特許に関して争わないとするコミュニティです。設立当初は Microsoft 対 Linux 陣営の構図でしたが、2018年10月にMicrosoftが加入したことで、この構図は NPEs* 対 OIN参加企業に変わっていくのかも知れません。
(*: Non-Practicing Entities、いわゆるパテントトロール)
参考: Steven J. Vaughan-Nichols , "Open Invention Network comes to GNOME's aid in patent troll fight", ZDNet, 2019.
[Unified Patents] ("https://www.unifiedpatents.com/")
NPEsへの各種対抗措置として、先行技術調査、訴訟の分析、USPTO(米国特許庁)の審判部(Patent Trial and Appeal Board: PTAB)に当事者レビュー(Inter Partes Review: IPR)を提出するなどで特許無効化を図ったり、NPEと交渉するなどのサービスを提供します。2019年には対象とする技術領域に Open Source が追加されました。
活動状況のダッシュボードとして PORTAL があり、そのページの最下部に "Daily Update Email Archive" へのリンクがあります。また、PATROLL では、先行技術調査のコンテストに関する情報が得られます。
イベントや会合など
会ってでないと話せないこと、会ってコミュニケーションが深まるきっかけになったり、参加したから知ることができること、などがあります。都合がつけば、こうした集まりに足を向けてはどうでしょうか。 会合によっては Chatham House での情報交換の取り決めに由来する Chatham House Rule に従うことを求めるものがあります。
When a meeting, or part thereof, is held under the Chatham House Rule, participants are free to use the information received, but neither the identity nor the affiliation of the speaker(s), nor that of any other participant, may be revealed.
(参考訳:会議あるいはその一部であっても Chatham House Rule に従う場合、会議参加者はその会議で集まった情報を自由に利用できる。しかし、(情報提供者となる)発言者については勿論のこと、他のいかなる会議参加者についても、その身元(素性)や所属を漏らしてはならない。)
このルールについては Chatham House Rule FAQ も読んでおくと良いでしょう。信頼できる仲間だからこそ話せることもある、といったところでしょうか。
Linux Foundation events
Linux Foundation が開催する次のイベントでは、セッションのトピックや、会合それ自体が Compliance をテーマとするものがあります。
Open Source Summit
毎年、Japan、North America、Europe などの各地域で開催されます。スピーチやセッションによっては、講演ビデオや資料が公開されます。Compliance をトピックとするセッションがありますが、Keynote やそれ以外のセッションでは実に様々なトピックが扱われ、エンジニアに限らず様々なバックグラウンドの参加者が集まるので、 情報収集やネットワーキングに有益です。2019年はすべて終わり(Japan(7月), North America(8月), Europe(10月))、2020年の開催がすでに案内されています(North America(6月), Japan(9月), Europe(10月))。
Open Compliance Summit
名称が示すとおり、Compliance を主テーマとするイベントです。毎年日本で開催されます。招待状を申し込む必要があり、その参加には "Chatham House Rule" に同意する必要があります。 本稿執筆時点で次回は 2019年12月17-18日に開催されます。
オープンソースライセンス研究所
ほぼ毎月、次の勉強会や分科会が開催されています。新着情報に開催案内があります。資料の共有範囲は参加者に限定されるので、興味がある方は参加してみてください。
ライセンス深掘り勉強会
OSSライセンスを一文ずつ読み、参加者同士で知見を共有したり議論する集まりです。弁護士も参加されるので法的な視点でのお話を伺うことも出きます。議論を通じて理解が曖昧な部分が浮かび上がる時は、これまでの自身の実務でどうだったかを振り返るよい機会になります。
OLL技術用語解説分科会
OSSライセンスに関わる法務や知財の担当者向けに、技術用語の理解のための補助資料を作成する集まりです。
OpenChain Japan Work Group (JWG)
再掲になりますが、JWG にはいくつかの Sub Work Group の活動があります。関心があれば気軽に参加頂ければと思います。
ニュースや書籍など
近年、Open Source Software の提供元がそれまでのライセンスを変更して新たなライセンスを作成する事例が見られます。そうした情報の収集にはインターネットの利用が欠かせません。
技術系のニュースサイトは見ていても良いと思います。二つ以上のサイトを利用されていれば、Open Source Compliance で話題になりやすいライセンスについては時期に差があるもののおそらく記事として目に触れるのではないかなと思います。とくにお薦めできるサイトというのは気にしたことがないのですが、英語圏のものが早いかなとは思います。なお、日本語で読めるものの例だと OSDN Magazine の ライセンスカテゴリの記事などがあります。
