はじめに
エンジニアは日々、UI/UXについて考えている。
ボタンの配置、色、アニメーション、動線設計。
「どうすればユーザーが迷わず使えるか」
「どうすれば気持ちよく操作できるか」。
では、その視点を自分自身に向けたことはあるだろうか。
仮に、人間をプロダクトとして捉えるなら、
- UI = 見た目、清潔感、服装、表情、雰囲気、第一印象
- UX = 会話のしやすさ、一緒にいて楽しいか、安心感があるか、また会いたいと思えるか
という解釈も成り立ったりするわけなのである。
要するに、どれだけ内部実装が優れていても、ユーザーに触ってもらえなければ意味がない。
これはアプリだけの話ではない。人間もだいたい同じなのである。
どれほど知識があり、スキルがあり、GitHubが緑でも。初期表示が重く、導線が悪く、フィードバックがなければ、体験としては厳しい。
せっかく面白いものを作るエンジニアが、自分自身のヒューマンインターフェース設計を雑に扱ってよいはずがない。
ということで本稿では、
エンジニアのエンジニアによるエンジニアのための
ヒューマンインターフェースガイドライン
を記す。
やや冗談っぽく見えるかもしれないが、言いたいことは意外と真面目である。
UIとはなにか
UIは、相手が最初に触れる部分だ。
清潔感。髪型。服装。姿勢。表情。声のトーン。
重要なのは、美形かどうかではないと筆者は考えている。
近づきやすいか。不快感がないか。
まずはここだけ意識してみよう。
清潔感はデフォルトテーマ
最も重要なのは清潔感だ。
- 髪が整っている
- 服が汚れていない
- シワだらけではない
- 口臭や体臭のケアがある
- 靴が終わっていない
ここを雑にすると、どれだけ良い機能があっても、UIレベルで離脱が起きる。
優れたWebアプリでも、背景が蛍光ピンクで本文が黄緑なら、ユーザーはその思想を汲む前にタブを閉じる。それと同じだ。
清潔感は魅力の加点ではなく、不快要素の除去だ。
服装はカラーパレットとレイアウト
全身で高度な表現をしようとして、色数が多く、サイズ感がズレていて、テイストが混在していると、UIとしてノイズが多い。
最初はむしろ、色を絞る。サイズ感を整える。清潔感のある定番を使う。凝ったグラデーションを実装する前に、まず余白とタイポグラフィを整えろ、という話に近い。派手さがなくても、整っているものは強い。
表情はヒーローセクションだ
無表情、険しい目つき、口角ゼロ、相槌なし。それが重なると、高性能だがCLI専用で、GUIが一切ないソフトウェアになる。刺さる人には刺さる。でも一般ユーザーには厳しい。
人間は、相手の情報を論理的に評価する前に、「大丈夫そうか」を直感で判断する。だから表情は重要だ。軽く笑う。頷く。反応する。それだけで、インターフェースはずいぶん変わる。
UXとは
UIは入口にすぎない。
継続利用を左右するのは、触れた後に残る体験なのだ。
リアクションはフィードバック
ボタンを押しても何も起きないUIは、不安になる。会話も同じである。
相槌がない。反応が薄い。返事が「へえ」だけ。目線が合わない。
聞いているのか不明——それでは相手は「入力が通っていないのでは?」と思う。
「それ面白いね」
「たしかに」
「それってこういうこと?」
「それ大変だったね」
こういった反応があるだけで、相手は安心するものだ。
会話がうまいことより、入力に対して適切なレスポンスが返ることのほうが先だ。
人は、自分に興味を持ってくれて、話を理解しようとしてくれる相手に、かなり好感を持つ。
これはもう人間の仕様なのである。
低レイテンシは正義、ただし即レスしすぎも怖い
返事が遅すぎると不安になる。食い気味すぎると圧が出る。
相手の話を最後まで聞く。一拍おいて返す。自分の話ばかりにジャンプしない。
エンジニアはときどき、相手の発話を待たずに最適解を出したくなる。
気持ちは痛いほど分かるのだが、求められているのが解決策とは限らない。
相手が欲しいのは、共感し、感情に寄り添ってくれることだったりする。
話しやすさは情報設計
話が上手い人というのは、トーク力だけでなく、話させる設計が上手い。
質問が開いている。否定から入らない。途中で奪わない。相手が話しやすいトピックに合わせられる。
逆に、UXを破壊する会話には一定のパターンがある
- すぐ訂正する
- すぐアドバイスする
- すぐ自分語りに持っていく
- すぐ知識で殴る
技術的には正しくても、体験としてはしんどいのである。
ユーザーが「このボタン、押しにくいです」と言っているのに、「設計思想としては妥当なんですよね」と返すサービスがあったら嫌なのだ。
陥りがちなアンチパターン
高機能アピールのしすぎ
プロフィール、会話、SNS、あらゆる場面で「自分はこれができます」「これもやってます」「これにも興味あります」が強すぎると、UXが重くなる。
能力や情熱はもちろん魅力である。
ただし、最初から全部出そうとすると、相手は処理しきれずに疲れる。情報量が多いことと、伝わることは別問題だ。魅力は、相手が自然に発見できる形で置かれているほうがよい。
正しさの即時適用
エンジニアは正しさにとても敏感である。それは間違いなく長所と言える。
だが人間関係では、正しいことを、正しいタイミングで、正しい温度で出せるかが重要になる。
「最近ちょっと忙しくてさ」
「まあみんな忙しいよね」
日常会話としては可用性が低い。正しさは強い。
でも使いどころを誤ると、鋭利すぎるUIになる。
無反応・無表情・無関心
本人は普通にしているだけでも、相手から見ると
話しかけないほうがよさそう、怖そう、興味なさそう
と解釈されることがある。
バックエンドでは歓迎しているのに、フロントにそれが出ていない。
内部状態と表示状態の不一致。つまり、バグだ。
「やりすぎでは?」くらいで、たぶんちょうどいいかもしれない。
中身は大事。ただし、届かなければ伝わらない
最近流行りのルッキズムを説きたいわけではない。むしろ逆だ。
中身は大事だ。かなり大事だ。
最終的に効いてくるのは、いつだって中身のほうだ。
ただ、
中身が大事だからこそ、その中身にたどり着いてもらうためのインターフェースも大事なのだ。
本当に面白い人、優しい人、誠実な人が、「なんか近寄りづらい」で終わるのは、純粋にもったいない。
自分の価値が、相手に届く形で設計されているか。
エンジニアなら、その重要性はよく知っているはずだ。
おわりに
優れたプロダクトが機能だけで成功しないように、
優れた人間性もまた、伝わる設計がなければ届きにくいのである。
エンジニアは、ものづくりのプロである。
だからこそ、自分自身のインターフェースも上手に設計できるはずだ。