はじめに
もう20年前になりますが、車の新機種開発にまつわるナレッジシステムを構築するプロジェクトに参加していたことがあります。
プロジェクトには、実際に完成車のラインで働いている方も参加していて、自分の腕の力こぶをトントンして、
「平野さん、ここにある知識をシステムにして欲しいんや」
と言われたことがあります。
何気ない立ち話でしたが、「これは簡単な話ではない」と直感的に思いました。
マニュアルや設計書に書かれている知識ではなく、毎日の作業や経験の中で身体化された知識――いわゆる暗黙知を、どうやってシステムに落とし込むのか。その難しさを突きつけられた瞬間でした。
ITIL4におけるKnowledge Managementの定義
ITIL4では、Knowledge Management プラクティスを次のように定義しています。
Knowledge Management
The practice of maintaining and improving the effective, efficient and convenient use of information and knowledge across the organization.
(日本語意訳)
組織全体において、情報および知識が効果的・効率的・便利に使われる状態を維持・改善するためのプラクティス。
ここで重要なのは、「知識を保存すること」ではなく、使われる状態をつくることが目的として明確に書かれている点です。ITIL4では、Information と Knowledge を明確に区別しています。
Information
Data that has been contextualized and organized.
Knowledge
Information combined with experience, context, interpretation, and reflection.
(日本語意訳)
- Information:文脈が与えられ、整理されたデータ
- Knowledge:情報に、経験・状況理解・解釈・内省が加わったもの
完成車ラインの方が叩いた「力こぶ」にあったのは、まさに後者の Knowledge でした。作業手順という Information だけであれば文書化できます。
しかし、
- 「新人とベテランでは、ドアパネルはめるときに叩く場所や回数が違う」
- 「アースボルトを適切な位置にセットする」
- 「寒い日は接着力に違いが出る」
といった判断は、経験と文脈が結びついた Knowledge でなければ出てきません。
ナレッジは「集めるもの」ではなく「判断を支えるもの」
そのためITIL4では、知識を静的な資産とは考えていません。Knowledge は、
- 意思決定を支え
- 行動を変え
- 価値共創を可能にする
ためのものです。そのため Knowledge Management では、ナレッジを「書かせる」ことよりも必要な場面で思い出され、使われることのほうが重要になります。
これは、システム設計だけで解決できる話ではなく、人と仕事の流れをどうつなげるかという問題でもあります。
ナレッジベースの7次元
そのプロジェクトで、トップの人から次のように言われたことを今でも覚えています。
製品/部品/BOM の軸(1次元)、工程とラインの軸(2次元)、設備や冶具の軸(3次元)、そしてナレッジの軸(4次元)
でも、それだけでは足りない7次元の軸を持ったナレッジベースを作れと。他にも5次元と6次元もあったのですが、何だったかを忘れてしまいました。しかし、最後の7次元だけは今でもはっきりと覚えています。それは 「セクシー」 という軸でした。
どれだけ Information を整理し、Knowledge を構造化しても、最終的にそれを使うのは「人」です。ITIL4 の Knowledge Management が目指しているのは、人の判断力と感性を活かすための知識の扱い方なのだと思います。腕の力こぶをトントンと叩きながら語られたあの言葉は、今でもナレッジマネジメントの本質を思い出させてくれます。
一般的マネジメントプラクティス一覧
- アーキテクチャ管理
- 情報セキュリティ管理
- ナレッジ管理
- 測定と報告
- 組織変更の管理
- ポートフォリオ管理
- プロジェクト管理
- 事業関係管理
- リスク管理
10.サービス財務管理
11.戦略管理
12.サプライヤ管理
13.要因及びタレント管理 ← 今回はコレ
14.継続的改善
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