僕自身は、Google アラートを "open source" や "OSS" などのキーワードで活用しています。
一方で、必ずしも最新の話題がないとしても、まとまった情報をざっと読み通せるということで書籍を利用する方もいるでしょう。一部、僕が未読のものもありますが、僕が参加する集まりで話題に挙がったものも含めて紹介します。出版元を見つけられなかったもの以外は、リンク先を出版元にしています。お手数ですがご購入の際はご利用されている販売店やそのサイトでお求めください。
###OSSライセンスの教科書
著: 上田理、監修: 岩井久美子
出版社: 技術評論社
2018年に出版なので、今回紹介する日本語書籍の中では新しいものです。主な Open Source Software License の特徴と、企業が Open Source Software を活用する上でのポイントを解説しています。冒頭の岩井弁護士による解説記事は、エンジニアが法務・知財部門のスタッフとコミュニケーションを取る前の読み物としてお勧めできます。
なお、著者の上田さんは先に紹介した 「オープンソースソフトウェアライセンス遵守に関する一般公衆ガイド (pdf)」 の作成のリーダーです。
ところで、僕は JIPA ソフトウェア専門委員会にも参加しているのですが、そこに参加する他企業の知的財産部員でも読んでいる方が多いです。読者の近くに知財部員の方がいれば、JWG に一度顔を出してみてはどうかと案内して頂けると幸いです。
###角川インターネット講座2 ネットを支えるオープンソース ソフトウェアの進化
監修: まつもと ゆきひろ、他著
出版社: KADOKAWA/角川学芸出版
(恐縮ながら僕は未読です。JWG で話題に出たことがあったので紹介します)
2014年に出版で、それまでのオープンソースとそれを取り巻くソフトウェア開発の歴史を俯瞰できるようです。
第2部では、ライセンス、ブラウザ開発動向、企業におけるオープンソースとの付き合い方、などの話題を扱っています。
なお、著者の一人のやまねさんは、企業所属エンジニアかつ Debian JP Project のコミッターとして双方の視点で JWG に知見を与えてくれる貴重な存在です。ただ、やまねさんのような方は貴重すぎて JWG の各活動でなかなかお会いできないので、読者の中で我こそはと思う方は JWG に参加ください。もちろん OpenChain に興味があるというところからの参加も大歓迎です。
###知る、読む、使う! オープンソースライセンス
著: 可知豊
出版社:達人出版会
2011年に出版で、電子書籍として購入出来ます。
Open Source Software License で利用例が多いと思われる MIT、BSD系、MPL-2.0、GPL系などを概要を掴むには便利です。
###Understanding Open Source and Free Software Licensing
Author: Andrew M. St. Laurent
Publisher: O'Reilly Media (July 2008)
著者は米国弁護士です。米国著作権法に関連した知識を踏まえて OSS ライセンスを理解するのに利用しました。
Open Book版 もあります。
###Open Source for Business: A Practical Guide to Open Source Software Licensing 2nd edition
Author: Heather Meeker
Publisher: CreateSpace Independent Publishing Platform; 2nd edition (April 4, 2017)
著者は TLDRLegal にも参加している米国弁護士です。こちらも米国著作権法に関連した知識を踏まえて OSS ライセンスを理解するのに利用しました。
###[Open Source Compliance in the Enterprise (2nd edition)] (https://www.linuxfoundation.org/compliance-and-security/2018/12/open-source-compliance-in-the-enterprise/)
Author: Ibrahim Haddad, PhD
Open Source の利用に当たって必要となる、それが何かを具体的に識別(Identification)し、 どのようなものかを監査(Audit)し、問題点の整理等々に始まる一連の工程において、そこでのプロセスや注意点、また、ツールや参考情報などが得られます。
###[Assessment of Open Source Practices as Part of Due Diligence in Merger and Acquisition Transactions (2nd edition)] (https://www.linuxfoundation.org/open-source-management/2019/03/assessment-open-source-practices/)
Author: Ibrahim Haddad, PhD
Merger and Acquisition(M&A)での Due Diligence で Open Source 関連事項を評価する時のポイントが整理されています。
明日のテーマは
「オリンパスとOpenChainとの関わり」です。
担当の小泉さんは、JWG で4つの SWG に参加されるなど八面六臂に活躍されています。オリンパス社はグループとしてグローバルに Open Source Program Office の体制を構築し運用されているので、その一端を垣間見ることが出来るかもしれません。お楽しみに!
おまけ:自己紹介
忍頂寺です。所属等は別記事「Open Source Compliance のお役立ち情報まとめ・上 (12/14公開記事)」を参照ください。